昭和45年

年次経済報告

日本経済の新しい次元

昭和45年7月17日

経済企画庁


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第2部 日本経済の新しい次元

序章 日本経済の現勢

3. 経済拡大と国土のアンバランス

日本経済を世界のなかでとらえた場合,いまひとつ象徴的に眼に映ずるのは,すでに自由世界第2位という巨大化した経済活動を上乗せしているわが国の国土が相対的にいかにも小さくなりつつある現実である。

現在の主要国の国土面積(低・平地)当たりの国民総生産の比率をみると,わが国はアメリカの10倍,イギリスの4倍,西ドイツの2倍と極度に高密度な状態を示している。同じく面積当たりの総投資額についても,アメリカの約20倍,イギリスの7倍,西ドイツの3倍と圧倒的な大きさである( 第81表 )。昭和45年度には2,000億ドルにも達しようとする巨大化した経済活動が,37万平方キロの総面積中のわずかに18%の利用可能地に上乗せされているのが今日の日本経済である。さらに,利用可能地中の8割を占める農地を差引いた残りのたつた1.1万平方キロの土地を住宅と工場,道路などがわけあい,ひしめきあつている。しかも土地利用の偏りもあって各国との比較においても大都市集中が顕著に進み,その大都市も太平洋ベルト地帯に集中している極度の過密経済である。こういつた過密性は,とくに都市集中に関連して現実に生活環境の悪化,公害の深刻化,地価の高騰など多くの社会問題を発生させることにもなつている。これまで日本経済の規模が小さく所得も低水準であつた時代には,島国の狭さが現在ほどの強い社会的テンション(緊張感)をもつて意識されなかつた。それは日本経済が貧しく,また公害の発生や社会的廃棄物も自然の浄化作用によつて解決されるという観念があり,それよりもまず物質的豊かさと速い成長を求める社会通念があつたからでもある。しかし,経済規模がいつそう巨大化への道を歩み昭和50年度には4,000億ドルの総生産規模にも達しようとする日本経済は狭い国土全体を有機的な経済空間,生活空間として高度に活用しうる条件をつくりあげ,環境を徹底的に整えなおすことを真剣に考慮すべき時期にある。

第82表 主要国における人口の都市集中指標


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