昭和49年

年次経済報告

成長経済を超えて

昭和49年8月9日

経済企画庁


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第1部 昭和48年度の日本経済

3. 国際収支悪化の背景

(1) 国際収支悪化の原因

48年度におけるわが国の国際収支大幅赤字の原因としては,需給要因,為替調整要因,特殊要因,原油価格高騰要因及び構造要因,の5つをあげることができる。

以下,順次これらの要因を検討してみよう。

a. 需給要因

まず,需給要因をみると,これには国内の需給要因と,海外の需給要因とがある。

このうち,海外要因は,先にみたような欧米諸国の景気の同時的拡大を通じ,一次産品価格の急騰をもたらし,わが国の輸入価格を上昇させた。反面,海外景気の上昇はわが国の輸出量を増大させる方向に働くものであつたが,この効果は,国内需給要因によつて打消された。

すなわち,前述のような景気過熱局面の展開は,48年度中を通じてみれば輸出量を減らし,輸入量を増加させた( 第I-3-2図 )。また,運賃支払いなどを中心に貿易外収支の赤字幅も拡大した。これには海上運賃の高騰,港湾経費,用船料の上昇など世界的なインフレーションが影響している(後掲 第1-3-6図 )。

b. 為替調整要因

次に,為替調整要因についてみよう,48年2月以後のフロート・アッブは,短期的にはわが国の輸出価格(外貨建)上昇を通じ,輸出額を増大させ貿易収支黒字幅を拡大する効果(交易条件効果)をもつた。しかし,46年12月の円切上げの長期的な数量効果が47年後半からあらわれ,これにフロート・アップによる実質円再切上げの数量効果が加わつた。これらが交易条件改善効果を上回つたため,為替調整要因も全体として国際収支赤字要因として作用した。

いま,輸入量増加率に占める加工製品の寄与度をみると,47年7~9月から急速に高まつている( 第I-3-3図 )。これは,原燃料などに比べて価格弾力性が高いためであり,繊維を中心に紙,アルミ,化学などにみられる製品輸入の急増傾向は,切上げ効果が国内需給のひつ迫によつて増幅されたためとみられる。一方,輸出についても商品内容に変化が起こつている。競争力が依然強いグループ,たとえば鉄銅,船舶,合繊(短織維糸)などは価格上昇を伴いながら輸出数量を伸ばし,競争力が弱くなつたグループ,たとえば軽工業品やテレビ・テープレコーダーなどは価格引上けができないだけでなく輸出数量増加も困難になつているという異なつた動きを示している( 第I-3-4図 )。これは海外需給と国内の需給によつて増幅されているが基本的には為替調整の影響があらわれてきたためとみられる。

c. 特殊要因

さらに,48年度の場合さまざまの一時的,ないし特殊要因が国際収支赤字を拡大させる方向に働いた。まず,さきにみた一次産品のうちでも農産物については47年の異常気象による世界的な減産,ソ連の穀物の大量買付け等を契機として,国際価格は著しく高騰し,それだけわが国の貿易収支赤字を拡大する一要因となつた。

また,資本収支面では年度前半には変動相場制移行前に推進してきた外資流入規制,本邦資本流出促進などの黒字対策の影響や,リーズ・アンド・ラグズの反動等がかなりみられた。しかし,後半には為替政策の手直しが漸次強化され,リーズ・アンド・ラグズの反動も一巡した。たとえば,長期資本収支と誤差脱漏の流出超をみると,48年4~6月から49年1~3月へかけて,17億ドル強縮小している。また,為銀部門の負債もこの間に約40億ドル増加して,外貨準備の減少をかなり相殺している。

d. 原油価格急騰要因

0PEC(石油輸出国機構)が48年10月,12月の2度にわたつて原油価格を大幅に引上げたことにより,わが国の原油輸入額は49年1~3月から輸入量の減少にもかかわらず急増した( 第I-3-5図 )。わが国の原油CIF価格をみると,バーレル当たりで48年度上期の3.12ドルから49年5月には11.37ドルへと約3.7倍になつた。いま,現在価格で48年度並みに原油を輸入したとすると,48年度上期に比べて,年率で151億ドル余分に外貨を支払わなければならない状況になつている。こうした原油価格の急騰は世界的規模で影響を与え,石油消費国の国際収支は大きく悪化し,各国の国内物価は上昇テンポを高めた。

なお,原油価格引上けの輸入面への影響を国際的に比較してみると,貿易構造が先進国中最も典型的な垂直分業型をとつている日本が一番不利である。総輸入額に占める原油比率を石油危機前でみると,先進諸国が10%前後であるのに対し,日本は15%程度と高かつた。石油危機後,日本では原油価格高騰で30%前後の状態になつたから,わが国の外貨負担は国際的にみて最も大きくなるといえよう。

e. 構造要因

48年度の国際収支赤字は,また,わが国経済が新たな発展段階に達したことに基づく,いわば構造的な要因によつても拡大された。この要因は,上にみた原油価格引上げの影響と並び,今後とも,わが国の国際収支を考えるにあたつて前提とされなければならない。わが国の国際化は,企業の対外活動や人的な国際交流の活発化にあらわれ,国際収支に影響を及ぼしている。貿易外収支では,貿易付帯経費(「その他」項目)や旅行の支払増加となつてあらわれている( 第I-3-6図 )。長期資本収支では,本邦資本の純流出額が急増している。その内容をみると,従来伸びの高かつた延払信用が鈍化して,直接投資,証券投資が仲びを高めており,経済協力の借款供与も増加している( 第I-3-7図 )。このうち,対外直接投資の増加は,対外債権残高を大きくして今後の投資収益の受取りを高めると共に,開発輸入や投資財輸出の形で貿易面に影響を及ぼし,わが国国際収支の構造を変えていくインパクトになると思われる。