昭和48年

年次経済報告

インフレなき福祉をめざして

昭和48年8月10日

経済企画庁


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昭和48年度年次経済報告(経済白書)公表にあたつて

本日,「昭和48年度年次経済報告(経済白書)」を閣議に報告いたしました。

本年度の年次経済報告は戦後第27回目を迎えますが,この白書は,「インフレなき福祉をめざして」という副題の下に,福祉経済への門出の年に生じた物価問題を検討して,物価安定の方途を見定めるとともに,今後の福祉経済のあり方について述べています。

白書の公表にあたり,私は,とくに次の諸点を強調いたしたいと存じます。

1.((物価上昇の背景))最近の物価上昇は,需要超過が基本的要因でありますが,さらに,世界的インフレーションにもとづく海外要因や環境問題の深刻化にともなう供給面の制約,完全雇用経済への移行による労働需給のひつ迫などの国内要因が加わつて,複合的な性格を帯びています。また,需要面においても福祉経済への転換にともない,個人消費・民間住宅投資・財政支出の比重が高まつてまいりますが,これは物価が上昇し易い需要構造へ変わることを示唆しております。

2.((物価対策の展開))活力と真の豊かさに満ちた福祉社会の建設にとつて,物価の安定は基本的な条件であります。日本経済はいま,そうした新しい経済へ至る生みの悩みを味わつておりますが,英知を集め,また国際協調への努力を強めて,総需要抑制を基本とする多面的な物価対策を強力に展開しなければならないときであると,信じております。

3.((福祉経済における政策運営))現在の日本経済は,完全雇用経済の下で福祉経済の新しい均衡をめざす道程にあります。当面の物価対策とともに,それをこえたより長期的な視野に立つた経済運営が必要であります。総需要管理政策の多様化と機動性を高めるようさらに努力を重ねるとともに,所得分配の公平化や公私間における資源配分のバランス,さらには環境の保全などに対する長期的な課題が計画性をもつた経済運営を通じて実現されるよう努める必要があります。

4.((世界のなかの日本経済))わが国経済の国際化は,世界における日本の地位の飛躍的向上によつて新しい時代を迎えております。懸案の対外均衡も実現の方向へ進んでおり,日本経済に対する国際的な理解も深まりつつあります。こうしたなかで,流動する国際経済におけるわが国の使命をさぐり,また,世界的なインフレ防止のために積極的な国際協力を進めなければならないと存じます。

さらに,深刻化しつつある環境問題や新しく登場した資源・食糧問題を解決していく場合にも,国際協調の視野に立つて,経済構造を新しく創造していくことが必要と考えます。

日本経済の現状と問題点についての白書の指摘が,国民各位の建設的批判を通じて,福祉経済の新しい前進に貢献することができれば幸いであります。

昭和48年8月10日

小坂 善太郎

経済企画庁長官


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