昭和41年

年次経済報告

持続的成長への道

経済企画庁


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≪ 附属資料 ≫

昭和40年度の日本経済

建設

昭和40年の建設活動

40年1月に金融引き締めが解除されたにもかかわらず、40年の建設活動はこれまでの金融緩和期のように活発化しなかった。 これを建築着工でみると、39年下期から停滞に転じた後、40年に入っても回復の兆しはみられなかった。 着工床面積は総計で10230万㎡となって、前年を0.4%下回った。 これは商業・サービス業用が15.7%減少、公益事業用が6.3%減少、鉱工業用が25.9%減少と前年を大きく下回ったからで、居住専用、居住産業併用は引き続き増勢を続け、それぞれ11.6%及び9.7%と前年を上回り、また公務文教用も5.5%増となっている。 一方公共工事着工(工事予定額)は39年下期以降増加傾向をみせたが、40年に入ると7~9月期まで前年同期を20%以上上回る伸びを示した。

また建設投資推計によって、建設投資を建築部門、土木部門にわけその増加寄与率を31年度以降についてみると、景気上昇期には建築部門の寄与率が大きく、景気下降期には土木部門の寄与率が高くなっている(第4-1図)。 40年度については土木部門が139.4%、建設部門はマイナス39.4%の寄与率となっており、39年と逆に景気後退期のパターンを示した。

第4-1図 建設投資種類別増加寄与率

このように40年の建設活動の特徴は、企業の設備投資が沈静化していることを反映して、民間の建設活動が大きく減退したが、居住用建築や公共工事が大幅な増加をみせたために全体としては相殺されて、その落ち込みを和わらげた点にある。 このような傾向は過去の景気沈滞期にもみられたものであるが(第4-2図)、今回の建設活動の動向の特色を建設受注統計、着工建築物統計によって以下述べることにする。

第4-2図 用途別建築着工(床面積)の推移

まず建設工事受注(第1次46社分)は39年上期までは上昇を続けたものの、その後横ばいないしやや下がり気味に推移し、40年1月の引き締め解除後にむしろ下げ幅を大きくした。 これは39年下期から低下傾向をみせていた民間部門からの建設受注が40年に入って急激に減少したからである。 しかも5月までは政府からの受注にも伸び悩みがみられた。 しかし、その後は政府の公共事業費の支出促進や、財政投融資による事業拡大等積極的景気対策の決定により、政府からの受注が大幅に増加したことに加えて、9月以後は製造業からの受注も上向く等、建設受注面にも回復の兆しがみられるようになった。 40年の受注の動きを通して注目されるのは、政府からの受注が民間からの大幅な受注減を下支え、全体としての落ち込み幅を小さくとどめる役割を果たしたことである。 これを前回の場合と比較すると(第4-3図第4-4図)受注総計では前回とほぼ同じような動きを示しているが、部門別にはかなり異なっている。 まず第1に前回では回復期における民間からの受注、特に非製造業からの受注が大きな役割を果たしていたのに、今回は民間の回復が全くみられず、政府からの受注が回復を主導していることである(これは本参考資料2.鉱工業生産で述べた非製造業部門の動きとは異なるが、それは今回の非製造業投資が海運・通信・私鉄・電力等の建物依存度の低い部門の投資が大きい反面、卸小売り・サービス等建物依存度の高い部門の投資が減少したためとみられる)。

第4-3図 建設受注の推移(今回)

第4-4図 建設受注の推移(前回)

第2に前回は金融引き締めを解除すると直ちに民間の受注が増加したのに、今回は解除後民間からの受注がむしろ減退していることである。 これは景気調整の効果が十分浸透しないうちに金融引き締めが解除されたことによるとみられる。

建築着工を工事費予定額でみても、39年上期までは産業界の設備投資が高水準であったために、鉱工業用や商業・サービス業用を中心に建設活動は盛況を極めた(第4-5図)。 しかし下期に入ると引き締めの効果が浸透して、建築着工も横ばいとなり、40年に入り金融引締政策が緩和されたにもかかわらず急激な減少がみられた。 5~10月にかけて一時もちなおしたかにみえたが、その後再び減少している。 しかしこの間にあって、居住用建築着工だけは、根強い需要に支えられた個人住宅投資の活況もあって、一貫して増大している。 このようなことは建築着工の動きを構造別にみてもはっきりする。 30~39年の間木造の比率が一貫して下がってきたが40年には再び拡大し、逆に鉄筋コンクリート造や鉄筋造のシェアは40年に縮小している(第4-6図及び第4-7図)。 これは前者は居住用でのシェアが大きく、後者は産業用建築物でのシェアが大きいからである。 これを前回及び前々回と比較すると(第4-8図及び第4-9図)、後退局面では前々回、前回共に同じような動きを示したが、景気の山からみた減少幅は回を追って小さくなっている。 しかし、引き締めを解除してから後の動きをみると、前々回は直ちに回復をみせたが、前回は1期ないし2期遅れ、今回はさらに遅れている。 これは受注の場合と同様である。

第4-5図 建築着工(工事費予定額)の推移(今回)

第4-6図 建築着工(工事費予定額)の構造別構成比の推移

第4-7図 建築着工(床の面積)の構造別構成比の推移

第4-8図 建築着工(工事費予定額)の推移(前回)

第4-9図 建設着工(工事費予定額)の推移(前々回)

次にこれからの建築投資の動向について若干の推察を行ってみよう。

第1に、鉱工兼用建築についてみると、従来、受注は着工に対しておよそ2期(6ヶ月)先行してきた。 また、鉱工業生産(指数)との関係でみると、着工(鉱工業用)は約1期(3ヶ月)遅れて推移する傾向が強かった(第4-1表)。 製造業からの受注は40年秋ごろから上向きはじめ、鉱工業生産も40年末からかなり高いテンポで上昇に向かっているので、着工も次第に回復に向かうものと期待される。

第4-1表 鉱工業用建築着工(床面積)と鉱工業生産との時差相関

第2に、非製造業用建築についてみると、景気後退期に入っても受注はすぐには落ち込まず、かなりの水準を保っており、40年下期から大幅に減少した。 このように非製造業用は、景気の動きにかなり遅行しているために、早期回復は難しいかもしれない。

第3に、居住用建築物についてみると、41年に入ると着工の伸び率がかなり鈍化し始めた。 これは民間自力建築の一支柱となっていた木造賃貸住宅の減少によるところが大きく、今後公共投資等に支えられた新しい建築主体の台頭がなければ、根強い伸びを示すことは困難だろう。

公共工事

昭和30年代の民間設備投資の高成長は経済を拡大させたが、その結果大きくなった供給力を十分に活用し、経済を持続的に成長させていくことが、これからの40年代の経済に与えられた課題である。 37年以降能力不足が解消し、40年の不況ではかなりのデフレギャップが生じたので今回は単なる金融政策だけでは従来のような回復力を取り戻すことが出来ないと考えられた。 そこで注目されたのが財政による公共投資を中心とした積極的な需要の創出である。 そこで公共投資の大部分を占める公共工事についてその推移と今後の見通しを検討しよう。

公共工事着工(工事予定額)の推移を、35年から前年同月比でみると(第4-10図)、35~7年にかけての高度成長期には民間設備投資に匹敵するテンポで伸び、37年下期から38年初にかけて一時伸び悩んだものの、38年から39年にかけて再び大きな伸びを示している。 そして、39年下期に民間健投投資が低迷すると共に上昇テンポを高め、居住用建築と共に建設投資の低下を下支えした。 また最近の動きをみると公共工事着工の伸びは財政の伸びをかなり上回って伸びていることが分かる。 しかも我が国の社会資本のストックは、本報告書で述べたように、先進国と比べて低水準にあるばかりでなく、現在の我が国の経済の水準からみて非常に不足している。 そのために各所にボルトネックが生じ、社会資本に対する需要は非常に大きく、これまでの公共工事の伸び方では需要に追いつかない。 その用途をみても、道路を始めとする産業関連施設、上下水道、住宅等の生活環境整備に関連する施設の不足が目立っている。

第4-10図 財政支出と公共工事着工の前年同期比(四半期別)

公共工事着工の用途別構成比の推移をみると(第4-11図)、産業関連施設は36年まで、特に34~36年の高度成長期にそのシェアを拡大していったが、その後は漸次縮小している。 しかしその中の道路だけは30年代を通してほぼ同じシェアを続けた。 これに対し生活環境整備の役割を果たす社会厚生文化施設は32年までそのシェアを高めていたが、その後産業関連施設とは逆の動をみせ、34~36年にかけて縮小し、37年ごろから再びシェアの拡大をみせている。 これに対し農林水産施設や国土保全施設の比率は漸次低下の一途をたどった。 これは戦後国土の復興や災害の防止等にまず重点がおかれ、昭和20年代から30年代の初めまでにほぼ充足をみた。 しかし30年代の高度成長時代になると、経済の成長に伴って道路、港湾等産業関連施設の不足が目立ちその打開策が講じられねばならなかったので、36年ごろまでは産業関連部門への投資が、公共投資の中心となり、農林水産施設や国土保全施設の割合は次第に低下していった。 高度成長の結果所得水準が急速に上昇してくると、国民の生活意識は私的消費から住宅、公共施設等の水準を高める方向に向かい、経済発展に伴って過密、公害等の社会的環境の悪化もみられるようになったので、最近では生活環境の整備に関する要求が強まってきた。 こうしたこともあって37年ごろから生活環境施設への投資比率が高まってきた。 このような公共工事着工の内容の推移をながめると、40年代には公共投資は従来の産業関連施設重点主義から社会厚生文化施設を重視する方向に向かいながら、全体としての公共投資の増加テンポはさらに大きくなるものとは思われる。 41年度一般会計当初予算においても公共事業関係費が前年を19.1%上回り、中でも住宅、生活環境整備にその重点がおかれている。 このように公共投資は30年代の民間設備投資の増大によってもたらされた社会資本の不足を補い、経済の各所に生じたボルトネックを解消すると同時に、増大した供給力に見合う需要を創出し、民間の経済活動に活力を与え、今後の経済成長をになっていくという二つの役割を持っている。

第4-11図 公共工事費の構成比の推移

建設業の問題点

経済の成長に伴って建設投資は増大し、最近では国民総生産の20%に達したが(第4-12図)、これを引き受ける建設業者数も年々増大した。 昭和25年に成立した「建設業法」に基づく建設業者の登録数でみても41年3月には大臣登録4367、知事登録103583、総計で107950となり、25年に比べ3倍、35年に比べても1.5倍になった。 しかし資本金階層別にみると、1億円以上の法人は1%にも満たず、大半は中小企業ないしは個人経営となっている。 建設業には、個人住宅建設、修理を始めとする小規模な需要が多いこと、数段階に渡る下請け組織が形成されていること等、このような零細業者の存在する基盤がある。 しかも、従来建設業市場では、民間需要は大企業が、官公需要や個人住宅は、中小企業が受持つというように大企業と中小企業とではその分野がはっきりと分かれていた。 しかし最近では民間部門の不況と公共投資の増大とにより地方の公共工事にも大企業の進出がみられるようになり、競争が激化し、中小業者の経営が圧迫されてきた。

第4-12図 建設投資の増加率と対国民総支出比率

不況下にもかかわらず、建設業は公共工事の増加によって比較的平穏に推移したとみられているが、上述のように業者の大半が中小企業であり、しかもその大半が零細であること等から倒産件数(東京商工興信所調べ)が40年1月以降高くなっているばかりではなく、10月ごろから景気に明るさがみえ始めた後も依然高水準を続けている。 しかし、大企業だけをみると、総資本利潤率は昨年に比べて上昇している。 また日銀の「主要企業経営分析」によって建設業の粗利潤率の推移をみると(第4-13図)、35年以降36年下期と38年下期に低下したが、その下落幅はほぼ10%以内で、同じ期間中、製造業がほぼ20%低下しているのに比べると比較的安定していたといえよう。 特に39年から40年にかけての景気後退期に製造業ではかなり大幅な低下を示しているのに、建設業では逆に上昇している。 これは建設業では民間建築と、公共工事とを適当に組み合わせたり、下請け部門の調整を行う等経営に弾力性を持たせているからである。

第4-13図 製造業と建設業の粗利潤率比較

次に、労働、雇用の面から建設業の特色をみてみよう。 第1に、建設投資の著しい発展によって、32~40年の間に建設業に従事する労働者は他産業に比べ大幅な増加をみせている(第4-14図)。 その結果32年には全就業者中の構成比が4.6%であったのに40年には6.5%まで拡大した。 しかし我が国の労働市場が次第に供給不足型に変化してきたために、建設業においても労働力不足が大きな問題になってきた。 これに対処して、労働力不足を補うための機械化投資が高まっている。

第4-14図 第二次産業内の就業人口の増加

第2に雇用面の特色は季節性、移動性、不安定性及び単純労働の必要度合いが高いこと等である。 これは建設業で日雇い労働の比重が大きいことにも示されている。 40年の全雇用労働者中日雇い労働者の比率は36.7%で、製造業の7.0%に比べると非常に高い、しかし、35年の45.0%よりはかなり低下しており、これは労働力不足と機械化を反映した雇用の常用化傾向を示すものと思われる。 これを日雇い延べ人員指数の前年同月比でみると、(第4-15図)、建設業では38年ごろから低下傾向がみられ、製造業に比べるとまだ高い伸びをみせているものの、全産業に比べると39年下期ごろからほぼ同じような伸び率になっている。 一方常用雇用指数の前年同月比(第4-16図 )をみると、36年以降全産業、製造業ではいずれもほぼ一貫して低下しているが、建設業では景気の変動しており、しかも伸び率そのものが非常に大きい。 特に40年6月以降の動きをみると、製造業では絶対数で減少しているのに建設業では伸び率が拡大しており、非常に対照的である。 このように建設業にも雇用の常用化傾向が伺われる。 他方この常用雇用についても不安定性がみられる。 例えば常用雇用者の入、離職率をみると、建設業、他産業に比べて著しく高く、40年平均でみると建設業の入職率は5.9、離職率は5.5で、全産業平均(入職率2.7、離職率2.6)に比べて2倍強となっている。

第4-15図 日雇延人員指数の前年同月比

第4-16図 常用雇用指数の前年同月比

以上述べたように、建設業では数のうえでは1%にも満たない大企業と大部分を占める零細業者との格差の問題、雇用面では不安定性、季節性が大きいため常用化が困難である等多くの問題をかかえている。 しかし、前にも述べたように増大する建設投資を処理していくためには、さらに建設業の近代化を促進せねばならない。


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