昭和43年

年次経済報告

国際化のなかの日本経済

昭和43年7月23日

経済企画庁


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第2部 国際化の進展と日本経済

4. 経済の発展と国民生活の向上

(3) 私的消費と社会的消費

経済の発展にともなう所得水準の上昇は,福祉向上の必要条件であるが,必ずしも十分条件ではない。

周知のように,国民生活にはいわゆる消費水準に関連する私的消費の分野と,主として生活環境に相当する社会的消費の分野がある。所得水準の上昇とともに漸次社会的消費需要がふえていくが,私的消費需要をみたす財貨の供給は市場メカニズムをつうじて自動的に増大する反面,社会的消費需要をみたす財貨やサービスの供給には価格機構が働かないものが多く,その充足のための投資も遅れがちになる。そのため国が政策的に努力を払わないと生活に不均衡が生じ,また生活が生産部門の発展に対してとり残される傾向をつくり出す。さらに,生産部門において開発利益の吸収などにみられる外部経済の内部化,公害発生などにみられる内部不経済の外部化が行なわれると,そうした社会的アンバランスが大きくなる可能性がある。経済成長に対する社会的消費の立ち遅れの1つの指標として,国民総生産に対する社会資本ストックの比率をみると(実質値),30年度の1.02倍から低下して36年度には0.80倍になり,その後公共投資の充実によりもちなおして40年度には0.87倍になつたが,その後めだつた上昇は示していないようである。このような社会的消費の立ち遅れは国際比較によつても歴然たるものがあり( 第66図 ),私的消費に対していちじるしい歪みが現われている。今後,生活環境の整備にいつそうの努力が必要であると考えられる。

社会的消費の充実には巨額な費用を要するが,その負担は,開発利益と受益者負担の配分にみられるような生産部門と消費部門の間の調整という側面だけでなく,私的消費部門と社会的消費部門の調整という側面も忘れてはならないであろう。たとえば,個人が乗用車を持つことは,道路の整備,排気ガスによる公害防除のための費用などを当然に分担することをも意味することを人びとは自覚しなければならない。広義の受益者負担,社会参加意識の認識である。

きびしい経済の合埋化,効率化の中で国民生活にとつて重要なもう1つの側面は人間疎外の問題である。非情な機械的生産体系や巨大な組織,あるいはそれをめぐる苛烈な競争のなかにあつて,いかにしてバランスがとれ豊かな人間生活を保つていくかという問題はますます重要な課題となつてきている。いきすぎた受験競争,浪人の常態化,非行少年,ノイローゼ等の社会症状は,公害や交通事故の増大とともに深刻な社会問題を提起している。

国民生活の向上には経済の発展が不可欠な要件である。同時に,その成果をいかにわかちあうか,人間尊重の理念が経済の各部門,国民各層に浸透し,社会開発の推進がはかられなければならない。


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