昭和49年

年次経済報告

成長経済を超えて

昭和49年8月9日

経済企画庁


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第2部 調和のとれた成長をめざして

第3章 福祉充実と公共財の供給

1. 経済発展と公共財の需要・供給

(1) 資源配分と公共財の供給

(民間部門と公共部門の間の資源配分)

資源の配分にはいくつかのレベルがあるが,まず,生産されたものが誰によつて用いられているかをみると,30年の78.6%から48年には82.2%へと民間部門のウェイトが高まつている。支出内容を消費,投資に分けてみても同様の傾向がうかがわれる。また,民間部門,政府部門各々における消費と投資の比率をみると,いずれも投資比率が増大してきている( 第II-3-1図 )。

主要先進国と比較すれば,第1にわが国は最も政府部門の比率が低いこと,第2に政府部門,民間部門とも投資比率が高いことの2点に特徴がある( 第II-3-2図 )。

国際比較,時系列からみたこのような事実は日本の経済発展が民間投資主導型であつたことを示している。

(資本ストックの配分)

投資の増大は資本ストックを急激に増加させた。資本ストックの内容をみると当然のことながら,民間資本ストックに対する政府社会資本ストックの比率は景気変動により変化はあるものの,30年度の63%から47年度には56%へと低下してきている。

第II-3-3図 資本ストック比率の推移

社会資本ストックの内訳をみると,産業基盤社会資本ストックに対し生活関連社会資本ストックは40年代に入つてやや低下し,47年度では36%の水準にある。したがつて,社会資本ストックの民間資本ストックに対する比率が低下傾向を示したのは,生活関連社会資本ストックの相対的な立遅れに原因があるといえよう。この点は産業基盤社会資本ストックが民間資本ストックに対し,およそ4割の水準でほぼ固定的であることからも立証される( 第II-3-3図 )。

(労働力の配分)

次に,労働力の公私間配分を,労働力が大きな役割を果たすサービス業を中心にみよう。

第II-3-4図 サービス産業の推移

産業別の従業員数の伸びをみると,30年代では製造業の伸びが高かつたが,40年代に入るとサービス業の伸びが上回るようになり,その内訳では,私的サービスの伸びが高くなつている。

これは,第2次産業の拡大に伴う部分が大きいと考えられる。たとえば,サービス産業のうち1960年から70年の間で伸びが高かつた10業種をとると,日本の場合モータリゼーションの進行に関係の深い業種が4つ含まれており,学校,病院が入つているアメリカと対象的である。

これに対し,公的サービスの従業員数の伸びは低く,とくに近年は横ばいに推移している( 第II-3-4図 )。

サービス業従業員数に占める公的サービスの比重をアメリカと比較すると,日本の17.6%(1972年)に対しアメリカは29.2%(70年)と,かなりアメリカの方が高くなつている。

以上の例でもみられるように,公共財の供給は民間部門の拡大,私的財供給の増加に比べて相対的に立遅れている。

(2) 経済発展と公共財の需要

(経済発展と公共財の需要)

一方,公共財に対する需要は,経済発展に伴い増大してきた。公共財に対する需要は,大きく直接国民の生活に直結する需要と,産業活動に伴うものとに分けられるが,いずれも経済発展の過程で増大を続けている。後者については後にみることにして,国民生活に直結する需要について考えてみよう。

国民生活に関連する公共財は,その性格上大きく2つに分けられよう。第1は,「ナショナル・ミニマム」とよばれ,公共部門が最低限その供給に責任をもつべきものである。これには集合的に供給,消費されるなど,市場機構に任せておいたのでは供給が不十分になる可能性のあるものに限らず,所得分配の平準化をめざすものも含まれている。たとえば,老人ホームは老人が十分な所得をもつていれば,市場機構のなかでも供給されるであろうが,大部分の老人ホームについては直接公共部門が提供する形となつている。

第2は,より高度な需要に対応するものであるが,財の性格上集合的に供給されるもの,あるいはその影響が広汎に及ぶものである。たとえば,レジャー交通需要や各種学校,情報への需要などである。もちろん,公共部門の役割として重要なのは前者であるが,経済発展のなかでその範囲は拡大し,後者から前者に移行するものがある。

経済発展に伴い,このような生活関連公共財への需要は増加している。すなわち,第1に所得水準,生活水準の上昇が国民の要求する最低限の水準を引上げている。たとえば,公的住宅についてもより広い住宅が望まれ,教育でも幼稚園教育や高等教育へと広がつている。

第2は,経済発展のなかで社会制度の変貌が生じた結果,新たな需要が生じたものである。核家族化の進行が幼児の社会的保育や,老人の社会的扶養への欲求を高めているのはその一例である。

第II-3-5図 人口密度と面積当たり社会資本

第3は,経済発展のなかで生じたマイナスの影響を回復するための需要である。これにはまず,都市の過密化に伴う交通混雑,大気汚染,騒音振動,日照権,し尿,ごみ処理などの問題がある。たとえば,人口密度の増加と面積当たり生活関連社会資本の増加を比べれば, 第II-3-5図 のように後者の方が伸びている。それにもかかわらず,都市における生活関連社会資本に対する満足感が高まつていないのは,上記のようなマイナス要因がその必要量を増大させているためと考えられる。

さらに広く公害防除,自然環境の保全への欲求は,都市に限らず全国に広がつている。もちろん,経済発展のなかでこうしたマイナスの影響が生じたのには,外部不経済を内部化するなど,社会的ルールが成立していなかつたことも影響している。

(産業構造と公共財の需要)

一方,産業活動の面でも公共財に対する需要は増大してきた。とくに,産業基盤社会資本に対する需要の増大は大きい。これには,日本の産業構造,需要構造が社会資本を多く使用する型になつていることが影響している。まず,産業別の港湾や鉄道,道路など交通社会資本の使用度をみると,港湾では石油製品,石炭製品,鉄鋼,非鉄金属,窯業・土石などが,道路,鉄道の陸上交迫では.林業,鉄鋼,窯業・土石,石炭製品などが高くなつている。製造業のなかで使用度が高いのは資源加工型の産業である( 第II-3-6図 )。

第1章でもみたように,わが国の場合,これらの資源加工型の業種が大きなウエイトを占めており,産業構造自体がより多くの産業基盤社会資本ストックを必要とするパターンになつている。

(経済発展と公共財の需給アンバランス)

このように産業構造が産業基盤社会資本多使用型であるのには,2つの理由がある。第1は,需要構造の問題である。生産増加に必要な最終需要単位当たり投資額を波及効果を含めて需要項目別にみると,民間投資については,輸出,在庫,民間消費支出の順になつており,政府投資については,政府消費支出,輸出,民間消費支出の順になつている。また,技術革新や省力化投資など生産力の単純な拡大以外の独立投資を考えると,それがさらに誘発する民間投資は民間消費支出と同程度である。

必要とする政府投資の内訳をみると,政府消費支出では公務や公共サービスなどの分野であるのに対し,輸出や独立投資,民間消費支出では交通・通信あるいは電力など産業基盤社会資本の分野になつている。

第II-3-7図 需要拡大に必要な政府投資

さらに,必要投資額は需要の増加率が高まるにつれ,「投資が投資を呼ぶ」形で加速的に増大し,それが産業基盤社会資本への需要を急激に増加させる。したがつて,輸出や独立投資を中心とする従来の高成長は,直接,あるいは民間投資の誘発を通じて間接的に産業基盤社会資本投資の必要量を急増させたといえる( 第II-3-7図 )。

第2は,貿易構造の問題である。公共財の一種と考えられる土地,水について,輸出品生産のための使用量と,国内生産の代りに輸入で代替することによる節約量を比較してみると,わが国は輸出による使用量の方が大きいのに対し,他の国ではおおむね輸入による節約量が上回つている。すなわち他の国では貿易によつて,土地,水の使用が節約されていることになる。わが国の場合,第1章でもみたように,資源加工型産業の輸出が多いため,土地,水の使用量が貿易によつて国内需要をまかなう生産に必要な水準よりも増加している。もつとも,輸出入の品目構成を同じにしても,諸外国の方が使用増加量がやや小さい点はわが国の投入構造にも問題があることを示している( 第II-3-8表 )。

以上のように,従来の経済発展は産業基盤公共投資を増大させるものであつたが,同時に,先にもみたように所得水準の向上や,そのマイナスの影響を通じて生活関連社会資本への需要も増大させている。

このようにして,公共財への需要は強まり,産業基盤投資と生活関連投資の間の選択が大きな問題になつているが,第1章でみたような需要構造,産業構造の変化が生ずれば,それが産業基盤社会資本への需要増大をおさえ,公共財に対する需給バランスを回復させる効果も有している。また,公共部門の支出も民間資本ストックの増大を必要としていることなどからみて,財政支出の一方的な拡大が望ましいわけではない。それでは逆に私的財に対する需給のアンバランスが生ずることになる。公共部門と民間部門の間におけるバランスのとれた資源配分が必要とされている。


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