昭和49年

年次経済報告

成長経済を超えて

昭和49年8月9日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

10. 物  価

(1) 卸売物価の動向

a 48年度の卸売物価の推移

47年秋口から急騰した卸売物価は48年中大幅な高騰を続け,48年10月に生じた石油危機によりさらに加速され,48年末から49年初にかけて異常な騰責を示した。この結果,48年度平均上昇率は22.6%,年度中上昇率(47年3月と48年3月の比較)は35.4%と,朝鮮動乱時の26年(前年比38.7%)以来の高騰を示した。その後,石油事情の好転,総需要抑制策の効果浸透などから異常な騰勢は落着きつつあるが,コスト圧力の増大から,卸売物価の上昇基調には根強いものがある( 第10-1図 )。

47年以降の卸売物価の上昇を時期別にみると,大きく次の3つに分けられる。第1は,47年秋からの上昇であり,47年11月から48年3月まで,前月比で1.5%以上の上昇が5ヵ月連続した時期であり,第2は,もの不足に象徴される48年夏から秋にかけての上昇である。第3は,10月中旬にOAPEC諸国が,原油価格の引上げおよび原油共給削減を行なつたことに端を発して異常な高騰の起つた48年11月から49年2月にかけての時期である。

第10-1図 卸売物価指数総平均月別の推移

今回の卸売物価上昇の足どりを前月比上昇率でみると,47年2月以降毎月上昇しており,現在に至つている。その要因は,基本的には根強い需要超過によるものではあるが,さらに上昇を加速化させた要因としては,47年秋頃以降の株価や一部品目にみられた過剰流動性を背景とした投機的な動きや,48年夏の電力・用水不足,相つぐ工場事故,環境汚染問題等供給面における制約,48年10月以降の原油価格上昇とそれに伴う先取り,便剰値上げがあげられる( 第10-2図 )。

第10-2図 卸売物価,株価,地価の推移(前年同期比騰落率)

48年度中の推移を時期別,品目別(基本分類)に追つてみると,次のような特徴がみられる( 第10-3表 )。

48年4~6月は,前年の11月から3月まで続いた急上昇が騰勢一服し,その後夏場に向つて再び大幅な高騰を示した時期である。48年に入ってからとられた金融引締め政策の実施等によい4月には金属素材,石油・石炭・同製品,製材・木製品に加え繊維製品も下落した。しかし,2月に移行した変動相場制の効果も海外相場の高騰によりかなり相殺され,内需の増勢を背景にいぜん高騰を続けるものも多く,4月下旬には再び騰勢を強めた。5月,6月と非食料農林産物,繊維製品が反騰に転じたほか,需給のひつ迫を反映して窯業製品,一般機械,精密機械,パルプ・紙・同製品,化学製品を中心とした工業製品が根強い騰勢を続け,非鉄金属,金属素材も,海外素材高から再び急上昇に転じた。

7~9月は,供給面の制約が表面化し,海外高の影響もあつて7月,8月といずれも前月比で2%台の上昇となつた。金融引締め政策が強化され個別物価対策が推進されているにもかかわらず,このように,再び急速に騰勢が強まつたため公定歩合の再引上げ,「生活関連物資の買い占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」の施行(48年7月14日)などの措置がとられた。この間の個別商品の動きをみると,鉄鋼では需要の増勢が続くなかで,電力・用水不足による減産,一部高炉の故障などによつて,供給が大きく制約されたため,需給ひつ迫は一段と強まり,市中価格は全品目にわたり高騰した。化学製品は,各地で工場事故が発生し,塩ビなど合成樹脂が異常な需給ひつ迫となり,これにつれて合成樹脂の加工製品も急騰した。また,窯業製品では,セメントが旺盛な建設需要から品不足状態が続き,季節的な備蓄期である8月も在庫積上げが思うにまかせない状態で上昇した。そのほか,公害等による制約もあつて品不足の傾向が多くの品目に広まり基礎資材の騰勢が目立つた。しかし,9月に入ると,とうもろこし,羊毛,銅地金などが海外市況を反映して値下がりしたほか,繊維,鉄鋼,製材・木製品などの一部にも先行き見通し難などから市況が軟化したものもみられたが,いぜん需給はひつ迫状態を示し続けたものが多かつた( 第10-4図 )。

第10-3表 最近の卸売物価の動き(前月(期,年度)比上昇率)

第10-4図 主要商品市況の動き

10~12月は,第4次中東戦争のぼつ発による石油危機から,物価が異常な高騰を示した時期である。卸売物価指数総平均は,前月比で10月2.0%から11月3.2%,12月7.1%へと高騰し,前年同月比では12月29.0%となつた。

石油危機前の状況をみると,需給はひところほどではないが,いぜんひつ迫基調を続け,原材料価格高騰の波及過程が進行しており,価格引上げ意欲が急速に強まっているという段階であつた。鉄鋼は,一時的供給制約要因が解消し,鋼材あつせん等も行なわれたが,輸出価格の上昇や旺盛な内需に支えられて騰勢を持続していた。化学製品は相次ぐ工場事故の影響もあつて,品不足傾向が強まつており,10月にはナフサの値上りもあつて上昇テンポが,一段と強まつていた。こうしたなかで,10月中旬に石油危機が表面化すると,これまで弱含みの動きをみせていた一部市況商品も反騰に転じるなど,再びほぼ全面高の様相を呈した。これは,石油・電力の消費節減によつて,先行きの原材料手当てに不安をいだいたユーザーが買い急ぎ,また先高期待から流通業者の買需要が著しく強まる一方,コスト増を先取りするような大幅な価格引上げが行なわれたことなどによるものである。この結果,石油・石炭・同製品,パルプ・紙・同製品,化学製品が暴騰し,非鉄金属,窯業製品も大幅に上昇した。また実需が不振であつた製材・木製品も先行きの輸送不安などから上伸するなどほぼ全面高となつた。

49年1~3月に入ると,1月は勝勢が強く前月比で5.5%であつたが2月3.9%,3月0.7%と落着き傾向を示した。

石油危機も,12月末にOAPECがわが国を友好国として扱うことを決定したこと,11月以降の原油入着量が予想外に多かつたことなどにより,量的には好転し,繊維,鉄鋼,製材など一部商品市況に12月後半から1月にかけて軟化するものもみられた。しかし,石油・電力の消費節減による生産の減少などから,需給は引続きひつ迫基調にあり,原油価格引上げの影響が原材料から製品段階ヘ波及してきたこと,1月下旬になつて年初の大幅引上げ分の原油が入着しはじめたことから,石油・石炭・同製品が上昇し,金属製品,金属素材をはじめとして全面的な上昇が続いた。しかし,2月に入ると,金融引締め政策の効果浸透や行政指導などから,異常な高騰にも鈍化の気配がうかがわれるようになつた。一般・精密機器,電気機器などは原材料価格高騰から根強い上昇を続けたが,繊維製品,製材・木製品,鉄鋼など一部商品は仮需のはく落や末端需要の減少などがら反落した。3月中旬には,石油製品が平均62%引上げられたが,同時に基礎物資,生活関連物資の価格抑制などの物価安定対策がとられ,卸売物価は総して落着いた動きを示していた。

以上みてきたように,48年度の卸売物価は毎月連続して大幅な高騰を示したが,ここでその時々の情勢を敏感に反映するいわゆる市況商品が,どのような動きをしていたかをみよう。主要市況商品と思われるもの100品目について卸売物価指数該当品目をとり出しそれらを組み替え作成したものが 第10-5図 の「市況商品指数」である。これによると,夏場のモノ不足により高騰した7,8月,石油危機の起つた11,12月に「市況商品指数」は総平均を大幅に上回る上昇率を示している。しかしながら49年1月には早くも大幅に鈍化し,2月には前月比で3%近くも下落している。さらに,3,4月と総平均の動きとは逆に反騰したが,5月には再び下落している。

第10-5図 市況商品指数の推移

次に,48年度の卸売物価について財別の動きをみると,生産財の騰勢が強く,総じて大幅な上昇率を示している。また建設材料は4~6月に一時鈍化したが7~9月以降,非鉄金属,金属素材の上昇を反映して生産財を上回る騰勢を示しており,資本財も48年1~3月以降その騰勢が強い。これらに対し消費財の上昇率は比較的ゆるやかであり,特に耐久消費財は石油危機前には比較的落着いていた( 第10-6表 )。

第10-6表 卸売物価財別前期比上昇率と寄与度

b 卸売物価上昇の要因

48年度の卸売物価高騰の要因については,総論 第1-2-2図 にみるように,主としてインフレ心理を伴つた国内需給要因と,原油を含む海外要因によるものといえる。

まず国内需給要因については,47年秋以降の一部品目にみられた投機的な動きは,金融引締め政策の強化,投機抑制策により,48年4~5月に至り一応の落着きをみたが,根強い実需に支えられて需要そのものは増勢を続けた。この傾向は,7~9月に電力・用水不足,工場事故,公害問題激化により,供給面に制約が起つたことからさらに加速された。この間,もの不足や先高期待感による仮需の増大にみられるインフレ心理が需給要因に上乗せされた。しかし,市況商品の動きにもみられるように,9~10月には総需要抑制策の強化,一時的供給制約要因の解消から,このような要因も鎮静化の方向に向うこととなつた。こうしたなかで,10月に石油問題が生ずると,落着きかけていた需給要因は再び拡大することとなつた。10~12月には,未だ高価格原油が入着していない段階で,輸入量も予想された程の削減はなかつたにもかかわらず,仮需を伴つた需給のひつ迫と,先高期待感により異常な物価高騰を示した。49年1~3月には,需給は明らかに緩和の方向に向つており,市況商品も下落を示すなど国内需給要因による影響は減少している。

第10-7図 業種別卸売物価と輸出価格

次に,海外要因についてみると,世界的に需要が増大しインフレがこう進したこと,異常気象により食料,飼料などの減産があつたことから,国際原料品市況が高騰した。48年4~6月には若干の騰勢鈍化がみられたが,その他の時期は卸売物価を大幅に押上げる要因として働き,国内需給要因とほぼ同程度の寄与を示した。さらに,48年10~12月以降の原油価格高騰による影響は大きく,49年1~3月は卸売物価高騰の70%以上が海外要因によるものと推定される。海外要因としては,主として輸入要因によるものが大きいが,48年度は輸出価格の上昇も著しく,これが国内物価を下支える要因となつて作用したことも見逃せない。いま,卸売物価指数の中から輸出価格をとり出し合成し,業種別にみたものが 第10-7図 であるが,これまで国内価格を下回つていた輸出価格が,48年度は大幅に上昇し,特に鉄鋼,化学などでは国内価格を大幅に上回る上昇を示している。

なお,48年度に関しては,賃金要因の卸売物価上昇に対する影響はきわめて少ない。

c 48年度卸売物価の特徴

48年度の卸売物価は異常な高騰を示したが,その第1の特徴はインフレ心理を伴つた企業行動がみられたことである。47年まで過去20年間にわたり卸売物価は極めて安定的に推移してきた。特に生産財のなかでいわゆるひもつき価格と呼ばれるものは安定していた。そこで非市場的生産財と市場的生産財の価格の推移を比較してみたものが 第10-8図 である。非市場的生産財は,長期にわたり落着いた動きを示してきたが,48年には一転して急上昇している。これは,供給制約を背景とした需給ひつ迫下で企業が価格支配力を強めたためである。またこれまで市場的生産財に相対的に伸縮的な動きを示してはいたが,48年になるとその幅が大きくなりかつ上方ヘシフトしている。これには流通段階での先高期待感にもとづく思惑的な行動が強まつたことが影響している。

第10-8図 卸売物価指数による市場的生産財と非市場的生産財の価格の推移

第2の特徴は,物価抑制のために総需要抑制策を強化するなかで統制的政策がとられたことである( 第10-9表 )。48年度当初は,公定歩合の引上げをはじめとする通常の引締め期にみられる財政,金融政策により,物価の安定をはかろうとしたが,騰勢が根強く続いたため,さらに総需要抑制策を一段と強化しなければならなくなつた。7月には「生活関連物資の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」が施行され,8月には鋼材など不足物資を政府があつせんするなど価格の抑制がはかられた。9月には財政執行の大幅繰延べ,建築投資の抑制,民間設備投資の削減指導等の措置がとられた。しかし,10月中旬に原油の公示価格引上げ,供給削減という事態が生ずるにおよび,異常な物価高騰が起り,さらに強力な政策が必要とされることとなつた。こうして,12月には「国民生活安定緊急措置法」が成立し,標準価格制度が設けられた。また,49年3月には石油製品価格の引上げを認めると同時に「基礎物資及び生活関連物資の価格抑制のための緊急対策」がとられ,該当品目について値上げする場合は事前に届出ることが必要とされた。これらの政策は,異常な高騰を示す物価に対しある程度の効果をもつたが,あくまでも応急措置であり,長期的な物価対策は今後に残されている。

第10-9表 昭和48年度における物価安定対策

d 今後の卸売物価の動向

48年度の卸売物価高騰は,根強い需要の増大による需給ひつ迫と,原油をはじめ国際原料品価格の高騰による海外要因が主因となり,それらにインフレ心理が働いて増幅したものといえる。49年度に入り需給はひところにくらべ緩和傾向にあり,ロイター指数も下落するなど国際一次産品価格も落着いている。こうしたなかで,卸売物価は前月比上昇率で,49年3,4月とそれぞれ0.7%上昇のあと5月0.6%,6月1.3%上昇となつている。しかし,今後の動向については,次のような問題があり楽観は許されない。

第1は供給力の問題である。46年不況以降,大企業が設備投資を抑制してきたことから,その後の資本ストックの伸びは著しく鈍化している。こうしたなかで,需要の急拡大が起れば,直ちに物価上昇へはねかえる側面がいぜん残されている。第2は,企業の価格引上げ期待感が根強いことである。これは 第10-10図 にみるように,今後3年間の原材料価格については「かなり上昇」とみる企業が多く一方主力製品価格についても,「上昇」とみる企業が多いことからもうかがえる。第3は,原油価格の大幅引上げの影響から原材料価格や製品価格の上昇が続いていることや,春闘における大幅賃上げの影響などコスト圧力が増大していることである。今後,このような物価上昇圧力への,適切な対応が必要である。

第10-10図 今後3年間の原材料価格および主力製品価格の上昇見通し

(2) 消費者物価の動向

a 2桁の大幅上昇

48年度には石油価格の大幅引上げや海外の一次産品価格の高騰,消費者の買い急ぎなど特異な動きがみられ,消費者物価の高騰に一層の拍車がかけられた。

48年度の消費者物価指数(全国,45年=100)は131.0で,前年度比上昇率は16.1%の大幅なものであつた。この上昇幅は,47年度の上昇率(5.2%)を大幅に上回り,また,最近の2年間(45年度~47年度)の年度上昇率(5.5%)をもはるかに上回るものであつた。

年度間の上昇率が2桁を示したのは,昭和30年代および40年代を通じて初めてのことである。また,20年代においても戦後の混乱期を除けば,朝鮮動乱時の,昭和26年の上昇率(16.4%)に次ぐ大幅な物価上昇を記録したことになる。

特殊分類で48年度の動向をみると,工業製品,農水畜産物などの商品価格は,前年度に比べ18.4%もの大幅な上昇を示し,47年度の上昇率(4.2%)をはるかに上回り,上昇寄与率も47年度の54.7%から48年度には76.2%へと大幅にアップした。これに対して,民営家賃間代,個人サービス,公共料金などのサービス価格は,47年度の7.3%上昇から11.6%の上昇と,相対的に上昇率の高まりは小幅なものにとどまつた( 第10-11図 )。

第10-11図 消費者物価の上昇率と上昇寄与率

商品の内訳をみると,もつともウエイトの大きい工業製品の価格は,中小企業性製品が通期大幅な上昇率を示したのに加え,大企業性製品も年度後半にかなりの上昇を示したことから,47年度の上昇率(4.1%)を大幅に上回る18.5%の高い値上がりとなった。このため,上昇寄与率も47年度の36.5%から52.8%へと急激な高まりをみせた(本論 第I-2-5図 )。また,46年度,47年度にわたり比較的マイルドな値上がりを示した農水畜産物は,米価(政府売渡価格)改訂が行なわれなかったものの,野莱などの生鮮食料品が天候不順などから大幅に値上がりしたこともあつて,48年度には18.5%と高騰した。その他,出版物は年度の第1四半期には比較的落着いた動きをみせたものの,その後急騰したため,48年度を通してみると16.6%の上昇と,2桁上昇を記録した。

一方,相対的に低い値上がりとなつたサービス価格をみると,公共料金は物価安定対策の見地から価格改訂が据置かれたこともあつて,47年度の上昇率(5.9%)を下回る3.7%にとどまつた。上昇寄与率も13.7%から2.8%へと急減した。また,公共料金以外のサービス価格についてみると民営家賃間代に47年度並み(ともに8.5%)の上昇にとどまり,上昇寄与率も4.4%から1.4%へ低下したのに対して,個人サービスや外食は,それぞれ16.9%,18.2%上昇と著しい上昇を示した。

総合指数について,48年から49年にかけての動きを四半期別にみると.1~3月に前期比2.8%とかなり高い上昇を示したあと,4~6月には5.2%ヘと急騰し,前年同期比上昇率も10.5%と2桁の上昇となつた( 第10-12表 )。これはほとんどの項目で値上がり率が高まつたうえに,消費者の買い急ぎの影響から,繊維製品が前期比12.8%と暴騰したことが大きく影響している。しかも,いずれの品目とも値上がり率が加速化しているところからみると,個人所得の増加,個人消費の拡大や卸売物価上昇の影響などもかなり作用していたといえよう。

7~9月に入ると,消費者物価の上昇テンポはやや鈍りだした。前期比3.0%上昇である。これは第1に農水畜産物が,夏場の干ばつの影響から生鮮食料品が続騰したものの,値上がり幅前期に比べ半減し,また,工業製品も大企業製品の落着きに加え,繊維製品にみられるように買い急ぎの反動が現われるなど,インフレマインドがやや冷されたためである。

しかし,10~12月,49年1~3月にはそれぞれ4.5%,9.9%上昇と,物価上昇が大幅に,しかも加速化するようになり,いわゆる狂乱物価の時期を迎えた。この期の主役は工業製品である。ただ,49年に入ると,干ばつなど天候不順から農水畜産物も加わることになつた。工業製品の値上がり率をみると,10~12月7.5%,49年1~3月11.6%上昇と,いずれの期でも総合指数の上昇幅を上回つている。内訳では,中小企業性製品の値上がりが急ピッチであるが,従来最も安定していた大企業性製品の値上がりも著しい。こうした狂乱物価到来の要因としては,第1に,工業生産活動の血液とも言われた原油価格が予想をこえて突然に,短期間で大幅に引上げられたことである。第2に,年末賞与の大幅アップなど可処分所得の増大を背景にして,インフレマインドが完全に冷却されなかつたこともあつて,買だめ,買急ぎの行動がなされ,そのため,商品需給が急激にひつ迫化したことも大きい要因の1つである。また,原燃料価格の高騰から卸売物価が急騰したため,その波及が消費者物価の上昇につながつたことも大きい。

第10-12表 特殊分類別の消費者物価の推移

49年度に人ると,5月,6月とも総合では前月比で1%をかなり下回る上昇率を示したが,これは野菜などの暴落による面が強く,これらの季節商品を除いてみると,月率1%ないし1%を上回る大幅な上昇率となつている。しかも,上昇要因をみると,卸売物価の上昇による面が大きい。

このように,景気が上昇から停滞へと大きく変化するなかで,消費者物価は,主役を交替させ,性格もデマンド・プル型からコスト・プッシュ型へと大きく変化させながらも,大幅な上昇が続き,国民の関心も政策の重点も物価抑制へと傾斜した。

b 上昇パターンの変化

48年度の消費者物価の動向をみると,いくつかの特徴が指摘しうる。

まず,物価上昇が著しかつたのはわが国だけではなく,世界各国とも共通した現象であつたという点である。欧米先進国のうち主要6ヵ国の消費者物価の上昇率を48年度についてみると,イギリス10.5%(44年~47年の平均上昇率7.6%),イタリア11.6%(同5.2%),フランス8.5%(同5.6%),カナダ8.5%(同3.6%),アメリカ7.7%(同4.5%),西ドイツ7.7%(同4.8%)となつており,いずれも大幅な上昇率となつている。

しかし,年度間の上昇テンポをみると,日本が最も大きい(本報告 第I-2-1図 )。45年=100で比較すると,48年12月には主要6ヵ国中最も高かったイギリスを抜いて,日本が一番高くなつた。49年4月時点では,日本150.8,イギリス145.1,イタリア(3月)136.9,フランス132.7,西ドイツ125.9,カナダ124.8,アメリカ123.8となつており,6ヵ国中最も高いイギリスよりも5ポイント以上,最も低いアメリカよりも20ポイント以上も高いところに位置している。

第2の特徴は卸売物価との関係である。その1つは,卸売物価の上昇率が消費者物価の上昇率を上回つたことで,こうした現象は,これまでなかつた。48年度の消費者物価の上昇率(16.1%)を上回つている。ちなみに,42年から47年までの5年間についてみると,卸売物価の年平均上昇率は1.3%,消費者物価の平均上昇率は5.8%で,卸売物価の消費者物価に対する弾性値はかなり高い。また,49年5月時点をとつてみても,卸売物価35.3%上昇,消費者物価23.1%上昇と,卸売物価の上昇率の方が高水準にある。

卸売物価との関係の第2は,卸売物価から消費者物価への波及のタイムラグが短縮したことである(本報告 第I-2-6図 )。38年1月から49年3月までの期間について,卸売物価と消費者物価との時差相関係数を計測してみると,消費者物価の遅行性が6ヵ月のところで最も高くなつている。同様の関係を47年1月から49年3月までについて計測してみると,遅行性3ヵ月のところで相関係数が最も高くなつている。しかも,相関係数の値が,図でみるように,最近期の方が高目にでている。

第10-13図 サービスの消費者物価の推移

第3に,従来最も安定していた大企業性の工業製品の価格が,48年度の後半に大幅上昇をみせていることである(本報告 第I-2-5図 )。45年から47年までの期間をとると,大企業性製品の価格上昇は僅か年率2.3%であるにすぎない。しかし,48年度後半の動きをみると,10~12月,49年1~3月には前期比で5.2%,12.2%の急騰を示し,前年同期比ではそれぞれ10.7%,22.6%の大幅上昇となつている。

第4に,サービス価格が相対的に安定していたことである( 第10-13図 )。48年度の上昇率は47年度の7.3%に比べ11.6%と決して低い水準ではないが総合や工業製品と比較して,上昇幅も,前年度の上昇率に対するポイント差でも,相対的に安定している。これは,個人サービス,外食などの値上がりが著しかつたものの,民営家賃間代,公共料金の上昇が小幅にとどまつたためである。

第5に,消費者の買だめ,買急ぎなど異常な消費行動が生じたことである(本報告 第I-2-15図 , 第10-14図 )。消費者の消費行動を平常時(48年4~9月)と異常時(48年10~12月)とで比較してみると,家計調査にあらわれた購入量の増加率は異常な高まりをみせている。たとえば,洗濯用洗剤では平常時では前年同期に比べ10%程度の購入量の増加がみられるが,異常時には増加率は10倍程度も膨張している。また,石けん,ちり紙,ノートブックなどについてもおおよそ同じような関係にある。

第10-14図 個別価格指数の動き

第10-14図 は,消費者が異常な行動をとつた時,およびその前後の物価の動きについて,代表的な品目を選び図示したものである。前月比の動きは消費者の異常な購入行動が物価にどのような影響を与えたかをみるのに適し,前年同月比,指数は石油危機が峠を越したときに物価水準がどのあたりに定着したかを示している。

これをみるとつぎのような共通点がいくつか指摘しうる。第1は,いずれの品目とも48年9月,10月までは価格がほとんどあがつていないことである。砂糖を例にとると,45年を100とすれば47年には107.4で2年間で7.4%しか値上がりしていない。第2に異常時の価格の暴騰は想像を絶するものがあつたという点である。ちり紙の価格上昇率を前月比でみると,9月8.4%,10月10.8%,11月56.4%と急角度で上昇幅を拡大したあとも,12月21.1%,1月12.8%上昇と暴騰した。洗濯用洗剤,ノートブック,砂糖についても短期間のうちに価格が暴騰した点には変りがない。共通点の第3は,異常な物価暴騰がすぎると,価格の下方修正の動きができたということである。下方修正が大幅にでた品目もあれば,小幅にでた品目もあるが価格の下落があつたことには変りがない。第4に,価格に下方修正があつたにもかかわらず,いずれの品目とも,異常時以前の水準に比べ高水準に安定していることである。ノートブックを例にとると,下方修正は3ヵ月程度で終了し,価格の水準は異常時以前に比べ50%以上も高まつている。

48年度の消費者物価の特徴の第6は,物価安定のためにとられた政策が,これまでは総需要抑制策など間接的な方法であつたが,今回の場合,従来の方策に加え,個別物価を直接規制する方法が採用されたことである( 第10-14図 )。公共料金などの場合には,これまでも直接的な統制の方法がとられたが,今回の場合,かなりの品目数にわたり,しかも市場で価格決定される品目が直接にコントロールされることは,昭和30年以降,例がない。

c 消費者物価の上昇要因

以上,48年度を中心にした消費者物価の動向を概観してきたが,つぎに物価上昇の要因をさぐつてみよう( 第10-16図 )。

いま,消費者物価の上昇要因は,コスト要因として卸売物価と賃金コスト(賃金÷労働生産性),需要要因としては実質の消費支出,その他の要因として流通マージンなどがあげられる。

第10-15表 石油価格の改訂に伴う事前了承品目と抑制指導物資

第10-16図 消費者物価の上昇要因

消費者物価の上昇要因をみると,卸売物価による分は,47年には消費者物価を引下げる要因として働き,その結果,消費者物価は前年同期比で5%以下の上昇にとどまつた。しかし,48年に入ると,卸売物価の上昇寄与度は急速に高まり48年1~3月の3.6%から10~12月には13.9%と大幅な上昇を示した。49年1~3月には寄与度は22%を上回り,消費者物価の大半は卸売物価の上昇によつて説明できることになつた。

一方,同じコスト要因として働く賃金コストの動きをみると,48年1~3月は景気回復期における労働生産性の上昇から僅かながら賃金コストはマイナスを示した。しかし,4~6月以降になると,大幅なペース・アップが実現したことやボトル・ネックが生じたことからくる生産の停滞もあつて,賃金コストは急速に上昇する。48年4~6月の前年同期比1.9%上昇から10~12月には10.9%上昇へと大幅にアップする。49年に入ると,生産活動の停滞もさることながら,賃金上昇のテンポが鈍つたため,賃金コストの上昇率は鈍化する。こうした動きを反映して,賃金コスト上昇による消費者物価へのはねかえりは48年7~9月に若干増加したものの,48年度を通してみるとその上昇寄与度は小さい。

実質消費支出の上昇寄与度は48年上半期まではかなり大きかつたものの,それ以降は急速に低下し,49年1~3月については,ほとんど影響していないといえる。以上の要因分析から,48年後半以降については,卸売物価上昇の消費者物価への波及が高まり,それが異常な消費者物価の高騰をもたらしたのである。

以上のように,47年度後半から急騰した物価は,48年度中その騰勢を持続し,48年末の石油危機によつてさらに加速された。従来,消費者物価が上昇しても,卸売物価は安定的であつたが,今回は逆に,卸売物価が消費者物価を上回る上昇を示し,かつ卸売物価の消費者物価への波及ラグも短縮した。その過程では,消費者のみならず企業においてもインフレ心理が強く働き,一層物価高を激化させた。こうした情勢から,総需要抑制策に加えて,従来みられなかつたような統制的政策がとられたことも,48年度の大きな特徴であつた。49年度に入り,さしもの異常高を続けた物価も落着き傾向を示しているが,コスト圧力の増大など上昇要因は根強く残されている。当面,総需要抑制策を堅持し物価の安定をはかると共に,長期的には,構造的対策を早期に確立することが必要である。


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