昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

5. 交通・通信

(1) 国内交通

(一) 輸送概況

ア 貨物 昭和43年度の国内貨物輸送は,活発な経済活動,特に民間設備投資の根強い増勢による鉱工業生産活動の伸長に伴い,前年度に引き続き,順調な伸びを示した。とりわけトラックの伸びは依然として圧倒的に高く,ますますそのシエアを拡大しつつある( 第5-1表参照 )。

輸送機関別にみると,まず内航海運は,大宗貨物たるセメント,砂・砂利・石材,石油製品の輸送の好調などにより,順調な伸びを示している。このような輸送の好調を背景に,現有船腹量は44年6月に行なわれた運輸大臣の告示による適正船腹量にほぼ近いものとなつており,内航海運の宿弊とされた船腹過剰は改善されたといえよう。

トラックの伸びは依然高いが,品目別では,砂・砂利・石材,機械類,化学工業品,窯業品,食料工業品等が大きく伸びている。なお43年2月の東大阪トラックターミナル,6月の京浜トラックターミナルの供用開始をはじめ,海上コンテナの陸上輸送の本格化,阪神~北九州間等陸路と並行する長距離フェリー輸送の開始,車両の大型化,トレーラー化の傾向等いくつかの新しい動きが目立つている。

国鉄は,石炭,木材等の大宗貨物の減少により,前年度なみの成績に終つた。しかし自動車,セメント等の物資別適合輸送およびコンテナ輸送によるものは,順調な伸びを示しており,国鉄の貨物輸送が質的な変化を遂げつつあることを示している。

イ 旅客 43年度の国内旅客輸送は,個人消費支出の順調な伸びを反映して,前年度に引き続き順調な増加をみせた。とくに乗用車の伸びは高く,人キロシェアにおいて私鉄およびバスを抜き,国鉄に次いで2位を占めるにいたつた( 第5-1表参照 )。

輸送機関別にみると,鉄道の定期旅客は,私鉄はほぼ前年度なみの伸びを示したのに対し,国鉄は人員,人キロとも減少している。モータリゼーションの進展,43年4月1日からの定期割引率の引下げの影響,私鉄への転移等種々の原因によるものであるうが終戦直後の一時期を除いてはかつてみられなかつた特異な現象として注目される。

一方,鉄道の普通旅客は,国鉄,私鉄とも比較的安定した伸びを見せた。特に東海道新幹線の伸びは目立つている。

バスにおいては,乗合バスが全くの低迷状態であるのに対し,自家用バスはきわめて高い伸び率を示しており,バス輸送に占める地位は無視しえないものとなつている。

乗用車は,営業用,自家用とも好調であるが,特に自家用の伸びが著しい。自家用乗用車台数の増加率も依然高く,特に軽四輪において著しいが,最近における台数の伸びが,東京,大阪等大都市において鈍化し,東北,山陰,九州等の地域において高くなつていることが注目される。

航空は,消費水準の高度化を反映し,幹線,ローカル線とも高い伸びを示した。

(二) 交通開係社会資本の現状

第5次道路整備5箇年計画(42~46年度,総額66,000億円)は,2年目を終つて進捗率31.7%となつた。

高速自動車国道は,37年以来3,425億円をかけて建設が進められてきた東名高速道路が44年5月全通し,名神,中央高速道路とともに現在供用中のものは622キロに達し,引き続き,東関東自動車道(千葉・成田線)等1,868キロが建設中である。

一般道路は,地方道を中心に43年度は9,000キロの改良と12,100キロの舗装が行なわれたが,そのほか,全国主要都市周辺では,一部供用中の西湘,名阪,加古川など大規模なものだけでも57箇所のバイパス工事が進められた。

首都高速道路,阪神高速道路は,43年度末現在それぞれ61キロ,39キロが供用され,63キロ,50キロが建設中である。

第5-1表 国内輸送実績

東京湾岸道路は,東京~千葉間については埋立地を中心に用地が確保されてきたが,44年度に入り首都高速道路公団の手によつて大井埠頭~13号埋立地間の東京港第一航路横断海底トンネルの工事が開始された。

交通安全施設等整備3箇年計画(41~43年度総額782億円)では,4,335キロの歩道,3,222箇所の横断歩道橋等の整備が行なわれ,44年度からは第2次3箇年計画(総額約1,270億円)にひきつがれた。

国鉄の第3次長期計画(40~46年度,総額29,720億円)は,43年度末で進捗率48.2%となりその成果は43年10月の白紙ダイヤ改正に示された。今計画では幹線輸送力増強,保安対策と並び通勤輸送対策に重点がおかれ,赤羽~大宮間の3複線化をはじめとした線路増設,ターミナル改良等が行なわれているが,44年4月には荻窪~三鷹間の複々線高架化が完成するなどその進捗率は51.5%となつた。

第5-2表 交通関係社会資本の投資額

そのほか,43年度には東北本線全線の複線電化の完成等536キロの複線化(複線化率22%),575キロの電化(電化率26%)が行なわれた。

近代化の遅れが目立つ貨物輸送については,物資別適合輸送,協同一貫輸送等の体質改善が進められており,44年4月からはフレートライナーの運行が開始された。

なお44年度は,47年3月開業を目指した山陽新幹線工事も本格化するなど,総額3,819億円の事業を行なう。

鉄道建設公団は43年度495億円の投資を行なつたが,武蔵野線,小金線など大都市交通線には226億円が投入された。

私鉄(大手14社)は新線建設,都心乗入れ等を内容とする輸送力増強5ヵ年計画(42~46年度,総額4,465億円)を進めているが,43年度までにその36.2%を達成し,44年度は1,238億円の投資を計画している。

地下鉄建設も着々と進み,43年度には営団地下鉄東西線の全線開通をはじめ,東京,大阪において合計41キロが開通し,43年度末現在178.3キロの路線が営業されている。

港湾については43年度から5ヵ年間に地方単独事業等を含め10,300億円(うち港湾整備5箇年計画として,8,000億円が44年3月閣議決定された。)の投資を行なうことになつた。この計画には外航定期船用大型岸壁78バースの建設,外航コンテナ船用大型岸壁17バースの建設のほか,内貿港湾,産業港湾の整備等が含まれており,初年度の43年度は1,336億円の投資(うち外資埠頭公団事業100億円)が行なわれた。

空港については42年度から5ヵ年間に総額1,150億円の投資を行なう空港整備5箇年計画(新東京国際空港に係わるものを除く。)が44年3月閣議決定された。この計画は,東京,大阪両国際空港における3,000メートル級の滑走路,地方空港における1,500~2,000メートル級の滑走路の整備等を内容とし,43年度はその2年目として89億円の事業が行なわれた。

なお新東京国際空港は45年度末一部開業を目指して用地取得を中心に事業が進められている。

(三) 国内交通の問題点

ア 大都市圏における交通問題

大都市圏における人口は,年率3~4%で増加し,通勤距離の増大と相まつて旅客輸送需要は年率6%で増加している。通勤輸送の混雑は,最混雑時一時間当たり200~300%にも達している。増大する輸送需要に対処するために,国鉄,私鉄,地下鉄は列車編成増,運転間隔の短縮,線増,通勤線の新設等の施策を講じてきた。しかし,輸送需要の増加は,施設整備の努力を著しく上廻つており,今後の輸送需要の増大に対処するためには,大幅な交通施設の整備の必要に迫られている。しかし,新たに鉄道を建設する場合,地下鉄のとき営団東西線(中野~東陽町)で1キロ当たり48.1億円,大阪市営地下鉄4号線(本町~深江橋)で50.4億円,高架のとき国鉄新総武線(小岩~西船橋)で18.4億円の費用を要する。このように鉄道の新設には巨額の投資を必要とし,かつ,その投下資本を回収するには長い期間を要するので鉄道事業者が建設費を自己資金で賄うことは困難であり,また借入金に依存するとしても,現行の利子率,償還期間等の借入条件では著しく企業の経営を圧迫する。しかも建設に伴う資本費のすべてを現在の運賃の改訂に依存することも問題がある。このため鉄道建設を促進する方策として,国による財政援助の強化,新線建設に伴う沿線の地域からの開発利益の吸収等が提案されている。なお,鉄道による通勤輸送を補完する方策として高速道路を利用した高速通勤バスの構想が提案されている。

モータリゼーションの進展は,大都市圏における交通に種々の問題を生ぜしめている。都内の自動車の走行速度は大幅に低下し(日光街道の都心部で,昭和42年,ピーク1時間7.3キロ/時)交通渋滞が激化し都市機能をまひさせている。また,東京都大原交差点にみられるように,その排気ガス,騒音のもたらすいわゆる交通公害も無視しえぬものとなつてきている。さらに43年の大都市圏における交通事故は前年より20~30%も増加している。このような事態に対し,自動車の自由な使用を制限しようとする動きが生じ,都心部への自動車の乗入れ禁止,都心通行賦課金等の構想が提案された。大都市圏におけるモータリゼーションに対処するためには,立ち遅れている道路の整備を促進し,一方通行その他の交通規制の強化等による道路の効率的利用を図るとともに,交通体系全体から自動車の位置づけを行なつたうえで根本的に対策を検討する必要があろう。

イ 過疎地域における交通問題

大都市地域への人口および産業の急激な集中が大都市交通の面において,通勤,通学輸送難,交通混雑等の種々の問題を惹起している反面,人口流出の激しいいわゆる過疎地域においては,公共輸送事業である路線バス事業の経営は著しく困難となつてきている。すなわち過疎地域に営業路線をもつ事業者は,人件費の上昇を中心とする経費の増嵩とモータリゼーションの発展,地域人口の減少に伴う旅客輸送需要の減少の影響を受け,合理化努力にもかかわらず,経営収支の悪化を来たし,路線バスの運行を休廃止せざるを得ない場合もでてきている。

これに対し,国においてこれらのバス路線の運行を確保するため,関係事業者に対して財政的援助を行なつているが,これに加えて関係地方公共団体が財政的負担を行ない,これらの地域におけるバスによる旅客輸送を確保しようとする等の動きもでてきている。過疎地域における住民に対する公共輸送サービスの確保は,高度経済成長の生んだ影の部分として,今後問題を提起することとなろう。

ウ 国鉄の財政再建問題

国鉄は,43年度において1,229億円(予算額)の欠損を計上し,39年度に赤字に転落して以来の繰越欠損金は,43年度末で2,706億円に達する見込みである。

このような国鉄の財政悪化の現状にかんがみ,政府は,43年5月に国鉄財政再建推進会議を設置し,その打開策を鋭意検討してきたが,11月同会議は,国鉄財政悪化の要因は,国内輸送構造の変化に伴う運輸収入の伸び悩み,資本費の増嵩,人件費の増加等によることを指摘するとともに,「国鉄は,今後,わが国の総合的な交通体系上,特に都市間旅客輸送,中長距離・大量貨物輸送,大都市通勤・通学輸送の分野において,重要な役割をはたすべきであり,このため,国鉄の財政を早急に再建する必要があること,また,44年度から53年度にいたる10年間を国鉄財政再建期間として,その間に総額約37,000億円の設備投資を行なうが,そのためには,国鉄自らが経営の能率化,合理化に全力を傾けること,自己資金の確保のため,再建期間の初期において公共負担の是正を含み実収10%程度の運賃改訂を行なうこと,国は強力な財政措置を集中的に講ずること」という趣旨の意見書を提出した。

この提言にもとづき,政府が決定する国鉄財政再建の基本方針および国鉄の定める再建計画の実行を通じて国鉄の近代化,能率化の推進を確保するとともに国の財政措置を規定した日本国有鉄道財政再建促進特別措置法(昭和44年法律第24号)が第61回通常国会において制定された。この結果,44年度予算においては,財政再建補助金が43年度にひきつづき計上されるとともに,新たに財政再建債利子補給金が一般会計から支出されることとなつた。また,市町村納付金についても,若干の軽減が行なわれた。

さらに,これらの財政措置と合わせて,利用者の負担として,一等旅客運賃料金制度の廃止,基本賃率の15%アップ等を内容とした旅客運賃の改訂が44年5月から実施された。

国鉄の財政再建計画は,このように国鉄自らの合理化,国の財政措置,利用者の協力を3本の柱として,その第一歩をふみ出した。

(2) 国際交通

(一) 貨  物

43年の世界の海運市況をみると,不定期船運賃指数は,安定的に推移し年間平均で123.8となり,前年(120.5)を若干上回つた。一方,油送船運賃指数は,42年6月のスエズ運河閉鎖に伴い,タンカーの船腹需給のひつ迫した前年にくらべて船腹事情が改善されたため,年間平均で前年の113.7から103.8へと低下したが,その水準は運河閉鎖前と比べるとなお高い( 第5-3図 )。

43年のわが国の貿易量は輸出30百万トン(対前年比22.0%増),輸入330百万トン(同16.0%増)であつて,輸出は伸びの停滞した前年(0.4%増)から一転して高い伸びを示したが,輸入は前年の伸び(24.0%増)を下回つた。一方わが国の外航船腹量は,近年の大量船腹建造の推進により43年6月末で1,560万総トンに達し,前年に比べて258万総トン,19.8%の増加となり,世界商船船腹量の対前年伸び率6.6%を大幅に上回り,わが国は,43年末には世界第3位の商船保有国(前年同5位)に躍進した。この結果,邦船の輸入積取比率は47.0%から47.7%へと若干改善されたが,輸出積取比率は輸出の著しい増加のため36.4%と前年の37.4%を下回る低い水準にとどまつた。

第5-3図 世界海運市況の推移

海運国際収支をみると,就航船腹量の増加により,貨物運賃収支の赤字幅が縮少したが,用船料および港湾経費等の支払いが増加したため,収支尻では前年度より90百万ドル悪化して887百万ドルの赤字となつた( 第5-4表 )。

国際海上コンテナ輸送は,近年急速に進展しつつあり,昨年秋,わが国の6隻のコンテナ専用船が日本~北米太平洋岸航路(カリフォルニア航路)に就航し,当初の予想を上回る好成績を収めている。本年末には豪州航路がコンテナ化される予定であり,引き続き北太平洋岸航路(シアトル,バンクーバー航路)ニューヨーク航路,欧州航路のコンテナ化が計画されている。

わが国海運企業は,39年4月集約再編成以来合理化に努め,大量船腹建造を行ないながら国の助成策と海運市況の堅調に支えられて企業経営は改善され,再建整備の目標決算期をまたず44年3月末には全ての企業が減価償却不足と債務償還の延滞を解消し,再建整備計画は順調に達成された。

再建整備終了後の海運対策について検討を進めていた海運造船合理化審議会は,昨年11月その答申を行なつた。答申の内容は,①44~49年度間に2,050万総トンを建造する。②計画造船には自己資金を一部投入することとし,船主負担金利が財政融資について年5.5%,市中融資について6%となるよう利子補給を行なう。③輸出割増償却制度,輸出所得控除制度等現行税制を継続する。④今後も集約体制を維持することを基本方針とする等となつている。これをうけて,今後の新海運政策を実施するために,第61回通常国会において所要の法律改正が行なわれた。

第5-4表 運輸関係国際収支

(二) 旅  客

43年のわが国への来訪外客数は,米国政府の海外旅行制限の動き,欧州の通貨不安等の影響により対前年比8.9%増の51.9万人と前年の伸び(10.1%増)を下回つた。国別では,わが国への来訪外客の約半数を占める米国人客の伸びがわずかに4.5%にとどまつたが,南米,アフリカ,アジアの伸びはそれぞれ,21.7%,16.7%,15.7%と著しかつた。

出国日本人数(沖縄への旅行者を除く。)は,所得水準の向上による観光客の増加,経済の国際化に伴う商用客の増加等により対前年比28.4%増の34.4万人と前年の伸び(26.0%増)を上回る高い伸びを示した。

旅行国際収支をみると,来訪外客のうち滞在日数の長い「商用その他客」が著しく増加したため,受取の伸びは高く,一方,出国日本人のうち比較的近距離の旅行者が増加したため支払の伸びは低く,収支尻では前年より14百万ドル改善されて,41百万ドルの赤字となつた(前掲 第5-4表 )。

43年の世界(ICAO加盟諸国)の国際定期航空の輸送人キロは前述の国際情勢を反映して対前年比9.6%増と前年の伸び(14.3%増)を下回つた。

これに対し,わが国の国際定期航空は対前年比23.1%増の41億人キロと世界の伸びを大きく上回り,世界におけるシエアは3.6%(世界第8位)となつた。路線別では各線とも順調な伸びを示し,とくに北回り欧州線,南回り欧州線及び東南アジア線の伸びが著しかつた。日本発着の国際線の総便数に占める本邦航空会社の便数のシエアは,43年4月の32.8から44年4月の34.5%へと上昇した。また,43年度の東京国際空港における日航機利用状況をみると,外国人は前年度の25.0%から26.2%へ,日本人は51.8%から54.3%へ,合計で32.3%から33.1%へと上昇した。

このような好調な輸送活動により,航空国際収支は,前年の18百万ドルの赤字から18百万ドルの黒字となり,従来の赤字から初めて黒字に転換した(前掲 第5-4表 )。

しかしながら,今後のわが国をとりまく国際航空の情勢を見ると,ジャンボ・ジェット,SSTなど新鋭機材の登場に伴う国際競争の激化に加えて,本年の夏には米国航空会社の太平洋路線への大量進出をもたらすいわゆるパシフィック・ケースの具体化に伴い,同路線の競争の激化は必至とみられており,その環境はますます厳しくなるものと思われる。

(3) 国内通信

(一) 概  況

43年度の国内通信は, 第5-5図 にしめすように,電報をのぞいて概ね順調な伸びをみせた。

第5-5図 国内通信量(指数)の推移

まず郵便については, 第5-6表 にみるように通常郵便が引受総数10,188百万通と100億の大台をこえ,対前年度伸び率も3.6%と41,42両年度のより若干向上した。しかし,その内容をみると,もつぱら大口差出し郵便物の増加によるものであつて,これをのぞくと1.2%にとどまつている。

通常の種別では,第2種の伸びが鈍化したのがめだつたが,これは,41年の料金値上げにより第1種から移行したものが,旧に復したことによるものと思われる。なお,第1種中の定形郵便物の割合は,87.1%と前年度並みにとどまつた。

第5-6表 引受郵便物数

小包郵便は,168百万個(対前年度7.6%増)と好調であつたが,ここでも通常と同様に大口郵便物の伸び(対前年度10.1%増)が平均を上回つている。

なお,43年7月から郵便番号制がはじまつたが,郵便番号記載率は,発足当初から64.0%と高率であり,44年4月には71.4%に達するなど国民のこの制度に寄せる期待の強さを物語つている。

公衆電話通信については,43年度において加入電話と農村集団自動電話とを合せて172万個が架設された。その結果43年度末の加入電話,農村集団自動電話の合計は,1,203万個に達し,電話普及率は人口100人当たり12個となつた。これを国際的にみると43年1月1日現在の有線放送電話等も含めた電話機総数は1,822万個でアメリカに次いで世界第2位であるが,普及率では人口100人当たり18個で世界第13位にすぎない。公衆電話は3.7万個架設され43年度末で36万個となつた。このうちダイヤルで市外通話がかけられる自動公衆電話は8万個で全体の23%に達した。

加入電信は6千加入増加して28千加入となり,そのサービス対象地域は324都市に拡張された。

電電公社が回線を提供する専用線サービスについては,官公庁ならびに諸企業における電子計算機の普及とそれによる情報処理の高度化等によつて需要が増大し,43年度は約12千回線増加し,43年度末には約162千回線となつた。

第61回通常国会において公衆電話通信法の一部が改正され,44年10月から電話基本料の改定を中心とする料金体系の若干の手直しが行なわれることとなつた。これは①基本料の級局別区分を5段階に簡素化して平均約30%の引き上げを行ない,②近距離市外料金については平均30%程度引下げを行なう,③公衆電話は長電話を防止するため3分間打切り制を採用する,というものである。

43年7月から開始された無線呼出(ポケットベル)サービスは,セールスマン,医師,報道関係者,建設工事関係者,運輸関係者など自分のオフイスから離れて外部で仕事をしている人々に対する連絡手段としてその機能と利便が広く認識されて,当初予想していた以上の需要があり,43年度の販売予定数4千を上回る約5千加入を販売したが,43年度末でなお6千余りの申込みが積滞となつている。また東京以外の地域でもこのサービスを提供するよう要望が強く出ている。

データ通信サービスについては広く各方面から注目されていたが,43年10月全国地方銀行協会の為替通信システムと群馬銀行の自行内の為替通信システムが本格的にサービス開始された。これによつて従来電報や郵便で送達され2~3日もかかつていた為替業務がわずか数秒のうち処理されるようになつた。これは単に銀行の為替業務の合理化にとどまらず,資金の効率的運用,事故防止など顧客サービスの向上に大きく寄与している。このほか,44年度には運輸省の自動車検査登録業務用システムと日本万国博覧会の管理運営システムとがサービス開始されることとなつている。

高速道路通信サービスは,高速道路における安全確保,道路管理,道路利用者の通信手段などのために電気通信設備を提供するサービスであるが,東名高速道路については,44年5月からサービスが開始された。

押ボタンダイヤル電話機を使用した短縮ダイヤルサービスは44年5月からサービス開始されたが,この押ボタンダイヤル電話機は,将来サービス開始が予定されている加入データ通信サービスにおける簡易な端末装置として使用することができるので,その普及は情報化に寄与するものとして大きな意義をもつている。

放送については,NHK受信契約の契約乙(ラジオのみ)が42年度限りで廃止されるとともにテレビのカラー契約が新設され,普通契約とカラー契約の二本建となつたが,43年度末の契約件数は,普通契約1,953万件,カラー契約169万件である。なおカラー番組時間数(NHK)は,1日平均7.5時間(42年度)から同11時間に増加した。うち,総合テレビ9.4時間(1日全放送時間の52.3%),教育テレビ1.6時間(同8.8%)である。

民間放送事業者は,UHFテレビおよびFMラジオの免許により大幅に増加し,42年度末の67社から,43年度末91社となつた。内訳は,ラジオ単営14社,テレビ単営42社,ラジオ・テレビ兼営35社である。

43年の放送関係広告費は,好況を反映して順調な伸びをしめし,総広告費5,321億円(対前年15.8%増)のうち,テレビ1,745億円(同15.6%増),ラジオ233億円(同19.5%増)を占め,特に低迷期を脱したラジオの好調が目立つた((株)電通調べ)。

(二) 通信施設の現状

国内通信施設の現状をみると,まず郵便では,43年度末郵便局数は,20,228局(簡易郵便局3,227局を含む),うち集配局5,695局である。

43年度中の郵便局舎改善(増築を含む。)は,延べ斜万平方メートル,総工費233億円である。また,区分作業の自動化として注目されていた郵便番号自動読取区分機は,3台が配備され,そのほか,選別取揃え,小包区分,搬送などの機械化が行なわれた。

公衆電話通信施設については,43年度は5,400億円の建設投資を行なつて,加入電話147万加入(うち事務用電話は54万加入,住宅用電話は93万加入),農村集団自動電話25万個,公衆電話3.7万個を架設し,市外電話回線約7万回線を増設した。また,これら加入電話等の新増設やサービスの維持,向上に必要な基礎設備である自動式電話局については,約400局が建設された。これによつて市内ダイヤル化率は94%,市外ダイヤル化率は88%に向上した。

専用線については,市内専用線11千回線,市外専用線1千回線増設され,43年度末にはそれぞれ142千回線,20千回線となつた。

有線放送電話は,施設の統合や公社電話への移行により廃止されたものもあつて,2,262施設と前年度より112施設減少したが,加入者は319万と前年度より3万増加した。このうち,公社電話と接続しているものは,701施設,101万加入である。

無線局(放送局を除く。)は,43年度末510,265局(前年度末より75,934局,14.9%増)となつた。内訳は,固定局11,046局,陸上移動業務の局132,784局(基地局10,056局,陸上移動局122,728局),海上移動業務の局29,991局(海岸局879局,船舶局29,112局),航空移動業務の局1,026(航空局323局,航空機局703局),その他,335,418局である。高周波利用の通信設備は,電力線搬送式1,924施設,誘導式256施設,計2,180施設である。

放送局は,43年度中テレビ局457局,ラジオ局179局が開設され,それぞれ2,302局および636局となつた。テレビ局のうち516局は,民放のUHF親局であり,これにより民放テレビの番組の複数化がさらに促進された。UHFテレビはこのほか,15局が予備免許をうけており,これらが本放送を開始すれば,一部の難視聴区域を除く全国で民放2系統以上が視聴可能となる。

ラジオの免許のうち,170局はFM放送局(NHK)であり,FMは,このほか民放3局が予備免許をうけた。

なお,共同アンテナから有線で各戸にテレビ番組を配給する共同視聴施設(CATV)は,43年度末7,296施設である。これらの大部分は,山間部の谷間にあるが最近の都市の高層化に伴い,ビルの谷間にも難視聴区域が生じ,都市にもこの施設が現われた。この現象は,今後も増加するものと思われるが,その発展は,画像通信,高速度データ通信などの新しい通信の可能性につながるものとして注目される。

(三) 国内通信の問題点

ア 郵便事業経営のありかた

郵便事業は,その公共性のゆえに,明治4年の制度発足当初から官営で行なわれてきたが,近年における通信需要構造の変化,人力に大幅に依存するという体質的弱点などによりコストの上昇に悩んでいる。

これに対処するために郵便事業の近代化が強く望まれており,すでに39年郵政審議会から,①通常郵便物の種類体系の整理と制度の合理化,②料金決定基準の明確化,③送達速度の向上安定,④局内作業の機械化,郵便物の規格化,郵便番号制の採用など合理化の推進を骨子とする具体的方策が提案され,これらは逐次実行に移されている。

しかし,より重要なことは,公共性に立脚しつつも,積極的に企業マインドを導入して経営の効率化を図ることであり,このような観点に立つて,個々の方策からさらに根源にさかのぼつた事業経営形態のあり方が問題とされるに至つた。この問題は,43年10月郵政審議会に対して「郵政事業の経営形態を公社化することの是非」を問う形で諮問され,同審議会では,特別委員会を設けて検討中である。

なお,類似の動きは,イギリスおよびアメリカにもあり,その細部の事情はわが国のそれとは異なるが,いずれもコストの上昇と経営の悪化に悩んでいる点では同じであり,これら先進的諸国に期せずして同様な動きが見られることは注目すべきである。

イ 電話需給状況の悪化

電電公社が43年8月に発表した電信電話拡充第4次5ヵ年計画によると,43~47年度の5ヵ年間で930万個の電話を架設して加入電話の普及率を人口100人当たり18加入,そのうち住宅用電話については3世帯に1個程度になるように計画されているが,最近の10年間の電話の需給状況は 第5-7図 のとおり各年度とも新規申込数が架設数を上回つているために申込んでもつかないで積滞となつているものが年々増加している。とくに都市周辺の人口急増地区でこの傾向が著しい。43年度末における電話の積滞数は251万であるが,電電公社が「第4次5ヵ年計画」で見込んだ43年度末の積滞数は220万で,5ヵ年計画の初年度においてすでに約30万の差が生じている。

一方,国民生活研究所の「満足できる生活のために,備えるべき耐久消費財の希望調査」(43年12月)によれば電話がカー,クーラー,カラーテレビのいわゆる3Cを押えて,第1位を占めており,国民の電話に対する需要は極めて強いものがあり,このような状態では電話の需給状況の改善は「第4次5ヵ年計画」によつても相当な困難が予想される。

第5-7図 電話の需給状況

ウ オンライン情報処理の要請

経済の自由化の進展に伴う内外市場競争の激化と深刻になつてきた労働力不足によつて企業経営の合理化が一層迫まられており,これに対処するために諸企業において電子計算機の利用,導入が図られているが,最近ではこれをさらに高度な経営情報システム(MIS)や関連した二以上の企業相互でネットワークを組み情報の交換・処理などを行なうシステムにまで発展させようとする動向がでてきている。

このような電子計算機利用の高度化は通信回線と結びついたオンラインシステムを形成するようになつた。現在わが国におけるオンラインシステムは 第5-8表 のように,87システムが稼動中であり,全体の2~3%程度に過ぎないが将来は大幅な増加が見込まれている。

また,情報化の進展に伴ないオンライン処理による各種情報の案内や検索などを行なうサービスが要求されるようになつてきている。

第5-8表 わが国のオンラインシステム

このような需要にこたえて,電電公社では個別データ通信サービスを提供するほか加入データ通信サービス提供の準備を進めているが,さらに今後のオンライン情報処理の利用の増大に対処するため従来の電信電話を含め,あらゆる情報伝送に応えうるよう総合的な通信網の整備を推進する必要があろう。

また,専用線の利用のあり方など現行の電気通信制度について検討を要する面も生じており,これについては郵政審議会で審議されることとなつているが,わが国の情報化を促進しその成果を広く国民が享受できるような施策の実現が望まれる。

(4) 国際通信

(一) 概  況

43年度のわが国の国際通信は,電報を除きいずれも好調な伸びをみせた( 第5-9表 )。

郵便は,通常郵便が対前年度8.5%増と前年度3.8%の増を大幅に上回り,小包郵便も5.8%増と前年度を上回つた。

電話は,年度半ばごろから増勢を強め,最近10年問の平均増加率の2倍近い36.0%増となり,加入電信も前年度の伸び(22.2%)に近い21.0%増に達した。ただし電報はいぜんとして不振で,42年度の伸び(5.0%),最近10年間の平均増加率(4.2%)のいずれをも下回る2.2%増にとどまつた。この結果,電報,電話,加入電信の3者に占める電報の比重は,前年度の69%から65%へと低下したのに対し,電話および加入電信のそれは,それぞれ11%から14%へおよび20%から21%へと上昇した。

専用回線は,電信回線が24回線増の182回線,電話回線が1回線増の49回線となつた。

NHK海外向け短波放送(ラジオジャパン)は,23ヵ国語,18方向,1日延べ36.5時間(周波数別延べ101時間)が行なわれた。

(二) 通信施設の現状

国際通信施設の概況は,郵便では東京に外国郵便物専用の国際郵便局(13億円)が開設された。

電気通信関係では,43年度末,短波無線回線224回線(電信187回線,電話37回線),海底ケーブル回線370回線(電信268回線,電話102回線),衛星通信回線51回線(電信6回線,電話45回線)である。対地別では,米州むけ247回線,アジア向け260回線,ヨーロッパ向け104回線,太洋州向け77回線,アフリカ向け8回線である。

42年から着工したシベリア経由ヨーロッパ向けの日本海海底ケーブル(120回線)およびインド洋上のインテルサット3号衛星用の山口通信所は,いずれも44年4月完成した。

第5-9表 地域別国際通信量

なお,宇宙通信については,39年に発足した国際商業通信衛星機構(インテルサット)が順調な発展をとげ,44年3月現在,加盟国68ヵ国,通信衛星3個地球局23局(15ヵ国),回線数約3,000回線(電話),のネットワークを形成するに至つている。

このインテルサットは,通信衛星により国際通信を行なうための共同事業体であるが,現機構は,暫定的な協定に基づいて設立されており,45年1月までに恒久的協定のもとで新発足することが予定されているが,この新協定締結のための政府間会議が44年2月から3月にかけてワシントンで開催された。この会議の焦点は,組織の機構改革および通信衛星による国際公衆通信の分野での加盟国とインテルサット間の活動分野の調整であり,わが国も表決権の増大,アジアにおける地域的衛星打上げ権の留保等を主な目標として努力したが,出席諸国間の合意が得られず,新協定の締結を見ずに休会となつた。同会議は,44年11月に再開の予定であるが,わが国がアジアにおける通信センターとしての地位を保持し,かつ,インテルサット内で十分な発言権を確保することが,今後の国際通信にとつて極めて重要であるところから,その成行が注目される。


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