昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


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第1部 昭和43年度の景気動向

2. 景気上昇の性格とそれを支えた要因

(3) 安定した個人消費の動き

43年度の個人消費は前年度比15.0%(推定)増加し,41年度以降,年々その伸びが高まっている。

そのうち非農家世帯の消費支出は前年度にくらべ名目で13.0%増,実質で7.8%増加した。実質でこのような伸びを示したのは28年度以来のことである。また,農家では,農林省「農家経済調査」によると43年度には前年度比名目で11.9%,実質で6.9%の伸びであつた。消費支出項目の変更を考慮すると,前年度比の伸びはこれより花干高まるものと推定される( 第50表 )。農作と価格上昇を背景に異常に伸びた前年(名目17.9%,実質12.8%)ほどではないが,農村消費も,かなり大きな拡大をみせたといえよう( 第50表 )。

このように消費が拡大した要因は所得の上昇であつた,43年度の賃金は前年度比13.8%増と29年以降最高の伸びを示した。一方,農家所得は前年度の異常な高い伸び(19.5%増)からみると,43年度は6.3%増とかなり伸び悩んだ形となつている。これは農業からの所得が主に価格上昇の鈍化によつて停滞的であつたためであるが,農家の所得の半分以上を占める農外所得(兼業などによる所得)は前年度比12%前後の伸びと推計され,これまでと変らない堅調な増勢をつづけている。

第51表 品目別家計支出の動き

第52図 所得階層別の耐久消費財普及状況

つぎに非農家家計の動きを中心に43年の個人消費の特徴をみよう( 第51表 )。

全般的な特徴として,消費の重点が基礎的なものから選択的なものへとうつる一方,消費内容自体も多様化,高級化していることがあげられる。43年に入つてとくに消費の伸びが目立つた品目は家具什器を含む住居費であつた。なかでも家具什器の伸びがめざましいが,これは自動車購入の増加に加えてカラーテレビなど住宅建築の堅調な伸びを反映した家具やインテリア類の支出や,在来の耐久消費財の買替え・買増しが継続的に行なわれているためである。43年における非農家家計での自動車,カラーテレビへの支出額は家具什器支出の4分の1を占めるようになつており,当庁調べの消費者動向予測調査でもこのところカラーテレビの普及の伸びがいちじるしい。こうした自動車などの新しい耐久消費財普及の中心はなお個人業主世帯(非農家)であるが,勤労者世帯にもかなり浸透してきている( 第52図 )。また,このところ自動車の普及は地方とくに大都市近郊県においていちじるしく,東京・大阪などでは道路事情の悪化もあつてその伸びが最も低く,普及率も所得水準にくらべて相対的にかなり低いことが注目される。なお,ルームクーラーについてはまだ支出額は小さいが,ようやく普及過程にはいりはじめたとみることができよう。

家具什器についで被服費の増加が目立つているが,これは和服やセーター類服飾品などが増加しているためである。また,旅行費や教養娯楽用品(スポーツ用品,楽器)の増加などから雑費の伸びも高い。

もつとも,平均消費性向(勤労者家計)としては,41年度82.6%,42年度81.4%,43年度82.0%と落ち着いている。43年度に花干高まつたのは消費性向の高い低所得層ほど所得と消費の伸びがいちじるしかつたためで,全体として消費性向は変らず,貯蓄率はひきつづいて高い水準にあるといえよう。

なお,最近,耐久消費財や住宅,土地購入に対する消費者信用の伸びがかなり大きいが,勤労者家計でもこれを反映して借入金や月賦購入が増加している。43年度の借入金,月賦購入掛買の消費支出に対する割合は9,2%となつており,前年度の6.8%をかなり上回つた。しかしこうした動きの一方では,預貯金や土地家屋などの財産の増加をあわせた貯蓄の純増は可処分所得の伸びを上回つており,消費に対する態度は総じて堅実さをたもつていることがうかがわれる(前掲 第50表 )。

第53図 住宅投資の伸び


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