昭和40年

年次経済報告

安定成長への課題

経済企画庁


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昭和40年度年次経済報告

経済成長と企業、国民生活の安定

企業経営安定と発展の条件

適正競争の維持

 日本では、企業間の競争が激しい。これは一面では高い成長の原因であったが、しかし競争が過ぎると、企業の利潤が低下し、経営が悪化する。競争が激しいといっても、日本で、外国よりも企業の乱立が激しいという訳ではない。日本の1社当たり生産規模はまだ外国よりかなり小さいが主要商品の生産集中度をアメリカや西ドイツと比べてみると、 第36表第37表 の通りで、日本の生産集中度はアメリカよりも高く、西ドイツと大体同じ程度である。日本の競争が激しいということは、競争者の数が非常に多いということではなく、狭い市場の中で比較的少数の企業が激しく競争しているということだ。

第36表 商品別集中度比較

第37表 産業別集中度比較

 企業間の競争が激しいということは、次のようないろいろな指標に認められる。

 第1に主要商品41品目のうち、上位3社あるいは上位10社の集中度の推移をみると、 第60図第61図 のように、多くの品目の集中度が低下している。31年から39年までの間で、集中度の高まっているのは、3社集中度でパルプ、洋紙、線材、特殊鋼熱間圧延鋼材、ミシン、熱延薄板、バス、セルロイド生地、造船の9品目に過ぎず、10社集中度でも9品目に過ぎない。

第60図 上位10社集中度の推移

第61図 上位3社集中度の推移

 第2は上位企業間でも順位及びシェアの変化が著しいことだ。まえに述べた3社集中度上昇の9品目についてみても、7品目までが3社を構成する会社そのものが変わっており、1品目は3社間の順位が変動している。

 順位変動のパターンをみると、 第39表 のように46品目のうち83%にあたる38品目では順位及びシェアが激しく変化している。

第39表 順位およびシェヤー変動のパターン

 このように生産の集中度は高くとも、少数の企業間の活発な競争のため、価格が下落する傾向を示すものが多かった。これは次の2つの表によって知ることができる。集中度の高低によって商品を6つのグループに分け、その市中価格の35年1月~36年12月平均に対する38年1月~39年12月平均の下落の割合や変動の程度をみると、 第40表 の通りで集中度の高いものでも下落の割合や変動の激しいケースがある。すなわち集中度が高いからといっても、それは必ずしも価格を維持する力が強いということにはならなかった。

第40表 生産集中度と価格変化

 次に集中度の変化と市中価格の騰落との関係をみると 第41表 の通りである。31年から39年までに集中度の低下する度合いが強かったものほど価格が下落としており、その変動の程度も激しいという関係がはっきり認められた。競争の激化を示す集中度の低下と価格の変化との間にはかなり密接な関係があるものとみられる。

第41表 生産集中度変化と価格変化

 競争が激しくなって価格が低落したことは企業利潤を減少させる一因となった。

 利潤率の動きで注目されるのは上位10社の利潤率が、その産業全体の利潤率に近づいていることだ。紙パルプ、化学、窯業土石、鉄鋼、一般機械、電気機械、輸送機械(除く船舶)の主要業種に共通して、このことがいえる。

 少数の企業間の競争激化が、上位企業の利潤率を低下させ、上位10社の利潤率と産業平均の利潤率との格差がある程度縮小しつつある。( 第38表 参照)

第38表 産業平均利潤率と上位10社平均利潤率との格差

 こうした競争をもたらした原因はいくつかに分けることができる。

 第1に、需要の増加テンポが大きく、新しい企業が発展するチャンスが大きかったことだ。3社集中度の変化と生産増加率との関係をみると 第62図 の通りであって、生産増加率の大きい商品では、集中度も低下するという関係がみられる。需要の増加テンポが大きかった上に、その変動幅が非常に大きかったこともまた、競争を不安定にした一因である。乗用車、商業車、テレビ、合成繊維、粗鋼(見掛け内需)、綿紡、などの主要商品の生産増加の変動幅(対前年増減率の標準偏差)は、アメリカ、イギリス、西ドイツ、フランス、イタリアに比べてかなり大きかった。

第62図 31~39年の3社集中度の変化と生産増加率

 需要の増加率が大きく、しかも最適規模の巨大化が速いときには、企業は需要の増加分を自分のところに確保しようとする。そのうえ増加の変動幅が大きければ、企業は需要が最も大きく伸びるときに合わせて設備を持とうとする。このため、設備の過剰化を招き競争は激しくなり、特に不況期における設備過剰圧力を増大させることになる。

 第2に、技術革新が導入技術を中心にして進んだことだ。自己開発技術であれば新技術の独占は長い間医持できる。海外で工業化された技術を導入する場合には被導入会社の技術的蓄積はそれほど重要性を持たない。導入技術中心の技術革新は技術的独占の基盤を非常によわめることになった。

 第3に、量産効果が大きくなったことだ。これは技術進歩の1つの側面であるが、生産の技術的最適規模が巨大化していく、また需要が増大していくと、今までは生産を技術的最適規模で行えなかったところでも規模の拡大ができるようになる。例えば鉄鋼一貫工場の最適規模は昭和26年ごろは粗鋼100~200万トンといわれたが、34年ごろには300~500万トン、最近では600万トン以上と考えられている。火力発電でも昭和30年には6.6万KWが日本の最大発電設備であったが、32年には12.7万KW、35年には26.5万KW、39年には37.5万KWの発電設備ができている。また39年には60万KWの超臨界圧の発電設備も着工された。乗用車でも、昭和34年に年産10,500台であった車種が、35年には39,000台、37年59,200台、38年に76,600台、39年には115,500台となり、これによりコストの急速な低下がみられた。最適規模の巨大化が急速なときには、先発の企業が、販売経験や販路を持っているという市場的な有利性は、新設備のコスト的有利性に対抗できなかった。

 第4に、巨大企業集団の他分野に対する進出が激しかったことだ。大銀行や大産業会社を景景にするグループが多くの分野に進出している。さらに巨大企業自身も経営多角化のために他分野に進出している。

 新しい分野としては電子計算機に大手電気メーカーが、原子力産業に各銀行系列の企業グループが軒並みに進出している。石油化学も同様だ。既存他分野への進出としてはストリップ・ミルにおける後発各社の進出がある。また軽自動車メーカーの小型、普通乗用車への進出や綿紡メーカーの合成繊維への進出もある。これらの新規進出企業は大きな資本力を持っているから新規進出という市場的、技術的ハンデイ・ギャップにかなりの程度耐えることができる。

 このように需要の増加テンポが急速で、その変動幅が大きかったため、企業は需要の増加率が大きいときに合わせて設備を保有しようとし、その結果、設備投資の行き過ぎとなったこと、導入技術が中心であったため、技術的独占の基盤が非常に弱かったこと、最適規模の急速な巨大化が先発企業の市場的有利性を失わせたこと、大きな資本力を背景とする新規企業の進出が多かったこと、これらの条件が一諸に存在したことが競争激化をもたらし、生産集中度の低下や順位、シェアの激しい変動が引き起こされた。寡占的協調も比較的行われにくかった。

 競争が激化している反面、競争がおさまる条件も出て来ている。第1は企業の収益力格差が今までよりも重要な意味を持って来たことだ。販売価格が高いときにはすべての企業が利益をあげることができるが、価格が低落としてくると、利益をあげ得る企業とあげ得ない企業とが分かれてくる。

 第2は、金融環境の変化である。最近金融機関の貸し出し態度は慎重になっている。金利の自由化や公社債市場の拡大も実現の方向に動き出した。このような金融環境の変化は企業の側からみれば、収益力の格差によって調達可能資金量や資金コストに差が出て来ることを意味する。これは今後の設備投資や研究投資に影響を及ぼすだろう。

 第3に技術導入の変化である。今までは外国で工業化した完成技術を導入してきたが、最近は未完成技術を導入するケースも増加している。このため企業が導入技術を完成するだけの力を持つことが必要となり、新しい技術を外国からいれることだけによって、先発企業と競争することができるといった、これまでの条件は次第に変わりつつある。

 上述のように、企業間競争が激しかったことはプラスとマイナスの2つの側面を持っている。それは一面に新技術の発展を促進し、コストの引き下げを促し、価格の低下を通じて、過大な利潤の発生を阻止したという積極的な役割を果たした。しかし他面において、過剰な投資が行われ、価格の低下がひどく、企業経営の安定がみだされるようになった場合もある。需要の増加テンポの鈍化、生産の最適規模の急速な巨大化、企業集団的または経営多角化的企業進出の激化などの現象が生じたときには競争は行き過ぎになる可能性がある。

 こうした行き過ぎが、特殊鋼やテレビ、カメラでは既にみられた。一方、自動車、造船、鉄鋼の一部では合併により、重複投資をさけ、規模の経済をいかし、競争を収れんさせようとする動きも出て来た。

 技術や需給構造の変化により、利潤が変動することは当然であり、その変動が刺激となって需給バランスが再び回復するというのが市場経済の本来の姿である。しかし、設備と需要の構造的不均衡のため値くずれが一時的に留まらず、価格が長期的にコストを下回るようになれば、それは企業の存立をあやうくするばかりに止まらない。競争なしに進歩はあり得ないが1つの企業が市場規模や自己の能力を無視した過大な投資を行い、コストを割った安値販売をすれば、それは健全な経営を行っている他の企業の安定をおびやかし、経済全体を混乱に導くことになる。これを防止するためには経済変動の波を小さくし、需給の大幅な変化を防ぐことが第1つであるが、企業は設備の拡大にあたっては、経済の諸条件を十分に考慮し、過当競争に陥ることのないよう慎重な行動をとることが望まれる。

技術革新の推進

 競争の行き過ぎで市場が混乱におちいることは避けなければならないが、企業が独占によって、利潤を追求するようになっては、経済の発展もとまってしまう。利潤は、独占によって得られるものでなく、技術革新に対する報酬でなくてはならない。昭和30年代は、世界にもまれな技術革新の時代であった。

 プラスチック、テレビ等の新製品の出現と急速な普及、鉄鋼、自動車、石油精製等における、大量生産方式の発展は、新需要をつくり、原料の転換を引き起こし、コストの低下や品質の向上をもたらした。企業は新しい生産方法、新しい生産物を生みだすことによって、利潤獲得のチャンスをつかむことができた。しかし、こうした利潤は永続するわけではない。それは革新に成功した企業が受けるプレミアムであるから、その性質上新しい技術が一般化すれば、失われる運命にある。例えば、ナイロン及びポリエステルの合繊製造技術では 第63図 に示すように、技術導入による新企業の進出にともない利益率が低下し、創業者利潤が次第に消滅している。利潤を維持していくためには、次々に新しい革新が必要だ。

第63図 合繊技術の普及と営業利益率の推移

 どのような部面で技術革新が集中的に行われるかは、経済の発展段階によって異なるが、革新そのものが、40年代には失われてしまうと考えるべき理由はない。革新の機会は、今後も決して少なくなく、それをどのようにいかしていくかが重要な問題である。

 技術革新のこれからの方向としては、次のような点が挙げられよう。

 第1は、生産規模の大型化に伴う、新しい生産方法の採用である。市場が小さければ大規模生産の技術は引き合わないが、市場が大きくなったので、これまで採算上採用できなかった技術が有利になってきた。例えば、化学肥料の中間原料であるアンモニアの工場規模はこれまで日産100トンが標準とされていた。しかし最近のI.C.I法等による500トンプラントではコストは3割位安くできる。そのため、今後の新設プラントは、500トンを標準としており、数社の共同投資や、旧設備の廃棄が計画されている。また、火力発電では、近年、超臨界圧のタービン発電機が採用され 第64図 に示すように、大型化が進んで、欧米水準に達している。

第64図 火力発電の大型化

 第2に、製造工程の転換がある。この型の技術進歩は、資本節約的効果が大きく、資本費の大きい装置産業では特に重要である。プロセスの転換は、同時に原料転換に結び付くことが多い。最近みられる生産工程短縮の例としては、鉄鋼業の造塊─均熱─分塊にかわる連続鋳造法、化学工業のカプロラクタムの光合成法、ポリエステルの直接重合法等がある。製造プロセスの転換には、大きな設備投資が必要となるので、まず、能力拡張の際の新工場建設から適用される場合が多いが、次にコスト低下の効果が十分大きいことがはっきりしてくると既存設備の置き換えに進んでいく。カプロラクタムの光合成法は前の場合であるが、鉄鋼業の酸素転炉は後の段階に達している。

 第3に材料の革新がある。材料の進歩は、それを使用する産業部門に技術革新を波及させ、全体の技術進歩を高める役割を果たす。最近開発された材料には 第42表 のようなものがあり、合成ゴムの様に全く新しい材料のほかに、プラスチック被覆鋼板、ABS樹脂の様に数種の素材の組み合わせによって品質の向上、多様化が図られ、新しい用途の開発が試みられる例が多い。

第42表 最近開発された新材料

 以上のように、技術革新の新しい分野が開けると共に、中小企業や非製造業への新技術の波及もはじまっている。

 技術革新は、まず、電気機器、プラスチック、合繊、自動車等、重化学工業関係の大企業に始まったが、部品生産や材料の加工を通じて、下請けや系列下の中小企業にも波及していった。また伝統的な製法に頼っていた雑貨、家具、ゴム、皮革製品等でも、新材料への転換、設備機械の進歩による労働生産性の向上がみられた。これまで、技術革新が最も遅れていたのは、流通やサービス業等の中小企業だが、この分野でも、例えば、ポリエチレンの出現が加工食品のマスプロ、マスセールスを可能にしたように、やはり技術革新は波及している。

 34~38年の外国技術導入件数(甲種)を資本金規模別に分けてみると 第43表 の通りで資本金5億円以上が3.5倍に増加しているのに対して5億円以下は4.7倍となっており、中小企業の技術導人が活発化していることが分かる。また資本金規模別による研究費の対売上高比率をみると 第65図 の通りで、1~10億円の階級で毎年増加していることが注目される。

第43表 技術導入件数の規模別推移

第65図 資本金階級別売上高に対する研究費支出の割合

 従来、相対的に遅れていた非製造業でも、運輸におけるスピード化、大型化、通信における自動即時化、建設における機械化、プレハブ化など、最近次第に近代化が進んでいる。運輸通信のスピード化の状況をみると 第44表 の通りであり、輸送時間が短縮されている。

第44表 運輸通信のスピード化

 このように、30年代に外国の技術導入を中心にしてはじまった技術革新は、新製品の生産から生産方法や材料の革新へ、大企業から中小企業へ、重化学工業からサービス業、運輸通信業等へと波及している。しかし、生産技術の追付きが大体終わった現在では、独自の技術開発をすすめてゆかなければならず、そのためには、多額の研究開発投資が必要である。日本の研究費は、 第45表 のように近年急増しており38年度の研究費は32年度の3.2倍であるが、国際比較では、米、ソ、英、独より少なくて、フランスとほぼ同程度、国民総生産に対する比率では、フランスと西独の中間にある。また研究費の負担は、諸外国の場合とは逆に民間の割合が大きく全体の60%以上を占めている。企業の技術開発力の強化と共に、国家の科学技術の振興とこれを支える人的能力の開発のための施策の充実が必要である。

第45表 主要国の研究費と国民総生産

労働力の活用

 労働力が足りなくなって、賃金があがっているので、企業がこれまでと同じような人の使い方をしていたのでは、人件費が上がり経営がなりたたなくなるのは当然だし、国民経済全体としても大へんな損失だ。とくに、昭和41年をすぎると、労働力の増加率が急に鈍ってくるから、それに対して今から準備をしておくことが大切である。

 労働力不足といっても日本は欧米に比べれば随分恵まれている。問題はその使い方である。労働力の活用は、機械化や、労働力の利用の合理化、教育・職業訓練等によって労働生産性を高めることが第1だが、そのほか、生産性の低い産業から、高い産業へ労働力を移したり、家庭の婦人等潜在的労働力を活用するなどいろいろな道が残されている。労働力不足になやまされた欧米諸国の例についてみると、その源泉は 第46表 の通りであった。国によって、かなり違うが、自然増に多く依存しているのが、アメリカとフランスである。これに依存できない場合には、2つの道があった。すなわち移民と、農業からの労働力の移動である。西ドイツでは移民への依存が非常に大きく、増加の5割がそれだ。イタリアでは、農業からの移動が、総供給の7割を占めている。これは、イタリアで戦争直後出生率が低く、新規労働力の増加が少ないことや、外国へ移動する労働力が多いためだが、農業は、どこの国でも重要な労働力の源泉で、ドイツ、アメリカ、フランスも、3~4割をこれに因っている。労働力率を高める余地はどこの国でもあまり多くなく、アメリカ、イギリス等ではかえって低下している。

第46表 増加雇用労働力の供給源

 日本は過去3年間、人口増加と農業からの移動が、非農業雇用労働力の増加の主な源泉となってきた。生産年齢人口の増加も大きく、農家労働力の移動も盛んだったので、雇用労働力の増加数でも、日本は、世界1つであった。しかし、日本でも、こうしたことがいつまでも続くわけではない。今後の学卒者の増加をみると 第47表 の通りで、非農林就業人口に対する新規学卒年齢人口の比率も、1965年を中心とする5年間では日本は6.4%で欧米より高いが、1970年には大体西欧並になってしまう。そこで、既存の労働力の活用が重要となるわけだ。

第47表 学卒者の新規労働可能人口

 日本では、欧米(イタリアを除く)より農林業の就業人口比率は、高いので、この面からの労働力供給の給源は豊かだといえる。しかし、農家の学卒者は既に大半が非農業へ就職しているため、これ以上学卒者の移動が増える余地はなく最近3~4年は横ばいとなっている。それにかわって農業に既に従業していた人が転職するというケースが増えているので高齢者の割合が高まっている。 第49表 に示すように、製造業の中途採用者の年齢構成でみても、だんだん高齢者の比率が多くなってきている。従って労働移動をうまく行わなければ、第1次産業の就業人口が多いからといっても工業の労働力源となるとはかぎらない。第1次産業の就業者の人口減少率を国際比較してみても、日本は高い方ではない。

第48表 産業別就業者構成

第49表 中途採用者の年令別構成の変化

第50表 経済成長率と第一次産業就業者減少率

 労働力移動が円滑に進むためには、農業の労働生産性が高まることが前提だが、また、職業訓練や住宅問題の改善も大切だ。 第46表 のアメリカの例にみられるように、一方で労働力が不足しながら、失業者が増加するという場合もあり、労働力の問題は単に総数でバランスがとれればよいというわけではなく、経済が必要とする質をみたさなければならない。

 農業のほか、日本では、小売業やサービス業でも、近代化によって、労働力の活用の余地が残されているし、将来の問題としては既婚婦人等非労働力を有効に利用することも大切になろう。

 ヨーロッパでは、既婚婦人がサービス業、事務関係、軽工業等の分野に、普通の労働者として、あるいはパートタイマーとしてかなり進出している、 第51表 に示すように、未婚者では進学率が高まったため、労働力率は低下しているが、既婚婦人の労働力率は大幅に上がっている。日本では農家の主婦は約9割がまた非農林の個人企業では約5割が、家族従業者として働いているので、既婚婦人の労働力率は欧米諸国よりも高くなっている。また勤労者世帯の既婚婦人の有業率も高まってきた。これは一方で家事労働が合理化されて余裕ができ、進学率の向上で教育費の負担が増えたり、より良い生活をもとめて働きに出ようとするものが多くなっているのに対し、他方企業側でもパートタイマー制度や育児期間中の休職制度を採用する等、既婚婦人の活用について積極的となっているからであろう。しかし、現在の既婚婦人の就業化には、乳幼児の保育施設、職場の環境の不備、退校後の児童の監督等就業化を妨げる条件も少なくないので、こうした条件の整備が重要だ。

第51表 配偶関係別女子労働力率の変化

第52表 勤労者世帯の女子労働力率


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