昭和49年

年次経済報告

成長経済を超えて

昭和49年8月9日

経済企画庁


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第2部 調和のとれた成長をめざして

第3章 福祉充実と公共財の供給

日本経済が現在直面している課題は,一方で産業構造の転換を通じて福祉の充実を図つていくことにある。しかし,現実には,産業構造の転換と福祉の充実は両立しにくい面がある。福祉充実のためには,インフレーションをひき起こさない配慮が必要であるとともに,資源配分,所得分配の両面において,単に市場機構に任せるのではなく,公共部門の積極的な介入が期待されているといえよう。

しかし,その際とくに次の3つの点に留意することが必要である。

第1は,公共部門と民間部門の資源配分上のバランスである。福祉充実に公共部門の役割が大きいということは,単に資源配分を公共部門に傾斜させればよいということではない。公共部門の活動は民間部門の活動を支えるとともに,その原資や資材の面で民間部門の活動に支えられている。したがつて,両者がバランスのとれた形で発展する必要がある。このことは公共部門のみならず民間部門のあり方も,福祉充実の資源配分に関連していることを意味している。

第2は,資源配分と所得分配の一体性である。公共部門の活動は,経済的には主として資源配分における市場機構の働かない分野の供給と所得再分配を目標としているが,この両者は密接不可分である。とくに資源配分上,公共財として公共部門が供給責任を負う分野には,その供給自体が所得再分配の効果をもつているものが多いし,最近のようにインフレーションの脅威が根強い環境では所得再分配政策だけでなく,市場で低所得層が手に入れにくい公共財を公的に供給することの意義は大きい。また,ナショナル・ミニマムの思想の一般化とともに,より積極的に所得再分配上の配慮から公共部門が供給責務を負うものもある。第3は,財として供給責務が公共部門にあるかどうかの問題と,供給主体としての公私両部門の混在の問題である。第2であげたように所得分配上の配慮から公共部門が供給の責務を負うものについても,供給主体がすべて公的機関である必要はなく,供給の量と質の確保が公共部門の責務とされることになろう。したがつて,供給主体としては公私両部門が混在することになり,その場合,公共部門の責務をどのように果たすかが問題となる。同時に,こうした分野ではナショナル・ミニマムの範囲が変化することとあいまつて,どこまでが公共部門の責務であるか,また費用負担をどうするかも問題となつている。

第II-3-1図 わが国の需要構造の変化

第II-3-2図 欧米諸国の需要構造

本章では,福祉充実に果たす公共部門の役割を公共財の供給に関連して上記3つの観点から検討することにした。

すなわち,はじめに経済発展のなかで公共財の需要・供給がどのようになされてきたか,そのための資源配分はどうであつたかをとりあげ,次に,財政の支出を所得再分配機能の点から収入と結びつけて検討し,最後に,公共財の供給をとくにナショナル・ミニマムといわれる段階にしぼつて,そこでの公共部門の役割を明らかにしたい。


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