昭和42年

年次経済報告

能率と福祉の向上

経済企画庁


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第2部 経済社会の能率と福祉

2. 高能率経済の原動力

(1) 技術進歩と競争

(一) 技術進歩の実現

さきにのべたように,日本経済の労働生産性の伸びはめざましかつた。

第45表 に示すように,30~41年の製造業の労働生産性の伸びは年平均9.4%であつた。この生産性の伸びのうち,就業者1人当りの資本ストツク,すなわち資本装備率の上昇による部分が5.2%(寄与率56%)で,4.1%(寄与率44%)は主に技術進歩によつてもたらされたものであつた。

日本の技術進歩率が高かつたのはなぜであろうか。その第1は,先進国とくにアメリカからの技術導入が容易であつたことである。戦後の日本の技術革新は,先進国ですでに戦前戦時中に開発された技術と,先進国においても戦後になつてから開発された技術とが同時に開花した二重の技術革新といわれている。昭和31年ごろの時点をとると,導入技術の48%はすでに戦前戦時中に工業化されたものであつた( 第46表 )。したがつて,先進国からの技術はきわめて容易に導入することができた。38年における各国の導入技術の対価支払額を33年のそれと比較すると,フランス1.9倍,西ドイツ1.5倍に対して,わが国のそれは3倍ととびぬけて高いテンポを示し,急速な追いあげ(キャッチ・アップ)をおこなつている。しかも,技術導入に依存したため開発コストがさしてかからず,また研究・実験段階を省略することによつて短期間に工業化することができた。

第2は,わが国の技術開発能力がすぐれていたことである。日本は独創的な自主技術の開発こそ数多くはないが,日本の海外技術導入はたんなる模倣でなかつた。導入されたものを十分に消化する能力があつただけでなく,それを改良し,レベルアツプする能力がすぐれていた。すなわち,この時期においてはわが国の技術開発能力は消化・吸収する能力として開花した。たとえば,ある民間研究所の調査によれば,昭和29~39年間に成長率が高く,技術革新が重要なものとなつている68商品のうち,ほとんどが技術導入ののち,国内での改良を行なつており,国内改良をしない技術導入によるものはわずか8商品にしかすぎなかつた。このような技術開発能力の優秀さは高水準の教育によつて養われたもので,研究者数をみても,30年当時ですでに現在の西ヨーロツパ諸国に匹敵し,38年にはイギリス,西ドイツの合計を上回つている( 第39図 )。

第3は,わが国の市場条件が技術導入についてきわめて競争的で,技術進歩の刺激になつたことである。たとえば,鉱工業の売上高上位50社について,技術導入および設備投資の集中度をみると,34年度までは上昇傾向にあつたが,そのあとは反転して下降傾向を示している( 第40図 )。これは上位企業が導入するにたる海外技術が少なくなつてきたことにもよるが,新技術が独占されず,あとから登場してきた企業(後発メーカー)によつてすぐ追いつかれたからであつて,技術進歩の波及の仕方が非常にはやかつたということができる。

第4は,市場が大きく,その拡大のテンポが速かつたことである。新製品や新工程の展開には,1億の人口を有する大きな国内市場の存在は有利な条件であつた。加えて,終戦後の諸制度の改革によつて所得の平準化が進んだことと所得の高い成長は技術進歩にとつて大きく寄与した。さらに最近は,100億ドルを越す輸出が安定的な市場になつてきたことも見のがせない。

以上のような事情で,これまでの技術進歩は早かつたが,最近はその要因の第1である海外技術の導入が次第に困難になつてきた。

技術導入件数(甲種)は,38年度の564件以降40年度472件にまで減少したが,41年度には601件と増加した。しかし,その内容は30年代とくらべて違つてきた。第1に導入技術のうち日本にとつて全く新しい技術が減り,すでに導入実績のあるものの割合が増加してきている。全導入件数に占める前者の割合は,36年度の70%から,41年には33%に低下している( 第41図 )。第2に,導入技術が小型化したことである。技術のスケールを測定するのはむずかしいが,一応設備投資規模を目安としてみると,最近の導入技術は大規模の設備投資を伴う大型のものが減つてきている( 第42図 )。

これらの変化は,日本の技術水準の先進国水準へのキヤツチ・アツプが進み,技術進歩の源流を海外に依存することがむずかしくなつてきたことをあらわしている。わが国が革新的なものとして海外からの導入をのぞむ技術の多くは供与国にとつても最先端技術であるという段階にきている。その結果,導入に際して資本参加,製品販売地域の限定,技術交換(クロス・ライセンス)などの条件をつけられる事例がふえてきている。

したがつて,今後高い技術進歩をつづけるためには,独自の技術開発力を強化し,自主技術をますます多く生み出す必要がある。自主技術の開発は,それ自体技術進歩をもたらすとともに,技術交換を通じて海外のすぐれた技術を容易に導入させうる効果をもつている。

現在,自主技術の研究開発力はまだ欧米諸国と格段の差がある。それは技術輸出入比率(技術輸入に対する技術輸出の割合)にあらわれており,アメリカの9倍はもとより,ヨーロツパの30~50%にくらべ日本は8%という低さである。

幸い,日本の自主技術開発力は水準は低いが,技術輸出の急増,その先進国向け比率の高まりにもみられるように,急速に向上している。工業所有権の出願件数も国際的にてみて目立つて増加してきている( 第43図 )。

今後研究開発体制を整備し,わが国の自主技術開発力を向上させれば,日本はひきつづき高能率経済にむかつて前進することができよう。

(二) 規模の経済と能率

製造業の生産性(名目付加価値生産性)は32~39年で約2倍になつた。その要因として,工場の規模の拡大による「工場規模の経済」が発揮されたことを見のがすことはできない。

工場規模の拡大を上位20工場平均の名目付加価値でみると,製造業全体では32年の1工場当り186百万円から39年には493百万円ヘ増大した。業種別にみれば,すべての産業で工場規模の拡大がみられたが,とくに自動車(4.3倍),ラジオ・テレビ受信機(5.6倍),合成樹脂(5.4倍)などが大きかつた( 第47表 )。

産業の中には,工場規模が大きくなればなるほど明らかに生産性の上昇がみられるものと,そうでないものがある。いまかりに,工業統計表によつて事業所規模が大きくなるほど付加価値労働生産性も高まつていると認められる業種を“規模の利益が認められた業種”とし,これ以外の業種を“その他業種”として分類すれば( 第48表 ),前者には合成繊維,石油精製,自動車,鉄鋼など重化学工業的なものが多く含まれ,全業種のほぼ3分の1を占める。これらの業種の工場規模(上位20工場平均名目付加価値)は32年に1工場当り466百万円で39年には1,127百万円とこの間に2.4倍となつた。32~39年に製造業の生産性が上昇したうち“規模の利益が認められた業種”の上昇寄与率は70%ときわめて大きかつた。これは,この分野で労働力が増加したことにもよるが,生産性の上昇によるところがきわめて大きかつた。このことから「規模の経済」の発揮が生産性上昇に重要な役割を果たしたことがうかがわれる。

30年代を通じて,日本の工場規模は急速に大きくなつたが,アメリカと比較するとまだ全般的に規模が小さい。上位20工場の従業員規模でみると,造船,有線通信機器,合成繊維,紡績などアメリカ並みの工場規模に達している業種もかなりあるが,製造業全体ではアメリカを100として54.8とまだ小さい。また,工場規模を上位20工場の平均出荷額でみると製造業全体でアメリカの25.3と格差はさらに拡がる( 第49表 )。

第44図 従業者規模による工場効率の日米比較

いまかりに,工場規模が工場効率の水準を示す目安であり,かつ,アメリカでは各々の業種に属している従業者の7割以上が“かなり効率のよい工場”で働いているとしよう。そうすると,日本では“かなり効率のよい工場”で7割以上の従業者が働いている業種の数は,比較した274業種のうちの3分の1である90業種にすぎない。つぎに,上位20工場が製造業全体に占める従業者の占有率をみると,日本の28%に対し,アメリカは33%となつており,占有率の高い業種もアメリカが多い。

このような工場規模および工場効率の全般的な立ち遅れを反映して,日米の生産性格差はまだ大きいが( 第45図 ),その格差からみてつぎのことがいえよう。

その第1は,軽工業を中心とする“その他業種”の方が,生産性の格差は大きい。これは,日本でこれら部門での市場が小さく,「規模の経済」を十分発揮しえていない部門もあるからである。事実,日本では“その他業種”でも,アメリカでは明らかに規模の利益が認められる業種がかなりある。たとえば,水産缶詰加工,野菜缶詰加工,その他の木製品工業などであるが,これは原料の確保,流通のちがい,市場の大きさのちがいによるものと思われる。

第2は,重化学工業を中心とした“規模の利益が認められた業種”でも上位工場はかなり,キヤツチ・アツプは進んでいるが,下位工場の格差は大きく,工場の近代化が末端まで十分に行きわたつていない。

今後,製造業全体の生産性をたかめるためには,立ち遅れの著しい分野の生産性を引き上げていくとともに,工場規模の拡大によつて効率化の可能な産業では,競争体制の中で,工場規模の拡大を通じて生産性を高めていくことが必要である。

(三) 競争と能率

戦後の制度的諸改革によつて,日本経済には戦前・戦時中にくらべ競争的基盤がつくられ,高い経済成長に寄与してきた。競争は技術進歩を促し,コストを引き下げ,資源の有効な配分を保証する重要な働きをするからである。

民間の経済活動の分野では,30年代を通じ日本経済はどういう競争条件下にあつたであろうか。それを評価する第1の尺度は,市場での生産集中の度合である。いま主要商品75品目について,上位10社が全体に占める割合(集中度)をみると,30品目が100%,31品目が75~99%で高い集中度を示している。また日本の生産集中度を先進諸国とくらべると,上位3社をとる場合,ほぼ先進国並みの水準にある( 第46図 )。なお,資本の集中という点でみると,38年度末総企業549万のうち,上位100企業の資本集中度は39.4%その傘下系列企業を含むと,53.2%であつた。

第50表 関税負担率の推移

第47図 生産の集中度と自己資本利益率

第2の尺度は市場の環境である。わが国の貿易自由化率は現在93%で非常に高いが,農産物など,なお自由化されていない品目もあるほか,高い関税障壁によつて保護されている( 第50表 )。

このような状況下では,とかく競争が十分に行なわれず,その結果技術進歩が停滞したり,生産性向上の成果が全体にいきわたらないという可能性をもつているが,実際はどうであつたか。その判定はきわめてむずかしいが,30年代を通じてみれば,集中度が高かつたとはいえ,かなり競争的であつたとみられる。

そのようにみられる理由の第1は,さきにのべたように,技術進歩率が高かつたことである。

第51表 卸売物価変動の国際比較

第48図 3社生産集中度の推移

第2は,生産集中度が高いほど利潤率も高いという関係があまりみられなかつたからである。49業種について,36年上期~40年下期間の自己資本利益率と生産集中度の間には,異なつた景気の局面においても,ほとんど相関がなかつた( 第47図 )。利潤率は産業の集中度よりも成長性により大きい相関をもつていた。

第3は,生産集中度が高いにもかかわらず,上位企業間において順位交代やシエア(市場占有率)が変動したからである。そして,上位3社だけの生産集中度はむしろ低下している( 第48図 )。

以上のように30年代を通じて,設備投資や技術進歩の面ではかなり競争的であつたと認められ,それは能率の向上に寄与したと考えられる。また価格競争の面でも30年代前半には,卸売物価の変動幅が他の先進国よりも大きかつたことからみて,競争的であつたといえるが,後半に入つてこの変動幅は小さくなつてきている。これは景気対策などの影響もあるが,不況克服などのための共同行為がふえていることにもあらわれている。

なお,製品の多様化傾向の中にあつて,広告宣伝技術の進歩や販売競争の激化は,一部には商標とかデザインとかによる商品の差別化を強めることによつて販売量を拡大しようとする面もあらわれ,消費者がこのような変化に対して十分に適応できないため,かえつて,実質的に選択の範囲が狭まる場合もでてきている。

今後は,本格的な開放体制を迎えて競争がますます激しくなる要因がある一方,規模の利益を追求するという観点から投資調整や合併など,競争をどちらかといえば弱める要因も出てきている。規模の利益の追求が,国際競争力を強化するために必要であり,その結果寡占化がさけられないとしても,有効競争を維持していくことは,消費者保護の上からも,また産業自体の効率を高めていく上からも必要なことだと考えられる。