昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


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第1部 昭和43年度の景気動向

2. 景気上昇の性格とそれを支えた要因

(2) 設備投資の根強い増加

今回の景気上昇の主役を果たしたのは,輸出とならんで民間設備投資であつた。

民間設備投資は,40年10~12月期を底にして上昇に転じ,44年1~3月期まで年率27.3%の増加を示した。しかもこの間,42年9月から43年8月にかけて景気調整策が実施されたが,設備投資動向にはほとんどひびかず,一貫した拡大テンポをつけている。その結果,36年をピークに低下してきた国民総支出に対する比率(名目)も41年以降再び上昇に向かい,43年には18.7%(40年基準の実質値では20%と,36年の18.6%を上回る)になつた( 第43図 )。

1) 旺盛な投資動機

このような設備投資の盛り上がりを支えたものはなにか。第1は,需要の増加がいちじるしく,設備の稼動率が急速に高まつたことである。41年以降,個人消費や輸出などの需要が堅調に伸びたことに加え,民間設備投資自体が需要を作り出し最終需要が大きく伸びた。そのため40年当時広がつていた需給ギャッが急速に解消に向かい,新たな設備投資をよぶ原因になつた( 第44図 )。

こんどの設備投資の盛り上がりでとくに注目されるのは,鉄鋼,一般機械,電気機械などの投資財産業の動向である。これら産業の設備投資は,岩戸景気のときに大幅な増加を示したが,その後4~5年にわたつて停滞もしくは低下を示した。この間にいわゆる中期的な資本ストックの調整が進み。こんどの景気上昇過程で再び本格的な増加をはじめた( 第45図 )。

こうした動きは,各需要項目により誘発される設備投資のうち設備投資によつて誘発される割合が,岩戸景気につづいて高まつていることにも反映されている。( 第46図 )。

第2は,国際化の進展のなかにあつて国際競争力を強化するため,規模の経済を求めて大型投資が進行していることである。エチレン,アンモニア,鉄鋼,非鉄,自動車など主要16業種の44年度の工事期間別構成比(通産省調べ)をみると,1年未満のもの16.9%,1年以上2年未満のもの38.5%,2年以上のもの44.6%と長期間にわたるものが多い。

第3は,労働力不足の進行にともない省力投資が増加していることである。30年代後半以降,生産能力の増加は,労働投入量の増加に依存する割合が急速に減少し,資本の増加によつてまかなわれる割合が増加した( 第47表 )。金属加工部門でのNC工作機械の群管理やマシニングセンターなど省力技術の進展や電子計算機利用システムの高度化にともなつて,生産部門だけでなく,事務管理,サービス部門,流通部門および中小企業部門など各分野にわたつて省力投資が浸透しつつある。

第4は,技術革新の進展,消費意欲の新たな盛り上がりなどを背景に,新技術,新製品投資が活発化していることである。電力における原子力発電,海運におけるフルコンテナ船,電子計算機やその関連装置などで投資の急増がみられる。また,本格的な普及期を迎えつつあるエアコンディショナー,カラーテレビなどの部門でも盛り上がりが大きい。なお,公害防止のための設備投資も.石油精製部門における重油脱硫装置をはじめ,次第に増加してきている( 第48表 )。

表5は,企業財務の面からも投資を支える要因があつたことである。すでにみたように,売上げの向上や販売価格の堅調などによつて企業決算は好調をつづけ,企業の内部蓄積が進んだ。一方,税制面からも41年度に法人税率が引下げられるなどの措置がとられたことも企業の投資を支える一つの要因になつた。

2) 業種別,規模別の動き

民間設備投資は以上のような要因によつて増加をしたが,過去3年間を通じてみた場合,業種別,規模別に同じような動きをみせたわけではない。

中小企業の投資は40年末,景気が上昇しはじめると同時に急速な増加に転じたが,大企業の投資はそれより遅れ41年後半に入つてから盛り上がつた。

大企業のなかでも40年から41年前半にかけて大きく落ち込んだ製造業の投資が,その後42年にかけて急増し,中小企業に代わつて投資拡大の主役となつた。43年になると大企業の製造業で鈍化した反面,大企業の非製造業および中小企業で多少高まつた結果,それぞれの伸びにあまり差がなくなつてきた( 第49図 )。

このように,今回の景気上昇期における設備投資は主役の交替を通じて息の長い増加をつづけているのである。