昭和41年

年次経済報告

持続的成長への道

経済企画庁


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持続的成長への道

諸部門の動的均衡

中小企業の近代化

中小企業も昭和30年代にはこれまでにみられないような大きな変化をした。

その第1は、製造業出荷額のなかで、中小企業(従業員299人以下)の比重が小さくなったことである。中小企業の事業所数、従業者数や出荷額が小さくなったというわけではない。 30年から38年へかけての8年間に、中小企業の事業所数は、3割増、従業者数は68%増、出荷額(名目額)は約3倍となった。 しかし、製造業出荷額の中の比重は30年の56%から、38年には50%となった(第78図)。

第78図 規模別、事業所数、従業者数、出荷額の推移(製造業)

変化の第2は経営規模の拡大である。過去10年間の同一企業の規模別移動をみると、第96表に示す通りである。 この表は従業員の規模によって9つに分類し、その規模別の移動をみたものだが、製造業で30年から35年までに48%が、35年から40年までに35%の企業が上方へ移動している。

第96表 企業規模別の移動率(製造業)

第97表 規模別事業所数、従業者数、出荷額の動き

第3は、中小企業の生産構成や地位の変化である。生産の増大した分野の1つは経済全体の重工業化に伴うもので、自動車、電気機器等の部品生産部門で、 30年から38年までの中小企業の出荷額は年平均15.5%増であったが、この部門では年率21.9%の増加を示した。

いま1つは、家具雑貨等で大企業と競合しない分野であり、年率18.1%の伸びであった。また、織物、紙加工品等の2次加工部門(年率15.4%)でも生産はかなり伸びた。これと反対に大企業との競合が激しい紡績、紙、パン等では中小企業の伸びはかなり低かった(年率12.9%)。

木製履物、清涼飲料水の一部等のように需要の変化によって衰退をたどったもの、練豆炭、天然樹脂のように新規製品によって代替が進められたものもある。

全体として、中小企業の比重は低下している中にあっても、比重が上昇したものもある。製造業142業種のうち中小企業の比重が上がったものは、織物、刺しゅう・レース、ゴム履物等23業種あった。 高成長産業と低成長産業とに分けてみると、前者ほど中小企業の地位の低下は大きく、また財別には紡績、織物、加工紙等の生産財ではわずかに上昇し、中小企業の特化係数が高まっている(第98表第99表)。

第98表 成長グループ別賃金、生産性と中小企業の比重

第99表 財別の中小企業比重、出荷額構成と特化係数

こうした変ぼうを引き起こした原動力となったのは、1つは、需要や生産投術の変化であり、ほかの1つは労働力需給の変化である。 技術革新や、消費革命に適応したもの、労働力不足に対処して合理化に成功したものと、旧来の方法を続けたものとで、明暗の対照は著しかった。 自動車や家庭電器の下請け中小企業なかには、親企業の量産体制にマッチして近代化を進め、部品専門メーカーとして企業規模を拡大したものも少なくない。 産業機械や軽機械でも独自の設計能力や、優れた技術開発力をもつものでは市場のシェアを拡大した。 また合成繊維の大量生産で織布、染色、縫製品等の加工中小企業が発展し、あるいは新しい合成樹脂の相次ぐ出現で、雑貨、容器、包装材料等で中小企業の新しい分野が開けた。 しかし、こうした構造変動に適応することができず、経営困難に陥ったものも少なくないことは、最近において、中小企業の倒産が多いことがこれをものがたっている。

中小企業にとって特に大きな問題となっているのは、人手不足と賃金の上昇である。

大企業と中小企業との賃金格差は中高年齢層は依然として著しいが、若年労働者ではほとんど差がなくなった。 大企業(1、000人以上)と中小企業(30〜49人層)の1人あたりの賃金格差を比べると(工業統計表)大企業100に対して30年には47であったものが、 35年には50に縮まり、39年には63に縮小した。

30年以降の大企業(1、000人以上)と中小企業(30〜49人)の生産性(付加価値)と賃金の動きを比べると両者は対照的だ。 大企業では生産性が賃金を上回っているが、中小企業ては賃金の方がわずかながら生産性よりも上昇している(第79図)。

第79図 賃金、生産性、分配率の推移

賃金格差は、労働力不足経済への移行に伴って次第に縮小してきた。 こうした経済の進歩に伴う必然的な変化に適応できないと、経営は苦しくなる。 中小企業では人件費等の上昇によって、純利益率が低下していることは ※参照※ に示す通りである。 賃金格差の縮小にもかかわらず資本装備率の格差は依然大きく、また大企業に比べて借入金利が高いことも問題だ( ※参照※)。 中小企業に対しては景気変動の波を小幅にし、景気後退に伴うシワ寄せ、金融、商品取引等の不利な条件が改善され、健全な競争のための環境が整備されることが必要だが、中小企業自体も生産性を高め、 需要構造や労働力事情の変化に適応していかなくてはならない。 激しい環境変化のなかで、旧来のままの経営のやり方を墨守して、その地位を守ることは次第に困難となってきた。 独自の技術を開発し、自己の分野をきり開いたり、あるいは規模の利益を目指して協業化、合併等の前向きの経営態度がますます必要となってぎた。 政策面でも、その近代化を促進していくことが必要である。

第100表 中小企業、大企業の純付加価値額構成と収益性の推移(製造業)

第101表 中小企業、大企業の格差(製造業)


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