昭和51年

年次経済報告

新たな発展への基礎がため

昭和51年8月10日

経済企画庁


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12. 国民生活

(1) 底固さを増した個人消費

50年度の日本経済がけわしい回復過程をたどつた中で,国民生活も,所得の伸びの鈍化,雇用不安の持続などから引続き困難な局面に置かれることとなつた。家計はこうした状況に対応しつつ徐々に生活態度に落着きをとり戻し,消費支出も底固さを増していつた。以下ではこうした国民生活の動向を家計の所得,消費の観点から分析してみよう。

第12-1表 消費関連指標の動き(前年度比増減率)

a 伸び率が鈍化した所得

50年春闘における賃上げ率は13.1%と49年度(32.9%)を大幅に下回つた。このため可処分所得(家計調査ベース,全国勤労者世帯)は名目で49年度の26.8%増から11.9%増へ,また実質でも消費者物価の急速な落着きがあつたにもかかわらず,4.1%増から1.4%増へとそれぞれ伸び率は鈍化した( 第12-1表 )。またこれを四半期別,実質ベースでみると50年1~3月に前年同期比11.2%の大幅増のあと,50年度に入つて4~6月は同3.0%増,7~9月は1.5%増,10~12月は同0.1%減と伸び率は徐々に鈍化するかないしは減少した。しかしながら51年に入つて1~3月は同2.3%増とやや高まつた(本報告 第1-24図 参照)。

次に所得を世帯の構成員別にみると,50年度は世帯主,妻,その他の世帯員収入はそれぞれ伸び率が鈍化し,その結果家計全体の収入(実収入)の伸びは低下した。なかでも他の世帯員収入は49年度の15.0%増から50年度は3.4%増へと伸び率は大幅に低下している。また世帯主収入を定期収入および臨時・賞与に分けてみると,定期収入に比し,臨時・賞与の伸びは49年度の32.1%増から50年度はわずかに1.7%増と伸び率は大幅に落ち込んだ。他の世帯員収入の実収入全体に占めるウエイトは小さいが(50年度における構成比は3.7%),臨時・賞与のそれ(同20.3%)は大きい。その結果,世帯主の定期収入(本報告にいう恒常性の強い所得)の比率は49年度の61.9%から50年度は63.7%へ上昇している。

b 消費支出は回復へ

家計の以上のような所得の動きに対して,50年度の消費支出は次のような推移をたどつた。まず個人消費支出の推移を国民所得統計でみると,50年度は名目では前年度比15.4%増と49年度の伸び(同23.7%増)を下回つたが,実質では消費者物価の落着きから5.4%増と49年度(同3.2%増)を上回り,また実質GNP成長率(同3.1%増)を上回る伸びとなつた。しかしながら,その推移をみると決して順調とはいい難い。すなわち,実質ベースで四半期別にみると,50年度に入つて4~6月は賃上げ率の低下の影響や消費者物価の騰勢が一時強まつたことなどから前期比で0.1%とわずかな減少となつた。その後7~9月には若干回復テンポが強まつたものの,10~12月には同0.2%増と再び伸び率は低下した。前述の50年度の実質個人消費支出の伸びは,前年度からの伸び率のずれ込み,いわゆるゲタ(50年1~3月の49年度平均に対する増加率は3.3%)によるところが大きい。ちなみに50年10~12月の50年1~3月に対する増加率は1.5%(前期比の平均増加率は0.5%)と年率2%程度の伸び率にとどまつている。このように50年度当初から年末までの推移としては,徐々に増加を続けてはいたものの,過去の景気回復期に比べそのテンポは緩やかであつた。しかし,こうした傾向は,50年1~3月に入つて景気の回復テンポがはやまるにつれて強まつた。すなわち,50年1~3月には前期比3.7%増(年率では15.7%増)と大幅増となり,50年度における平均増加率は1.3%へと押し上げられた。

c 堅調に推移した耐久消費財支出

以上のような消費支出の動向を費目別にみた場合,次のような特徴が指摘できる。まず第1は,49年は雑費がわずかに実質増加となつたものの,他の費目はいずれもかなりの落込みを示したこと,第2は,はやくに落込んだ被服費,住居費がいちはやく持直していること,第3は49年にも実質増加となつた雑費が50年々初よりかなりの増加基調となつていること,などである(本報告 第1-25図 )。

ところで住居費,雑費の内訳をみると家庭電器製品,家具,自動車など耐久消費財のウエイトが大きく,それら支出動向に両費目の動きは左右される面が強い。そこで主要耐久消費財についてメーカーの国内向け出荷・販売動向をみると,カラーテレビ,乗用車は49年度下期から増加に転じ,電気冷蔵庫も50年度上期から持直している( 第12-2図 )。一方この間の耐久消費財の価格動向を消費者物価指数(全国)の特殊分類指数でみると,48年以前には他の費目に比べてきわめて安定していた販売価格が49年には他の費目と同程度の急上昇をみせている。しかしながら,50年に入つては他の費目の価格と異なり急速に上昇率が鈍化した。このような物価のかつてない変動局面においては,家計における名目支出額はこの変動に同時的に対応することは難しく,結果として実質の消費水準をしばらくの間低下させたとみられる。

ここで耐久消費財の普及状況を経済企画庁「消費者動向予測調査」(51年5月調査)によつてみると,主要耐久消費財の普及率は,普及率が100%に近くなつている電気・ガス・冷蔵庫を除いていずれも引続き上昇している。なかでも普及率が比較的低い電子レンジ(20.8%),エアコンディショナー(19.5%)はかなりのテンポで普及率が高まつている。

第12-2図 耐久消費財の国内出荷・販売動向

(2) 回復に転じた消費性向

a 徐々に回復した消費性向

石油危機後の49年4~6月に急速な落込みをみた平均消費性向は,その後も一高一低はあつたものの引続き低水準のまま推移した。その結果,49年度の平均消費性向は76.0%と48年度(78.3%)から2.3ポイントの大幅低下となつた(この要因については本報告第1章第2節2-(2)参照)。この傾向は50年度に入つても前半は持続したが,50年10~12月に入ると年末賞与が前年を下回つた(全国勤労者世帯の世帯主の50年々末賞与は前年比4.6%減)ことから,平均消費性向(季調値)は前期比2.2ポイントの急上昇となつた。その後51年に入つて再度低下したが月別にみると上昇傾向にある。この結果,50年度の平均消費性向は77.3%となり49年度を1.3ポイント上回ることとなつた。

b 所得階層別にみた消費性向

次に所得階層別にみた平均消費性向の動きを検討してみよう。本報告 第1-26図-A は,世帯員全体の年間収入(この場合は調査世帯の調査開始以前1年間の年間収入)を基準に5つの分位にまとめたものであり,同B図は世帯主の定期収入(毎月支給される本給,時間外給与,扶養手当などの総額,この場合は現時点の収入)を基準に同様に5つの分位にまとめたものである。この2図を比較すると,本報告に述べたように,階層間の消費性向に大きな相違がみられるが,ここでは世帯主の定期収入を基準とした分類を中心に述べ,かつ年間収入を基準に分類したものとの相違がなぜ起つたのかについて検討してみよう。

まず低所得層についてであるが,消費性向の推移をみると,47年,48年は101.7%,49年は97.7%,50年は101.1%とほぼ所得の全額を消費支出に回すという消費パターンである。一方,高所得層(第V分位)は49年においても消費性向は1.2ポイントしか低下しておらずきわめて安定した消費性向となつている。こうした中で,48年~50年にかけて大きな動きを示しているのは中間所得層(第III分位)である。第III分位の消費性向は48年から49年にかけて4.4ポイントの大幅な低下となつた後,50年には再び2.3ポイントの上昇となつた。このことからみると,49年に全体の消費性向を大きく押し下げたのは中間所得層の消費態度の慎重化であり,50年に消費性向が回復したのも中間所得層の動意によるものといえよう。

それではこのような階層間の消費性向の相違は具体的には所得および消費支出の動きのどのような相違によつて生じたものであろうか。

まず所得面であるが,49年において可処分所得の伸びが最も高いのは中間所得層で,名目で前年比29.4%増,実質でも4.0%増となつている。また低所得層(第I分位)も実質0.5%増とわずかに実質増を確保しているのに対して,高所得層(第V分位)は同0.7%減となつている。一方,50年に入ると,高所得層の伸びが同3.2%増と相対的に高く,低所得層の伸びが低い。また消費支出についてみると,49年は各階層とも実質減となつているが,50年に入ると各階層とも実質増となつている。

次にこうした動きを費目別にみてみよう( 第12-3図 参照)。49年は高所得層(第V分位)の雑費がわずかに実質増となつているほかは,程度の差はあれ実質減となつている。なかでも低所得層(第I分位)の住居費は前年比12.3%の大幅減となつているが,これは耐久消費財支出の実質減少が低所得層に強くあらわれたとみられる。一方,50年に入ると,第I分位,第V分位の食料費,第V分位の住居費を除いて実質ベースで増加している。このことからみると,49年には一般的にどんな家計でも概ね各費目にわたつて節約に努めようとしたこと,50年に入つても,各費目とも総じて実質増加とはなつているものの,全体としての消費支出の伸びは鈍いことから,節約態度は和らいだものの引続き慎重な消費態度を維持していたといえよう。

以上は世帯主の定期収入を基準に分類した場合であるが,これをケースBとし,これに対して年間収入を基準にした場合をケースAとして,両者の相違点について検討してみよう。

両ケースにおける最も大きな相違点は,高所得層(第V分位)の49年,50年の動向である。ケースAでは,第V分位の消費性向は48年の73.0%から49年は81.4%ヘ急上昇し,50年もさらに84.0%へ上昇しているのに対し,ケースBでは前述のように安定した動きとなつている。この相違はケースBにおいては世帯主の定期収入が相対的に低いため,中間所得層ないしは低所得層に位置している世帯であつて,世帯主の賞与,臨時収入が大幅な増加となつたかないしは有業人員が多く(たとえば共稼ぎ世帯),そのため家計全体の総収入が多いため高所得層(第V分位)に位置付けされている世帯が多いために生じたとみられる。そうした世帯は耐久消費財購入などについて他の世帯とは異なつた支出態度をとり,それまでの消費態度を維持するか,より積極化したものとみられる。

第12-3図 世帯主の定期収入階級別にみた可処分所得および費目別消費支出の推移(実質,前年比増減率)

c 家計の貯蓄は増加

これまでは家計の所得と消費支出を中心にみてきたが,ここではその反対の側面である貯蓄動向についてみてみよう。

家計における1世帯当たりの貯蓄保有額を経済企画庁「消費者動向予測調査」(51年2月調査)によつてみると,51年2月における貯蓄保有額は283万円で前年同月比10.6%の増加となつている( 第12-4図 )。この増加率は,同期間の消費者物価上昇率(9.4%)をわずかに上回るものであり,貯蓄の目減り補填をなし得たにとどまつている。一方,50年は32.8%増と消費者物価上昇率(同16.8%)を大きく上回る貯蓄増となつている。これを世帯主の定期収入階級別にみた場合,低所得層においては49年は貯蓄が減少している世帯割合が増加しており,物価高騰に対して相対的に少ない貯蓄ストックを引出して対処した姿がうかがわれる。このような低所得層の動きを,他の面からみてみよう。

第12-4図 一世帯当たり貯蓄保有額(全世帯)

世帯類型別の消費性向をみると,きわ立つて消費性向の高いのは母子家庭(母親と18才未満の子供のみの世帯)である( 第12-5図 )。また世帯主の職業別にみた場合,労務者世帯は職員世帯に比べ相対的に消費性向は高いが,なかでも臨時・日雇いの労務者世帯の消費性向は高く( 第12-6図 )。世帯主の勤め先企業規模別にみると従業員数10人未満企業に勤める世帯の消費性向も同様である。このように所得が相対的に低く不安定とみられる階層は49~50年における経済の変動局面においては他の世帯に比べ困難な生活を強いられたものとみられる。また世帯主を年令別にみた場合,49年における消費性向は45才から60才までの高年令階層が他の年令層に比べ,大幅に低下しているが( 第12-7図 参照),このことはこの層が大幅な物価上昇や雇用不安などの生活の先行き不安を相対的に強く受けたためとみられる。

第12-5図 世帯類型別の平均消費性向

第12-6図 世帯主の職業別平均消費性向

第12-7図 世帯主の年令別平均消費性向

第12-8図 世帯主の産業・勤め先企業規模別の消費性向


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