昭和44年

年次経済報告

豊かさへの挑戦

昭和44年7月15日

経済企画庁


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はじめに

昭和43年度は,日本経済の実力があらためて見直された年であるが,今年度の経済報告はこれと関連して,二つの点を取りあげている。

第一は,当面の大型景気についてである。40年11月からはじまつた現在の景気は,過去の最長であつた岩戸景気の記録をすでに本年5月に破り,なお上昇をつづけている。この間,年率10%以上の経済成長率が3年連続し,しかも国際収支が黒字基調で推移するという,かつて経験したことのない事実が進行している。この景気上昇の背景には,海外要因だけでなく強い国内要因があつたのではないか,こんどの景気はどのような性格をもつているのか,また,どのような努力によつてこれを息の長い持続的なものにすることができるか,これらの点を明らかにすることが,第1部のねらいである。

第二は,長期的にみた日本経済の課題である。43年には,わが国の経済規模は自由世界第2位となり,国際的地位も向上した。大方の予想をこえて戦後4分の1世紀という短期間にここまできたのは,国民の資質と努力の賜ものであり,それが国際収支の高まりとなり,技術革新の波及になつてあらわれるなど繁栄を支える要因になつたと思われる。しかし,経済成長の中身を顧みると,経済的・社会的にこの「規模第2位」にかならずしもふさわしくないアンバランスがあることも事実である。また,国際的地位の向上にふさわしい国際社会への参加という点でもなお努力の余地が残されていることも否定できない。こういう問題はどのようにして生まれ,またこれからどのように解決していくべきか。これら日本経済がもつ光と影ともいうべき二面を立体的に把握し,とくに遅れた部門の発展の可能性をひき出すのが第2部の主題である。

日本経済は,その規模において世界第2位でありながら,一人当たり所得水準では20位前後であって生産性がなお低く,生活水準の面でもおくれが目立つものもなしとしない。生産性を引き上げ,経済や社会面での遅れを解消したときにおいてこそ,日本経済は真に“豊か”になったといいうるわけである。それはまた国力にふさわしい国際的責務を果すときでもある。その道は日本経済にとって未踏のものであり,かならずしも安易なものではない。このためには,過去の通念化された思考や制度慣行を総点検し新しい経済政策を用意する必要がある。『日本経済はいままさに真の“豊かさへの挑戦”がはじめられなければならない段階にきた。』というのが今年度の経済報告の主張である。


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