昭和46年

年次経済報告

内外均衡達成への道

昭和46年7月30日

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

第2部 経済成長25年の成果と課題

第4章 都市化社会の現代的課題

1. 都市化の急速な進展とその特徴

(1) 急速な人口の都市移動

わが国の経済社会は,非常に急速な都市化の進展途上にある。

(人口の都市集中)

これを最も直接的に示しているのは,人口の社会的移動の指標である。戦前の昭和10年の都市の数は日本全体で125にすぎず,都市人口も2,300万人で,総人口の33%であつた。それが現在(昭和45年)では,総人口の実に72%にあたる7,500万人もの巨大人口が579の都市に集中するにいたつている。そして,現在の都市地域面積の国土全体に占める割合も25%と,戦前の2%に比べ飛躍的な拡大を示している( 第125表 )。これには,市町村合併による都市地域拡大の影響がかなり加わつているが,これを調整して考えても,人口の都市への大量移動は著しい。最近の10年間(昭和35~45年)の人口の社会的動態をみると,総数で約1,000万人の人口増加のうち,人口の都市集中と行政区画の変化によつて,都市人口が1,500万人(26%増)もふえているのに対して,都市以外の郡部人口は500万人(15%減)の減少となつている。すなわち,現在の京都市の人口に相当する規模で,年々の都市人口増大が進行している勘定になるわけである。

およそ,経済発展とともに都市化が進展するのは,どの先進国社会にも共通した現象である。それにしても,わが国人口の都市集中テンポは他の先進国に比べ著しく速く,現在の都市人口比率はすでに世界でも有数の高さになつてきた( 第126図 )。

(都市人口の若さとその裏面)

こうした都市化現象の進展のなかで,わが国の都市人口について特徴的なことは,その年令構成がきわめて若いことである。たとえば,10~29才の若年人口が都市人口に占める割合をみると,東京,大阪はそれぞれ39%および43%となつており,これをロンドンの28%,ニューヨークの26%,ローマの30%,モスクワの33%に比較しても非常に高い( 第127表 )。このように,わが国の都市人口の年令構成が若いことは,都市化現象の多くの部分が若年層の労働力移動によるものであつたためで,それだけに現在のわが国の都市社会が若い活力をもつたきわめて流動性の高い時代にあることを示している。わが国の都市社会が流動的であることは,たとえば東京,大阪に20年以上継続して住んでいる世帯人口はいずれもわずか30程度にすぎないことにも反映されている。

しかし,都市社会が全体として若い反面,都市住民の社会的連帯感や安定感が相対的に乏しくなる傾向をもつこと,若年労働力の大量な都市移動と対照的な関係で農村社会の老令化が進んでいること,などにも留意する必要がある。

たとえば,農林業就業者の年令構成をみると,40才以上の中高年令層が63%を占め,15~29才の若い世代は14%を占めるにすぎない。これは都市生活者の大部分を占める非農林業就業者の40%が15~29才の若い世代で占められている(40才以上は35%)ことときわ立つた対照をなしている( 第128表 )。

(2) 最近の都市発展のパターン

以上のように,現在のわが国の都市化の動きは急速かつダイナミックである。しかし,すべての都市の人口が一様に増大しているわけではない。この10年間に,全国平均を上回る人口の増大を示したのは,全国579都市中の234都市であつて,これを都市の機能的性格とあわせて地域分布をみると 第129表 の通りである。

とくに,昭和40年代にはいつてからの都市発展にはつぎのような特徴が顕著である。

第1は,大都市圏が拡大し,その圏内の都市が行政区画をこえて相互連携的な発展を示していることである。東京,大阪,名古屋などの周辺では住宅都市としての人口急増都市が数多くみられる一方,東京都区部,大阪市では居住人口がそれぞれ昭和43年,41年をピークに減少に転じ,オフィス地域,商業地域としての性格を強めている。

第2は,地方都市の発展である。とくに,地方の拠点都市である札幌,仙台,広島,福岡などでは,それらの都市自体で高い人口増加がみられるとともに,周辺市町村にいくつかのベッドタウンが形成され,しだいに都市領域が広域化しながら発展している。地方都市の発展には,それぞれの地方の拠点都市としての中枢機能が高まつていること,国内航空等交通機関の発達により都市間の時間距離が短縮されたこと,工業立地が分散されたことなどが影響している。

第3に,農業や炭鉱への依存度の強かつた地域の都市の人口が減小し,第一次産業の停滞と衰退がその地域の市町村に影響していることである。

さらに,こうした都市の発展がみられる一方,人口の減少などによつて農村地域の変ぼうも一段と加速化されていることにも留意しなければならない。

(3) 都市化と経済成長,物価上昇

以上にみたような都市化の進展は速い経済成長によつてもたらされたものであるが,他方こうした都市化の進展は,わが国の経済成長の姿にも大きな影響をあたえている。

(都市建設投資の増大)

その第1は,都市化社会に対応する投資活動が総需要の高い伸びをささえていることであろう。

公共部門による行政投資の実績をみると,都市化の進展に対応した住宅,環境衛生,厚生施設,文教施設など生活基盤公共投資が高い増加を示している( 第130表 )。とくに人口の都市集中が著しい関東,近畿,東海の3大都市圏での投資が高い伸びとなつており,行政投資総額に占める割合も高まつている。また,都市圏が拡大し,都市と都市との結びつきが緊密化する背景として交通・通信ネットワーク(新幹線,高速道路,自動即時通話等)の形成が進展している。交通網の発展につれて都市間時間距離(所要時間)は著しく短縮されているが,都市間の交通量は,時間距離が短縮されるとそれ以上の割合で増加する関係があり( 付表12 参照),交通革新と都市の連合的発展とが相互に依存しあつて展開していることがわかる。

民間部門の都市化に対応する投資活動のなかで最も目立つのは,都市内におけるオフィス・商業用のビル建設である。建築着工統計によると,鉄骨および鉄筋コンクリート建築物の着工床面積は40年から45年の間に20倍の増加を示しているが,そのうち都市部での着工は約87%に及んでいる。また,人口の都市移動によつて生じる住宅需要の増加に対応して,都市での住宅建設も高い伸びを示しており,昭和45年に着工された住宅数160万戸のうち83%は都市内における着工である( 第131表 )。

都市化の進展による需要構造の変化によつて,建築ばかりでなく新たな工業投資需要も誘発されている。たとえば,都市における電力需要は鉄道,ビル冷房などを中心に高い伸びをつづけており,しかも需要時間が集中する傾向がある。こうした状況を反映して,近年電力業の電源開発,送配電のための投資は全国的に高い増勢を示している。

このような都市化にともなう需要の増大は,日本経済に今後とも大きな需要要因が潜在していることを示している。

すでに高い増勢を示している分野での建設投資に加え,今後は新たな技術革新をともなつた総合交通体系,流通体系の確立などのための投資増大が期待されている。30年代の技術革新が製造業を中心とするものであつたのに対し,40年代の技術革新は生産,交通,通信,建設等の各分野にまたがる都市創造の大規模プロジェクトの展開という姿をとろうとしているのである。

(都市化による物価上昇)

都市化か経済にあたえる影響の第2として,消費者物価の上昇が加速されることが指摘できよう。

まず,都市化の進展にともなつて,都市市街地,郊外住宅地の地価が上昇し,住居費が高い上昇を示している。都市化の進展は,土地需要の地域的集中を著しいものにし,過疎地域における田畑,山地が値下がりするなかで,都市周辺宅地の著しい上昇をもたらしている。また,のちにくわしくみるように都市化の進展による都市近郊農地のかい廃によつて野菜供給地が遠隔化すること,あるいは近海の汚染や埋立てによつて漁獲量が低下することなども,都市化にともなう物価上昇の要因となる。大都市と地方では物価水準に約1割の格差がある。また最近人口増加の著しい中都市では,同じく食料費,住居費の値上がりが他地域よりも高い( 第132表 )。

こうした都市の物価高は都市化の進展と表現して全国的に波及しているのである。また,直接に統計にはあらわれていないが,都市内交通の渋滞が,流通効率を低め,経費上昇をまねき,消費者物価上昇の一因となつていることもいなめないであろう。

都市においては,大量消費を背景に量販組織の充実などによつて物価面においても規模の利益がもたらされる機会があり,したがつて都市化が常に物価上昇を促進するものとは限らない。しかしわが国の場合は,都市への人口集中のスピードがなんといつても速やすぎることや,それへの対処が遅れてきたことから,都市化による地価や消費者物価の上昇が生じた面もあるといえよう。