昭和45年

年次経済報告

日本経済の新しい次元

昭和45年7月17日

経済企画庁


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6. 農林水産業

(1) 農  業

(一) 減少した農業生産,上昇した農産物価格

44年度の農業は,「米の問題」を中心に揺れ動き,生産,価格および需要の面でも従来とはかなり異つた様相を示した。

第6-1表 農業生産の推移

44年の農業生産は,前年比1.3%の減少となつた。( 第6-1表 )農業生産の水準が前年を下回るのは,麦が不作だつた38年以来6年ぶりのことである。また,畜産をのぞくすべての部門で減産ということがとくに注目される。これに対して農産物価格は,米価据え置きのなかで前年比7.0%とかなり高い上昇を示し,とくに野菜,果実の価格が大幅に高騰した。( 第6-2表 )

44年の農業生産と農産物価格についての特徴的な動向は,次のとおりである。第1は,米の減産および米価の据え置きである。44年産米の収穫量は,1,400万トンで前年比約45万トンの減少(前年比△3.1%)となつた。これは水稲作付面積は僅かに増加したが,天候不順の影響による北海道,東北の作柄不良などもあり,10アール当たり収量が低下したことによる。減産とはいえ,1,400万トン台の高い生産水準であり,史上第3番目の,3年連続の豊作であつた。開田抑制,約1万ヘクタールの作付転換なども行なわれたが,需要をはるかに上回るこの米の生産は,過剰在庫をさらに累積させることになつた。政府買入価格は,36年~42年までは年率9%を上回る上昇を続けてきたが,44年はこの過剰を背景とした需給事情を考慮し,ほぼ10年ぶりの据え置きとなつた。44年は作付転換,自主流通米の創設,45年に入つては生産調整,再度の米価据え置きおよび等級間格差の拡大などの措置がとられた。これらは,米に係る政策が大きく変化しつつあることを示すものである。

第6-2表 農産物生産者価格の推移

第2は野菜,果実の生産減と急激な価格上昇である。野菜は,作付面積の減少(2.0%減)および天候不順などにより,前年比2.2%の生産減となつた。野菜とくに露地野菜に気象条件の変化が敏感に反映されるが,44年は天候が全般的に不順であつたため,各季野菜ともに作柄はあまり良くなく,また前年の野菜価格の暴落がある程度作付意欲を減じたこともあり,40年以降初めての減産となつた。

果実は,主力となるみかん,りんごの収穫減により,前年比8.3%減少した。みかんは成園面積では増加(11%増)しているが,裏年的要素に加え結果期の干ばつなどの影響により,大豊作だつた前年に比べ,13%の減少となつた。りんごも,天候不順や品種更新による結果樹面積の減少なども加わつて,前年比4%の収穫減となつた。

生産減の野菜,果実は,各々35.9%,43.8%と例年にない大幅な価格上昇となつた。農産物価格(総合)の上昇7.0%に対する寄与率は,両者で78%をも占めている。とくに野菜は,隔年ごとに増産,減産による価格変動が激しい消費者物価の変動要因となつている。今後の野菜生産は,技術の進歩および生産基盤の整備などにより,安定供給が強く望まれている。第3は,畜産物の生産が増加したことである。他の部門の生産が減少したなかで,畜産物は豚の生産の回復もあり,前年比13.4%増と過去5ケ年の伸び率(7.5%)をも上回る高い伸びであつた。これは,需要の増大および生産における飼養規模の拡大などに支えられたものである。一方,牛乳の生産は,搾乳牛飼養頭数の増加により,前年比12.3%増となつたが,飲用牛乳の消費需要の伸びが鈍化しているため,乳製品の在庫を増大させている。こうした傾向をうけて,畜産物の価格は,全般的な供給増加により,前年比わずかに(△0.4%)低下した。畜産物価格は品目によつてかなり様相を異にしている。たとえば,牛乳は加工原料乳の保証価格の引き上げなどにより若干上昇したが,ブロイラーは大幅に下落し,また豚肉は下期における生産回復,輸入物の出回りにより反落を示したのである。

以上のように,農業生産が減少したなかで,米の過剰や畜産物の需要緩和がみられたが,野菜,果実が減産により価格高騰するなど,需給関係は多様な動きを見せたことが44年の農業生産において特徴的であつたといえよう。

(二) 増加した農産物輸入

昭和44年の農産物輸入(農林省分類)は,26億9,500万ドル(約9,700億円),対前年比12.0%増である。( 第6-3表 )ここ2年の伸びに比べると,かなり大幅な増加であるが,総輸入額(150億ドル)に占める割合は17.9%で前年より低下している。

第6-3表 農産物の輸入

米および乳製品の一部(脱脂粉乳,バターなど)をのぞくほとんどの品目で輸入増となつているが,その主な要因の第1は,小麦および粗糖の増大である。前年減少していた小麦輸入が44年に入りかなり増加し,粗糖も需要増により数量で8.8%,金額では国際糖価の高騰もあり35.6%の増加となつた。

第2は国内需要が堅調で供給不足気味であつた肉類の輸入増加である。なかでも加工用向けの馬肉,羊肉の著しい増加,また年度前半における国内価格の高騰にともなう豚肉の緊急輸入である。第3は,畜産の拡大にともなう飼料用穀類の引き続く増大である。第4は,食生活の多様化,高級化に伴なう需要増である。コーヒー,カカオなどのし好品,バナナなどがその例である。

こうした農産物輸入の拡大にもかかわらず,内外からの輸入自由化や関税引き下げを求める要請は,農産物の国際的需給緩和を背景に一段と強まつたことも本年の特徴である。わが国の残存輸入制限品目数は98(45年6月現在)であるが,そのうち農林省所管物資は63品目と過半を占めている。今後,りんご,ぶどう,グレープフルーツなどわが国農産物とかなり関連の深いものの自由化が予想されており,自由化の進展に対応した新しい日本農業の展開がいそがれよう。

(三) 農家人口の減少基調変らず

農家世帯員の流出は依然として続いている。「農家就業動向調査」によれば,44年中の農家世帯員の異動は64万人の純減(年当初人口2,710万人に対し2.4%の減少)で,前年に比べ3万人多い純減である。( 第6-4表 )この世帯員減少の最も大きな社会的要因は,いうまでもなく他産業への就職流出である。他産業へ就職したものは,38年(93.8万人)をピークにここ2~3年減少したが,44年は79.6万人で前年比9千人増となつている。この就職流出の特徴的なことは,一つは新規学卒者が前年に引続き減少したことであり,前年の54万人から51万人へと3万人の減少したことである。新卒者の流出が減つたのは,学卒者数が前年の129.7万人から44年3月は121.7万人に減少したことと,進学率が高まつたことによる。農業への就業者は,前年の6.1万人から4.8万人に減り,就農率は前年の9.7%から8.4%へと低下した。第二の特徴は「就職前に農業が主」であつた世帯員がこれまでの減少傾向から増加に転じたことである。前年の14万人から17万人へと3万人増加した。

第6-4表 農家世帯員の他産業への就職者数および出かせぎ者数

第3は,「20才~34才」,「35才以上」の層で増加がみられたことである。年令別構成比でみると,「19才以下」の層が40年の71.5%から44年の67.2%に低下したのに対し「20才~34才」の層は18.2%から19.5%「35才以上」の層は10.3%から13.4%へと上昇している。

第4は,在宅通勤がさらに増大したことである。在宅通勤は前年の57.1%から58.9%へとそのウエイトを増している。

さらに,出かせぎ者がさらに増えたことも特徴的であつた。出かせぎ者は,38年をピーク(30万人)としてその後は23万人前後を推移してきたが,前年比4万人増の28万人となつた。内容的には東北,北陸の出身者が70%を占め地域的集中を見せていること,また「35才以上」が66%を占めるなど,中高年令層のウエイトが高いことが注目される。

以上のように,農家世帯員の流出は依然として続いているが,労働力供給源としてはその余力を相対的に縮少してきている。しかし,労働力不足の中での非農業部門からの強い吸引力もあるし,農業技術の進歩,さらには所得格差もあるので,この流出傾向はいぜんとして続くであろう。

(四) 農家所得の伸び鈍る

農家経済をめぐる環境は,以上のように従来とかなり異なつた動きを示した。そのため44年度農家経済動向も必然的にいままでとは違つた様相を示すことになつた。その特徴的なことの第1は農業所得が対前年度比1.2%減少したことで,これはここ10数年なかつたことである。この大きな原因は野菜,畜産等の収入増にもかかわらず,米の価格据置き,生産減等によつて農業収入の伸びがわずかに前年度比4.3%の増に止まつたことと,一方,農業経営費が飼料,農薬等を中心に前年度比11.6%も増加したことによる。( 第6-5表 )

第6-5表 農家経済の主要指標

第2は,農外所得が前年度比14.7%増加したことである。これは非農業部門の活発な産業活動を反映して,雇用機会が増加したことと,賃金の上昇したことが大きく影響した。前述の在宅通勤者が前年度により相当ふえたことと見合うものである。

この結果,農家所得は前年度比7.3%の増加となつた。42年度までの10%を超える増加に較べると著しい伸びの鈍化である。農家所得の中における農業所得の比重は,前年度の46.8%からさらに43.1%に低下した。農家の兼業化の進展を物語つている。

第3は,農家所得の伸びの鈍化にもかかわらず家計費支出の増勢が依然としてつづいていることである。家計費支出は前年度比11%増と前年の伸び率とほとんど変わつていない。自動車,耐久消費財の購入増は依然とつづいているとみられ,また副食費の増加がありながらもエンゲル係数は低下するなど,生活内容の高度化は引き続き進んでいる。

農家所得の伸び以上の消費の伸びは必然的に消費性向を従来になく高めることとなつた。43年度の83.5%に対し44年度は85.8%である。こうした消費の高まりは①都市世帯との格差が急速に縮少しながらも依然としてあること,②生活の都市化,平準化が進んでいること,③消費パターンは早急に変えられない性質のものである等のことがあるからである。

農家の経済は,まさに米によつて揺れ,農業所得の減少を農外所得によつて歯止めしたという状態である。こうした下での消費の高まりは一方で貯蓄率の低下を招くことになる。

全国農協貯金が44年末で対前年同期比20%余もふえたのは,農協系統貯蓄運動の影響と都市近郊における土地売却代金の流入等によつたもので,農家全体としたならば貯蓄の増加率はかなり低下したとみなければならないだろう。農家経済も米の過剰を契機に困難な時期に入つたとみられぬでもない。

(五) 米の過剰問題

44年の農業および農政は,米価の据え置き,自主流通米制度の発足,米の生産調整などにもみられるように米の問題を中心に大きなうねりが生じはじめた。いわゆる「総合農政」の登場は,米の過剰生産を契機としているが,また,経済の高度成長のなかで国民経済の立場からも農政の転換を迫る底流があることによる。それは国際化の中で通用する農業を目指し,効率化を強力に推進するためのものである。米の在庫累積の原因は,42年度以降1,400万トン前後に達する生産力水準の飛躍的上昇に対して,消費は38年をピークに減少を続け1,250万トン程度に減退したことによる。政府古米在庫は,44年10月末550万トンに及び,さらに45年10月末には約800万トンにいたると見込まれている。食管赤字も,44年度は3,564億円と39年度の約3倍になり,農林関係予算に占める割合は約4割にも達している。( 第6-6図 )

第6-6図 米の過剰と所得

この過剰のもとで,すでにいくつかの対策がとられていた。稲作の作付転換,自主流通米の創設などがそれである。また44年産米の政府買入価格も以上の需給事情を反映し据え置かれた。

作付転換対策は,一定規模の集団による転換に対して転換奨励金を交付するなど約1万ヘクタールを目標としたが,転換作目の困難もあつて当初予定の約半分5,300ヘクタールにとどまつた。

自主流通米の創設は,政府を経由しない流通ルートをひらき,消費者の選好に対応した良質米の生産の増大などに資するものとして期待された。しかし,政府米の価格体系が逆さや関係にあることなどのため,170万トンの当初流通計画は予定どおり進んでいない。

このように米過剰に係る諸施策がとられたが,なお深刻化する米の過剰に対し緊急に需給の均衡を図るため,45年産米について150万トンの生産調整が実施されることとなつた。そのうち100万トンは転作および休耕,50万トンは水田転用によつて減産するものである。

45年産米の政府買入価格は,前年に続いて再度据え置きとなつた。このように米をめぐる諸施策には大きな変化がみられる。また,米価引き上げを中心に,農家所得の向上を第一義的な目標としてきた基本法農政以降の農産物価格政策は,ここにおいて大きな壁に直面し,変容を迫られているのである。一方こうした中,その他一,二の農産物に需給緩和が見られたり,また,所得格差および経済の国際化に伴なう農産物輸入の自由化など様々な問題が山積されている。

すでに見たように,米価の据え置き,生産調整などは,農家経済にかなりの影響を与えている。過剰の対策をすすめながら,しかも一方で農家の所得増大もはかり,他産業従事者との生活水準の均衡を進めていくには,従来の零細経営では困難になつてきている。すでに大規模生産に適応する技術もかなりの程度に開発整備されており,この進んだ技術に対応した形で生産規模を拡大する方向が強く望まれよう。そうした意味で,総合農政の強力な展開が期待されている。

(2) 林  業

(一) 木材需要

昭和44年の用材需要は95,570千立方メートルとなり前年にくらべ数量で3,764千立方メートル伸び率で4.1%増加した。

これは,金融引締措置がとられたにもかかわらず44年における民間企業の設備投資(実質)が21.5%,民間住宅投資(実質)が17.2%,パルプ生産量が12.0%とそれぞれ大きな伸びを示す等木材需要基盤の拡大によるものである。

用途別にみるとパルプ用,合板用の伸び率にくらべ製材用の伸びが大きく鈍化したことが注目される。さらに製材用について内訳をみると,その大部分を占める建築用は引続き増加しているもののその伸び率は年々低下しており,土木建設用,こん包用,家具用,造船・車量用等は停滞している。これらの需要動向からみて建築用,建設用には合板が普及し,こん包用は紙パルプ製品に傾く等,木材は製材としてではなく加工品として利用される方向にあることが理解される。

第6-7表 木材需要の推移

供給面では国産材による供給が前年同様前年比4.4%の減少を示したのに対し,外材による供給は13.8%増加している。その結果自給率は49%となり,初めて輸入材が50%を越えることとなつた。

国産材の減少は主として戦前戦後の造林停滞期の影響で資源的制約があること,林道開設のおくれ,労働力不足,経営規模の零細性等によるものと考えられるが,外材の著しい進出もその一因とみることができる。

第6-8図 木材の需要と価格 (対前年比の推移)

一方,輸入材についてみると木材チップが25.7%,素材が15.8%の高い伸び率をみせている。しかし輸入素材のうち大きなウエイトを占めているラワン材については年々材質が低下し,更に最近急速に発展した台湾,韓国の合板産業との競合により原木確保が困難になつてきている。

(二) 木材価格の動向

44年の木材同製品価格は2月に上昇し,4月から6月にかけて下落を示した後7月から再び上昇し,45年3月まで対前月比平均0.7%程度の上昇を続けており,年度を通じてみると前年度に対し3.0%上昇した。これは42,43年度の対前年度上昇率10.3%,5.2%にくらべるとかなり鈍化している。

これを品目別にみると,労賃コストの上昇を反映して木製品は大幅に上昇したが,輸入素材・製材・加工木材は微騰し,国産素材はほぼ横這いとなつた。とくにスギ丸太については40年度以降初めて値下りしている。

このように年度平均価格が比較的落着いた動向を示しているのは国産材生産の停滞にもかかわらず,主として外材輸入の増大によつて在荷圧力の傾向があつたためとみることができる。

第6-9表 木材同製品価格の推移

また年度内の価格の変動は主として季節的要因によるものであるが,年度後半における上昇傾向は米材産地の港湾スト等の影響で一時的に需給が遍迫したことによる価格の上昇と,台湾・韓国との産地における原木確保の競合による原木価格の上昇およびこれに伴う製品価格の上昇等によるものと考えられる。

このように木材・同製品価格は国産材が主体であつた従来とは異なり,外材価格の動向に強く影響をうけるようになつてきたと考えられる。

第6-10図 主な素材価格の年推移

(三) 林業の主な課題

戦前戦後の造林不足,林道開設のおくれ,労働力不足等が主な原因となつて現在の国内生産は停滞しており,このような状況において増大する木材需要に応えるためには国内生産対策の強化に努めるとともに,外材の増加に対処して輸入の円滑化を図る必要がある。

第6-11図 主な素材価格の推移

このため,生産期間の長い産業である林業としては森林計画制度の推進,低質広葉樹の利用促進,造林事業の推進,林道網の拡充,労働力の確保等国内生産を高めるための諸施策を長期にわたつて講ずることが最も重要である。

第6-12図 主な製材・加工木材・木製品価格の推移

また国土の保全および国民の保健体養等森林の公益的機能に対する要請が高まつているので,生産を確保するための施策との調整を図りながらこれらの要請に応えていく必要がある。

さらに木材流通面においては,国内生産の現状と外材の取引上の優位性等によつて外材シエアがますます拡大しているので開発輸入の促進,港湾設備等の受入れ体制の整備等の施策が必要である。

(3) 水産業

(一) 漁業生産の動向

わが国の漁業生産量(鯨を除く)は,40年以降年々増大し,43年には史上最高の867万トンを記録したが,44年においては861万トンと前年並みにとどまつた。漁業生産量を部門別にみると生産量の大部分をしめる海面漁業は798万トンで前年とほぼ同じてあるが,その内訳をみると,43年を上回つたのは遠洋漁業だけであり,沖合漁業,沿岸漁業はそれぞれ前年にくらべ3%,12%の減少である。

遠洋漁業の増加(対前年比11%増)は,すけそうだら資源の開発によつて急速に発展した北洋底びき網漁業の引き続く漁獲増によるものである。沖合漁業の減少はいか釣り漁業の全国的な不漁,さんま棒受け網漁業の極端な不漁(44年の漁獲量は5万トンであるが,これは対前年比60%減であり,最高漁獲年である33年の10分の1にすぎない。)に基因している。

沿岸漁業の減少は埋立水質汚濁等による漁湯環境の悪化を反映しているといえよう。

浅海養殖業の生産量は47万トンで前年より9%減少したが,これはのり養殖業が44年1~3月において寒波による芽いたみ等の被害が大きく,44年10~12月の豊作にもかかわらず全体として減少したこと,かき養殖業の生産地である広島県における有害生物の異常繁殖等による減産の影響である。

第6-13表 漁業生産量の推移

捕鯨業については,ひげ鯨の捕獲頭数は年々規制が強化され,しろながす換算では2,510頭と前年より6%の減少,実捕獲頭数でも17,394頭と19%の減少となつた。

つぎに,漁業経営体の動向をみると,44年の漁業経営体数(漁船非使用を除く)は232.2千で全体としては近年ほぼ横ばいの傾向にある。

漁業経営体を階層別に39年と対比してみると,沿岸漁業では総数に大きな変動はないが,無動力船層は62%減,定置,地びき網経営体が17%減少した反面,漁船の動力化が一層進行し,動力船階層はとくに小型船を主体に19.6%増加し,また,わかめ養殖業の急激な増加を反映して浅海養殖経営体が,13.2%増加している。中小漁業,大規模漁業では沿岸漁業の漁船の大型化による繰上り等により8.7千経営体から9.6千経営体と10.3%の増加となつている。

また,44年の漁業就業者数(海上作業従事日数が年間30日以上の漁業就業者)は56万3千人となり,39年と比較すると8.1%の減少である。

(二) 水産物輸出入の動向

44年の水産物貿易の特徴は,輸出の停滞と輸入の大幅な増加である。

輸出については近年その伸びが低滞しているが,その原因としては国内需要の増大による輸出原料の確保難,国際規制の強化,発展途上国との漁場,輸出市場等における国際的な競合等があげられるが,44年の水産物輸出の内容をみると大きなウエイトを占める水産かん詰めは,さけますが減少したが,まぐろ,さばの増加によつて対前年比4%の減少にとどまつた。

生鮮,冷凍水産物は他の魚種の輸出増加にもかかわらず,まぐろ類の減少(対前年比43%減)により総額で5%の減少となつた。まぐろの輸出減少はわが国のまぐろ漁獲量が減少傾向にあるうえ,冷凍技術の進歩により生食用の国内価格が堅調であるため,供給が国内向けに傾斜していることによつている。

水産油脂については,国際価格の上昇により輸出が伸びている。

真珠は海外業者の買控えにより米国を始め主要国への輸出の低迷が続いたが,44年になりやや回復のきざしがみえはじめた。

第6-14表 水産物輸出入の推移

一方,水産物の輸入は年々急増しており,とくに中高級魚介類を中心とする生鮮冷凍水産物の増加(前年対比49%増)はいちじるしい。

なかでも43年に在庫調整のため減少したえびは44年に大幅な増加に転じ,全水産物輸入にしめる割合も47%に達し,国内で消費するえびの4割強が外国産えびに依存している。

まぐろ類も毎年増加しており,(前年対比29%増)また,さけますは数量としては8,000トン台であるが,前年にくらべ5倍と急増している。

輸入に大きなウエイトをしめるミールは,国際価格の高騰からとくにペルー産ミールを買控えた結果,前年にくらべ減少した。

今後水産物の輸入は国内需要の高度化,多様化に伴い,さらに増加することが見込まれるが,わか国の水産物需要は多種多様であるにもかかわらず,えび,まぐる等一部の水産物を除けば供給国が限られており,しかもこれらの国々とわが国とは漁場において競合する現状,さらに,世界的に水産物需要が増大傾向にあることを考慮すれば需要に見合つた中高級魚の大幅な輸入増加を期待するのは困難であろう。

(三) 水産物価格の動向

水産物の生産地価格指数は,前年より17.9%上昇し,昭和30年代以降最高の伸びを示した。このような生産地市場価格の高騰は,労賃等生産コストの上昇にもよるが,基本的には,さば,すけとうだら等一部魚種を除いて漁獲が減少あるいは停滞したことによるものであり,とくに,さんま,いか,あじ,まいわしの不漁による価格の高騰が価格指数の上昇に大きく寄与している。

まぐろ類,さけ,ます類等の中高級魚も需要の伸びにくらべ生産が停滞しているため,前年を上廻る価格上昇を示した。

第6-15図 生産地市場価格指数の推移

底ものは40年以降すけとうだらの増産による価格低下が価格上昇基調を弱めていたが,44年はすけとうだらの増産にもかかわらず,ねり製品原料としてのすり身需要の増加,水揚げピーク期間の分散等により,すけとうだら価格が42年の水準に回復したため,ぐち,えそ等以西底びきものの価格指数は前年より下廻つたものの底もの全体の価格指数を高める結果となつた。

その他魚類についても,生産の停滞を反映し高い価格上昇となつた。

つぎに,水産物の消費者価格は一般物価の根強い上昇傾向のなかにあつて上昇を続けており,生鮮食料品の消費者価格指数(全国)の対前年上昇率をくらべてみても,野菜5.8%,肉類5.3%,乳卵3.4%に対して生鮮魚介12.9%,塩干魚介8.6%(消費者物価総合の対前年上昇率5.2%を100とする寄与率としてみるならば,生鮮魚介8.4%,塩干魚介1.8%)と高い上昇を示している。

上昇率を品目別にみると,生産の停滞,需要の高度化を反映してまぐろ,さけ,たい,ぶり,ひらめ等中高級魚の上昇,不漁による供給不足とみられるさんま,いか,まいわしの高騰が目立つている。

反面,近年生産増加の著るしいさばは前年価格を下廻り,すけとうだらの増産は竹輪,かまぼこ等ねり製品の価格安定に寄与している。

(四) 水産業の課題-物価問題に関連して

すでにみてきたように43年に800万トン台の水準に達した漁業生産も魚種別にみれば,生産増加が著しいのはさば,すけとうだらのみであり,需要の強い中高級魚や,さんま,まいわし等かつて多獲性魚と呼ばれた魚の生産は伸びなやみ乃至は減少しており,これが需給不均衡の拡大をまねき,消費者物価の上昇を著しくしている。

ひるがえつて,わが国漁業を取りまく漁業環境についてみると,沿岸においては高度成長による工業化,都市化の進展により,埋立,水質汚濁,遊魚の活発化等,他産業や国民のリクリエーション活動との競合がいちじるしくなつており,沖合においては近隣諸国の進出が目ざましく,遠洋においても水産資源に対する関係国の関心の高まりを反映して国際規制が強化されつつある。

このようなきびしい漁業環境のもとで,増大する需要に対応し,安定した価格で水産物の供給を図るためには,基本的には生産対策を強力に進める必要があり,エレクトロニクス,水産土木,大量種苗生産,省力等の新らしく開発されつつある技術を積極的に活用して,生産性の向上に努めるとともに,①新漁場,未利用資源の調査開発,②加工技術の開発と資源の高度利用の促進を図る必要がある。

また,沿岸漁場は中高級魚生産にとつてきわめて重要な漁場であるので,環境悪化要因との調整を図りつつ,沿岸適地において生産基盤を重点的に整備するとともに,養殖業の振興と種苗放流による大規模な資源増殖の可能性を生かした資源培養型漁業の確立が望まれる。

第6-16表 主要品目の消費者物価指数(全国)

さらに,高度化,多様化を伴つた堅調な需要に対応するためには,国内漁業の振興による供給の増大を図るとともに,あわせて輸入政策の積極的活用をも図る必要がある。この場介合,えび,まぐろ等国際商品は別としても,わが国の多種多様な水産物需要を満たすには各種の制約要因もあるが,例えば諸外国で利用度の低い魚介類についての輸入の可能性等について検討する必要があろう。

以上のべた施策を通じて需給の均衡に努めるとともに,流通面においても人口の都市集中による流通圏の広域化,水産物商品形態の多様化等に対応して,基幹的生産地市場における流通加工施設の整備,消費地市場の配置の適正化と施設の近代化におよび取引の合理化を促進する必要がある。


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