昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


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第2部 新段階の日本経済

2. 繁栄を支えた新しい要因

日本人の勤勉さと高貯蓄,豊富で良質な労働力,絶えざる技術革新,新らしい耐久消費財の登場による消費革命,制度的諸改革を基盤にした競争社会の存在などが,わが国経済の戦後の急速な成長を支えた要因であつた。しかし,これら要因の多くについては,時とともにその効力が薄れ,あるいは成長の制約要因になるという見方が有力であつた。国際化が進めば国際収支の天井が低くなるとか,技術水準が西欧先進国に近づけば技術進歩のテンポが落ちようとか,労働力不足が激化すれば生産が阻害されるだろうとか,電化製品の普及が一巡すると消費ブームはなくなるだろうとかいうようなものがその例である。

しかしながら,これまで日本経済は,これらの困難を乗り越えることに成功してきた。輸入を上回る輸出の増大を主因に国際収支の天井は高まり,技術革新も中小企業や加工部門などへの波及もあつてその力が衰えず,労働力不足も省力投資や農業部門からの人口移動で補われた。競争のなかで企業の成長力は強化され,所得の上昇や平準化意識のもとで消費はいつそう多様化し,社会の情報化現象も進展した。こうした新らしい要因によつて繁栄が支えられ,経済の実質成長率は30年代の平均10.1%(30~39年度,景気上昇期だけとると12.1%)から,40年代に入つてもこれまでの平均11.0%(40~43年度景気上昇期では13.0,44年1~3月は当庁内国調査課推計)と衰えをみせていない。

最近の経済成長を支えてきたこれらの要因は,どのような努力と代償を払つてもたらされたのか,今後も成長要因を維持・培養していかなければならないが,そのためにはどのような努力と改善が必要とされているのか,以下それらについて検討しよう。


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