昭和42年

年次経済報告

能率と福祉の向上

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 貿  易

(1) 国際収支

41年度の総合収支は58百万ドルの黒字となり,40年度の428百万ドルと比較すると黒字幅は大きく縮小した。貿易外収支と短期資本収支は好転したものの貿易収支と移転収支は悪化し,またとくに長期資本収支の赤字幅が大きく拡大したからである。

第1-1表 国際収支

景気が上昇に転じた後も,輸出は順調な拡大を示し,41年度は前年度比14.2%増(通関額)となつた。これは39,40年度の前年度比20%以上の伸びにくらべると著しい鈍化だが,前回の景気上昇期に当たる38年度や過去10年間(30~40年度)の年当たり増加率を上回るものである。

第1-1図 輸出入通関額の推移

一方,輸入は景気が上昇に転ずるとともに急速に増大し,41年度の伸び率は前年度比19.0%増(通関額)と,39,40年度の10%以下の伸びを大きく上回つたが,前回の景気上昇期に当たる38年度(前年度比28.9%増)よりは小さかつた。

第1-2図 総合収支と外貨準備の動き

貿易収支は2,055百万ドル黒字で,40年度よりも29百万ドル黒字幅が縮小した。

貿易外収支は前年度にくらべて赤字幅が縮小したが,これには軍関係の受取の増加が大きく寄与した。また投資収益は,支払の増加テンポが鈍るとともに受取の増加が著しいので,39年度をピークにして赤字幅が縮小している。

移転収支は,海外活動に伴う外国課税の増加や政府部門における無償経済協力の増加等によつて,40年度よりも赤字幅が拡大した。

40年度に赤字となつた長期資本収支は,41年度にはさらに赤字幅を拡大した。それは,わが国の輸出に伴う延払信用供与額の増大と内外金融のひつ迫度の違いによる外国資本の減少によるものであつた。

短期資本収支は,輸入に伴う貿易信用の流入によつて黒字となつた。

以上の結果,41年度の総合収支は58百万ドルの黒字となり,40年度にくらべ黒字幅が大きく縮小した。しかも,為銀部門の対外支払ポジションの改善が著しかつたので,総合収支の黒字とは逆に外貨準備高は32百万ドル減少した。

41年度を全体としてみると,総合収支は黒字となり,他方外貨準備は減少したが,これは41年の末頃までの動きによるものであつた。その後は,輸出の停滞と輸入の増大から,総合収支は赤字となつた一方,外貨準備は逆に増大した。

(2) 輸  出

(一) 輸出の増勢鈍化

41年度の輸出通関額は9,961百万ドルで,前年度を14.2%上回つたが,39,40年度の前年度比2割以上の急増にくらべればかなりの増勢鈍化であつた。個別商品別にみても多くの商品で前年度より伸びが鈍つており,たとえば, 第1-2表 の対象127商品のうち78商品で増加率の低下ないし減少率の拡大がみられた。さらに,40年度には倍増以上の急伸を示した商品が,ビレットおよびバー,軌条,トラクター,メリヤスおよびクロセ編物,ポンプおよび遠心分離機など12品目を数えたが,41年度には最も伸びた冷却および加熱用機,テレビなどでも8割増にとどまつた。

このように41年度の輸出は,39,40年度にくらべれば著しい伸び悩みをみせたが,前回の景気上昇期に当たる38年度の12.5%増を上回つたばかりでなく,過去10年間(30~40年度)の成長率13.9%をもわずかながら上回る順調な伸びであつた。この順調な伸びを示すことができた理由は何か。

第1-2表 主要商品の輸出動向

第1は,価格競争力の強化がつづいていることだ。すなわち,世界の工業製品の輸出価格は過去10年間に年率2.5%の上昇を示し,41年にも1.9%上昇した。これに対しわが国の価格は年率0.5%の低下を示し,41年にも0.4%低下した。この結果,価格競争力(主要工業国の工業品輸出価格÷日本の工業品輸出価格)は41年に2.4%上昇した。しかもこの価格競争力の強化は 第1-3表 にみられるように,稼働率の上昇に伴う生産性の急上昇に支えられていた。41年の場合,生産性の上昇率は38年を上回つていたが,賃金上昇率が高かつたため,賃金費用低下は38年ほどではなかつたが,昨年後半からの生産性上昇率の高まりはめざましく賃金費用も加速度的に低下している。

第2は,輸出構造の高度化の進展である。言うまでもなく,海外の輸入需要の伸びは重化学工業品,とくに機械で高いが,37年度に50%にとどまつていた重化学工業品の比重は40年度には62%に達しており,機械も29%から36%に上昇していた。近年船舶とならんでわが国の輸出拡大をリードしてきた鉄鋼は,41年度に旺盛な内需と海外需要の伸び悩みから,かえつて減少したが, 第1-4表 にみられるように,機械はひきつづき根強い増勢を示した。

第1-3表 主要工業国の生産性,賃金,労働費用の推移

第1-4表 商品別輸出

第3は,アメリカを中心として海外の輸入需要が大きく伸びたことだ。1961年2月以来力強い成長をつづけてきたアメリカは,昨年も国防支出の急増と活発な設備投資に支えられて拡大をつづけた。4~6月には自動車販売の急減,建設活動の停滞から増勢の鈍化をみたが,以後立直りをみせ,10~12月には在庫投資の著増もあつて,66年全体としては65年に近い上昇を示した。これに対し西欧では,西ドイツとイギリスの景気が上期の停滞から下期には下降に向かつたため,フランスやイタリアの上昇が打ち消され,全体として成長率は鈍化した。この結果,西欧の輸入は最近5年間(35~40年)の成長率を下回る伸びにとどまつたが,アメリカの需要は,輸入依存度の高い個人消費や設備投資で伸びたため,その輸入増加率も 第1-5表 にみられるように,最近5年間の成長率の2.6倍ものスピードで伸びた。

第1-5表 世界の地域別輸入増加率

第1-6表 地域別輸出動向

一方,発展途上国の輸出は,非鉄金属の価格上昇もあつて急増し,概して輸入の伸びも高かつた。とくに東南アジアのベトナムおよび同近隣諸国はアメリカの膨大な軍事支出の恩恵を受け,外貨準備の著増と輸入増を同時に実現することができた。

わが国の2大輸出市場におけるこのような旺盛な輸入需要は,わが国の輸出に好影響を与えずにはおかなかつた。41年における対米および東南アジア向け輸出が2割も伸びたのは,このような旺盛な輸入需要があつたためである。

(二) 輸出弾性値の低下

41年度の輸出は上述のような理由から順調な伸びを保つことができた。しかし 第1-5表 にみられるように,世界の輸入(日本,共産圏を除く)が1%伸びた時に日本の輸出が何%伸びたかを示す輸出弾性値は過去5年間においては1.85にも達していたが,41年には1.21と38年の1.33をも下回つた。しかも,41年の海外需要は,わが国の輸出に占める比重の大きいアメリカと東南アジアの伸びが高かつたので,わが国の市場別輸出構成を考慮すると,世界の輸入の伸びは11.3%に達することになり,この場合,わが国の輸出弾性値は1.02に低下することになる。このような弾性値の低下には,つぎのような理由があつたとみられる。

第1は,アメリカの輸入の伸びが,日本の対米輸出商品構成を考慮すると,むしろ40年より低下していることである。41年におけるわが国の輸出弾性値は, 第1-5表 にみられるように,西欧,アジア,ラテンアメリカを除けば過去5年間の平均を下回つているが,とくに市場の重要性や弾性値の下がり具合からみて,全体としての弾性値を引き下げたのはアメリカにあるとみられる。アメリカの輸入は,全体としてみれば,41年には前年の14%増から2割増ヘと増加率が約4割上昇しているが,日本からの商品別輸出構成を考慮してみると,40年の27%増から41年の22%増ヘ増加率の低下がみられる。これはわが国の対米輸出にとつて重要な地位を占める鉄鋼に対するアメリカの輸入の伸びが,40年の57%から41年の6%へ著減するなど,日本にとつて,商品構成を考慮すると,41年のアメリカの輸入は前年ほど有利な動きを示さなかつたためである

第2は,景気の上昇によつて,わが国の供給余力が急速に低下したことである。

第1-3図 日本の工業品輸出関連指標

輸出のための供給余力の指標として,国内向け出荷で生産能力を除した指数を用いると, 第1-3図 にみられるように,前2回の景気上昇期より速いペースで供給余力が減退しているのがわかる。ちなみに,景気の底から5四半期間における供給余力の減退速度をみると,四半期ベースで前々回が2.1%,前回1.6%であつたのに対し,今回は2.2%に達している。

このような理由から,41年度におけるわが国の輸出は弾性値の著しい低下をみたが,前述したように,むしろ順調な伸びを示した。しかし,四半期別に前期比の推移を季節修正値でみると,41年4~6月1.5%増,7~9月4.1%増,10~12月6.8%増,42年1~3月4,3%減となつており,順調な伸びを示したのは41年中であつた。42年にはいつてからの減少は,本報告第1部の「国際収支の均衡」に述べられているような理由から起こつていると思われるが,とくに問題なのはアメリカの輸入需要の停滞である。しかしこの停滞も,昨年10~12月に活発に行なわれた在庫投資の調整が大きく響いているようだ。最近消費にも一時より明るさがみられるようになつており,国防支出もさらにふえそうなので,今後のアメリカ経済はゆるやかながら上昇をつづけていく見込みが強い。また発展途上国,とくに東南アジアではベトナム戦争の影響もあつて外貨準備が増大しており,昨年以上に輸入が伸びそうだ。一方,わが国の供給余力は活発な設備投資によつて,やがて減退傾向がとまる見込みもあるし,わが国の輸出はやがて反発していくことが期待される。

(3) 輸  入

(一) 輸入の増大

41年度の輸入通関額ははじめて100億ドルの大台に乗つて10,013百万ドルとなり,前年度比19.0%増と,39,40年度の10%以下の伸びはもとより,30~40年度の平均増加率12.0%をも大幅に上回る高い伸びを示した。四半期別の推移をみると,41年7~9月に食料品の輸入が集中したため,前期比6.9%増と急増したが,10~12月5.8%増,42年1~3月4.3%増と,増勢はやや鈍化してきている。

輸入増加の内訳を品目別にみると,金属原料,原油などを中心とする素原材料が17.2%増加して,輸入増加に対する寄与率も45%に達したほか,銑鉄,銅地金など製品原材料も28.8%と高い増加率を示し,この2つだけで輸入増加の7割を占めた。また木材の38.7%増,食料品の11.6%増,消費財の20.1%増のように,景気の影響の少ない商品の増加も目立ち,これらの輸入増加寄与率は26%となつた。一方昨年度大幅に減少した資本財の輸入も12.3%増加し,輸入増加の6%はこのためだつた( 第1-7表 )。

第1-7表 輸入増大の内容

(二) 輸入増加の内容

41年度の輸入増大は第1に生産上昇に伴う原材料輪入の増大によるものだつた。鉱工業生産は40年10月を底に回復に転じ,41年度中速いテンポで上昇をつづけ,前年度比15.9%の増加となつた。また鉄鋼業,石油製品工業など輸入素原材料を多く使用する輸入関連工業の生産は,鉱工業生産とほぼ等しい16.0%の増加を示した。輸入素原材料消費の変動は,主として輸入関連工業の生産の変動と,1単位の生産に必要な輸入素原材料の消費量,すなわち原単位の変化によつて生ずるが,41年度には原単位の低下がみられたものの,輸入関連工業生産が増加したため,輸入素原材料消費は実質で14.2%増加した。

第1-4図 輸入素原材料の消費と在庫投資

輸入素原材料消費の増勢がつよまると,必要な在庫水準を保つため,在庫投資が増加する。今回は41年1~3月から在庫投資の増大が目立つようになり,年度間では約9割増加したが在庫率は前年度とほぼ同水準にとどまつており,在庫投資の増大は消費増に見合つたものだつた( 第1-4図 )。

また生産が上昇して稼動率が上がつてきたため,国内生産能力の不足を補う限界供給者的性格をもつ製品原材料輸入が急増した。とくに鉄鋼生産の急上昇に伴う銑鉄の輸入増加が著しかつた。

第2は木材,食料品,消費財のように,景気にあまり影響されずに年々ふえつづけている商品の輸入が,41年度も大幅に増加したことである。

第1-8表 食料品,消費財の輸入

木材輸入の増大は,国内林業生産が36年以降停滞しているため,需要増加量の大部分を輸入増加でまかなわなければならないからである。41年には製材用6.1%増,パルプ用7.8%増を中心に素材需要は7.5%増加したが,国内生産は3%の増加にとどまつたため,需要増加量の約7割を外材輸入増に依存した。

また個人所得水準の上昇に伴い,食料品,消費財の輸入増加も,貿易自由化の進展を反映して35年以降顕著になつてきた。消費支出の増加とともに消費パターンも変化して,輸入依存度の高い動物性食品や高級消費財の需要が増大したためである( 第1-8表 )。 第1-9表 で個人消費支出の輸入誘発係数をみると,41年は38年にくらべ1ポイント上昇しており,総需要の輸入誘発係数の0.5ポイント上昇より上昇テンポは速い。

第3は設備投資の回復に伴つて資本財輸入が増勢に転じたことである。資本財輸入は設備投資の増勢が37年以降鈍化したこと,機械工業の技術進歩と供給能力増大によつて機械の自給率が高まつたこと,などを反映して38年以降頭打ちないし減少を示したが,41年1~3月から設備投資が増勢に転じたため,電子計算機など新しい技術に関連した機種を中心に,再び増加が目立つてきた( 第1-10表 )。

第1-9表 最終需要と輸入

第1-10表 機械輸入の増加内容

(三) 今回の輪入増大の特徴

さきにみたように41年度の輸入は19.0%増と,過去の平均を上回る伸びを示したが,前回の景気上昇期である38年度の28.9%増と比較すれば穏やかな増加だつた。輸入価格変動の影響を除去して実質でみても,38年度の25.3%増に対し41年度は19.9%増とやはり増加率は低下している。一方鉱工業生産とGNPの伸びをみると,鉱工業生産が38年度の15.3%から41年度の15.9%へ,GNP(実質)が38年の7.7%から41年の9.7%へ,それぞれ輸入とは逆に増加率が高まつている。

第1-11表 輸入素原材料消費原単位の変化

41年度の輸入増加が鉱工業生産やGNPの伸びのわりに穏やかだつたおもな理由は3つある。

第1は輸入素原材料消費の鉱工業生産に対する弾性値が低下したことである。輸入素原材料消費の弾性値は38年度の1.18から41年度の0.90に低下をみた。輸入素原材料消費の伸びが鉱工業生産の伸びを下回つたのは,景気上昇期としては今回がはじめての現象である。

38年度との比較で弾性値低下の原因をみると,①輸入関連工業生産の伸びが41年度は16.0%で,38年度の16.7%より若干低かつたことがあげられる。これは輸入関連工業の中でもつとも比重の高い鉄鋼,石油製品,繊維の3業種のうち,鉄鋼,繊維はやや上昇したが石油製品が24%から17%ヘ低下したためである。②輸入素原材料消費の原単位が38年度には前年より約1%上昇したのに対して,41年度は約2%低下したことで,弾性値の低下の主因はここにあつた。輸入素原材料消費原単位は, 第1-11表 にみられるように,国産分を含めた素原材料全体の消費原単位と輸入依存率の動きによつて変化する。41年度には,従来と同様に,技術進歩を主因とする素原材料消費原単位の低下と,国内資源の制約による輸入依存率の上昇がみられたが,素原材料消費原単位の低下が輸入依存率上昇より大きかつたため,輸入素原材料の消費原単位が低下したのである。業種別にみると繊維工業で著しい素原材料消費原単位の低下があり,鉄鋼業では輸入依存率の低下がみられた。輸入素材料消費原単位の低下にもつとも寄与したのは繊維工業,ついで鉄鋼業だつた( 第1-11表 )。

41年度の輸入増加が比較的穏やかだつた第2の理由は,輸入素原材料在庫投資の増加が41年度は74百万ドルで,38年度の199百万ドル(いずれも前年価格による)の4割弱にとどまつたことである。これは在庫率が傾向的に低落していることのほか,40年の景気調整期に輸入関連工業生産が堅調に推移したこともあつて,前回の37年にみられたような在庫べらしがなく,逆に若干の積み増しが行なわれたことなどによるものである。このように輸入素原材料在庫投資の変動が小幅になつてきたため,輸入は安定化の傾向をみせてきた。 第1-12表 で,輸入の上昇率からのかい離の相対的大きさをあらわす変動係数をみると,30~34年9.6%,34~38年6.6%,38~41年3.3%と時を追つて縮小している。

第1-12表 輸入の実質上昇率と変動係数

第3に最終需要増加額に占める設備投資の比重が41年は38年とくらべて著増したのに,機械の自給率上昇のため,設備投資の輸入誘発額が比較的少なかつたことも,今回の輸入増加を前回とくらべて穏やかなものにした一因である。38年に設備投資は減少したが,その輸入誘発額は逆に増加した。これに対して41年には設備投資は増加したが,その限界輸入誘発係数は38年の総需要のそれと比較しても,41年の総需要のそれと比較しても低い( 第1-9表 )。

このように41年度の輸入増加は38年度とくらべれば穏やかだつたが,設備投資の増勢を軸に景気は持続的上昇の過程をたどつており,鉱工業生産やGNPの伸びは前回とくらべても高いので,輸入は今後とも根づよい増加をつづけていくことは間違いない。

(4) 資本収支

(一) 長期資本収支の赤字幅さらに拡大

40年度に赤字となつた長期資本収支は,41年度には赤字幅がさらに拡大した。それは37年度以降増大しつつあつた本邦資本の流出超過が一段と大きくなつたことと,40年度にそれまでの流入超過から流出超過へと転じた外国資本が41年度に赤字幅をさらに拡大した結果であつた。

第1-13表 長期資本収支

第1-14表 延払輸出の内訳

まずはじめに本邦資本についてみると,41年度における赤字幅拡大は,そのほとんど大部分がわが国の輸出に伴う延払信用供与額の増大によるものであり,延払信用だけで本邦資本の流出超過額全体の63%を占めた。また借款は40年度に飛躍的に増加したあと,41年度は横ばいにとどまつたが延払信用につぐ流出超過額を示した。

本邦資本の流出超過額は延払信用と借款を中心に近年急速に増大してきているが,それにはつぎのような事情が働らいている。

第1は,わが国の輸出が増大したこと,とくに,重工業品輸出が増大したことである。それに伴つて輸入国に対するわが国からの延払信用供与額は急速に増大してきた。41年における延払輸出の品目別内訳をみると,機械機器の占める割合が全体の91%と圧倒的に大きく,とくに船舶だけで全体の67%に達する。機械機器はわが国の輸出の伸びがとくに大きな品目であり,それにつれて延払信用の供与額も増大するわけだ。

第1-5図 発展途上国に対する経済協力

本邦資本の流出増大の第2の理由は,わが国の発展途上国に対する経済協力が進んだことである。政府ベースの信用供与による経済協力額をみると 第1-5図 の通りだが,それは40年以後大きくふえている。その内容をみると,国際機関に対する出資もふえているが,増加のほとんど大部分が直接借款(これはわが国が発展途上国に対して直接供与する円借款であり,わが国からの輸入商品の代金決済に当てられる)となつている。

このようにわが国の重工業品の輸出の増大と経済協力の進展が本邦資本の流出超過額増大の原因であるので,このような傾向は今後も持続するであろう。

つぎに外国資本についてみると,41年度は外債発行が全くなかつたことと,借款と延払信用の返済額が増大したことが,外国資本全体の赤字幅拡大の主因であつた。

外債が年度間を通じて全く発行されなかつたことは,34年度以来7年ぶりのことであつた。当初,わが国の政府は41年度財政投融資計画の財源として国債・政府保証債合わせて75百万ドルの発行を予定していた。しかしながら,海外資本市場,とくにアメリカ資本市場のひつ迫によつて,これらの発行を断念せざるをえなかつた。

外債発行が全くなかつたことを別とすれば,その他の形態での外国資本の流入は,借款や証券投資のように40年度にくらべて増加するか,延払信用や直接投資(直接投資は流入マイナス流出,すなわち流入超過額だけが明らかにされている)のように40年度にくらべて減少したけれども,減少幅はわずかに5百万ドル程度にとどまつていた。そして,40年度から41年度にかけて,国内的には金融の緩慢な状態がつづいたこと,海外ではアメリカのドル防衛が強化されたり金融が世界的にひつ迫したことを考えれば,当面は外国資本の流入が40~41年度の水準から大きく減少することはないということができるであろう。

外国資本の流出超過額拡大のもうひとつの理由は借款と延払信用の返済額が増大したことである。借款については 第1-6図 に示すように,38年度から39年度にかけて,アメリカの金利平衡税創設の影響で,期間3年以下の借入金が急増した。そしてそれらの返済が40年度に急増したが,41年度にはさらに多くなつた。通常それらは借入期限内に分割して返済されるが,38年度に借入れたものは41年度中に返済が終つたと考えられるので,それらの返済も41年度でほぼピークに達したものと判断される。

第1-6図 借入金の期間別内訳と返済額の推移

以上のように赤字幅の拡大した長期資本収支が,総合収支にどのような影響を与えたであろうか。この問題を考えるために,長期資本取引をつぎの3つに分類しよう( 第1-7図 )。

第1は,延払信用や円借款の供与のように,わが国の輸出に伴うものである。この場合,本邦資本の流出と延払等の輸出は表裏の関係にあるので,総合収支に対しては直接的な影響を与えない。同様に,延払信用やタイド・ローンの享受は,それと同時に輸入が増大するので,総合収支に対してやはり中立的である。わが国の場合,このような貿易信用の供与額がその享受額を大きく越えており,しかもその差はますます拡がる傾向にある。しかし,それは同時に貿易収支の黒字となつて現われているので,総合収支に対して直接的な影響を与えていないわけだ。これを実物形態での資本取引と呼ぼう。

第1-7図 長期資本収支の内訳

第2に,このような貿易信用の回収および返済は差引き流入超過であり,しかも年々それは増大する傾向にある。そして,それは総合収支に対すしてプラスの効果を与える。

第3に,貿易信用の流出入を除いた長期資本の動きをみると,本邦資本では赤字幅の著しい拡大傾向はなく,外国資本でも,前述のようにインパクト・ローンの返済がピークに達したと考えられるので,今後それほど赤字幅が拡大することはないであろう。第3の分類に属する資本取引は第2分類のそれと同じように総合収支に対して直接的な影響を与える(つまり外貨の流出入を伴う)ので,これらを合わせて貨幣形態での資本取引と呼ぶことができる。

第1-8図 内外金利の推移

41年度の長期資本収支は,40年度にくらべて,283百万ドル赤字幅が拡大したが,その内訳は貨幣形態の資本取引が44百万ドル,実物形態での資本取引が239百万ドルであつた。このように長期資本の赤字幅拡大が実物形態での資本取引を中心としているかぎりは,赤字幅拡大がそのまま国際収支の不均衡につながる危険は小さいであろう。

第1-15表 外国為替公認銀行対外短期資産負債残高

(二) 海外金利の高騰と金融勘定

第1-9図 米英の銀行に対するわが国の短期債務残高

41年度は総合収支が58百万ドルの黒字であつたにもかかわらず,外貨準備は逆に32百万ドル減少した。為銀部門のポジション改善が総合収支の黒字幅よりも大きかつたからである。しかしながら,このようなポジション改善は41年末までに生じたことであり,42年にはいると逆に悪化した。

41年における為銀部門のポジション改善はつぎのような理由によつてもたらされたものであつた。

第1は,海外金利の高騰により,輸入ユーザンス等の貿易関連借入れや自由円預金が減少したことである。

第2は,輸出の増大により,輸出ユーザンス等の対外信用供与残高が増加したことである。

一方,輸入ユーザンス等を除いた外貨建負債は,41年中も増加した。これは 第1-9図 のようにユーロ・ダラーの流入によるものである。そして,この背景には,輸入ユーザンス金利は国内金利を上回つたけれども,ユーロ・ダラー金利はそこまでは至らなかつたという事情が働いていた。

ところが,42年にはいると,海外金利は低下し,輸出は不振となつた。そのために為銀部門のポジションは大きく悪化したけれども,そのことが,総合収支の赤字にもかかわらず,外貨準備をわずかながら増加させた。


[目次] [年次リスト]