昭和39年

年次経済報告

開放体制下の日本経済

経済企画庁


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昭和38年度の日本経済

金融

金融政策の展開

 銀行貸し出しの増加が続くなかで生産が急増し、国際収支が悪化を示すようになったので、金融政策は年央以降次第に警戒的になっていたが、12月の準備預金制度の準備率引き上げを持って、引き締めの方向が明示された。その後39年3月の公定歩合2厘引き上げにより、今回の金融引き締め態勢は一応整備されるに至った。

 引き締め措置としては、この他に、39年1~3月期より日銀の市中銀行貸し出し増加抑制措置がとられている。これは38年5月、含み貸し出しの解消を機にいったん廃された窓口規制の復活とみることもできる。金融環境が十分正常化されていない段階では、このような措置の実施が引き締めを円滑に進めるゆえんとされたわけである。しかしその内容については、対象範囲を地銀等にも拡大し、従来の月別査定が四半期別残高比例の規制に改められるなど、実情に適した改善が加えられた。また、新金融調節方式自体に基づいて、クレジット・ライン(日銀貸し出し最高限度額)の圧縮やオペレーション操作も活発に行われており、新金融調節方式が当面の引き締め遂行にとっても有力な武器であることを明らかにしつつある。

第9-7表 38年度における金融政策の推移

 いま引き締め措置の浸透状況をみると、金融市場は39年に入って引き締まり気味となり、3月末のコール・レートは無条件もの2銭4厘、月越しもの3銭5厘に上昇した。また、日銀券や手形交換高にも増勢鈍化がうかがわれる。一方、1~3月期の都市銀行貸し出しは2,459億円で日銀の貸し出し増加規制は一応まもられたといえる。地方銀行や相互銀行、信用金庫など中小企業向け融資の多い金融機関の貸し出しの増勢鈍化は都市銀行以上に顕著である。預金の伸びについても同様で中小企業への引き締めの浸透を示唆している( 第9-8表 )。

第9-8表 39年1~3月の預貸金動向

 これに対して、大企業の資金繰りをみると、39年の初めにはなお手元現預金に余裕があり、銀行借り入れの増加をそれほど見込んでいなかった。これが銀行貸し出しの抑制を比較的容易にうけいれさせたと思われる。 第9-9表 は主要企業の経営態度を今回前回の金融引き締め発動前後について比較したものだが、前回は生産、投資計画の伸びも高いが借り入れ期待も著しく大きかったのに対し、今回は生産投資計画は前回ほどではないにしてもなお根強い増勢を示すなかで企業の借り入れ期待の伸びは比較的小幅で、1~3月については前年同期実績を下回っていたほどである。もっともその後は売掛超過幅の拡大などから手元余裕も減勢に向かい借り入れ依存が増大する傾向にある。設備投資意欲の根強さはあるものの、生産や在庫投資に幾分の鈍化が兆す一方、輸出意欲の高揚がみられるなど、引き締めは大企業についても次第に浸透していると思われる。

第9-9表 引締め開始前後の企業経営態度

 以上のように、今回の金融引き締めは、大企業設備投資の盛り上がりが本格化する以前において措置されただけに、現在までのところ比較的円滑にその効果を収めつつある。しかしひるがえってこの引き締め措置を必要ならしめた原因をみると、国際収支に余裕の乏しい段階で銀行貸し出しが増大し預金通貨が膨張を遂げるなど、資金供給面から景気上昇が支えられたことによる面を見逃すことができない。今後とも過当競争の排除を含めて金融の正常化につとめ、金融政策の弾力化を図っていくことが必要である。


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