昭和47年

年次経済報告

新しい福祉社会の建設

昭和47年8月1日

経済企画庁


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第1章 昭和46年度経済の動向

4. 景気の現局面

日本経済はいま景気回復の歩を固めつつあり,次章でみるように国際収支の黒字幅もやや縮小の方向にある。

鉱工業生産は46年11月以来5ヵ月連続して増加したあと,4月には反動減を示したが,5月にはふたたび増加となつた。出荷は生産を上回るテンポで増加をつづけ,生産者製品在庫率も大きく低下している。生産・出荷が増加するなかで製品在庫率が低下するのは景気回復期にはこれまでにもみられた特徴である。

最近の需要動向をみると,積極的な財政政策が展開されるなかで公共投資等財政支出の高い伸びが続き,金融緩和のもとで住宅投資や中小企業設備投資も持直しから回復に向かつている。所得の伸び悩みにつれて鈍化していた個人消費支出も46年末頃を境に持直し,春季賃金交渉で生産性に比べ高めの賃上げが実現した頃からは耐久消費財をふくめて消費の基調が上向いてきている。

こうした反面では,46年夏まで急増をみせた輸出は円切上げ後,量的にはほぼ横ばいとなつており,最近の輸出成約も伸び悩んでいる。また,鉄銅,化学といつた生産財や対米輸出規制の影響が大きい合繊などはいぜん減産体制を解くにいたつておらず,これら主要業種での大幅な需給ギャップの残存は大型設備投資の回復が遅れることを示唆している。

また,円切り上げ後も国際通貨情勢は不安定な動きが続いている。各国とも為替市場の安定に努めているが,6月にはイギリスが変動相場制に移行するなどの事態もみられる。

このようにわが国の景気は従来ほど急速ではないにせよ,最近は回復に堅調さが加わりつつある。この回復の過程で成長パターンを転換し,福祉の充実をいつそう進めるためには新しい構想に基づく経済政策を積極的に展開する必要がある。そのことは,流動的な国際経済情勢に対処しつつ内外均衡を達成するための道でもある。


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