昭和49年

年次経済報告

成長経済を超えて

昭和49年8月9日

経済企画庁


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第2部 調和のとれた成長をめざして

第1章 世界のなかの日本の産業構造

2. 内からみた日本の産業構造

(1) 産業構造の国際的特徴

翻つて日本の産業活動を内からながめてみよう,国際的に産業構成を比較すると,日本は,第3次産業の比率が高いアメリカ型と,製造業の比率が高い西ドイツ型の中間にあるが,同時に製造業のなかで重化学工業の比率が高いという特徴をもつている。とくに,重化学工業の比率の高さは日本における従来の経済発展の基本的な特徴である( 第II-1-19表 )。

しかし,今後の産業構造の問題を考える際には,単に産業構成の面だけをとりあげるのでは不十分である。現在の日本経済が直面する多くの課題との関連で,産業活動の質的な側面を検討しなければならない。たとえば,資本や労働といった生産要素の使用量,資源やエネルギーの消費量,汚染因子の発生量が,各国の需要構造や技術,それによって決まる産業構成などによってどのような差を生じているかが重要である。以下では産業構造をこうした質的な側面からとらえて,日本の産業構造のもつ特徴を明らかにしよう。

その場合,主として各国の産業連関表を用いて分析を進めるが,産業連関表では国民所得統計における国民総支出に対応するものとして最終需要がある。ここでは,その最終需要を満足するための生産に必要な生産要素・資源などの使用量や汚染因子の発生量を比較することとした。ただし,比較の基準としては最終需要を円換算し,その単位金額当たりの使用量等を採用した。

第II-1-20図 最終需要100万円当たり諸要素必要量

また,産業連関表を用いた分析では,単位当たりの使用量等の需要構造(消費,投資,輸出などの組合わせと,消費パターンなどそれぞれの需要の内容)の違い,投入構造(各業種の生産を行う際にどのような原材料あるいはサービスを用いるかを示すもので,輸入によるか国産によるかも含まれる)の違い,各業種の消費原単位などの違いの3つの要因に分けることができる。

(資本と労働)

そこで,こうした観点からとらえた産業構造の特徴をアメリカ,イギリス,西ドイツ,フランスなど主要先進国と国際的に比較してみよう。まず,生産要素の1つである資本の使用量を資本係数(民間資本ストック/国民総生産)でみると,西ドイツは1960年0.88,70年0.97となつているのに対し,日本はそれぞれ0.45,0.51とかなり低い。

第II-1-21図 生産1単位当たり必要労働量の国際比較

一方,労働力を最終需要単位当たりの必要労働量でみると, 第II-1-20図 のように主要4ヵ国に比べて日本が最も大きい。これは,主として業種別の労働系数(就業者数/生産額)の違いによる。すなわち,多くの業種について,その生産に必要な労働力が日本は多いことにより,他の国との間に差が生じている。製造業についてみると,全業種にわたつてアメリカが最も小さく,次に西ドイツが小さくなつている。日本は一般機械では西ドイツより小さく,鉄鋼,化学などでも西ドイツに近いが,繊維,紙・パルプ,などではイギリスよりも大きくなつている( 第II-1-21図 )。各国の業種間の差を比較すると,日本が最も大きくなつており,重化学工業と軽工業の違いが目立つている。とくに直接必要な労働力では,その差はさらに大きく,鉄鋼のようにアメリカを下回る例もみられる。これは別の面からいえば,重化学工業と軽工業の間における労働生産性格差が大きいことを意味している。また,資本と労働を総合してみれば,欧米に比べ依然として労働使用型であるといえよう。

(エネルギー)

次に,エネルギーを最終需要単位当たり消費額で比較すれば,アメリカ,イギリス,西ドイツより小さい。これは,需要構造が他の4ヵ国に比べ,エネルギーを使わないタイプになつているためである。投入構造の面では,むしろいずれの国よりもエネルギー多使用型である( 第II-1-20図 )。

日本の需要構造がエネルギー多使用型でないのは,個人消費支出の内容がエネルギーを多く使わないことによる。すなわち,投資や輸出のエネルギー誘発係数は各国まちまちであり,日本も低くないのに対し,消費支出のエネルギー誘発係数はアメリカ,イギリス,西ドイツの0.1に比べ0.07と低く,個人消費がエネルギーを使わないタイブになつていることがわかる。また,最終需要がエネルギーを使わず,他方,投入構造がエネルギー多消費型であるため,日本のエネルギー消費の大半は産業用,産業連関表でいえば中間需要で占められることになる。したがつて,GNP当たりエネルギー消費量や1人当たり同消費量でみると,日本が主要先進諸国よりとくに高くはないという結果になつている( 第II-1-22図 )。一次産品のうち農林水産物でもほぼ同様の傾向を示しており,最終需要単位当たり消費額でみると,日本はフランスより小さいが,アメリカ,イギリス,西ドイツよりは大きい。これは,需要構造ではフランス,西ドイツよりも節約型であるが,投入構造ではどの国よりも多使用型になつているためである。もつとも,鉱物は以上の資源とやや異なり,イギリスを除き日本の方が大きく,その要因も需要構造,投入構造いずれも日本の方が総じて多使用型になつている( 第II-1-20図 )。

(汚染物質)

次に,資本,労働,資源といつた生産要素を使つて生産が行われる過程で発生する汚染物質の発生量をみよう。

まず,大気汚染の原因となるSO2について,最終需要単位当たり発生量を比較すると,日本は,どの国よりも大きい。これは,わが国が,需要構造の面では発生量が多いとはいえないが,投入構造の面ではいずれの国よりも多発型になつているためである。また,水質汚濁の原因となるBODについても,これら4ヵ国に比べて日本が最も大きく,ここでも日本の投入構造が国際的に多発型であることを物語つている。需要構造の面では,発生量は各国よりも少ない( 第II-1-23図 )。もつとも,これらの国際比較については日本の汚染物質の発生原単位を各国にもあてはめているので,公害規制や防止設備の程度の相違による潜在的発生量に対する各国の処理率の違いは含まれておらず,現実の発生量を示していないことに留意する必要がある。

また,上記の試算には,消費活動に伴う汚染物質の発生量は含まれていないため。個人消費支出の多いアメリカなどの発生量は相対的に,さらに大きくなる可能性がある。たとえばここではとりあげなかつたNOx(窒素酸化物)については自動車の走行に伴う部分が大きいだけに,自動車普及率の高い国ほど発生量が多くなる可能性がある。

このように,公害の発生という面をとりあげても,大量消費が進むほどその内容は汚染物質を多く発生させる方向へと変わる傾向がある。これは前述の資源・エネルギー消費の傾向と対応しており,世界経済における資源・公害問題の所在を示すものといえよう。

以上にみたように,日本の需要構造は相対的に資源・エネルギー多消費型,公害多発型ではないが,別の側面において以下のような一層困難な問題を抱えている。

日本経済にとつての資源・公害問題は,最終需要単位当たりの消費量の大小もさることながら,資源の自給率が低く土地が狭いことから,消費総量の大きさが問題となる。つまり,最終需要単位当たり消費量が小さくても,資源の自給率が低いため,消費総量の増大は一次産品やエネルギーの輸入額を大きくして国際収支面での負担となる。また,それは土地が狭いため,可住地面積当たりの汚染物質発生量を大きくするという関係があるからである(前掲 第II-1-23図 )。こうした産業構造の下で,わが国でも大量消費時代ヘ入り,また,その足もとで資源価格の高騰が生じたことは,70年代の日本経済にとつて,資源・公害問題の重要性をあらためて認識させ,それを解決するための産業構造のあり方が大きく問われるに至つている。

(2) 国際分業と産業構造

一国の産業構造は,その国の国際分業のパターンと密接な関係をもつている。前述したように日本の国際分業パターンは,輸出は工業製品に,輸入は一次産品,エネルギーに特化するという垂直分業型をとり,水平分業型の欧米先進国と対照をなしているが,これは産業構造の国際的相違に大きな影響を及ぼしている。

各国産業の生産が,国内需要を満足させる水準から,輸出入によつてどのように乖離しているかをみるためスカイライン図表をつくると,( 第II-1-24図 )のようになる。アメリカは乖離幅が小さく,西ドイツは反対に乖離幅が大きく,その上輸出による生産誘発度と輸入による生産節約度が共に大きくなつている。これに対して日本は,輸出による生産誘発度は大きいが,輸入による生産節約度は小さい。この傾向は製造業に強くあらわれており,ほとんどの業種において国内需要以上に生産を行つている。こうした日本のパターンは,軽工業では国内需要の一部を輸入でまかなつている西ドイツと対照的である。

そこで,このような国際分業パターンが国内需要のみによる産業構造をどの程度変えるかを分析してみると,日本では製造業の比率を3.3%上昇させるのに対し,アメリカでは逆に0.3%低下させ,フランスでも0.8%しか上昇させない。また,イギリスは4.2%,西ドイツは2.2%上昇するものの,日本と違つていずれも軽工業の比率が低下し,重化学工業の比率が上昇するという産業調整を伴つた変化を示している。すなわち,日本は重化学工業の比率が3.2%,軽工業の比率が0.1%いずれも上昇するのに対し,イギリス,西ドイツは重化学工業がそれぞれ5.0%,3.7%上昇し,軽工業が0.8%,1.5%低下する形になつている( 付注12 参照)。

それでは,こうした国際分業パターンの差は汚染物質の発生や資源の使用にどのように影響しているだろうか。

まず,汚染物質の発生量については各国の貿易構造を前提とすれば,日本を除いていずれも輸入による抑制効果が輸出による発生量の増加を上回つている。したがつて,他の先進国の発生量は国際分業によつて国内需要のみによる発生量より抑えられていることになる。これに対して,日本は国際分業によつてかえつて発生量が増加しており,日本と同じ貿易構造を各国に適用すれば,イギリス以外はやはり増加の傾向があらわれる。このように日本の国際分業パターンは,汚染物質の発生量を国内需要のみによる場合より増加させる方向に働いていると考えられる(第II-1-25図)

日本の場合,国際分業パターンが資源やエネルギーについてもその消費を増加させるという結論がえられ,また,土地や工業用水など公共的な財についても同じ傾向があらわれている(後掲 第II-3-8表 )。

国際分業パターンと資源消費,公害発生との関係は,産業構造,貿易構造を加工段階で区分してみれば一層明らかになる。製造業を重工業,軽工業に分け,それをさらに資源加工型と素材組立型に大別してみると,先進国ではフランスを別にすれば,軽工業よりも重工業に重点をおき,また加工段階別では素材組立型の生産,輸出に特化する傾向がみられる。

したがって,資源加工型は輸入に譲る方向に進んでおり,そのなかでも労働集約的な軽工業はとくに輸入による代替が著しいといえよう。これに対し,日本は相対的に資源加工型重工業の比率が高く,素材組立型軽工業の比率が低い点に特徴があり,貿易面でも先進国に共通なパターンを示しているものの,輸出では資資源加工型がやや高く,輸入では資源加工型のうちでも軽工業の比率は低くなつている( 第II-1-26表 )。

また,重化学工業についても,個別品目の加工段階別に国際分業度を調べてみると,素原材料を輸入に依存する度合の高い国でも,日本と違つてその加工品の分業度はかなり高くなつているのが注目される(第II-1-27表)

以上のように,日本の産業構造を国際的にみると,重化学工業化の急進展や高加工度化の展開にもかかわらず,反面において,製造業における水平分業化の遅れが著しい。最近,日本経済は資源,公害,労働力,といつた諸側面で制約が強まつているが,こうした水平分業化の遅れもそれを生み出す一因となつている。また,これは第3章でみるように,日本経済の成長を福祉指向型に変えにくい原因のひとつにもなつている。

(3) 戦後発展のメカニズム

a. 要素面からの検討

(要素消費,公害発生の変化)

それでは,日本の産業構造のこうしたパターンは,これまでの経済成長の過程でどのように変化してきたであろうか。望ましい方向へ向かいつつあるのだろうか,それともその逆であろうか。

最終需要単位当たりの資本と労働の必要投入量,一次資源・エネルギーの必要使用量,汚染物質の発生量について昭和35年から45年への変化をみると,大幅な減少を示しているのが労働投入量と一次資源の使用量,やや減少しているのが資本投入量とエネルギー使用量,増加しているのが汚染物質の発生量というパターンになつている( 第II-1-28図 )。

まず,生産要素である労働力と資本についてその変化の要因を調べてみると,労働力では需要構造,投入構造とも省力化の方向に働いているが,とくに各業種の省力化,労働係数の低下によつて必要投入量が大幅に減少している。

一方,資本については,個別業種の資本係数が省力化を補う形で上昇したものの,投入構造や需要構造が節約型になつたため,全体としてはほとんど変化がなく,国民経済全体の資本必要投入量ははぼ安定していた。もつとも,総合効果として輸出面では資本節約型,消費面では資本使用型であつた。

次に,エネルギーと一次資源の使用量については,各業種の原単位は両者とも節約型になつている。しかし,需要構造,投入構造をみると,一次資源では需要構造,投入構造とも節約型になつているのに対し,エネルギーでは使用型へと働いている。

これには,エネルギーのなかに石油化学原料の石油が含まれているため,天然繊維から合成繊維へ,木材,紙,金属からプラスチックへといった材料の変化が一次資源を節約し,エネルギーを多く消費する投入構造へと変化させたことも影響している。汚染物質の発生量については,投入構造,需要構造とも消費面を中心に多発化の方向へ動いているが,これはモータリゼーションや家庭電化,出版物の高成長などが影響している。

(変化のメカニズム)

以上のような変化はどのようなメカニズムで説明されるであろうか。原単位と投入構造の変化は技術進歩と相対価格の変化で説明され,需要構造の変化は所得水準の上昇,相対価格の変化,好みや選択の変化で説明される。とくに,相対価格の変化はいずれにも共通した要因であり,変化のメカニズムを明らかにするためには,要素価格の変化とそれによるコストの変化,さらに相対価格の変化をとらえる必要がある。たとえば労働力についてみると,各企業による生産性の向上による労働係数の低下は,賃金の上昇で相殺され,賃金コストは必ずしも低下しなかつたが,これを逆にみれば,労働需給のひつ迫とそれによる賃金上昇が省力化,生産性向上の誘因となつているともいえる。また,需要構造と投入構造が労働力を節約する方向に動いたのは,労働集約的業種の相対価格が上昇したことに対応しようとする企業や消費者の行動のあらわれとも考えられる。このように,賃金の大幅上昇にもかかわらず,生産性の上昇と需要構造,投入構造の変化によつて,全体として労働費用の増加はわずかにとどまつた(後掲 第II-1-37図 )。

第II-1-29図 エネルギー・コスト増減要因分析

一方,エネルギーについては,原単位の節約に価格低下が加わつてエネルギー・コストが大幅に低下し,それによつて生じたエネルギー多消費型業種の相対価格の低下は,投入構造,需要構造をエネルギー使用型に変える効果をもつていたと考えられる。しかし,エネルギー・コストの低下が大きかつたため,全体としてのエネルギー費用はかなり減少した( 第II-1-29図 )。

第II-1-30図 所得階層別主要資源生産輸入誘発

なお,公害についても,それがコストとしてはねかえらなかつたことが,投入構造や需要構造を多発型へと変化させる一因になつたと考えられる。このように,従来の需要構造や投入構造の変化と,それを通じて生じる産業構造の変化には,相対価格の変化が影響している面が大きいと考えられ,今後についても,相対価格の変化によつて産業構造はかなり変化しうると考えられる。

次に,所得水準の上昇はどのように影響しているだろうか。消費面について35年と45年を比べると,消費支出の内容変化によつて,45年の方がエネルギー多消費型,公害多発型,資本多使用型へと動いている。こうした動きには相対価格の変化も影響していると考えられるが,国際比較でもみたように所得・消費水準の向上が公害・資源問題を一層深刻にする可能性があることがうかがわれる。一次資源についても,所得階層別の生産誘発額を求めれば,木材,鉄鉱石,非鉄金属鉱石などでは所得水準の上昇につれて増加する傾向がみられる( 第II-1-30図 )。

最後に,技術進歩と企業行動の影響が考えられる。エネルギーや一次資源における原単位の低下( 第II-1-31図 ),業種別労働係数の低下に比して,それを補う資本係数の上昇率が低いことは,技術進歩が大きな役割を果たしていることを示している。

他方,投入構造の面におけるエネルギー多消費型への変化は単なる代替だけではなく,技術進歩の性格が相対価格の変化を反映してエネルギー多消費型になつていることの反映でもある。

このような産業発展のメカニズムのなかで,次のような事実に注目する必要がある。第1に,輸出と消費で動きが異なることである。輸出面では,きびしい国際競争にさらされるところから,コスト上昇を吸収する努力が重ねられ,単位当たり資源消費量は低下している。他方,消費面では,所得水準の向上に伴つて欧米タイブに近づき,輸出面と逆に資源・エネルギー投入量は増加する傾向にある。

したがつて,諸条件の変化には輸出の適応が速く,その意味で産業発展をリードする役割を果たしてきたといえよう。

第2に,こうした産業発展の過程における要素価格の変化と,それに対応する産業構造の変化に注目しなければならない。日本経済における労働力過剰が労働力不足へ変わつて賃金上昇が強まつてくると,労働から資本への代替効果が生じたこと,資源の国際価格低下が産業構造をとくにエネルギー多消費型へと変えたこと,外部不経済が内部化されずコストが発生者の負担にならなかつたことが公害の多発化を招いたことなどの事情が指摘できよう。

b. 輸出面からの検討

日本の産業構造を変える原動力は,これまでのところ輸出の伸長であつたが,そのメカニズムをみてみよう。輪出伸長の要因は,世界需要の増加と,価格その他の競争力強化であるが,業種別の輸出増加率と価格上昇率を比べると,総じて平均より輸出増加率の高い業種は価格上昇率が低いという結果がえられる。これは,日本の輸出伸長が価格効果,つまりコスト引下げによるところが大きかつたことを物語つている。労働力過剰下で労働集約的であつた日本の産業構造が,最近10年間では労働力不足の方向へ転じ大幅な賃金上昇が生じたのであるから価格安定のためには賃金コストの上昇を吸収する必要がある。したがつて,この間の輸出は生産性を向上させ,賃金コストの上昇を吸収した業種ほど伸びる道理であつた。4業種別の輸出比率と雇用者所得比率の関係をみると,事実,雇用者所得比率が低下した業種は輸出比率が上昇し,逆に雇用者所得比率が上昇した業種は輸出比率が低下する傾向がみられた( 第II-1-32図 )。しかも,概して前者は過去において輸出比率が低く,後者は反対に高かつた。このため,輸出構造は大きく変化し,業種間の交替が進行した。

他方において,賃金コストの上昇を吸収するためには,資本装備率の上昇によつて生産性を高める必要がある。こうした観点から業種別の動きを見ると,従来から資本装備率の高い業種がさらに大幅にそれを高め,同時に輸出比率も高まっている。これに対し,資本装備率の高い業種は,労働から資本への代替に困難な面があると考えられ,資本装備率の上昇も小さく輸出比率も高まっている。これに対し,資本装備率の低い業種は,労働から資本へ代替に困難な面があると考えられ,資本装備率の上昇も小さく,輸出比率も低下している。

もつとも,機械類の資本装備率はレベルとしては低いが,その上昇に伴つて輸出比率を高めており,これは労働から資本への代替のほかに,技術の向上等の要素も含まれていることを示している( 第II-1-33図 )。

また,エネルギーについては,エネルギー消費額の大きい業種が輸出に占めるウエイトを高め,小さい業種のウエイトが低下している。これは,エネルギー価格が相対的に低下していることも影響している。ただし,機械類は例外でエネルギー消費額が小さいにもかかわらず,輸出構成比を高めている。(第II-1-34図)

汚染物質のうち,SO2はエネルギー消費との関連が深いため,エネルギーと同じ傾向を示している。エネルギー消費と公害発生の場合にみられる問題は,輸出が伸びるなかで,その単位当たりではエネルギー消費量,汚染物質発生量ともやや低下しているとはいえ原単位の大きい業種,つまりエネルギー多消費,公害多発型の業種,いいかえれば資源加工型の輸出が全体のなかで占める比重をさらに高めていることである。しかし,このような動向に関しては,エネルギー価格の高騰や公害防止コストの増大など,エネルギー多消費型,公害多発型の業種の成長を制約する条件が生じつつあることが注目される。