昭和42年

年次経済報告

能率と福祉の向上

経済企画庁


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第1部 昭和41年度の日本経済

3. 台頭してきた設備投資

(4) 企業収益の回復

景気上昇過程で企業収益の改善はいちじるしく,それにもとづいて投資意欲がつよまつていることが42年度の設備投資の動きの第3の特色である。

41年度の企業収益(大企業・製造業)について何よりも特徴的なことは,上下2期連続してかなり大幅な増益決算がつづき,過去の不況時を下回る低水準に落ち込んでいた企業収益力も最近のピーク(38年度下期)に近い水準にまで回復してきたことである( 第17図 )。業種別にみると,鉄鋼,電気機械,非鉄金属製品,石油などの41年度下期の総資本収益率は38年度下期の水準を上回るに至つた。

特別償却などもかなり行われたことを考慮すると,収益力の実勢水準はかなり高くなつているとみてよいと思われる。

企業収益力の指標として総資本収益率をとつて,前回,前々回と比較しながら今回の景気上昇局面における上昇要因をみてみよう( 第9表 )。

今回の総資本収益率の上昇要因として,まず第1に,販売価格上昇の影響が大きいことが注目される。販売価格の上昇は,景気上昇局面にあらわれる循環的な収益好転要因であるが,今回の場合,企業が生産調整の撤廃に慎重な態度をとつたこと,41年以降需要の増大がかなり急テンポとなつたこと,などから販売価格(工業製品卸売物価)の上昇が著しかつた。

第2の上昇要因は,資本コストが大幅に低下したことである。ここ2~3年製造業の設備投資の沈静,老朽設備のスクラツプ化などによつて供給力(資本ストツク)の調整が進み,設備の生産性が上昇したこと,企業の借入依存度が久し振りに低下したこと,息の長い大幅な金利低下がみられたこと,などから資本コストは前2回にくらべ大幅に低下し,総資本収益率を引上げた。

第3に,40年ごろまですう勢的に悪化してきた総資本回転率がこのところ著しい改善を示していることである。今回の場合 第9表 にみるように,総資本収益率の上昇に対する寄与率も前2回にくらべて大きくなつている。その背景には,①企業間信用の増勢鈍化,企業の対公共部門売上げ比率の上昇等から売上債権回転率が大幅に改善したこと,②有形固定資産回転率もかなり大幅に改善したこと(前掲 第17図 ),③今回の場合,前回のように借り急ぎ,借り溜め等による手元流動性の積み増しがみられなかつたこと,その上,予想を上回る回収の好調を背景にして大企業では借入金の大口返済の動きがみられ,また,41年秋以降企業活動の活発化に伴つて手元流動性の取り崩しも進められ現預金回転率が改善したこと,の3点を指摘することができる。

第18図 製造業の有形固定資産回転率関連指標

有形固定資産回転率の改善要因についてやや詳細にみると( 第18図 ),これは製品価格上昇によるところも少なくないが,設備効率の改善による面がきわめて大きかつた。その主な要因としては,稼働率の上昇で平均資本係数が低下したこと,粗資本ストツクに対する純資本ストツクの割合を示す純粗比率が改善したこと,の2点が挙げられる。純粗比率(企業経営にとつては純資本ストツクすなわち未償却資産の割合が小さい程負担が軽いわけだから,低い程よい)は,37年頃まで投資ブームによる未償却資産の急増から急テンポで悪化(上昇)したが,その後は前述した資本ストツクの調整,耐用年数の短縮による減価償却の進捗などから,急速に改善をみて最近は31年度を下回る水準にまで低下している。

第19図 総資本収益率と設備投資の伸び

ところで,利子支払前売上高純利益率が,40年の不況時においてもかなり高水準を維持していたことは注目に値する(前掲 第17図 )。このことは,当時喧伝された企業収益力低下の一因が借入依存度の上昇を主因とする金融費用負担の増大と総資本回転率の悪化にあり,41年度中のように借入依存度が低下し総資本回転率が改善すれば,総資本収益率も企業収益率も好転してくることを意味している。

このように資本ストツク調整の進展によつて30年代後半を通じて収益を圧迫してきた要因が次第に解消し,企業収益力が好転をつづけると,設備投資意欲が活発化してくるのは自然の成り行きであろう。

このような企業収益力の好転が設備投資の活発化をうながすという関係は,たとえば41年度下期において総資本収益率が4.5%を越える水準にまで回復した鉄鋼,輸送用機械,一般機械,化学等の業種が本年度は前年度を3割以上上回る設備投資計画をたてていること( 第19図 )からもうかがうことができよう。

なお前掲 第9表 の試算では,今回の場合,設備稼働率が大幅に上昇したにもかかわらず,賃金コストが上昇して総資本収益率の上昇を相対的に小幅化する要因として働いており,賃金コスト圧力軽減のために労働と資本の代替を推進する必要性がいつそう高まつている。


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