昭和41年

年次経済報告

持続的成長への道

経済企画庁


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≪ 附属資料 ≫

昭和40年度の日本経済

財政

昭和40年度の財政動向

 昭和40年度経済は、金融緩和もあって、個人消費、個人住宅建設の堅調な伸びに支えられ、次第に上昇に転じ、安定成長の軌道にのるものと見込まれていた。このような経済見通しのもとに編成された40年度予算は、従来通りの健全均衡財政の方針を貫くと共に、財政面から過度に景気を刺激することのないように、予算規模を圧縮し、景気に対し中立的であるよう配慮された。しかし、40年度経済は当初から設備投資の不振、個人消費の伸び悩み等もあって予想を下回る推移を示したため、租税収入は年度当初から伸び悩み、税収不足の生ずる可能性が現れた。さらに、補正財源確保という配慮もあって6月初旬には当初予算のうち公共事業費、庁費等の1割留保措置がとられることになった。すでに40年当初より公定歩合の引き下げを始めとする金融緩和政策がとられてきたが、景気は依然回復の兆しをみせず、従来通り経済の自律回復力のみに委ねていたのでは景気立ち直りに相当長期を要すると予想されることとなった。

40年度における主要財政事項

 こうした情勢を背景に、政府は7月末、先にとられた1割留保措置を解除すると共に、公共事業費の支出促進、財政投融資対象事業の拡大等財政金融面から積極的な景気対策をとることとなった。また、このような政策目的に沿って、大幅な税収不足に対しては、これまでの均衡財政の方針を改め、国債を発行してこれを補てんし、当初の財政規模を維持することによって財政面から景気下支えを行うこととなった。

 このように40年度財政は当初の均衡財政のもとに景気に対し中立性を維持するという方針から、国債発行による財政規模の維持、財政支出の繰り上げ措置等にみられるように、我が国経済の安定成長のために財政が有効需要対策の面で、積極的な役割を果たすという方向へ展開してきたが、こうした財政と景気との関係を中心に40年度財政を回顧してみよう。

当初予算の性格─健全均衡方針の堅持

 40年度予算の編成が行われた当時の経済情勢は、38年末から実施された景気調整策の効果が浸透して、国際収支は均衡を回復し、企業活動にも落ち着きがみられるようになり、まさに景気調整策が緩和されようとする時期であった。従って40年度の経済活動は、年度後半にかけて緩やかな上昇に向かうものと見込まれていたが、他方ではなお消費者物価上昇の懸念があり、国際収支の先行きにも貿易外収支や資本収支の動向に楽観を許さないものがあった。

 このような経済情勢を背景に、40年度予算の編成にあたっては、経済を安定成長路線に導くため、財政面から景気を刺激することのないよう従来通り健全均衡財政を堅持し、予算規模の合理的圧縮を図ることが基本方針とされた。さらにそのなかで減税による国民一般の租税負担の軽減に留意しつつ、高度成長に伴うひずみ是正を期する見地から、社会、経済の各分野、各地域に渡り均衡のとれた発展、開発を図ることが重点施策目標とされた。

財政規模─安定成長に見合った拡大

 40年度一般会計当初予算の規模は、歳入、歳出とも3兆6、581億円で、前年度当初予算に対し4,026億円の増加であった。これを伸び率でみると12.4%であり、37年度の24.3%をピークに、38年度17.4%、39年度14.2%と低下傾向が続いている。

第7-1表 国民総支出と財政規模の推移

 これに特別会計を含めた国の予算純計は歳入7兆2,621億円、歳出6兆7,575億円で、歳出では前年度当初予算に対して9,193億円、15.7%の増加となった。これは39年度の6,882億円、13.4%の増加を上回るものであった。

 また財政投融資計画は1兆6,206億円で、前年度当初に対して2,804億円、20.9%の増加となり、引き続いてその規模を拡大し、財政全体に占める比重を高めた。

 地方財政計画は3兆6,121億円と、同じく4,740億円、15.1%増加したが、前年度の5,045億円、19.2%の増加に比べ規模の伸びはかなり鈍化した。

 一般会計と地方財政の伸びが小さかった反面、特別会計と財政投融資計画の伸びが大きかった。

 このように40年度財政は規模自体としては引き続き拡大したが、政府見通しによる経済全体の伸びに比べれば、むしろ控え目であったといえる。すなわち40年度の国民総生産は前年度当初見込みに比べ17.0%の伸び率が見込まれたのに対し、政府の財貨サービス購入は14.2%増加の6兆300億円と見込まれ、その国民総生産に対する比率は21.9%から21.4%へ、経済成長に対する寄与率も25.0%から20.0%へとそれぞれ低下するものと想定された。

 これらを概括すれば、40年度予算の規模は財政が景気刺激要因となるのを避け、経済の安定成長路線を推進するという政府の経済運営の基本方針に見合うものであったといえるが、また一般会計についてみれば、経済成長率の鈍化に伴う税収の伸び悩み予想、減税の要請、前年度剰余金受け入れの減少等均衡財政を維持していく上での歳入面からの抑制要因があったことも見のがせない。

歳入予算─自然増収の鈍化

 40年度一般会計の予算規模は前年度当初予算に比べ4,027億円、12.4%の増大をみたが、その増加額は、前年度剰余金受け入れ64億円、8.4%の減少に対し、租税及び印紙収入3,834億円、13.2%、そのほかの経常財源256億円、9.3%の増加によって賄われ、従来通り一般会計での収支均衡は貫かれた。

第7-2表 一般会計歳入予算の推移

 前年度剰余金受け入れは、38年度2,627億円、39年度761億円に対し697億円と引き続いて減少した。剰余金は、従来好況期に予算を上回る租税の増収によって多額に発生し、2年後の予算に計上されて歳入面で租税及び印紙収入を補完してきた。しかし近年食管会計繰入れや公務員給与の改善等多額の補正要因の発生が恒常化したこと、当初予算の税収見積もりにも余裕がなくなってきたこと等により、剰余金の減少傾向を招いているといえよう。

 租税及び印紙収入は、39年度当初予算に対し4,647億円の自然増収が見込まれていたが、後述するような税制改正による減収額813億円を控除して3,834億円の増加となり、予算全体に占める構成比は89.2%から89.9%に上昇した。これを税目別にみたのが 第7-7表 (後出)である。所得税は前年度当初比28.1%増と、ベース・アップや労働人口の増加等により景気調整の影響を比較的受けず順調に伸びることが期待されたのに対し、法人税は景気調整の影響と償却増に伴う企業利益の伸び悩みが予想されたため、わずか207億円、2%増と前年度の当初見込み2,545億円、33.5%増を大きく下回った。

 このように法人税収入の伸びが期待できないため、40年度税制改正前の自然増収額は4,647億円と、39年度に比べ約2,180億円の大幅減少が見込まれたにもかかわらず、40年度においても 第7-3表 のような税制改正を行い、国税で初年度813億円、平年度1,151億円の減税が実施された。目的税を除いた自然増収額に対する減税額の割合をみると、40年度は19.0%となり、36、37年度の21.9%、21.8%には及ばないが、38年度の17.3%、39年度の15.5%を上回り、財源難のもとにあってはかなり思い切った減税であったといえよう。

 40年度税制改正のねらいは、①中小所得者に重点をおいた所得税負担の軽減、②企業の体質改善、国際競争力の強化に資するための法人税率の引き下げを中心とする企業課税の軽減、③利子、配当所得等に関する租税特別措置の合理化等の3点にあった。

 まず中小所得者の負担軽減の面では、諸控除の引き上げによって課税最低限の大幅引き上げを図り、従来課税最低限がマーケット・バスケット方式による基準生計費を下回る傾向のあった一部世帯層の負担軽減に主眼が置かれた。

 第2の企業課税の軽減の面では、33年度以降据え置かれていた法人税率の38%から37%への引き下げのほか中小企業の税負担緩和が図られた。

 第3の租税特別措置の合理化等の面では、利子、配当所得に関する分離課税の特例が存続ないし創設された。これは貯蓄の奨励によって資本蓄積を図るという政策的目的をもつものであったが、税体系の上からは若干の問題を残すこととなった。

 このような税制改正の結果、40年度の国民所得に対する租税負担率は国税のみで15.5%、国税地方税合計では22.1%となり、前年度の15.6%、22.2%をわずかながら下回るものと見込まれた。

第7-3表 40年度税制改正による増減(△)収額調べ

 財政投融資計画の原資見込みは 第7-4表 の通りであり、39年度当初計画に比べ2,804億円、20.9%の増加となったが、資金運用部資金と公募債借入金等がそれぞれ2,585億円、874億円増加して前年度に引き続きウェイトを高めたのに対し、産投会計と簡保資金はそれぞれ255億円、400億円の減少が見込まれた。

第7-4表 財政投融資原資の推移

 このうち資金運用部資金の増加は郵便貯金の好調と保険料率引き上げを見込んだ厚生年金の増収に支えられたものであった。また、公募債借入金等で外貨債を除き3,260億円、前年度当初比760億円増の民間資金が導入されたことは、国民の蓄積資金を活用して資本形成における民間部門と公共部門の調和を保つことを期した予算編成方針に沿ったものといえよう。

 なお、政府保証債460億円の増加のうち新たに農林中央金庫に100億円の消化を、また借入金200億円の増加のうち新たに信託銀行から100億円の借り入れを期待する等資金調達面での多角化も行われた。

 他方簡保資金の減少は、39年度に簡易保険の償還満期のピークが到来したことにより、40年度に新たに運用に回し得る新規積立金が前年度を大幅に下回るためであった。

 また産投会計出資が前年度当初に比べ255億円の減少となったのは、一般会計から産投特別会計への繰り入れが125億円と前年度より447億円の大幅減少をみたためであった。これは住宅公団、住宅公庫及び農林公庫に対する従来の出資方式を一般会計からの補給金方式に切り替えたからである。

 この措置は、別に行われた一般会計前年度剰余金の国債整理基金への繰り入れ率を2分の1から5分の1に削減した暫定的措置と並んで、予算の合理化、効率化の手段としてとられたものであったが、同時にこれらの措置によって約650億円の財源が確保されることとなった。

歳出予算─社会開発中心の重点配分

 40年度歳出予算では、社会保障の充実、住宅及び生活環境施設の拡充、文教科学技術の振興、農林漁業及び中小企業の近代化等社会開発を推進する諸施策のほか、社会資本の整備、国土の保全、輸出の振興等に財源の重点的配分が図られた。

 第7-5表 は一般会計主要経費別歳出予算の推移をみたものである。前年度当初予算との比較でみると、地方交付税交付金を別にすれば、公共事業関係費、社会保障関係費、文教科学技術振興費の3施策の増加額が最も大きく、これを合わせた増加額は2,485億円となり、総増加額の61.7%を占め、38年度の46.3%、39年度の53.3%をさらに上回ったことは予算の重点化が一層進められたことを示している。

第7-5表 一般会計主要経費別歳出予算の推移

 その内容をみると、公共事業では社会開発推進の見地から、宅地造成を含めた住宅対策と上下水道、終末処理施設の整備、公害対策等を中心とした生活環境施設の整備に特に重点的配慮がなされているほか、治山治水、港湾整備について40年度を初年度とする新5ヶ年計画を策定して事業の促進が図られた。社会保障の面では生活扶助基準の12%引き上げや各種年金保険の給付改善と共に労働力の流動性を高めるため雇用対策の強化が図られており、また文教関係では大学入学志望者の急増対策として国立大学の経費や私立大学の助成費が大幅に増額されたこと等が特色となっている。

 そのほか中小企業対策費や農林漁業関係の予算、海運対策費、貿易振興及び経済協力費の伸びが著しいが、これは中小企業や農林漁業等の低生産性部門の近代化と経営基盤の強化拡大を図ることによって経済の均衡ある発展と消費者物価の安定を期すると共に、外航船舶の拡充等による貿易外収支の改善やジェトロ、輸出入銀行等の機能強化を通じて積極的な輸出拡大策を講じることによって国際収支の持続的な均衡を確保することに主眼が置かれたからにほかならない。

 これらの重点施策は 第7-6表 からも明らかなように財政投融資計画においても一貫して推進されていた。

第7-6表 財政投融資使途別分類推移

 特に住宅、生活環境整備等国民生活に直結した分野、中小企業、農林漁業等の低生産性部門と輸出振興が前年度に比べて大幅な伸びをみせており、全体として国民生活により密着した分野の比重が高まっているのは社会開発の理念とも合致した方向であったといえよう。

昭和40年度財政の実行転機を迎えた均衡財政

租税収入─深刻な伸び悩み

 40年度租税収入は景気調整の影響を受けて全般的に伸び悩んだ。一般会計租税及び印紙収入の実績見込み額は3兆489億円で、39年度決算額に対し992億円の増加に留まり、その増加率は当初見込まれた11.5%を大きく下回り、3.4%と、34年度以降で最も低かった。これは40年度経済が当初から、予想外の設備投資の低迷、個人消費の伸び悩み等により、当初見通しを下回って推移したことを反映するものである。

 まず、収納累積額の前年同月に対する増加率と当初見込まれた増加率との差を月別にみたのが 第7-1図 である。一般会計合計でみると、年度当初から見込み増加率をほぼ5ポイント近く下回って推移し、8月にさらに2.5ポイント低下し、年末にかけてやや盛り返したものの、2月にまた2.3ポイント落ち込み、結局、当初見込みを9ポイント近く下回った。このように8月、2月の低下が大きかったのは主に法人税の落ち込みによる。これは、3月期、9月期決算法人の延納分(税額の2分の1以内)が入る月であるが、法人税自体が減少していることに加えて、期限内(決算後2ヶ月)に納付されるいわゆる即納率が上昇したためである。即納率が上昇したのは貸出金利の低下と企業の手元流動性の上昇によるものとみられる。ちなみに即納率と全国銀行平均貸出金利を比較すると 第7-2図 のようになり、金利が低下すると延納税率(日歩2銭)との関係で即納率が上昇することが分かる。

第7-1図 租税収納累積額対前年同月比の推移

第7-2図 法人税即納率の推移

 次に、 第7-7表 で主要税目別にみると、決算見込み額は各税目とも当初見込みを下回っていることが分かる。しかし、個人所得税は、景気調整下にもかかわらず給与所得が着実に増加したため、ほぼ当初見込みに近い伸びをみせている。一方、法人税、酒税、物品税は前年度実績を下回った。

第7-7表 一般会計租税及び印紙収入の税目別推移

 法人税は企業収益の伸び悩みを反映し、前年度に比べ485億円の減少となった。これは、38年末以降の景気調整過程が予想外に長引いたため、企業収入の伸びが鈍化し、償却費や金利等の資本費負担が増大したこと、しかも、こうした傾向はこれまで成長の著しかった好況業種において特に顕著であったことに基因するものであるが、また、39年度に実施された耐用年数の短縮等一連の企業減税の平年度化と40年度改正における法人税率の軽減及び利子、配当の源泉徴収税率の引き上げの影響による面も大きい。なお、40年度の特異な現象として、過去における業績悪を決算粉飾により一時的に糊塗してきた一部企業のなかには、不況が長期化したため、粉飾のとがめを表面化せざるを得なかったという要素があったことも無視できない。

 法人税の動きを資本金1億円以上、6ヶ月決算の法人についてみたのが 第7-3図 である。これでみると今回の落ち込みは前回よりは大幅であるが、29年、33年ほどではないことが分かる。ただ、前回の引き締め解除後企業収益が31年、35年ほどの上昇をみないうちに引き締めがなされたことを考慮にいれる必要がある。

第7-3図 金融引き締めと法人税の動き

 32年度に所得税の大幅減税がなされて以来、法人税のウェイトが所得税のそれを上回っていたが、このように法人税が伸び悩んだ一方、所得税は着実に上昇を続けたため、40年度にはこの関係が逆転し所得税収入が法人税収入を上回ることとなった。すなわち、 第7-4図 にみるように、一般会計租税及び印紙収入中、法人税のウェイトは37年度の35.5%をピークに低下を続け、40年度にはついに30.4%となった。これに対し所得税のウェイトは34年度以降上昇を続け、40年度には31.8%と法人税を上回るに至ったのである。次に、酒税が伸び悩んだのは、これまで好調を続けてきた需要自体の伸びが鈍化したことに加え、39年度末の清酒の小売価格値上げに伴う繰り上げ出荷と40年の夏期天候不順によるビール消費量の伸び悩みによるところが大きい。また物品税収入が前年度を下回ったのは、乗用車は好調に伸びているものの、テレビ、扇風機等の家庭用耐久消費財に対する需要がほぼ一巡したことによるものとみられる。関税収入の増加率が低かったのは、ウェイトの高い砂糖、機械類等の輸入が伸び悩んだためである。

第7-4図 一般会計租税及び印紙収入の主要税目別構成比

財政支出─景気対策の積極化

 既にみたように税収は年度当初から伸び悩み、もし、そのままで推移すれば、歳入と歳出をバランスさせるため、均衡財政を維持して歳出を削減するか、あるいは、財源を従来の歳入以外に求める、といった手段をとらねばならないと懸念された。

 さらに、公務員給与の改善、米価引き上げ等の補正要因も予想されたので、6月上旬に、当初予算のうち旅費、物件費、施設費、事業費、補助金等の1割留保措置がとられることになった。これは、まだ新年度早々でもあり、さしあたり支出を繰り延べ、その後の財政運営の弾力性を確保しようとしたものであるが、この措置により一時的にせよ財政面からの有効需要を繰り延べることになり、また、心理的な影響も無視出来なかった。しかし、年初来3回に渡る公定歩合の引き下げにもかかわらず、従来と異なり、景気の停滞が依然続いたため、財政はこれまでのように金融のわき役にととまらず、直接、有効需要を創出する景気対策の主役として登場することになった。まず、6月中旬に公共事業費及び財政投融資の繰り上げ支出が決定された。さらに、7月27日の第4回経済政策会議において次のような積極的な対策が展開されることになった。すなわち、その内容は①先に行った1割留保のうち公共事業費等(約850億円)の解除、 ②住宅、運輸、通信、輸出、上下水道等関連産業に与える効果の大きいものを中心に、財政投融資計画対象機関事業量の2,100億円拡充、 ③財政及び財政投融資の繰り上げ支出の促進、④政府関係中小金融3機関の基準利率の年3厘引き下げ、⑤積極的な輸出拡大施策、 ⑥長期減税構想と国債発行の準備であった。

 いま、本報告 第12図 で一般会計予算の支出状況をみてみると、第1四半期中は8,453億円で、前年度の8,290億円とほぼ同水準であったが、予算現額に対する支出額の割合では22.3%とオリンピックの関係もあって支出額の多かった前年度の24.5%を下回った。第2四半期の支出額は7,375億円で前年度の7,563億円をやや下回り、予算現額に対する割合では19.4%と前年同期を2.9%ポイント下回った。これは、7月に入って1割留保の解除、財政支出の繰り上げが決定されたのであるが、手続面からの制約、地方財政との関係といった事情から、ただちに支出が増加するというわけにはいかなかったためである。しかし、第3四半期に入って事業の促進措置が浸透し、また、地方財政対策の見通しがつくと共に好転し、その支出額は1兆1,489億円と前年同期を2,389億円も上回った。ちなみに、この増加額の40年度国民総生産増加見込み額に対する比率をみると、11.6%となる。そして、第4四半期も前年同期の6,744億円を上回ったものとみられる。一般会計、特別会計(道路整備、治水、港湾整備、特定土地)をあわせた公共事業関係費の民間に対する支払い額もほぼ同様に推移し、上期中は前年度とほぼ同水準であったが、下期には4,219億円と前年度の3,504億円を大幅に上回る支出がなされた。

 さらに、後に述べるように12月に成立した補正予算によって、2,590億円の歳入補てん国債を発行して当初の財政規模を維持し景気の下支えを図ると共に、651億円の歳出の純増がなされた。それと同時に、公共事業関係等の事業につき総額約1,000億円の国庫債務負担行為が追加され、年度末から41年度当初にかけて公共事業関係の事業量を引き続き高水準に保っため契約契約締結の促進が図られることになった。

 一方、予算に比べ機動的な運営が可能である財政投融資計画は当初から積極的に実行された。すなわち、財投実行額は、第1四半期において3,535億円、第2四半期においては4,216億円と、それぞれ前年同期を800億円、1,300億円以上上回った。ちなみに、主な投融資先である公社公団等の40年度上期の公共工事着工規模は2,116億円で、39年度より737億円、53.4%多かった。さらに、景気対策の一環として決定された財政投融資対象機関の事業量拡充等に伴い、年度間6回に渡って財投計画の改訂が行われ、その規模は当初より1,988億円増加して1兆8,194億円となった。追加された主なものは、住宅5万戸の追加建設(300億円)、国鉄の工事規模の拡充(250億円)、電電公社の電話3万個増設(50億円)、上下水道建設事業の促進(60億円)、外航船舶の建造量増加等開銀貸し付け枠の増加(272億円)、輸出振興のため輸銀融資枠の拡大(300億円)等であった。また、景気変動から大きな影響を受けやすい中小企業向けには、当初計画においても前年度当初に比べ24.5%増の2,045億円の投融資が見込まれていたが、金融のひっ迫する年末にはさらに、国民公庫、中小公庫、商工中金の貸し出し枠を820億円増加させることとし、運用部資金240億円(ほか、年度越貸付け280億円)の追加がなされた。なお、一般会計補正予算においても中小企業信用保険公庫に対する出資を10億円増額し、200万円までの無担保保険、連鎖倒産防止のための保険新設等によって、中小企業者に対する事業資金融通の円滑化が図られた。

 さらに、政府の積極的な姿勢を背景に、1月14日閣議決定された41年度一般会計予算は、7,300億円の国債発行を伴い、総額4兆3,143億円、減税額3,069億円(国税、平年度)とその増加額、減税額とも戦後最大という大型積極予算で、その有効需要に及ぼす効果が期待された。

 また、41年1月、41年度予算についても中央、地方、公社公団等を一体とした公共事業等の事業施行の促進が図られることになった。これは、例年、第1四半期は事務手続等の関係から事業量が減少するのであるが、需要誘発効果の大きい公共事業の事業量を高水準に維持することによって上向いてきた景気を着実に上昇させていこうとするものである。具体的には、上期中に全体で6割の契約を締結すること、工事着工に至るまでの事務手続を迅速に行うため、支出負担行為実施計画等の事務処理をほぼ2ヶ月程度繰り上げることが目標とされている。

 こうした夏以来の積極的な財政政策の展開が与えた心理的影響は大きく、また、次第に実需としてその効果が現れた。7月末にとられた一連の措置は政府の積極的な態度を表明するものとして好感され、この対策が公表されるや株価はただちに反騰し、鉄鋼、繊維関係の市況も安定した。さらに年末には公共事業等の進ちょくに伴い、鉄鋼、セメント、木材、建設機械等の需要が増大した。このように、財政面からの積極的な対策は輸出の増加等と並んで、景気を下支え、これを回復させる大きな要因にたったとみられる。

補正予算―歳入補てん国債の発行

 40年度一般会計については2回に渡り補正予算が編成された。8月に成立した第1次補正予算は、11MF、世銀の増資割り当てに応じて215億円の歳出追加を行うもので、その財源は、経費の特殊な性格にかんがみ、外為会計のインベントリー取り崩し(161億円)と日銀特別納付金の増加(54億円)によった。

 すでにみたように、1割留保の解除、財政支出の積極的促進がなされたが、国内の経済活動はおおむね停滞のうちに推移したため、税収は伸び悩みを続け、年末には2,590億円の税収不足が見込まれるに至った。他方、公務員給与の改善(353億円)、米価引き上げに伴う食管繰入れ(209億円)、災害対策(166億円)等、合計1,412億円の補正要因が発生した。このような追加財政需要と税収不足に対して第2次補正予算において次のような財源措置がとられた。前者に対しては日銀納付金等の税外収入の増加(651億円)と既定経費の節減(761億円)によって対処し、後者に対しては「昭和40年度における財政処理の特別措置に関する法律」によって国債を発行して補てんすることとされた。この国債が財政法第4条のいわゆる建設国債として発行されなかったのは、これが年度途中において生じた歳入不足を補てんするという臨時、応急の措置であったからである。その場合、歳出を削減することによって対処対処することも可能であったが、経済情勢に対する配慮から国債を発行して当初の財政規模を維持したことは政府の景気対策に対する積極的な態度の現れであったといえよう。しかし、さらにこうした政策がとられた背景をみると、経済環境の変化に伴い、財政の健全性、すなわち、国民経済と調和のとれた財政の規模、内容を確保していくための基準として、もはや歳出と普通歳入をバランスさせることだけでは十分でなく、家計、企業を安定させ、経済全体を均衡させていくため、財政は国債を発行して経済全体の調整力となることが必要とされるに至ったものと思われる。

 こうして発行されることになった国債は、応募者利回り6.795%、償還期間7年で、金融機関及び証券会社によって国債募集引き受け団が結成され、発行額につき募集の取り扱いにあたり、残額が生じたときは共同してこれを引き受けることになった。引き受け団のメンバー、分担率は、都長銀51.5%、地銀20.5%、信託、相互、信金、農中、生保各3.6%、証券10%と決められた。40年1~3月に発行予定額面額2,627億円のうち2,000億円が発行され、900億円は資金運用部、1,100億円は引き受け団によって引き受けられ、うち139億円が証券会社を通じて一般に消化された。この一般消化先をみてみると、個人が88%と圧倒的に多く、一般事業法人が5.9%、そのほか法人等(宗教法人、共済年金等)が3.1%、信連、農協等の引き受団外の金融機関が3.0%となっており、戦後初めての長期内国債ということもあって消化はおおむね順調であった。

財政収支─引き続き散超

 40年度の財政資金対民間収支は、当初、前年度剰余金受け入れ、産投会計資金取り崩しを中心に年度間1,550億円の散超が見込まれていたが、散超額は当初見込みを上回る2,531億円となった。これは税収不足に伴い運用部引き受けで国債が900億円発行され、生産者米価の値上げによって食管会計が1,609億円と大幅散超を記録し、また景気対策に伴う財政投融資の拡大により運用部が3,326億円の散超となったこと等が原因である。四半期別財政収支の実績をみたのが、 第7-8表 であるが、年度間の散超額は前年度を1,535億円下回った。年度間の推移をみると、財政の揚げ超期である第2、第4四半期の揚げ超額はほぼ前年度と同じであったが、散超期である第1、第3四半期の散超額が前年を下回った。

第7-8表 財政資金対民間収支の推移

 第1四半期の散超額が前年同期を下回ったのは3月期決算法人(資本金1億円以上、6ヶ月決算)の即納率上昇による法人税収入の増加、保険料率引き上げに伴う保険関係の揚げ超増、郵便貯金の好調な伸びを反映した郵便局の散超減があったほか、39年度に比べ前年度のズレ込みが小さかったこと等が原因である。また、第3四半期にはこうした要因がみられたほか、国債発行を第4四半期に控え国鉄関係の債券発行が例年より早めに行われたため国鉄の散超が前年度を523億円下回ったこと等が散超額を小さくしたといえよう。

 年初来の金融緩和政策に伴う金利低下化より40年度中法人税即納率の著しい上昇がみられ、法人税が例年より早期に納付されたが、こうした法人税収入の動きが40年12月、41年3月の財政収支に特異な動きをもたらした。すなわち、9月期決算法人の即納率が83.5%と前年度を22.1ポイント上回り、その法人税が12月に集中的に納付されたためもあって、財政支出が高水準であったにもかかわらず散超額が前年度を下回り、またこの反動で3月には法人税収入が著減し、財政支出が多額だったこともあって、財政収支が3月としては異例の散超となったこと等がそれである。

 こうした40年度財政の散超は国庫資金繰りのひっ迫をもたらした。ここ数年の財政資金の散布超過により39年度下期から国庫資金繰りのひっ迫が現れていたが、40年度には租税収入の鈍化と財政支出の進ちょくによりこのような傾向は一層強まった。 第7-9表 は40年度の国庫資金繰りの推移をみたものであるが、前年度に比較して、食糧証券、外為証券、大蔵省証券の政府短期証券の発行残高が増加し、これに対し国庫余裕金繰替使用額が減少していることが注目される。こうした資金繰りひっ迫の結果、40年4月には4月としては異例の大蔵省証券1,650億円の発行をみ、さらに年末諸払の集中した12月には大蔵省証券の発行限度額はこれまでの2,000億円から4,000億円に引き上げられることとなった。

第7-9表 国庫資金繰りの推移

 なお、税収不足を補うため補正予算で2,590億円を限度として国債が発行されることとなり、第4四半期において、1,972億円(額面で2,000億円)の国債が発行された。このうち資金運用部引き受け分を除いて、市中で消化された分として1月690億円、2月247億円、3月148億円、合計1,085億円の国債発行代わり金収入があり、第4四半期の揚げ超要因となった。

昭和41年度予算国債発行による財政規模拡大と大幅減税

 政府の財政金融面からの積極的な景気対策、民間産業界における自主的な不況対策等に上って、景気は40年10月を底にようやく上昇基調に転じたとみられるが、40年度の我が国経済は総じて低調のうちに推移し、経済成長率も前年度比で実質2.7%(名目8%)を若干上回る程度に留まった見込みである。

 41年度においても、個人消費支出や個人住宅建設の堅調な伸びが見込まれるものの、民間設備投資や在庫投資は40年度の停滞のあとを受けて低水準に留まるものと予想されるので、民間需要は総じて緩やかな上昇に留まる見通しである。

 こうした経済情勢のなかで編成された41年度予算は、本格的な国債の発行による財政支出の増加と大幅減税の断行を通じて、積極的に有効需要の拡大を図ると共に、経済、社会のひずみ是正を強力に推進することによって、経済をすみやかに均衡のとれた安定成長に導くことを基本目標としている。

 このため従来の中立的な均衡財政の方針を転換し、7,300億円に上がる戦後初めての本格的な国債発行が行われることとなったのは、41年度予算の最大の特徴であるばかりでなく、我が国財政政策が新展開を遂げたこととして注目に価する。な起これは市中消化を前提とし、対象を公共事業費等に限定した本格的国債であり、40年度の歳入補てん国債とはその性格を異にするものである。

 このような国債政策の導入に伴い予算規模も積極的な拡大が図られている。すなわち一般会計予算額は4兆3,143億円と、40年度当初予算に対し6,562億円、17.9%増加しているが、増加額としては戦後最大であり、伸び率も39年度の14.2%、40年度の12.4%を大幅に上回っている。また特別会計を含めた国の歳出予算純計は7兆7,730億円で、前年度当初比1兆155億円、15.0%の増加となっている。

 財政投融資計画は2兆273億円で前年度当初計画より4,067億円、25.1%、地方財政計画は4兆1,348億円で同じく5,227億円、14.5%それぞれ増大している。

 このような財政規模の拡大に伴って、国・地方を通ずる政府の財貨サービス購入は前年度実績見込みに対して15.0%の伸びとなり、国民総支出に対する比率も戦後最高の23.2%と見込まれ、民間総資本形成の21.9%をも上回ることとされている。

 また一方では国税で平年度3,069億円(初年度2,058億円)、国税・地方税合計で3,600億円と32年度の1千億円減税以来の画期的な大幅減税が断行された。これは中小所得者の負担軽減、企業体質の改善等を主眼としたものであるが、有効需要面でも多大の効果をもつことが期待される。

 歳出面では、社会資本の充実、社会保障の拡充、文教・科学技術の振興等重要施策のほか、住宅及び生活環境施設の整備拡充、中小企業、農林漁業等の低生産性部門の近代化、輸出の振興、対外経済協力の推進等に財源の重点的配分を行っている。

むすび

 これまでの需要超過基調の経済においては、景気調整策として金融政策が極めて有効であり、財政は景気に対し中立的な均衡財政の方針を維持し、その自動安定機能を通じて景気調整に副次的、補完的な役割を果たしてきた。

 40年度経済は、当初より金融緩和策がとられたが、景気回復の足どりは鈍く、経済の自律回復力のみに委ねていたのでは、その急速な立ち直りは困難とみられるに至った。このように我が国経済の需要超過基調に変化が生じ、財政が景気調整に果たす役割は著しく増大した。40年度財政は当初の財政規模を維持するため国債を発行して景気下支えを行い、さらに41年度からは建設国債の発行により我が国財政は、経済の安定成長のためその機能を積極的に発揮することとなった。こうして、財政が景気変動を積極的に調整し、また租税収入に縛られず、従来の産業基盤整備と並んで生活環境施設の充実等立ち遅れた公共部門の資本蓄積を図ることが可能となった。

 しかし、国債政策の導入が真に我が国経済の安定成長に役立つかいなかは、財政政策の運営いかんにかかっているところが大きい。均衡財政の場合には財政規模は租税収入によって規定されるが、財源が租税収入のみでなく、国債発行にもよることになると、その規模を国民経済とバランスのとれたものとしていくことが極めて重大な問題となり、これを誤ればインフレとなる危険もある。いわゆる国債の歯止めとしてとられている市中消化、建設国債の原則は、国債の規模を民間の貯蓄超過及び公共投資等の資本的支出の範囲内にとどめようとするものである。こうした歯どめを有効に機能させるためには、公社債市場の整備を進めることが必要である。

 従って、今後の財政運営のあり方としては、国債政策の健全な運営を通じて総需要を適正な水準に保ち、民間需要と政府需要の望ましい均衡を維持しながら、経済各分野の質的充実を図っていくことが必要であろう。


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