昭和52年

年次経済報告

安定成長への適応を進める日本経済

昭和52年8月9日

経済企画庁


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第II部 均衡回復への道

はじめに

(政府・海外部門の投資超過)

このような民間部門の貯蓄超過は現在,政府部門の投資超過すなわち財政赤字によってかなりの程度相殺されている。政府部門に投資超過が生じた主たる原因は,景気回復が緩慢なことから政府収入が伸び悩み,その結果政府貯蓄が減少したことである。すなわち,わが国財政の歳入構造は景気に対して感応度の高い直接税の占める比重が大きいため,不況期には税収の伸びがいわば自動的に大きく落ち込み,政府部門の貯蓄を減少させて投資超過をもたらす面(財政のビルト・イン・スタビライザー機能)が強く,これが最近の財政赤字発生のひとつの要因となっている。いま一つの要因は,税収の落ち込みにもかかわらず,歳出面で景気浮揚のため公共投資の拡大を図ってきたことである。

このように政府部門の投資超過が民間部門の貯蓄超過すなわち需要不足を相殺する方向に働いていることが,景気の落ち込みを防ぐために寄与しているのである。

最後に,海外部門のバランスの推移をみると,個人部門の貯蓄超過額を国内部門の投資だけで吸収できなかったことから50年以降,海外部門も投資超過となっている。この部門の投資-貯蓄バランスも景気循環局面においては政府部門と同様の動きを示している。すなわち,不況期には投資超過(経常収支の黒字)に,逆に好況期には貯蓄超過(同赤字)となり,景気の変動を安定化させる方向に働いていることがわかる。これは政府部門で税収が果たしているのと同様の役割を,この部門では輸入が主として果たしていることによるところが大きいが,今回の景気局面でもそうした輸入の動きに輸出の伸びが相まって経常収支は黒字となり,景気回復に大きく寄与したのであった。


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