昭和40年

年次経済報告

安定成長への課題

経済企画庁


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≪ 附属資料 ≫

昭和39年度の日本経済

中小企業

39年度の概況

 39年の金融引き締め下において中小企業の生産、売り上げ活動は比較的高水準を続けたが、期を追うに従って伸び率は鈍化傾向をたどった。引き締め期間中、中小企業の販売条件は前回及び前々回の引き締め期にみられたような極端な悪化をしめさなかったが、38年の景気上昇局面でさしたる改善をみないままに漸次悪化の傾向を強めていった。他方、金融機関の選別強化により、中小企業に対する貸し出しは抑制され、決済条件の傾向的悪化とあいまって借り入れ難、資金繰り難を訴えるものが39年々初以降次第に増加した。また引き締め後急増した中小企業の整理倒産は39年5~7月にはやや小康状態を示したものの、8月以降再び増勢に転じ、12月には戦後最高を記録した。その後整理倒産件数は40年に入ってやや減少を示したが、引き締め緩和後も依然高水準を続けている。

 金融引き締めにはじまり金融緩和でおわった39年度の中小企業動向の特色は生産、受注の鈍化、借り入れ難、資金繰り難など引き締めの浸透に伴う諸現象と、傾向的に悪化をたどる決済条件、資本の固定化による不況抵抗力の低下、人件費の上昇、販売競争の激化、企業優劣の顕在化などが相互いに絡み合って及んでいた。このようななかで企業の整理倒産の多発化をまねいたが、内的、外的諸条件の悪化が中小企業に強く作用しているだけに、40年に入って相次いで金融緩和措置がとられたにもかかわらず、中小企業の景況は明るさを取り戻していない。そこで以下39年度を中心に最近の中小企業動向の特徴と問題点についてみてみよう。

鈍化した生産、売り上げ

 約1年にわたる金融引き締め下における中小企業(製造業)の生産、売り上げ活動は業種、業態により明暗があったが、年度間の生産、売り上げは 第4-1図 に示すように上昇をたどった。しかしながら中小企業の生産は、38年度の前年度比20%増から39年度には12%増に低下し、この間における大企業の19%増、15%増に比べると伸び率の低下は大きかった。また小売業(百貨店を除く)の売り上げは、16%増から10%増に低下した。さらに中小企業の生産、売り上げの推移を前年同期比でみると、38年10~12月の24%増をピークに、その後、期を追うに従って、増加率は低下をたどり、39年10~12月期には11%増、40年1~3月には8%増と著しく低下している。また小売業の前年同期に対する売り上げも同様に、38年10~12月の17%増から39年10~12月には9%増、40年1~3月には10%増と下った。生産増加率の推移を38年の景気回復期以降について大企業と比較すると中小企業では大企業より3ヶ月早く38年4~6月に増勢に転じたが、大企業より3ヶ月早く38年10~12月をピークに減少に転じ、39年の引き締め期及び40年1~3月の緩和期では大企業の増加率をかなり下回った。中小企業の生産は前回の引き緩め期にはほぼ横ばいのうちに推移したのに比べると、今回の引き締め下においては生産活動は上昇を続けたものの、伸び率そのものは大企業より先に急速に低下し、しかもその後の金融緩和期を迎えたにもかかわらず、引き締め期間中よりも沈滞の色を濃くしている。

第4-1図 中小企業の生産、売上げ活動

 主な業種について中小企業の39年の動きをみると、まず中小機械工業の生産は通産省調査によれば、 第4-1表 に示すように前年比15.2%増と比較的高い伸び率を示したが、大手機械工業の19.7%増には及ばず、しかも上期(1~6月)の前年同期比22.3%増から下期(7~12月)には9.2%増へと伸び率は半減し、同じ期間における大企業の23.3%増、16.4%増と比べるとその低下は著しかった。品種別の中小企業の生産は精密機械が上、下期を通じて比較的順調な伸びを示したが、一般機械、輸送用機械では伸び率は半減し、鋳鍛造品では同じく3分の1に低下した。また電気機械では下期にはほぼ前年同期の水準にまで低下し、下期の中小機械生産のなかでは最も不振であった。

第4-1表 機械生産額の中小企業、大企業別伸び率

 これら機械、金属工業のなかでその動きが注目される下請け中小企業の動向をみると 第4-2図 に示すように39年を通じて下請け中小企業の生産活動は比較的活発であったが、39年秋以降親企業の発注減によって、生産は漸次低下を示し始め、40年の金融緩和期に入っても受注減になやむものが増え生産は減少傾向を続けている。業種別には輸出船ブームにわく造船関連機器、親企業の増産競争と需要増加の著しい自動車部品、官公需に支えられた通信機、車両部品などの下請けは38年に引き続いて39年も比較的活況を呈したが、家庭電器、重電機、産業機械、光学機器では親企業の不振をそのまま反映し、39年秋以降その生産は停滞ないいま減少へと転じた。もっともこのような業種による下請けの明暗のほかに、好調であった自動車部品、鉄鋼などのように、親企業の優劣、業績の格差が同一業種の下請けでも相違となって現れたり、電気機器、産業機械などの不振業種では傘下系列の再編成が再び表面化し、下請けの生産活動にさらに影響を及ぼすなど見落とすことのできない動きが生じた。

第4-2図 下請中小企業の生産活動

 一方、繊維では39年々初の暖冬異変が年央まで尾をひき、さらに加えて引き締めに伴う中間需要の減退や末端需要の鈍化などもあって内需は総じて不冴のうちに推移した。わずかに輸出が生糸、綿糸の不振をのぞいて順調な伸びをしめたことが目立った。紡績では綿糸は繊維新法施行(39年10月)に伴う先行き不安が高まり、39年10月には定期相場は37年の不況時の水準を下回るという状態を示し、そ毛糸も39年11月に毛糸相場が暴落するなど繊維市況は引き締めの浸透とあいまって軟調から低落への方向を歩み続けた。また織物では合繊織物の在庫増による影響が賃織の発注減、加工賃の切り下げとなって機屋に波及し、さらに絹人絹織物にもそれが及んだ。綿スフ織物、毛織物も需要の減退と市況の不安定性などが加わり、月を追うごとに不況の色を深めていった。

 39年度の中小繊維メーカーの生産は 第4-2表 のように紡績糸では前年比9.2%増と大企業の7.9%増を上回り、既製服でも大企業の21.8%減とは逆に前年度より6.2%上回ったが、織物では3.9%増と大企業の6.8%増に及ばなかった。ここ数年来急増傾向を続けた合繊織物でも中小企業の伸び率は大企業のほぼ3分の2に留まり、また染色整理、メリヤス製品、中衣・肌着などでは大企業の生産増加とは逆に中小企業では減産した。

第4-2表 繊維生産の中小企業、大企業別伸び率

 39年度の繊維は内需の不振を好調な輸出である程度カバーし、生産は前年度を上回っているが、大企業に比べ、総じて中小企業は停滞的であった。

 当面、繊維産業は輸出は綿・毛製品の国際協定、先進国の輸入制限、低開発国の外貨不足や自給化などもあって先行き楽観視することができず、また内需も消費の停滞と流通段階の買い気沈滞化などから立ち直りは期待薄のままの状態にあり、それだけに中小企業も苦悩の色が濃い。

 生産は鈍化したとはいえ、比較的高水準の生産を保った機械・金属と、市況の低落、内需不振により生産微増のうちに推移した繊維とは好対照をなしたが、日用品、建材、雑貨などの中小企業では明暗区々の様相を呈した。例えばマッチ、ガラス製品、陶磁器、金属洋食器、金属がん具、洋傘などでは内需や輸出の好調を反映して中小企業の生産は増加をたどったが、ゴム製品、合板、万年筆、革靴などでは大企業の生産増加などもあって、横ばいないし減少傾向を続けた。またセメント製品、石綿製品などでは年間を通じて生産は増加したものの、下期における建設活動の停滞から供給過剰が目立ち始めた。いずれにせよこれら軽工業関連中小企業では労働集約的性格が強いだけに労働力の不足が生産を維持するうえで障害となったり、人件費の増加がコストにはねかえる度合いも大きかった。機械や金属などに比べると、これら業種の販売競争は激しく中小企業の採算はさえなかった。わずかに輸出好調な雑貨関係中小企業では、採算的にはともかくとしても資金繰り面では相対的にひっ迫感は薄かったことが特徴的であった。

第4-3表 主な日用品、建材生産の中小企業、大企業別伸び率

苦悩する中小企業経営

漸次悪化した販売条件

 引き締めに伴う資金事情のひっ迫、需要の鈍化、販売競争の激化、親企業の支払い遅延などによって、年度間を通じて中小企業の決済条件は漸次悪化の方向に向かった。中小企業の受取条件は 第4-4表 に示すように、39年に入って「好転したもの」がへり「悪化したもの」の割合が増え始め、しかも39年秋以降「悪化」の割合はさらに高まった。また親企業の下請け中小企業に対する支払いも全く同様な経過をたどった。

第4-4表 中小企業(製造業)の販売・購買条件の推移

 引き締めの浸透過程において中小企業の受取条件はこれまでの現金取引が一部手形に切りかえられたり一部現金がオール手形となったり、あるいは210日、300日という長期の受取手形が散見されるようになったが、いま、中小企業金融公庫の調査と大蔵省調べ「法人企業統計季報」などによって、中小企業(製造業)の決済条件の変化をみてみよう。

 まず、中小企業金融公庫の調べによると、39年1~3月から40年1~3月にかけての過去1年間に中小企業の売掛期間は46.2日から50.5日へ、受取手形サイトは115.3日から118.0日へとそれぞれ長期化し、現金入金比率はこの間43.2%から40.3%へと低下している。もっとも中小企業の支払い条件もこの受取条件の悪化と中小企業自体の資金繰り難から悪化し、過去1年間に買掛期間は40.7日から45.2日、支払手形サイトは110.5日から112.8日へと長期化し、現金支払い比率も42.8%から38.1%へと低下している。

 この受取条件の変化をやや長期的に振り返ってみると、 第4-3図 に示すように、受取手形サイト及び売掛期間は一貫して上昇傾向をたどり、現金入金比率は38年の景気回復期には上昇を示したが、39年の引き締め期には再び低下傾向をたどっている。この現金入金比率の変化は最も端的に景気変動を反映しかなり上下の動きを示していることは注目に値するが、38年の景気上昇局面においても35年の好況期の水準には復帰しなかった。その後の39年の引き締め期における現金入金比率の低下度合いは前回の引き締め期に比べるとわずかに小幅であったが、循環変動をしめすこの現金入金比率も35年以降からの推移をならしてみると傾向的に低下をたどっている。

第4-3図 中小企業の決済条件の推移(製造業)

 他方、法人企業統計季報により、中小企業の売り上げ債権回転期間をみると、 第4-4図 に示すように、38年々初以降低下傾向をたどり、長期化をたどる大企業とは対照をなしている。しかしながら中小企業のこの回転期間の低下は売上高の伸び率が売り上げ債権の伸び率を上回ったことが大きく影響しており中小企業の決済条件が好転したとはいいきれない。だがこのような事情があったとしても、引き締め前の38年10~12月とその1年後の39年10~12月の両時点を比較すると同回転期間は84.1日から85.9日へと悪化している。

第4-4図 中小企業、大企業の売上債権および買入債務回転期間

 一方、このような売り上げ債権回転期間に対して買い入れ債務回転期間と両者の差である売り上げ債権回転期間の関係をみると、買い入れ債務回転期間も過去1年間に65.3日から68.4日へと長期化し、この結果超過回転期間は18.8日から17.5日へと若干低下している。しかし与信の増加を受信の増加でカバーできず、与信幅が拡大しているので必ずしも中小企業の資金繰り緩和要因としては働かなかったのである。

 もっとも中小企業の受取条件の悪化はすべての中小企業であったわけではない。一部の雑貨、繊維、機械などのように不振の内需から好調な輸出への転化によって決済条件は好転を示したものや、一部の自動車部品や工業計器の下請けのように引き締め期にもかかわらず、これまでと同様に極めてよい受取条件を続けたものもあったが、これらのなかには製品価格は逆に下がりあるいはまたコスト切り下げ要請を受けるなど採算的に低下を示したものが多かった。

資金繰り難と借り入れ難

 以上のように39年の金融引き締め下において中小企業の決済条件は再び漸次悪化の方向に進んだ。そのうえ中小企業の生産活動は既にみたように比較的高水準を続けたため、運転資金需要はより増大化の傾向をたどり、それにこれまでの近代化、合理化投資の借入金返済なども加わり、中小企業の資金繰りはますます繁忙化していった。これに対する借り入れは引き締め以降手形割引枠の増枠や単名借り入れの困難性を増し、長期、短期借入金とも「困難」を訴える割合は 第4-5表 にみるように39年には一段と増加した。わずかに40年1~3月には季節性や金融緩和措置などもあって「困難」のものがやや減っているがその割合は依然高い。

第4-5表 中小企業の借入難易と資金ぐり状況

 また月間売上高に対する現預金の比率と買い入れ債務に対する現預金の比率である企業の手元流動性の推移をみると、 第4-5図 に示すように38年の景気回復以降中小企業の流動性は大企業とは対照的に傾向的に低下している。もっともこの中小企業の流動性の低下は 第4-6表 に示すように金融引き締め下における拘束預金比率(拘束預金の現預金に対する比率)上昇を考慮すると39年々間を通じて中小企業の手元流動性の低下度合いはさらに著しかったものと思われる。

第4-5図 中小企業大企業の手元流動性の推移(製造業)

第4-6表 中小企業の拘束預金比率の推移

 他方、金融機関の中小企業向け貸し出し残高の対前年増加率をみると 第4-6図 に示すように中小企業向けは39年に入って大企業向け以上に急速に低下し、その低下度合いは前回(36~37年)以上に著しく、前々回(32~33年)の引き締め期とほぼ類似している。このような貸し出し増加率の低下とうらはらに信用力のおとる中小企業の信用保証制度の利用申し込み額は前々回、前回と全く同様に今回の引き締め下においても増大した。このことは中小企業向け貸し出し低下のなかにあってある意味では金融機関の選別強化は今回の引き締め下でも全く同様であったことを裏書きしている。

第4-6図 中小企業向け貸出残高の推移

 さらに主な金融機関別の貸し出し状況(対前年同期比)をみると全国銀行(都市銀行、地方銀行など)では前々回、前回と同様な傾向を示したが、今回の引き締め下の特色は相対的に資力が低下し、しかもコール放出増の著しかった民間系中小企業専門金融機関(相互銀行、信用金庫、信用組合など)の貸し出し増加率が著しく低下したことと、これらとは逆に政府系中小企業専門金融機関(商工中金、中小公庫、国民公庫)の貸し出し増加率は財政投融資の追加措置などによって引き締め後上昇して補完的役割を果たし、年度間を通じて22%前後の増加を保ったことである。しかしながら政府系中小専門金融機関の中小企業向け貸し出し残高総額のなかで占める比重は39年3月末の8.5%から39年9月末8.8%、12月末9.4%、40年3月末9.3%へと変化を示したがその比重は低く、資金繰り難、借り入れ難に悩む中小企業の盛んな資金稿要を賄うには至らなかった。

 中小企業向けの貸し出し減少と引き締めの浸透に伴う不渡り、倒産などの増加に対処するため、政府は39年11月、中小企業年末資金需要対策措置として、 政府系中小3専門機関に対する800億円の財政投融資の追加、 資金運用部資金による市中金融債500億円の買い上げ、 日銀の買いオペレーション200億円の実施と都市銀行(10行)に対する貸し出し限度額(クレジットライン)を12月にかぎって10~12月の限度額よりも約30%引き上げることを決めた。この量的対策と同時に質的措置として 大蔵省銀行局長通達で各財務局長及び金融機関団体長あてに倒産防止の具体策の検討を要望し、 各通産局は中小企業金融情勢の把握と倒産防止等に関する緊急対策としての協力体制の確立を再度通達した。また 下請け代金支払い遅延等防止法の運用を一層強化し、その取り締まり指導体制を一段と強化すると共に親企業団体に対して通産大臣、公取委々員長名で支払い条件改善の協力を要請した。

 この年末中小企業金融対策として39年10~12月の貸し出し(純増額)は民間系金融機関は前年同期比11.9%増の7,150億円、政府系中小専門金融機関は36.2%増の1,125億円、合計では14.6%増の8,275億円が中小企業向け貸し出しとして計画された。しかしながらその実績は政府系中小専門金融機関では1,069億円とほぼ目標通り達成されたものの民間系金融機関では4,303億円と目標をかなり下回ったばかりでなく前年同期の6,392億円を大幅に下回った。そのため39年10~12月の中小企業向け貸し出し総額(純増額)は5,372億円と前年同期の7,218億円に対して74.4%に留まった。

高かった設備投資

 39年度の中小企業の設備投資は金融引き締め下にもかかわらず意外に高い活動を続けた。中小企業金融公庫の調査(40年2月現在)によれば39年度における中小企業の設備投資は大企業の前年度比12.4%増に比べて7.2%増と下回ったが36年度にほぼ匹敵した投資が行われた。もっとも中小企業を業種別にみると軽工業関係が38年度の13.8%増に続いて39年度には15.5%増加し、逆に重化学工業では38年度5.9%増から39年度には4.2%減少した。39年度の中小企業の投資活動が予想以上に高水準であったのは、食料品、出版印刷、木材・木製品を中心に軽工業関係で業容拡大を目ざした投資が行われたこと、各業種を通じて深刻化した労働力の不足から設備投資を行わざるをえなかったこと、さらには38年度の景気上昇期に再び高まった投資活動が39年度の前半に一部ずれこんだことが大きな原因であった。

第4-7表 製造業の規模別設備投資動向

 しかしながらこのように比較的高水準を示した中小企業の設備投資も39年秋以降先行きの見通し難と引き締めによる貸し出しの抑制などにより停滞から減少傾向へと転じた。前記の中小企業金融公庫の調査により40年度の設備投資計画をみると、大企業の前年度比2.1%減に対して中小企業では20.4%の大幅減少となり、その水準も35年度以降最低になるものとみられている。特に従業者数49人以下の小企業の著減が目立っている。

 ここ数年間の中小企業の設備投資の目的と内容をみると、新製品の生産、福利厚生施設の充実や合理化を目的とする比重が漸次高まり、単なる生産能力の拡充に対するものは次第に減少をたどりはじめた。設備取得額のうち36年度には50%以上をしめていた生産能力の拡充は39年度には43.8%に低下し、さらに40年度には38.1%へと下がる見込みとなっている。これに対して人件費の上昇によるコストアップ、親企業のコスト切り下げ要請、さらには販売競争の激化などから合理化を目的とした投資の割合が増え、設備取得額中の比重は36年度の28.3%から39年度には35.2%へと高まり、さらに40年度には39.0%になるものと予想されている。このため土地、建物・構築物の占める比重はさがり、逆に車両・運搬具・工具などの比重が上昇し、また機械・装置に対する投資も再び上昇し始めた。最近数年間の中小企業の投資活動のなかで見落とすことができないのは雇用対策としての福利厚生施設に対する比重が次第に上昇していることである。これまで中小企業の福利厚生関係施設は大企業に比べて遅れていたが、労働力不足が深刻化するにつれ新規労働力の確保や在籍従業員の移動防止のためその充実が急務となった。中小企業のなかには年金福祉事業団、住宅金融公庫などの住宅融資制度の活用を図ったり、その充実を目的として金融機関からの融資をうけたりするものが増えだしている。しかしながら問題は福利厚生施設の充実は必ずしも生産に直結しないため、中小企業にとって負担となり始めていることと、その充実の必要性を認めながらも、なかなか手が回りかねる企業が依然多いということは見落とすことのできない点であろう。

第4-8表 中小企業の設備取得の目的と内容(製造業)

 他方、中小企業の最近における設備投資を資金調達面(純増ベース)からみると、 第4-9表 に示すように39年度は引き締めにより借入金は前年度比2.9%減の1,778億円で7.2%増の設備投資を賄うことができず借り入れ依存度は前年度の37.0%から33.5%へ低下した。借り入れ先では普通銀行からの借り入れが30.7%減少し、逆に政府系中小専門金融機関からの借り入れが39.1%と著増したことが目立っている。比較的高い設備投資活動と他方における借り入れ難から内部資金による調達の努力が図られ、内部資金は前年度比14.1%増の3,142億円に達し、調達額中の比重は借入金の減少の影響もあって前年度の55.6%から59.1%へと上昇した。このような借り入れ依存度の低下、内部資金の上昇は大企業でもほぼ同様であったが、大企業では借入金の減少は小幅であり、また増資の伸びは中小企業より大きかったことが注目される。

第4-9表 設備資金調達額内訳(製造業)

 以上みたように中小企業は39年度には比較的高い設備投資活動を続けたが、むしろ問題は40年度である。前記中小企業金融公庫の調査によれば大企業の2.1%減に対して中小企業では20.4%減と大幅に減少する見込みであり、40年に入って引き締めが解除され金融緩和の方向に向かっているにもかかわらず40年度の中小企業の投資活動は極めて低調の色彩が強い。このことは38年度の金融緩和期とは大きく様相をことにしている。その要因としては先行きの見通し難や不安感が強いこと、行き過ぎた設備投資を原因とする企業倒産もみられたという経験などから警戒感が高まっていること、中小企業相互間の競争激化や大企業の中小企業分野への進出などから供給過剰傾向が強いこと、さらには親企業の下請け中小企業の選別や、再編成が再び表面化してきたことが挙げられる。

 いずれにせよ労働力の不足、販売競争の激化などから中小企業の近代化、合理化投資の必要性そのものはより一層高まっているが、中小企業の設備投資活動が再び活発化するためには今後の需要や景気動向、中小企業向け設備資金の円滑な供給、さらには中小企業の発展がどのように約束されるかなど外的な条件がそれを左右する要素が大きい。

利益率の低下

 39年度の中小企業の生産・売り上げ活動は下期になるに従って伸び率は鈍化したものの比較的高水準を保ったことは既にみた通りであるが、いま「法人企業統計季報」により中小企業(資本金200~5,000万円、製造業)の収益率の動きをみると、前年同期に対する売上高は39年上期の24%増から下期には18%増に下がり、また同じく純利益は39年上期の21%増から下期には10%増と伸び率は低下している。このため 第4-10表 に示すように売上高純利益率は39年上期4.7%、下期3.2%といずれも38年上期及び下期より下回った。37年の景気後退で低下した中小企業の売上高純利益率は38年の景気回復期にはやや上昇を示したが、再び39年に低下した。ただわずかに39年下期の同比率は3.2%と37年下期の2.9%を上回っているが、36年上期以降の推移を傾向的にみると大企業同様に低下を示しており、しかもその低下度合いは大企業よりも大きい。また中小企業の総資本収益率は39年上期には8.2%と前年上期を上回ったが下期には5.5%と再び下がり、37年下期の5.0%をわずかに上回ったに過ぎなかった。さらに総資本回転率をみると、38年上期にやや低下したが、38年下期から39年下期にかけてはほぼ同水準を示している。

第4-10表 中小企業、大企業別の収益率の推移(製造業)

 ではここで低下傾向を続ける中小企業の売上高純利益率を、売り上げ原価、一般管理販売費、人件費などとの関係からみてみると、 第4-11表 に示すように売上高に対する売り上げ原価は39年上期(78.1%)、下期(78.4%)共に前年同期を上回り、また一般管理販売費は39年下期には16.2%と36年以降の最高を示している。このため39年上期、下期の営業利益率は7.2%、5.4%と前年同期をそれぞれ下回った。同じような動きは大企業についてもいえるが、中小企業の一般管理販売費比率の増加率は高く、比率そのものも高い。このことは販売競争の激化に伴う販売諸経費の増加や雇用対策上の福利厚生費の増加など間接費の増高が大企業以上に中小企業に大きく影響を及ぼしていることを物語っている。また利子割引料は39年には2.8%と38年の2.9%よりやや低下を示しているものの36年の2.4%に比べるとかなり上昇している。さらに売上高に対する人件費の割合と、売り上げ原価プラス一般管理販売費に対する人件費の比率をみると、39年は38年よりわずかに低下したが、36年、37年より高まっている。また、中小企業の売上高人件費比率を大企業と比べると、ほぼ11%と横ばいを続ける大企業に対して中小企業の同比率は36年の12.3%から39年には14.5%へ漸次上昇するなど、中小企業の純利益率低下の1つの要因となっていることにはかわりない。

第4-11表 売上高構成比率と人件費比率の変化(製造業)

 このように傾向的に低下をたどる中小企業の収益率に対して財務比率の変化を同じく「法人企業統計」によってみると、38年に比べて39年はわずかに改善のあとがみられるが、35年以降の推移をならしてみれば傾向的には悪化の方向をたどっている。例えば、当座比率は35年以降それほど変化を示していないが、流動比率、自己資本比率、固定比率などはいずれも悪化を示しており、中でも自己資本比率は固定資産の増加においつかず35年の24.1%から39年には21.2%へと低下し、大企業よりはるかに低くなった。また流動比率も漸次低下しほとんど100%に近づき短期の支払い能力もますます余力が乏しくなった。さげこ固定比率、固定長期適合比率なども傾向的に高まり、資本の固定化と共に長期資金のゆとりが低下するなど、中小企業の不況抵抗力は総じて下がっている。

第4-12表 財務比率の変化(製造業)

売り上げ鈍化の零細企業

 金融引き締め下の零細企業は大企業、中小企業などに比べて、引き締めによる影響を特に大きくうけたということはない。しかしながら零細企業も 第4-13表 にみるように、引き締めに伴う借り入れ難は借り入れ依存度が比較的低いことなどもあってそれほど極端な変化は示さなかったものの、39年度下期になると、売り上げの減少、採算悪化を訴える企業が製造業、卸・小売業などでも増え始めた。

第4-13表 小零細企業の経営上の問題点

 いま、零細企業の最近の売上高状況を総理府統計局調べ「個人企業経済調査」によってみると、個人製造業の1業主当たりの売上高は38年度の457万円から39年度には504万円へと10.4%上回り、また個人卸・小売業(1業主当たり)は前年度の504万円から538万円へと6.8%増加した。しかしながら38年度の対前年度増加率個人製造業の22.1%増、個人卸・小売業の11.4%増に比較すると、これら零細企業でもかなり伸び率は鈍化している。一方これに対する営業利益をみると、個人製造業では38年度の111万円から39年度には119万円へと6.7%増、個人卸・小売業では86万円から95万円へと10.1%増加している。この結果、売上高営業利益率は個人製造業では24.4%から23.6%へと下がり、逆に個人卸・小売業では17.2%から17.7%へとわずかに上昇した。前者の利益率の低下は営業支出中の人件費比率が、11.8%から19.1%へと上昇したこと、後者の利益率の上昇は売上高に対する商品仕入高比率が76.7%から75.2%へと低下したことが、それぞれ影響したためであった。もっとも人件費比率の上昇が個人卸・小売業でもコストに全く影響を及ぼさなかったわけではなかったが、仕入高比率の低下が人件費やその他の諸経費の上昇よりも大きかったことが営業利益率の上昇をもたらした。

 最近の零細企業の動きのなかからいくつかの特徴点をあげると、第1には 第4-14表 にみるように、個人製造業では前回の引き締め期(37年度)には売上高は減少を示したが、39年度は引き締め期にもかかわらず売上高は増加し、また卸・小売業でも37年度の対前年度増加率よりも39年度の増加率が若干上回るなど今回の引き締め期における零細企業の売り上げ動向は前回ほどの影響はうけなかった。

第4-14表 小零細(個人)企業の売上高、営業利益の推移

 第2はこのような売り上げ動向に対して営業利益及び業主所得の対前年度増加率をみると過去5ヶ年間のうちで、個人製造業は37年度に次いで39年度の増加率は低く、また個人卸・小売業では最も低い増加率を示した。コスト上昇を消費者価格に転嫁しやすい個人卸・小売業はともかくとして個人製造業の営業利益及び業主の総所得の伸び率は鈍化の色を濃くしている。

 第3は深刻化した人手不足である。先にあげた零細企業の経営上の問題点にも現れているように、人手不足を訴える割合は39年度において低下したとはいえ、経営上最大の問題点となっている。これら零細企業は雇用者の採用は思うにまかせず、勢い家族労働力にそのシワが寄せられている。また零細企業の人件費上昇によるコストへの圧迫が次第に著しくなり営業支出中の人件費比率は個人製造業では35~36年の14~15%台から39年度には19%へと高まり、また個人卸・小売業ではこの間3.7%から4.9%へ上昇している。この人件費の比率の上昇を零細企業でも原材料及び商品仕入高比率の低下によって補うという形態をとっているのである。

多発化した整理倒産

整理倒産の増大と特徴

 38年の景気回復局面で小康状態を保った企業の整理倒産は38年秋以降再び増加を示した。東京商工興信所の調査によれば、負債金額1,000万円以上の整理倒産件数(月平均)は39年1~3月237件、4~6月303件、7~9月343件、10~12月521件と増え続け、わずかに40年1~3月には477件と低下したが、4~6月には520件へと再び増加した。年間累計では、38年の1,738件から39年にはその2.4倍の4,212件へと著増している。また企業経営の行き詰まりに伴う会社更生法適用申請件数(最高裁統計課調べ)は36年の53件、37年86件、38年の65件から39年には172件へと一挙に前年比2.6倍に急増した。

 最近数ヶ年における整理倒産件数、不渡り手形発生比率、手形取引停止処分などの不況指標の推移は既に本報告 第33図 にかかげたが、同図からもわかるようにこれらの不況指標は金融引締政策の実施と共に増加し、解除後の景気回復局面で減少するという循環変動を示しているが、今回(39年)の場合は引き締め実施以前に既に前回(36~37年)の水準を上回っている。さらに引き締め後上昇するという推移をたどったが、とりわけ整理倒産件数が極めて高い水準に達したことは注目される。

 このように多発化した39年の整理倒産のなかからいくつかの特徴点をあげると、第1は業種別には38年に比べて建設業の3.1倍が最も増加率が高く、続いて金属・機械及び化学のそれぞれ2.4倍、繊維の1.7倍などの順となっているが、各業種にわたって件数は急増しており、それが広範囲にわたったことである。第2は原因別には他社倒産による余波が最も多く総件数の19.3%の810件に達し、次いで販売不振(719件)売掛金回収難(701件)などがいずれも高い比率を示しているが、引き締めの浸透にともない在庫の増大、売掛金の回収難、販売不振などを理由とするものが漸次増えていった。第3は資本金1,000万円以上の企業の倒産が目立ったことである。35~36年には全倒産企業中5%台であったものが、38年の9.3%から39年には9.7%へと上昇し、件数も162件から265件へと増加した。第4はこのような資本金上位規模クラスの倒産の多発化で負債総額は38年の1,695億円から39年には4,631億円へと2.7倍に増え、1件当たりの負債金額も38年の97百万円から39年には110百万円へと上昇した。

第4-15表 原因別整理倒産状況

 第5は連鎖倒産の増加である。既に述べたように39年の倒産原因別件数では他社倒産の余波によるものが最も多く、前年の267件より一挙に3倍の810件に達した。

 特に、39年1月の名古屋、8月の北九州、12月の京浜地区での中規模企業の倒産が関連中小企業に大きな影響をあたえ、さらに40年3月の神戸の大手特殊鋼メーカーの倒産が社会的にも大きな波紋をなげかけた。

整理倒産増大の評価

 39年の引締政策は漸次中小企業段階に浸透し始め、生産、売り上げの鈍化、さらには借り入れ難、資金繰り難など下期に入るに従って不況現象が表面化し、整理倒産の原因にも売掛金の回収難、在庫の増大などによるものが増えていった。しかしながら整理倒産は38年秋以降増加傾向をたどり、必ずしも引き締めの影響によるものばかりではない。たしかに企業の整理倒産は企業自体の個別的な事情であることはいうまでもないが、最近の倒産多発化の背景には次のような諸要因もからみ合っていることは無視することができない点であろう。

 まず第1は前回の引き締め解除後の38年の景気上昇期が意外に短期におわり、企業は好況感なきうちに再び39年の引き締め期を迎えた。景気上昇期は前々回(29~32年)は33ヶ月、前回(33~36年)は39ヶ月といずれも約3ヶ年という長期間であったが、38年の上昇期はわずか1年余に過ぎず、そのため企業は収益の拡大、不況抵抗力の増大を充分図ることができなかった。つまり過去においては引き締め期には打撃をうけた企業も、その後の長期間の好況期で経営行き詰まりの表面化をさけ、あるいは立ち直る契機をつかむことができたが、38年の景気上昇期にはその余地が極めて乏しかった。

 第2は中小企業の近代化、合理化のための設備投資は必要であったが、無理な設備投資の強行により行き詰まるものが意外に多かったことである。倒産原因別には設備の過大によるものは比較的比重は少ないが、在庫の増大、業績不振、売掛金回収難などもその背後には無理な設備投資の強行による業容の拡大が大きな原因として働いている。過大な設備投資により資本の固定化、財務構成の悪化を招き、借入金の返済と金利負担の増高、さらには操業度の引き上げから安値販売を行い、それが業績不振をもたらし、また販売の強行が売掛金の回収難にはね返ってきているケースが多かった。

 第3は融通手形の横行であり、それが原因となって健全な中小企業をも巻き込み、連鎖倒産現象を引き起こしていることである。39年8月末から9月にかけて北九州に起こった連鎖倒産はその典型であった。融手操作は資金繰り窮迫化のなかでそれを一時的に緩和する安易な方法であり、企業経営の不健全性でもあるが、融手の横行は他面引き締めに伴う金融機関の選別強化、販売条件の悪化などによる資金繰り難になやむ企業の追いつめられた姿であるともいえるようだ。

 第4は財務構成の悪化である。既にみたように中小企業の経営は設備投資の強行による資本の固定化、流動負債の増加による流動比率の低下など、財務構成は悪化し、不況抵抗力は低下している。そのうえ企業の収益率も傾向的に低下をたどっており、このためわずかな外的なショックから中小企業は整理倒産という事態に直面するケースが多かったのである。

 第5は販売競争の激化である。特に最近では大企業が従来中小企業がしめていた分野に進出してきたり、あるいはまた中小企業相互間の販売競争がますます激化してきた。前者では石油ストーブ、自動ガス湯沸かし器、自動包装機、自動販売機など比較的新製品分野にかぎられていたものが、洋家具、モザイクタイル、コンクリートブロック、作業工具など在来商品にまで及んできた。また後者では農業機械、鍛圧機械、工作機械、合板などで販売競争の激化が目立ってきた。また繊維では繊維新法の実施(39年10月)による繊維相互間のいわゆる村区分別の再編成と過剰紡機の廃棄などが販売競争に拍車をかけてきた。

 第6は企業の優劣格差の顕在化である。整理倒産はある意味ではその現れでもあるが、それを側面的に促進しているのは親企業の傘下系列の再編成と金融機関の選別強化である。系列の再編成は生産会社のみならず、商社による傘下系列の支援打ち切りなどによりそれは徐々に進行している。39年1~3月における紡績、二輪車、計器などの中規模企業の倒産と関連中小企業への波及はその典型であった。また、金融機関は当然のことながら資金事情のひっ迫化にともない選別の強化を進め、優良企業に対する貸し出しとその貸し出し先確保をめぐって相互いに激しい競争を展開したが、それは結果的にはぜい弱な企業の脱落につながっていたのである。

山積する中小企業問題

 景気変動に伴う中小企業向け貸し出しの抑制と中小企業の借り入れ難、資金繰り難は39年の引き締め期においても全く同じであり、しかも金融機関の選別強化はますます厳しくなっている。いま32年と37年の従業員規模別の借り入れ状況をみると、この間中小企業の上位規模への移行があったにせよ 第4-16表 に示すように過去5ヶ年間に各金融機関の貸し出しは総じて漸次大規模企業へシフトしており、中小企業への貸し出しの比重は相対的に低下している。また補完的な役割を果たしている政府系中小企業専門金融機関の貸し出しも財政投融資の増加で年々増えているが、中小企業向け総貸し出し残高に占める比重は過去5ヶ年間に35年3月末の9.2%から40年3月末には9.3%に上昇したに留まり、必ずしも充分とはいいきれない面がある。

第4-16表 製造業の規模別、借入先別、借入金残高の変化

 さらに、既にみたように中小企業の決済条件は漸次悪化傾向をたどり、また下請け代金支払い遅延等防止法に基づく公正取引委員会による親企業に対する措置件数は 第4-17表 にみるように39年度には298件とこれまでにない最高にのぼっている。このような景気変動に伴う中小企業へのシワ寄せをいかに軽減し、また中小企業の必要とする資金をいかに円滑に供給するかなど改善されなければならない問題が多い。

第4-17表 下請代金支払遅延等防止法にもとづく処理状況

 中小企業(製造業)の全付加価値額に占める比重は34年以降ついに50%を割り、37年には49.4%となり、また工業品輸出額のうちでの比率も31年の59.3%から38年には50.9%へと低下したが、いずれも依然高い比重をしめており、これまでの日本経済の高成長に果たした役割も大きかった。しかしながら中小企業をめぐる諸情勢はますます厳しさをましている。例えば労働力不足とそれによる賃金の上昇は中小企業にとって大きな問題となっており、また大企業の中小企業分野への進出、販売競争の激化、さらには低賃金労働力に依存する低開発諸国製品との海外市場での競合や、それら低開発諸国製品の輸入漸増の気配など客観的諸条件は急速に変化をみせ始めている。

 たしかに中小企業もこれまでの高成長過程で発展を遂げ、設備の近代化が進み、労働の生産性も向上しているが、逆に盛んな設備投資の強行により、財務構成は悪化をきたし、企業経営の不安定性は増大し、不況抵抗力が低下するなど無視することのできない問題が現れてきた。このような内的外的の諸条件の変化のなかで中小企業の近代化はますます要請され必要となってきているが、中小企業が近代化、体質改善を進めながら、経営の安定を図り、健全なる発展をどのように図るかということが大きな課題となっている。山積するこれらの中小企業の諸問題を解決するためには中小企業者の努力はもちろんのこと、それを側面的に支援し、誘導する強力な施策の展開がいまこそ望まれる。


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