昭和45年

年次経済報告

日本経済の新しい次元

昭和45年7月17日

経済企画庁


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第2部 日本経済の新しい次元

序章 日本経済の現勢

1. 経済規模の拡大と国際的水準の高まり

昭和44年の国民総生産はほぼ60兆円,約1660億ドルに達し,最近4ヵ年にほぼ倍増した。この間の物価(GNPデフレーター)は約18%上昇し実質国民総生産は約6割の増大となつた。

第72図 経済規模の拡大と長期繁栄の成果

これをいいかえれば現在の総生産規模の名目額の5割弱,実質額の4割弱までの部分が41年以降の長期繁栄のもとに拡大したわけである。同じ期間中に鉱工業生産,輸出貿易の規模もほぼ倍増した( 第72図 )。

経済規模の目だつた拡大のなかで,雇用もひきつづき増加し,所得水準も著しく上昇した。1人当たりの国民所得は昭和40年の721ドルから,44年に1290ドルと8割近く増加した。この間の物価上昇を勘案した実質値でみても約50%高まつている。

図表

わが国の経済が急速な拡大を遂げる一方で国際収支の黒字幅も目だつて増大した。昭和40年頃までわが国の国際収支はきわめて不安定であり,36~39年平均の総合収支は2.8億ドルの赤字であつたが,40~44年平均では年平均約7億ドルの黒字に転じ,とくに43年以降は速い経済拡大と国際収支の大幅黒字が併存する状態がつづいている( 第73図 )。

このようにわが国の経済規模が急速な拡大を遂げると同時に,日本経済の国際的水準も目だつた高まりを示している。わが国の国民総生産はすでに自由世界でアメリカについで第2位となつたが,昭和44年のわが国の国民総生産のOECD諸国中に占めるシエアは約9%程度,自由世界中に占めるシエアは約7%とみられる。昭和35年における日本のシエアがそれぞれ4.7%および4.0%程度,40年のシエアがそれぞれ,6.5%および5.5%程度であつたことからみても,世界におけるわが国経済の比重の増大がいかに著しいかがわかる。

日本のシエア拡大の著しさは輸出貿易についても同様である。現在のわが国の輸出規模はほとんどイギリスと肩を並べ,アメリカ,西ドイツにつぎ世界第3位に達しようとしており,昭和44年の世界貿易に占める日本の輸出のシエアは6.6%にまで高まつている。

工業生産力の水準においても,わが国はすでに西ドイツを抜き,自由世界においてアメリカにつぐほどになつたものと思われる。

品目別にみると船舶,鉄鋼,トラックなどの世界生産に占めるシエアが高いほか,テレビ,トランジスタラジオ,合成繊維,プラスチックなど戦後に登場した新商品での日本のシエアがきわめて高いことが特徴的である( 第74表 )。これら世界生産中の日本のシエアが高い商品は,同時に世界貿易中の日本のシエアが高い商品でもある。ちなみに,本表に示された15品目を日本の生産者価格に基づいたウエイトで加重平均すると,世界生産全体に占めるシエアは昭和43年で2割程度にも達しているものと推定される。もつともこれら15品目は主として基礎的な工業力をあらわす物資でこれ以外の高度加工部門,あるいは第1次産業部門を含めたわが国の生産力水準は,相対的に低くなることはいうまでもない。

日本経済全体の国際水準の著しい上昇は,ミクロ的にみても個々のビッグビジネスの,経営規模の目だつた拡大をともなつている。いま,わが国の生産首位企業を欧米主要国のそれと比較すると,売上規模,生産性などの面で急速にアメリカ,西ドイツの水準に近づく勢いを示している。これは今後いろいろな形をとりながら日本の企業の経営活動が国際化の方向に進むであろうことを示唆しているようにみられる( 第75表 )。

一方,時間当たりの賃金水準は欧米先進国に比べればまだ相対的に低いものの,近年の格差は,かなり急速に縮小しており,昭和44年の製造業労務者の時間当たり賃金はフランスとほぼ同水準となつている( 第76表 )。

第77表 主要商品の購入に必要とされる労働時間の国際比較(1969年)

なお, 第77表 にみるように,主要な物資を購買するために勤労者が働かなければならない時間は工業品を中心にかなり縮減し,欧米先進国との隔たりは少なくなつた。しかし,わが国の土地の値段は労働時間との比率をみても欧米に比べ格段に高い。

つぎに物価上昇は現在の先進国の共通の悩みとなつており,欧米の多くの国では物価の上昇テンポは加速化する傾向を示している。現在の先進国では,総合物価(GNPデフレーター)は4つをこえている国が多い。 第78図 にもみるように,わが国は物価上昇率は高いがそれ以上に経済の実質成長率が高い。

昭和40年代前半についてみると,わが国は経済成長率(名目,以下同じ)のうちの約3分の1が物価上昇で,3分の2が実質の成長であるのに対して,西ドイツ,フランス,アメリカでは経済成長率の約半分,イギリスでは3分の2までが物価上昇に吸収されてしまつている。

このように物価上昇のわりには実質成長の効果が高いという面では各国中最も良好であるが,物価上昇率自体は先進国中最も高い。