昭和42年

年次経済報告

能率と福祉の向上

経済企画庁


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第2部 経済社会の能率と福祉

4. 財政金融の役割

(2) 財政による社会資本の充実

政府活動を集中的に表現する財政がその収入および支出の両面を通じて果している役割は,大別すると,第1は社会資本の充実など公共部門への資源の配分あるいは公共サービスの提供であり,かつ社会保障の拡充など社会的公正の見地から行なわれる所得の再配分である。その第2は,民間経済活動の行きすぎや委縮を,主として有効需要水準の操作によつて調節し,経済変動の安定をはかることである。

以下では,政府の直接的な資源配分機能と最近拡充がみられる政府企業および間接的な配分機能として営まれる政府金融機関の融資について検討しよう。

政府による公共サービスの提供は,経常的支出の形をとるものと,社会的基礎施設の建設維持という資本的支出の形をとるものとがある。そのいずれもが,それぞれ重要な役割をもつことはいうまでもない。ただ,現在の日本経済では,民間経済部門のいちじるしい躍進により,とくに資本的支出による公共サービス提供の立ち遅れが目立つている。したがつて以下では,こうした社会資本の充実の問題を中心に財政の役割をみてみよう。

国民総支出の中で一般政府の財政支出の割合を最近10年間の平均でみると,欧米先進国では約3割前後であるが日本のそれは約2割にとどまつている。しかし,政府の固定資本形成は財政支出全体の約4割ときわめて高い割合を占めている。

そして,この高率の資本形成によつて社会資本のストツクは,ここ数年年率10%強の高いテンポで拡充されてきている( 第72図 )。それにもかかわらず,道路が狭いとか通勤が混雑するとかいつた社会資本不足の声がたえないのはなぜだろうか。それは,①日本では社会資本がもともと低水準であつたうえ,高度成長の過程で民間資本が急激に伸び社会資本との間に相対的なアンバランスを生じたこと( 第72図 ),②そのアンバランスも,関東臨海,近畿臨海,東海といつた民間資本の伸びも大きく,人口の集中も高い所で激しくおこつていること( 第73図 )。③物価,とくに地価の上昇で前にものべたように折角巨額の資本投下をしても実質的な社会資本の充実が減殺されていること,などのためである。

政府による社会資本の充実は,さまざまの形で行なわれているが,大別すればひとつは,中央政府,地方公共団体による公共投資である。たとえば中央政府の一般会計における国土保全開発費の構成比,伸び率は非常に高く( 第80表 ),また一般政府の固定資本形成の伸びもきわめて高い( 第74図 )。

いまひとつは,各種の公社公団,それに地方公営企業といつた政府企業によつて行なわれるものである。この10年間に,政府企業の資本形成の伸びは6倍と,国民総生産の3.6倍,財政支出の4.3倍を大幅に上回つており( 第74図 ),政府固定資本形成中の割合も30年度の37%から40年度の40%へと上昇している。

このような政府企業投資の産業別分布状況をみると, 第75図 に示すように,運輸・通信業でのウエイトが55%と一番高く,これに建設,公益事業がつづき,製造業ではきわめて低い。このようなわが国における政府企業のあり方は鉄道,電話も民営であるアメリカ型と,政府が民間の経済活動分野に直接乗り出している英仏型のいわば中間的なものといえよう。

では社会資本を充足すれば経済活動にどのような好影響をもたらすであろうか。

いま生産活動にきわめて関連深い交通通信ストツクをとり,製造業の資本ストツクとの関連において生産額に対する影響を測定してみると 第81表 のようになる。すなわち,製造業の資本ストツク(Kp)の限界生産力は,30年にくらべ34年には大きく上昇し,38年にはかなりの低下をみているのに対し,交通通信ストツク(Kg)のそれは,社会資本の相対的立ち遅れが顕在化するにつれて次第に高まつてきている。したがつて今後交通通信ストツクなど社会資本を充実すれば,混雑も緩和されひいては多くの面において好影響を及ぼすことが期待されよう。

このような政府企業の財務状況は,どのようになつているか。政府企業の担当する分野は,一般に巨大な固定資本を必要とし,その懐妊期間(資本が投下されてから効果を生み出すにいたるまでの期間)も長い。そのため,固定資産回転率したがつて総資本回転率が民間企業にくらべて低く,そのため総資本粗利潤率がきわめて低い( 第76図 )。政府企業の財務状況は,37年度以降悪化しているが,とりわけ,39年度以降は相対的に借入利率の高い民間資金への依存を強めつつその投資活動を活発化させたこともあつて,資本費用が増大し,純利益の減少を来している。

均衡財政の方針下にあつた一般会計では民間資金の活用は不可能であつたから,政府企業が,政保債発行などによつて民間資金を活用し,社会資本充実を行なつてきたことには大きな意義があつた。しかし,それが資本費用を増大させ上記のように財務状況が悪化している。

もともと政府企業は,公共の利益を追求することを第1の目的としており,その公益性と採算性は両立しがたい面がある。しかしそれが収益と費用を対応させる独立採算制をとり入れて運営されているのは,ひとつには,公正の見地からその提供する公共サービスによつて利益をうける者が費用を負担するという受益者負担の原則によるものである。そしていまひとつには,民間の企業活動の場合と同様,企業体として効率化を追求していくためであるといえよう。したがつて今後の運営にあたつては,政府企業の公共性,独占性に対するコントロールという側面と,できる限り価格メカニズムをとり入れて合理性を高めるという側面との両立をはかつていくことが必要であろう。

もつとも公共サービスに対する社会的需要が増大し,複雑化してくると,上記のようなかたちだけでは解決が困難な面が生じてくる。たとえば地下鉄などの路線拡張などは,場合によつてはきわめて多額の資本投下を必要とし,受益者負担の原則を貫けば料金がかなり高くなり,政保債の発行や民間資金の借入に依存していればそれが一方的に増加して,資本費用の大幅増を招くといつた問題を生じ易い。このように本来民間企業ベースにのることはもとより,政府企業のベースによつても解決しえないものが次第に増えてきているので,こうした問題との調整も今後の一つの課題であろう。

つぎに間接的な資源配分機能として営まれる政府金融機関の融資についてみよう。このような政府の金融活動は,郵便貯金,簡易保険などの民間の貯蓄や公募債,借入金などによつて調達した資金を原資として,これを民間に融資するもので,資源の再配分を通じて,経済活動の効率化を図る有力な一つの手段である。

第77図 政府資金と民間資金の中に占める業種別設備資金新規供給の比重

政府金融機関の融資は30年代を通じてその規模を拡大してきたが,基幹産業に対する融資のウエイトは,34年以降顕著に低下し,反面輸出振興のための融資が漸増した。また中小企業,農業など低生産性部門向け融資のウエイトは,ほぼ一貫して増大してきた。

では,政府金融機関を通ずる融資はどのような特色と効率をもつているか,金融仲介機関として政府が存在することによつて民間金融機関が仲介する場合とどのような相違があるかをみてみよう。

まず,どのような業種に重点をおいているかをみると( 第77図 ),①成長業種(鉄鋼,化学,機械など)グループに対しては,民間金融機関が重点的に設備資金を配分しているのに対して,低生産性業種(農林水産)ないし不況業種(石炭など)グループに対しては,政府金融機関が重点的に資金を配分していること,②産業基盤関連業種(電力,運輸など)に対しても,政府金融機関による資金配分のウエイトが民間金融機関のそれよりも若干高いこと,などがその特色としてあげられよう。

このほか,地域開発,都市再開発,新技術の開発など比較的民間金融機関になじみにくい新分野への資金供給が増加傾向を示している。さらに,政府金融機関の融資は政策目的に応じて長期,低利のものとなつていることなどが大きな特色といえよう。

以上のように,政府金融機関による融資は,かつての生産隘路打開のための「量的補完」から,経済全体の効率化と社会開発を目指して,民間金融機関の資金がつきにくいものに対する「質的補完」へとその重点を移してきているといえよう。