昭和41年

年次経済報告

持続的成長への道

経済企画庁


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昭和40年度の日本経済

今回の景気変動の性格と問題点

昭和40年は不況の年であったため国民総生産の伸びは名目で9.0%と前年の18.3%に比べて大きく鈍化し、鉱工業生産も年度比較で3.6%の上昇に留まった(第13表)。しかし不況は、40年秋に底をつき、昭和41年に入ってから幾分明るさを取り戻してきたが、今後景気はどのように展開していくだろうか、不況の本質は構造的であって景気の好転は遅れるのではないか、経済規模は拡大に向かっても企業経営は改善しないのではないか、国際収支に不安があって回復は長く続かないのではないか、次にこれらの問題を検討したい。

第13表 総需要と総供給

今回の不況の性格

今回の景気変動は、在庫調整を始発点とする短期循環的性格と、昭和35〜36年のブームに対する反動という中期的な性格、あるいは経済の成長過程で起きた労働力過剰から労働力不足への転換といった構造的な変化に対する不調整等が重なった複合的性格を持っている。もちろん、現実の不況現象はいろいろな原因が入り混じっており、その性格を分離することはできないが、

(イ)国際収支の改善が進み、金融が緩和しただけでは景気は回復せず、財政面からの需要の補給が必要であったこと、

(ロ)経済規模の落ち込みは、第14表にみるように軽微てあったのに、中小企業の倒産、信用不安、全業経営の悪化等が激しかったこと、

第14表 不況期における景気指標の変化

(ハ)不況下でも消費者物価が大幅に上昇したこと、

等は、単に不況が短期的な在庫循環的性格のものではないことを示している。

しかし、経済のアンバランスを過大視して、景気の立ち直りが困難であると見ることは妥当でない。総需要の伸びは第13表の通りで、昭和39年の18%増が40年には9%増と半減したが、その減少に最も大きく寄与したのは在庫投資であった。だが在庫投資の低下という短期の循環的要因は既に解消の方向にあるし、また、企業経営を悪化させる原因となりた中期的、構造的な不調整の中にも適応が進んできているものもみられる。構造的な不調整を急速に改善することは難しいが、景気の先行きの判断には、循環と構造との二つの側面を考える必要がある。

循環的側面

今回の不況の進行とその回復とを昭和37年の不況と比べてみると、両者にはよく似た点がある。例えば、景気動向指標でみた景気の山を起点として、鉱工業生産、出荷、在庫率を過去の動きと比較すると、第17図(I) 第17図(II) 第17図(III)の通りであるが、転換点からみて在庫率は約1年で減少を始め、生産や出荷は約14ヶ月で上昇を始めている。しかもその増減のテンポも酷似していることが印象的である。もちろん前回に比べて今回は金融緩和後も長く経済の停滞が続き、財政需要によって回復のいとぐちがえられたという点に違いはあるが、それにしても生産、出荷、在庫等の動きが相似していることは、今回の不況もこれまでと同様、在庫循環という側面も持っており、現在は在庫投資が回復の局面に入っていることを示すものであろう。

第17図(I) 鉱工業生産指数の推移

第17図(II) 鉱工業出荷指数の推移

第17図(III) 製品在庫率指数の推移

在庫投資は本来最終需要が減らなくても、その伸びが鈍っただけても減少するような性格を持っており、第18図に示すように、39年初めに国際収支の悪化によって金融引き締めが行われ最終需要の増加率が鈍ると、それにつれて在庫投資は急減に向かいはじめた。その下降の型も前回とよく似ている。しかし在庫の整理が進んでくると共に上向きに転じ、景気にも明るさがみえてきたことは前述の通りである。

第18図 在庫投資と最終需要

もっとも設備投資の回復は、生産能力と需要とのアンバランスが大きかったたけに、これまでの景気回復期に比べて遅れている。しかし、能力の増加テンポは投資の沈静を反映して鈍っていたので、設備の稼働率は41年に入って生産が増大に転ずると共に上昇に向かった(第19図)。機械受注も、昭和40年4〜6月を底にして上昇に向かっており、設備投資は緩やかに増大することが予想される(第20図)。

第19図 稼働率指数の推移

第20図 機械受注の比較

構造的側面

しかし、構造的問題の解決は今後の課題として残っている。今回の不況の特色は、景気後退の過程でいろいろな構造的な不調整が表面化したことで、特に不況下の消費者物価の上昇、企業倒産の増大等は注目すべき点であった。また、企業経営の悪化が著しかったことも単に循環的要因だけでなく、中期的、構造的原因によるものであった。

不況下の消費者物価上昇

40年度の消費者物価は不況下にもかかわらず7.4%と騰勢が強まった。これは騰勢が本格的になった36年度以降でも最も高い上昇率であった。これまでの景気後退期における消費者物価の動きをみると29年や33年の場合には消費者物価は景気後退と共に弱含みに動いた。しかし35、6年ごろから消費者物価は好不況にかかわりなく値上がりを続けるようになり37年、40年になると景気後退期にもかかわらず上昇を続けるというように変わった。

第21図 最近の物価の動き

第15表 景気後退期の消費者物価の動き

40年度における消費者物価上昇の内容をみると食料の8.8%、雑費の7.9%の上昇が大きかった。また特殊分類(暦年)でみると、農水畜産物の13.3%上昇、個人サービス・家賃の11.0%の上昇が目立った。消費者物価全体の上昇に対する寄与率をみると農水畜産物52.7%、個人サービス・家賃22.7%であり、さらに中小企業製品の14.8%を加えると、消費者物価上昇の約9割はこれら3者で占められている。このような農水畜産物、個人サービス・家賃、中小企業製品の値上がりによって消費者物価が上昇するという形は40年も、これまでと基本的には変わりはなかったが、40年の消費者物価の動きのなかで多少目立ったのは、農水畜産物と公共料金の上昇率が36年以降の各年に比べるとかなり大きかったことである。

第16表 消費者物価指数の前年度比較

第17表 消費者物価の費目別・特殊分類別前年度比上昇率

農水畜産物の上昇が大きかったのは、消費者米価が40年1月に14.8%引き上げられたこと、野菜、肉類、鮮魚等の生鮮食品の値上がりが激しかったことによる。なお、消費者米価は41年1月にも8.6%引き上げられた。また、生鮮食品の価格は需要の伸びに生産が十分対応できず、また流通経費の増大もあってすう勢的に値上がりするなかで、自然条件も左右されて激しく変動するのが最近の特徴だ。40年前半には野菜、鮮魚の値上がりが、前年同期比でそれそれ40〜50%、20〜25%と激しかった。もっとも40年10〜12月以降は野菜の値下がりを中心に生鮮食品全体では1年前よりやや低い水準となっている。

公共料金は39年いっぱい料金が据え置かれていたが、40年に入ってからは、1月に診察料、バス代(六大都市)、4月公立高校授業料、41年に入ってからの私鉄、国鉄運賃等、値上げされたものが多かった。

35年以来の公共料金上昇率を個別にみると、第22図から分かるように、国鉄、私鉄運賃、市内電車、バス・タクシー代のような交通費、診察料、入浴料、清掃代等の保険衛生費や公営家賃、水道料、授業料の値上がりが大きい。これらは人件費と施設費を中心とするコスト上昇圧力を強く受けたものが多い。例えば、都市交通でみると、賃金の上昇が続いているのに、路面交通の渋滞による効率低下が生じること等によって、料金収入に占める人件費の割合は35年度の67%から40年度の86%へ上昇している。また、上水道でみると、急激な水道施設の拡充に伴い、給水lm²当たりの資本コストが40年度には35年度より90%以上高まっている。このような傾向は地方都市よりも六大都市の方が著しい。

第22図 公共料金の推移

こうしてみると公共料金の値上がりも、賃金上昇と生産性向上の遅れのギャップや人口の都市集中、都市の過密化による施設能力不足等、いわば消費者物価に共通の値上がり要因による面が大きいものといえる。

農水畜産物や公共料金以外でも理髪、パーマ等の対個人・サービス料金、下着、みそ、とうふ等の中小企業製品の値上がりもこれまでと変わりなくすう勢的に続いた。こうして40年度も農業、中小企業、サービス業、流通部門等におげる生産性向上の立ち遅れという消費者物価上昇の構造的要因には目立った改善はみられず、不況の下でも消費者物価のすう勢的上昇が続いた。もっとも40年度の消費者物価は、後半になって、野菜の反落を主な原因として上昇テンポは衰え、前年同期比では40年4〜6月8.7%、7〜9月8.0%に対し、10〜12月6.7%、41年1〜3月6.2%となったが、前半での上昇が大きかっただけに、前年度比7.4%という大幅な上昇となったのである。

高水準の中小企業整理倒産

中小企業の整理倒産が多かったことも今回の特色であった。40年度の中小企業の景況は業種別にみると官公需関連の通信機部品、輸出関連のオートバイ部品、ミシン、双眼鏡、金属がん具、陶磁器等は比較的順調であったが、電気磯器部品、合成繊維織物、銑鉄鋳物等では親企業の生産調整の影響を受け、また、中小建設業は建設投資の伸び率鈍化や大手建設業との競争激化等によって受注の不振に悩んだ。軽工業よりも重工業、中小企業上位層より下位層、独立中小企業より下請け中小企業の売り上げ、受注の不振が目立った。中小企業の販売条件や借り入れ難は前々回(32〜33年)、前回(36〜37年)の景気後退期に比べてそれほと悪化を示さなかったが、中小企業を中心とする整理倒産(東京商上興信所調べ)は38年度の2,117件から39年度には4,931件に増え、さらに40年度には6,060件(前年度比23%増)に増加した。このため企業数に対する発生比率も38年度の0.34%から39年度0.74%、40年度0.84%と上昇した。業種別には金属、機械工業、建設業が多く、規模別には資本金500万円以下のものが全体の3分の2を占めている。このような倒産多発化の直接的原因には売り上げ不振、売掛金回収難等によるものが多いが、ぞの背景には、段ボールのような中小企業相互間の過当競争、工作機械、鋼製家具、印刷等のように大企業、中小企業間の激しい競争、印刷機械のように輸入品に圧迫されたもの、自動車、電気機器にみられる親企業のコストダウン要請等による諸影響が働いている。また中小企業ではこれまでの活発な設備投資によって資本が固定化し、さらに加えて人件費上昇により利益率が低下を示す等経営内容の悪化要因も働いている。中小企業は大企業に比べて流動比率は低く、負債比率や借入金対自己資本比率は高いが第24図に示すように自己資本比率はさらに下がり、このため負債比率や借入金対自己資本比率は傾向的に上昇をたどっている。また企業の収益率も35〜36年をピークに低下し、総資本回転率も下がり続ける等中小企業の不況抵抗力は低下している。

第23図 企業の整理倒産

第24図 中小企業と大企業の財務比率推移

第25図 中小企業、大企業の収益性推移

このように多発化した整理倒産も41年に入っての景気回復でその増加は鈍り、小康状態を保っているが、 第26図に示すように大企業に比べ、高い欠損企業の割合は今回の不況でさらに高まっている。

第26図 総資本収益率の分布(製造業)

また、経営内容は依然として悪化したまま推移しているが、これは需要構造、市場条件、労働力の需給関係等最近の経済構造の変化に対する中小企業経営の適応が遅れたことによる面も少なくない。


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