昭和40年

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≪ 附属資料 ≫

昭和39年度の日本経済

財政

 昭和39年度の財政は、景気調整の浸透もあって近年にない租税収入の伸び悩み、国庫資金繰りのひっ迫、財政資金対民間収支が景気調整の初期としては散超基調に終始したことなど、ここ数年の財政とは若干異なった推移を見せている。以下39年度財政について回顧してみよう。

当初予算の性格

 39年度予算は、38年12月の預金準備率の引き上げに始まる景気調整政策への転換のもとに編成された。すなわち、38年度の急速な景気上昇の結果、国際収支は38年中ごろから次第に悪化を示しており、また、消費者物価の根強い上昇傾向にも拍車がかかるなど景気過熱化の現象が見られ、景気安定化への努力が払われつつあった。また、対外的にも、IMF8条国への移行、OECD加盟など本格的な開放体制への移行を迎え、従来にもまして経済体質を改善し、産業の国際競争力を強化することが要請されていた。従って、一面では経済開放化に対処して我が国経済の構造的なひずみの是正など経済の質的強化を一層おし進めると共に、他面、国際収支と消費者物価の安定を図るために内需を適度に抑制し、経済の安定成長を図るということが当面の経済政策の目標とされた。

 そのため、39年度予算は、財政が景気刺激要因となることを避け、経済の安定した拡大を図るため、財政の健全性を堅持すると共に、経済の長期的な発展のための基礎条件の整備と経済発展に立ち遅れた方面に対する諸施設の充実に重点を置いて編成された。

財政規模

 39年度一般会計当初予算の規模は、歳入、歳出とも3兆2,554億円で、前年度当初予算より14.2%、4,054億円増加した。増加額では、37、38両年度当初予算の増加額に次いで大きいが、増加率では、36、37両年度の増加率を大きく下回ることはもちろん、38年度の前年度に対する伸び率17.4%をもかなり下回っている。この結果、一般会計予算の国民総生産に対する割合は13.5%と37、38両年度当初予算を下回ると共に、36年度以来続いてきた一般会計の国民総生産に対する比率の上昇も、39年度において低下を示すこととなった。

 特別会計を含めた国の予算純計は、歳入6兆1,510億円、歳出5兆8,382億円で、歳出についてみると前年度当初より13.4%の増加となっている。

 一方、財政投融資計画は、36年度以降かなり高水準の増加を示してきたが、1兆3,402億円と前年度当初より2,305億円、20.8%の増加となり、その伸び率は前年度を若干下回ることとなった。

 地方財政計画は、3兆1,381億円で前年度計画より19.2%、5,050億円増大した。

 こうした財政規模の拡大を反映して、政府の財貨サービス購入額は、前年度実績見込みより11.2%、5,300億円多い5兆2,800億円と見込まれた。

 最近の財政規模の推移は 第8-1表 の通りであり、すう勢的には財政規模の拡大が目立ち、この結果、国民総支出に占める政府の財貨サービス購入の比重も上昇傾向にあるが、一般会計歳出規模についてみれば伸び率の鈍化がみられ、一般会計の国民総支出に対する比率は低下している。そして39年度当初予算においては、歳入面において前年度剰余金が大幅減少した結果歳入増加の見込みが従来に比べて小さく、また、財政が景気に対して刺激的要因となることを避けるという予算編成態度もあって、一般会計予算規模がここ数年の伸びに比し低くなったといえよう。

第8-1表 国民総支出と財政規模の推移

 次に、資金的な面から39年度予算をみると、当初予算から算定された財政資金の対民間収支は、年度間約1,200億円の散布超過になるものと見込まれた。これは前年度剰余金の受け入れや食管会計の散布超過など一般財政で約1,700億円の大幅散超が見込まれる反面、国際収支の悪化もあって外為会計で約500億円の揚げ超が予想されたためである。

歳入歳出予算の内容

歳入

 39年度一般会計予算を歳入面からみると、その特徴として、前年度剰余金受け入れの激減、「租税及び印紙収入」の自然増収が例年より大きいこと、及び税外収入が38年度より減少したことが挙げられる。すなわち、一般会計の規模は前年度当初予算に比べて4,054億円増大したが、租税の自然増収は5,989億円と例年より大きくなっている。これに対し、前年度剰余金受け入れが38年度に比べて、1,866億円の大幅減少となっており、また税外収入においても国立学校特別会計の設立などにより69億円の減少となっている。このことは 第8-2表 にみるごとく、39年度歳入予算において「租税及印紙収入」が当初では89.2%、補正後で88.9%とここ数年にみられない高い比率を占めていることにも示されている。

 なお、39年度も前年度と同様、 第8-3表 にみられるように国税で初年度789億円(平年度1,129億円)の減税を含む税制改正が行われた。減税規模としては38年度の499億円を大幅に上回り、大幅減税であるとみられるが、そのねらいは大きく分けて、 第8-1表 に中小所得の負担軽減であり、 第8-2表 には企業の体質強化のための企業課税の軽減である。

第8-2表 一般会計歳入予算の推移

第8-3表 39年度税制改正による増減(△)収額調

 まず、中小所得者の負担軽減の面では、近年の消費者物価の急騰によって生活費が上昇し、中小所得の実質租税負担が重くなっているところから、課税最低限を標準世帯で月収4万円程度に引き上げることを主眼として、基礎控除1万円、配偶者控除5千円引き上げなど諸控除の引き上げが行われた。

 企業課税の減税では、企業の内部留保の充実のため機械設備等の耐用年数の短縮などを実施すると共に、輸出所得控除制度の廃止にかわって、海外市場開拓準備金制度などの企業の国際競争力強化のための減税が行われた。

 このような税制改正の結果、39年度の国民所得に対する租税負担率は国税のみで15.6%、国税地方税合計では22.2%になるものと見込まれた。

 財政投融資の原資見込みは 第8-4表 の通りであるが、公募債借入金、資金運用部資金の原資に占める割合が一層高まっていることが目立っている。すなわち、前年度当初計画に比べて財投規模は、20.8%、2,305億円増加したが、そのうち71.2%、1,641億円は資金運用部資金で、26.8%、618億円は公募債借入金であり、この結果原質に占める運用部資金の比重は60.1%、公募債借入金は18.7%と、それぞれ前年度より2.3、1.7ポイント高まった。

第8-4表 財政投融資原資の推移

 運用部資金の増加は、好調を続ける郵便貯金の伸びに支えられており、公募債・借入金は政府保証債の増加が主因である。他方、簡保資金は集中的な満期到来もあって前年度当初計画より100億円減少し、外貨債等は世銀借款の減少もあって32億円の減少となった。そのほか産投会計出資が812億円と前年度より178億円の増加となったが、その資金は固有原資51億円、一般会計繰り入れ572億円、産投資金取りくずし189億円で賄われた。

歳出

 歳出予算は、公共投資、社会保障、文教科学振興の重要施策に対する重点度をさらに高めると共に、農林漁業や中小企業の近代化などのヒズミ是正や39年度経済運営の基本的課題である輸出の振興などに主眼が置かれた。

 第8-5表 は一般会計主要経費別歳出予算の推移をみたものである。前年度当初予算との比較でみると、公共投資、社会保障、文教科学振興に歳出増加額4,054億円のうち2,080億円充当され、これだけで全体の増加額の51.3%を占めている。もっとも「文教及び科学振興費」では39年度に国立学校特別会計が新設されたのでこれを含めると対前年度当初増加額はこれら3施策で実質的には2,329億円となり、全増加額に占める割合は54%あまりと高まる。

第8-5表 一般会計主要経費別歳出予算の推移

 他方、農業や中小企業といったややもすれば経済発展に立ち遅れ勝ちな部門の近代化や住宅、環境衛生といった生活基盤の強化にも配慮しており、前年度当初予算に比べ中小企業対策費39.8%、農業構造改善対策費70.6%、住宅対策費21.6%、環境衛生対策費54.1%のそれぞれ増加とたっている。

 このように39年度予算は、内容的には、社会資本の充実を中心とする産業基盤の整備、社会保障の充実等の従来の重点施策を一層おし進めると共に、経済の高度成長に伴うヒズミ是正に大きな努力を払っている。

 財政投融資計画の内容は 第8-6表 の通りであるが、住宅、生活環境施設など国民生活に直結した分野への重点度を高めると共に、中小企業、農林漁業に対する融資が大幅な増加となっている。これに対し道路等の産業基盤関係が構成比ではほぼ横ばいであり、基幹産業向けは引き続きその比重を低めている。すなわち財投計画の前年度当初に対する増加額2,305億円のうち住宅等の国民生活基盤に直結した分野に59.3%、1,367億円投入し、この分野の財投計画に占める比重を前年度の49.1%から50.8%へ高めると共に、また、国土保全、道路など産業基盤の強化に36.2%、835億円充当された。

第8-6表 財政投融資使途別分類推移

39年度財政の実行

 39年度経済は景気調整下にあった。年度前半は経済の伸びもかなり高かったが、後半に至って金融引き締めの実体経済への浸透が見られるに至った。

 こうした景気調整の影響もあって、租税収入は伸び悩み、予算額を下回ることとなった。この租税収入の伸び悩みもあって、国庫の資金繰りは次第にひっ迫したが、また輸出好調による国際収支の早期立ち直りもあって、財政資金対民間収支は当初見込みを大幅に上回る記録的な散超を示すこととなった。

租税収入の動き

 租税収入は年度当初は比較的順調であったが、金融引き締めの実体経済面への浸透と共にその後伸び悩み、事実上の決算額に近いとみられる40年4月末の一般会計の収納実績は予算額に対し、99.3%と予算額を下回った。40年4月末において酒税、申告所得税は予算額を上回っているが、法人税、物品税は予算額をそれぞれ2.8%、4.2下回り、租税収入伸び悩みの原因となっている。

 一般会計の補正後予算に対する年度間の租税収納実績の推移を示したものが、 第8-1図 であるが、39年度の予算額に対する租税収納実績が過去5ヶ年平均や37、38年度に比べ全体として極めて悪く、また月を追って悪化していることがわかる。

第8-1図 一般会計租税収納歩合の推移

 主要税目別に租税収入の推移をみると、 第8-2図 にみるように申告所得税、源泉所得税が前年度同期をおおむね20%以上上回る好調な伸びを示しているのに対し、法人税及び物品税が景気調整の影響もあってほぼ10%内外の伸びであり、特に租税収入の中で一番高い比重を占める法人税が低調であったことが租税収入の伸びを低めたといえる。

第8-2図 租税収納額対前年同月比推移

 このように39年度の租税収入は概して低調であったが、景気調整が租税収入にどのような影響を及ぼしているのであろうか。過去2回の景気調整期と38年12月の金融引き締め開始以後の租税収入の推移をみたものが 第8-3図 であるが、39年度の租税収入の推移は過去の景気調整期のそれとは著しい対象を示している。すなわち、過去2回の調整期には金融引き締め開始当初の税収が非常に高く、景気調整の浸透と共に急速に低下しているのに対し、39年度においては当初の税収の伸びが低いが、それに反し租税収入の落ち込みがあまりみられないことである。これには32年度の場合、所得税を中心に大幅な減税が実施されたという特種な要因もあるが、39年度については申告所得税の好調な伸びを中心に所得税の伸びが租税収入を下支えした反面、法人税が前2回の景気調整期には金融引き締めに伴いその伸びで大幅に下落としているのに対し、 第8-2図 にみるように低水準ながらその落ち込みが小さかったことなどによるものと思われる。

第8-3図 景気調整期における租税収入の推移

 ここで減税調整した主要租税収入のここ10年間の動きをみると、最近の特徴として法人税、物品税の伸びが低いことと、所得税が景気調整下にあって順調に伸びていることが挙げられる。法人税については最近の企業収益の伸びが低下していることによるものであり、物品税は耐久消費財の一巡に対応するものであるが、所得税は賃金上昇による給与所得納税者及び配当所得、不動産所得などの申告所得税中の「その他所得」納税者を中心に納税人口が年々10%程度増加していることによるものと考えられる。

第8-4図 主要税年別対前年度増加率の推移

 法人税収の伸びが鈍かった原因として、景気調整による延納率の上昇が挙げられる。 第8-5図 は最近3年間の延納率の推移をみたものである。決算期によって延納率の振幅は大きいが、39年度の延納率はおおむね38年度より高く、前回の調整期である37年度よりは低いといえる。しかし、年度後半には金融引き締めの企業段階への浸透により、延納率の上昇がみられ、39年8月から40年1月の決算期分については延納率は39.4%と年度前半に比べ1.3ポイントの上昇となっており、この面から若干税収の伸びが鈍かったといえよう。

第8-5図 法人税延納率の推移

 39年度租税収入が補正後予算を下回ったことは、一方には景気調整による租税収入の伸び悩みもあるが、他方では税収予算が例年より大きめであったといえる。

 すなわち、39年度補正後の一般会計租税収入予算は前年度決算額にたいし、17.4%の伸びを見込んでいる。この伸びは経済の高度成長によって高い税収の伸びが可能であった35、36年度の伸びを大幅に下回っているが、ここ10年間の一般会計租税収入の伸び率の平均値15.8%を上回っており、また前年度決算に対する補正後の税収予算の増加額は4,391億円とこれまでの最高であった35年度の自然増収4,049億円をも上回っている。

 しかし39年度においては、所得税の好調に対し、法人税、物品税の伸び悩みが目立っている。すなわち、39年度補正予算において、法人税については120億円、物品税については39億円のそれぞれ減額修正を行ったのであるが、39年度税収の決算額にほぼ近い40年4月末においても、法人税は283億円、物品税は62億円予算額を下回った。物品税は既に述べたように景気調整の影響と耐久消費財の普及の一巡によるものと思われる。法人税の伸び悩みは基本的には 第8-6図 にみるように最近の企業収益率の低下を反映するものと思われる。

第8-6図 各種利益率及び売上高増加率の推移

 最近の企業収益率の低下は、減価償却の増大による一時的な要因による面が大きいといわれている。35、36年の設備投資ブームの結果、償却を必要とする資産が増えているが、また、企業体質強化を目的として税制改正により減価償却の拡充が行われ、償却費負担が増加している。39年度の税制改正においても償却の拡充強化を目的として耐用年数の短縮が行われ、この措置により39年度上期には法人企業の減価償却率の上昇がみられる。では、償却率の上昇は企業収益率の低下を通じてどの程度法人税収入の伸びの低下をもたらしているであろうか。償却前利益率(対売上高)、減価償却率と法人税伸び率との相関を求め、これによる推定値と実際値とを図示したものが 第8-7図 である。37年度上期、38年度上期とかい離の大きい時期もあるが、相関式による推定値と実際値はほぼ近い。この相関式によれば、法人税の伸びを左右する要因は、償却前利益率3に対し、減価償却率1という割合になる。従って、近年の法人税収入の伸び率の鈍化傾向は 第8-7表 にみるように36年当時に比べ償却前利益率が低下したことにもよるが、減価償却率の上昇による面も大きい。特に、39年度については、耐用年数短縮によって、上期についてみれば償却率が0.3ポイント上昇していることが法人税の伸びをかなり低めたといえよう。

第8-7図 法人税伸び率と減価償却の推移

第8-7表 法人税伸び率と減価償却の推移

財政支出の推移

 39年度予算は、景気調整下ということもあって年度当初の支出は比較的緩やかであったが、金融引き締めの実体経済への浸透と共に年度後半には大幅な支出の増加がみられた。

 すなわち、日銀調べで、一般会計予算の執行状況をみると、歳出予算現額に対する支出済み割合は第1四半期までで25%、第2四半期までで48%と、それぞれ前年度に比べて2ポイント程度下回っていたが、第4四半期に入り大幅な進ちょくを見せ年度末には、93%と前年度を1ポイント上回るに至った。

 うち公共事業関係費は、オリンピックの関係もあって年度当初から支出が進んだ。特に港湾関係の事業が速い進ちょくをみせ、上半期中に61%の支出が実行されており、支出の進ちょくがスムーズであった38年度の同期を4ポイントも上回っていた。

 39年度も一般会計予算について、11月に補正が行われた。補正の内容は追加1,064億円、修正減少213億円であり、補正による歳出規模の増加は851億円であって、補正後予算は当初予算より2.6%増加して3兆3,405億円となった。

 補正予算による追加の主なものは、公務員給与改定(392億円)、公共土木施設等の災害復旧等事業費(188億円)、生産者米価引き上げに伴う食管会計への繰り入れ(60億円)、農業共済再保険特別会計への繰り入れ(46億円)である。

 補正予算による財政規模の増加は2.6%と前年度の補正率7.3%をかなり下回る小幅なものに留まった。これは景気調整の影響もあって既に述べたように法人税、物品税、有価証券取引税などの補正予算の減額修正にみられるように、租税の年度内の自然増収が伸び悩み、補正財源が乏しかったことによる面が大きい。補正財源として租税、税外収入あわせて851億円の増加が見込まれたが、追加補正歳出額1,064億円に対し、なお213億円の財源が不超し、これを補てんするために、39年度補正予算においては、28、34両年度の補正において実施をみた既定経費の削減を行った。しかし、補正財源中651億円を占める「租税及印紙収入」については、所得税の伸びがあったものの全体としてその後も伸び悩みを続け、「租税及印紙収入」の収納実績は補正後予算を約200億円下回り(40年4月末現在)、補正後予算に対してさらに自然増収が期待できたこれまでの傾向と様変わりの状態を示すに至った。

 39年度の財政投融資の当初計画は1兆3,402億円であるが、その後年度間3回、計995億円の追加改定が行われた。主なものは、輸銀の資金拡充(225億円)、中小企業金融対策(240億円)、国鉄の工事費補てん(205億円)、新潟地震等災害復旧などのための地方債(170億円)である。当初規模に対する追加額の割合は7.4%と、前年度の9.3%に比べ下回っているが、これは前年度は国鉄新幹線工事など多額の追加があったためである。

 中小企業金融については、中小企業の近代化という要請もあって当初計画で前年度実績を7.9%上回る1,617億円を予定していたが、景気調整による中小企業金融のひっ迫もあって季節的に資金需要の強まる年度後半の中小企業金敵対策として前年度を55億円上回る240億円の財政資金の追加が行われた。これと共に、運用部資金による中小オペ500億円が実施されるなど、年度後半の中小企業金融の円滑化のために財政資金の弾力的な運用がみられた。

 では、このような補正予算や財政投融資計画の追加を含めて、39年度財政支出は国民所得ベースではどのようになっているであろうか。いま、一般会計、特別会計、政府企業、地方財政を含めた国民所得ベースでみた総財政支出を機能分類し、これに政府関係金融機関の対民間投融資を加え、我が国の現在の総財政支出の重点指向をみたものが 第8-8表 である。

第8-8表 39年度総財政支出の経済的機能的分類

 このような総財政でみると、我が国財政の重点は国土開発、教育サービス、経済サービスにおかれていることがわかる。特に、道路、港湾等の整備に象徴される国土開発投資は、我が国財政の資本形成のほぼ半分を占めており、また、国鉄、電電といった運輸通信部門の資本形成の比重も高く、一般に産業基盤の整備強化への重点指向がみられる。

 また、民間に対する資金の供給をみると、商鉱工業に対するものが圧倒的であるが、農林水産業への資金供給もかなり行われているといえよう。

 これに対し、国民生活に直接結びつく社会サービス支出をみると振り替え支出では圧倒的であるが、財貨サービス購入でみるとまだその比重は必ずしも高いとはいえない。近年、住宅、上下水道の整備といった国民の生活基盤強化が時代の要請となっているのであるが、社会サービス支出の資本形成は国土開発投資の3分の1に過ぎず、こうした生活環境整備への資源配分は欧米先進諸国に比し、立ち遅れているといえよう。

財政収支

 39年度の財政資金対民間収支は、当初、「前年度剰余金受け入れ」を主因に年度間1,210億円の散超が見込まれていたが、食管会計の散超増などにより4,066億円の大幅散超を記録することとなった。

 これは歳入面において租税収入が景気調整の影響を受けて伸び悩み補正後税収見積もりを約200億円下回ったほか(4月末現在)、歳出面において生産者米価の値上げによって食管会計が1,379億円と大幅散超を記録し、国際収支の急速な立ち直りによって外為会計が55億円と小幅ながら散超に転じたこと、などが主な原因である。 第8-9表 は四半期別財政収支の実績を前年度と比較したものであるが、総計では4,066億円の散超と前年度を大幅に上回った。年度間の推移をみると年度初来第3四半期まで、前年度を大幅に上回る散超基調であったが、第4四半期に入り租税収入が予想より落ちなかったこともあって一般会計が前年度を上回る揚げ超を示し、また過用部が回収金の増加などもあって揚げ超に転じたことなどによりやや散超基調が減少することとなった。

第8-9表 財政資金対民間収支の推移

 しかし、このように散超基調に推移したことは、過去の景気調整期の初期が揚げ超を示したのと異なり、39年度財政資金対民間収支の著しい特徴をなしている。財政資金対民間収支の実績を四半期移動平均したものが 第8-8図 であるが、過去の景気循環においては金融引き締めに続く景気調整の初期には財政収支が大幅な揚げ超を示したのに対し(32年度2,597億円、36年度4,973億円)、今回の景気循環においては景気上昇期の38年度が散超であったのに引き続き、39年度には一層その散超基調を強めている。その原因として、一般財政が38年度以来散超基調に推移し、39年度に入り一層その度合いを強めていることが挙げられる。この一般財政の散超基調をもたらしたものは、37年度以降はそれ以前の好況期の揚起による国庫剰余金の散超期にあることと、税収の伸び悩み及び補正予算によって年度内の国庫収入は当年度内に支払われる傾向が強く、補正後の租税の自然増収が小幅に留まっていることである。特に39年度は租税収入において歳入不足になっていること、前年度予算の収納整理期間のズレ込みが623億円と例年になく巨額に上ったことが、39年度の大幅散超をもたらしているといえる。

第8-8図 財政収支の波動

 従って、過去の景気循環において自動的景気安定要因として働いた財政資金対民間収支は、今回の景気上昇から調整期にかけて散超基調に推移したが、39年度にあってはこの財政資金の散超は、日銀の売りオペにより吸収されることとなった。

 こうした財政資金の散超の結果、国庫の資金繰りは次第にひっ迫し、39年度末の国庫余裕金残高は、2,083億円と前年度末を1,650億円下回ることとなったが、この間財政支出の集中した39年12月には34年12月以来みなかった大蔵省証券450億円の発行をみた。

40年度予算

 39年の我が国経済は、国際収支改善を目的とする景気調整下にあった。しかし、その目的もほぼ年内に達成し、39年末から本年にかけて金融緩和措置がとられることとなった。

 しかし、国際収支面において、輸出は好調を続けているものの、貿易外収支の赤字幅の拡大に加えて資本収支面でも従来のような大幅な黒字を期待することができず、国際収支の健全化のためには引き続き輸出の増大等なお一層の努力が必要とされる。また、国内面においても、根強い消費者物価の騰勢、労働力需給のひっ迫、農業、中小企業などの近代化の立ち遅れ等我が国経済の当面する課題は多い。

 こうした情勢の中で、40年度予算は、我が国経済の安定的成長と生活基盤の整備、地域開発、農業、中小企業の近代化等社会開発の推進を基本方針として編成された。

 一般会計予算規模は3兆6,581億円で、前年度当初予算より12.4%、4,026億円増加している。また、特別会計を含めた歳出予算統計は6兆7,575億円で、前年度当初予算より15.7%、9,193億円増大している。

 財政投融資計画は1兆6,206億円で、前年度当初計画より20.9%、2,804億円の増加となっている。

 地方財政計画は3兆6,121億円で、前年度計画より15.1%、4,740億円増大した。

 40年度財政では、まず、中小所得者を中心とする租税の国民負担の軽減と企業の体質強化のための企業課税の軽減、地方税負担の不均衡是正をねらいとして、平年度1,288億円の減税(地方税を含む)を内容とする税制改正が実施された。この結果、国民所得に対する租税負担率は国税地方税合計で22.1%で、前年度より0.1%の低下が見込まれた。歳出面では、公共事業費社会保障関係費、文教及び科学振興費の従来からの三大施策の歳出増加額に占める比重はなお高いものがあるが、住宅対策費、環境衛生対策費、中小企業対策費などの社会開発を推進する諸施策への重点度が高まっておりこの点に40年度予算の特徴をみるこことができる。

 このような財政規模の拡大に伴って、政府の財貨サービス購入は、前年度実績見込みを10.2%上回る6兆300億円と見込まれ、国民総支出見込みの21.4%を占めるものとされた。

 以上39年度財政の推移と40年度予算の概略をみてきた。ここ数年の我が国財政は、民間経済の急速な発展に伴う社会資本の立ち遅れといった我が国の経済的課題にこたえるため、道路、港湾等産業基盤の整備強化のための資源配分をその基本的課題として運営されてきた。そしてこのような公共事業投資を可能にしたものは高度成長に伴う著しい租税収入の伸びであった。しかし、今後の我が国財政の課題は、こうした産業基盤の整備と共に社会開発に象徴されるように住宅、環境衛生といった国民の生活基盤整備への資源配分であろう。そして、それが高度成長下の住宅、上下水道等国民生活施設の貧困に現れた公的消費の立ち遅れという現在の我が国経済の課題にこたえるものといえる。しかし、経済の高度成長の一巡によって、租税収入の伸びは緩やかになっており、これまでのような財政支出の大幅な伸びを支えた歳入面の条件は弱まりつつある。39年度一般会計の租税収入が予算額を下回ったことは、今後の財政運営におけるこのような問題点を示すものである。従って、生活基盤整備を中心とする財政の今後の役割を果たして行くには、予算の効率的使用に一層の配慮を加えると共に、民間の余裕資金の活用を図ることも1つの方法といえる。

 また、開放体制下に入って経済の安定性の確保が一段と重要な課題となった。財政の経済に与える影響がますます大きくなっている以上、財政の運用面において、金融政策等と有機的な関連を保ち、財政支出の弾力性を高めることも一段と要請されよう。

 生活基盤整備を中心とする適正な資源配分と所得格差の是正などを通じて、経済の安定化に努めることが今後の財政に期待される役割といえよう。


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