昭和39年

年次経済報告

開放体制下の日本経済

経済企画庁


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昭和38年度の日本経済

交通・通信

国際交通

外航海運

世界の海運市況

 38年の世界海運市況は、世界経済の発展に伴う貿易の拡大基調に年頭欧州を襲った寒波と、後半におけるソ連の小麦大量買い付けもあって、前年より大幅に上昇した。前年戦後の最低水準を記録した不定期船運賃指数(英国海運会議所)は、38年に入ると、欧州の異常寒波による穀物、石炭の輸送量の増加から、好転の一途をたどり、5月には109.9を示して、前年7月の78.4から40%の上昇となった。その後6、7月には例年のように夏枯れ模様の引き緩みがみられたが、日本向けの穀物、スクラップの増加に支えられ、西欧の穀物不作が伝えられた8月下旬には早くも再び上昇気運に転じた。さらに9月にソ連のカナダ及び豪州からの小麦、小麦粉の買い付け協定が発表されたのを契機として、大西洋方面の穀物運賃が急激な上昇を示し、この運賃の高騰が他の品目、航路にも次第に波及するに至った。10月に米国がソ連及び東欧向けに余剰農産物の売却を認可すると発表したため、市況は一般と強調化し、同指数は134.8とスエズブーム以降最高水準を記録した。こうして38年の平均運賃指数は109.0で、前年の89.1から22%の上昇となった。39年2月以降やや軟化したが、このような不定期船市況の活況は係船量の変化にも表れ、年初頭に340万重量トンであった世界遠洋不定期船係船量は月を追って減少を続け、12月には78万重量トン、39年4月には75万重量トンにまで減少している。

 一方油送船の運賃は38年初頭にこれも欧州の寒波による石油需要の増加から急激に上昇し、2月には運賃指数(ノルウェーシッピングニューズ)は85.3とスエズブーム以来の水準を示した。その後輸送需要の減退から下降し、7月には33.4にまで落ち込み、極端な低水準となったが、9月に入って、大手石油会社の用船が始まると騰勢に転じ、39年1月には再び86.7を記録した。しかしその後輸送需要の季節的減少から再び下降している。38年の平均運賃指数は54.6で前年比18%の上昇であった。タンカーの係船量は、38年に入って100万重量トン台で増減していたが、年末にはついに100万重量トンを割り、39年2月には65万重量トンにまで減少した。3月には再び108万重量トンに増加しているが、34年9月のタンカー係船量786万重量トンと比較すれば著しい減少である。

 世界の商船船腹量は38年6月末1億4,586万総トンで、前年同期より588万総トン、4.2%増加している。また世界の造船所の建造量は855万総トンで、前年の837万総トンとほぼ同じ水準にある。前述の世界の係船量は、貨物船、タンカーとも、船腹量の各1~1.5%程度であり、好条件が重なっているとはいえ、一応このような係船量の減少は船腹需給が平衡状態に近いことを示しているといえよう。

 一方最近の石油輸送の長期契約にみられるように、長期契約運賃は低下の一途をたどっており、例えば中東~日本航路における原油輸送運賃は38年にトン当たり3ドル近くにまで低下している。石油、鉄鉱石、石炭などを含む大量輸送貨物は長期契約によるものの比重が高く、最近建造されるタンカーや大型専用船は大半がこの長期物を目当てに建造されている。この分野では運送原価の低れんなことが競争上優位を占める絶対的な条件となるので、各国船主とも、資本費及び運航費の低減に努力を重ねつつある。

第6-2図 世界海運市況の推移

日本の外航海運の概況

 38年度の日本の貿易数量は輸出量、輸入量とも大幅に伸び、輸出量は1,700万トン、輸入量は1億5,540万トンと前年度比それぞれ24%、27%の増加を示すものと推定される。

 このような貿易量の増加に対し、日本の外航船腹量も年々かなりの高いピッチで建造されており、38年9月末には保有船腹量は708万総トンに達し、前年と比較して86万総トン、13.8%の増加となった。しかし前記の貿易数量の増加に比べれば、船腹量の増加は未だ充分でなく、その結果として積み取り比率の低下を招き、輸出積み取り比率は前年度の53.1%から46.3%へ急落し、輸入積み取り比率は前年度の47.8%から46.5%へ低下するものと見込まれている。

 日本の外航船舶による運賃収入は、38年中に輸出輸送において655億円、輸入輸送において1,654億円、三国間輸送において182億円、合計2,491億円に達し、これは前年の2,217億円に比較して274億円、12.4%の増加となった。

 38年の海運関係の国際収支(IMF方式)は、運賃収支で212百万ドルの赤字となり、また船用油、その他の港湾経費、用船料等の収支は138百万ドルの赤字で、この結果海運関係国際収支は350百万ドルの支払い超過となった。なお38年度後半には、けい船料、水先料、トン税等が国際水準にさや寄せするため引き上げられた。

 海運業の収支状況は、38年度には海運市況の上昇と比較的収益能力のある新造船の就航量が増加したことから好転している。利子補給対象54社についてみると、38年度の収入は3,030億円に達し、これに対し減価償却を除く費用は2,560億円で、償却前利益は470億円となり、この期間の税法上償却範囲額447億円を上回った。償却前利益が償却範囲額を上回ったのは33年度以来のことであるが、今後外国用船の自由化による国際競争の激化が予想され、また海運市況の推移いかによっては再び収益の減少傾向も予想されるので、今後引き続いて経営の健全化を図る必要がある。

外航海運の諸問題

 日本海運を運航船腹量100万重量トン以上の規模の少数のグループに統合し、過当競争の排除、投資力の充実を図るため、海運業は企業の合併、資本支配、船舶の長期貸し渡しなどによる画期的な集約を行うことになり、その結果、39年5月末に 第6-5表 に示される合計6グループに集約を完了した。これら6グループには95社が参加しているが、これらにより保有されている外航船腹量は936万重量トンであって、日本の外航船腹量の約9割が参加していることになる。これらの企業は今後利子の支払い猶予等の助成措置を受けつつ。今後5年間に自立体制を確立して、日本の経済活動の重要な産業としての役割を十分担いうる状態となるよう期待されている。

第6-5表 グループ別集約状況

 日本は38年3月以降、OECD加盟の交渉を行い、7月には加盟の招請を受けることとなったが、その間の交渉経過において、北欧海運国を中心とする加盟海運国から、我が国がこれまで実施してきた外国船の長期用船制限を廃止するよう強く求められ、石油輸送については40年11月、鉄鉱石、石炭輸送については39年11月までに用船制限が打ち切られることになった。このため早急に邦船の国際競争力を強化する必要を生じ、タンカー及び大型鉄鉱石・石炭専用船については財政融資比率をこれまでの70%から80%に引き上げ、同時にこれらの開銀融資の償還条件を緩和することになり、19次(38年度)船から実施されることとなった。

 我が国の国際収支(為替収支)は、38年度経常収支で前年度の67百万ドルの受取超から822百万ドルの支払い超へと大幅に悪化した。そのため国際収支の改善、なかんずく経常収支の赤字の中で大きな割合を占める海運収支の赤字を改善することが強調され、今後増大を続ける貿易量に対処して計画造船の規模をさらに引き上げることが検討されている。現在政府は船腹拡充を円滑に推進するため、開銀融資に弾力性をもたせるなどの措置をとりつつあるが、今後ともきめの細かい施策を積極的に推進していくことが必要である。また当面は輸入輸送を対象とするタンカー、専用船の建造が主となろうが、輸出輸送における邦船積み取り比率が逐年低下していることにかんがみ、輸出輸送の中心である定期船の拡充についても努力する必要があろう。

 日本の輸出輸送の大宗をなす対米定期航路は、常に盟外船の跳りょうによって、船路の安定を失いがちである。その根本的原因は、米国の法制が海運同盟に対し制限的なものであるため、同盟は運賃引き下げ以外に盟外船に対する有効な対抗手段を採用することができないことにある。36年以降の盟外船活動に対し、同盟は数次にわたる運賃引き下げを持って対抗してきたが、この結果当該航路における日本船の採算は著しく悪化している。このような事態に対し、対米航路の基幹であるニューヨーク航路を経営する関係5社は、政府の行政指導により、ニューヨーク航路運営(株)を設立し、39年4月以降配船調整、港湾設備の共同使用等運営の合理化を図ることになった。

国際航空

世界航空の現状

 38年における国際民間航空機関(ICAO)加盟101カ国の定期航空輸送量は総計170億トンキロ(前年比12%増)で、前年の伸び13%をわずかに下回った。近年低下しつつある利用率は戦後最低の50%を記録し、供給輸送力の過剰が激化したが( 第6-3図 )、これに関連して運賃問題が最近の顕著な動きとなった。

第6-3図 世界の定期航空輸送量の推移

 38年夏大西洋線において、収入増を図るため一部の値上げが行われた。しかし運賃政策についてはアメリカ、ヨーロッパ諸国間に根強い対立がある。大西洋線運賃率は米国内線運賃率の2倍もあり、かつ大西洋線旅客の6割がアメリカ人であるため、アメリカ政府は低運賃を主張し、一方ヨーロッパ諸国はアメリカよりも採算性の低い自国の航空会社の収益を高めるため、これに反対したがついに39年4月、2割の値下げとなった。これが太平洋線運賃にどのように波及するか、今後の動きが注目される。その他アメリカ本土─ハワイ、ヨーロッパ─アジアの一部、共産圏諸国内等でも値下げがあった。世界航空は低運賃による国際往来促進の機運にあるといえよう。

 世界航空と国際往来は、現に就航中の亜音速ジェット機に次いで、マッハ2.2ないし3の速度を持って登場すべき超音速旅客機(SST)により、新たなエポックを画するであろう。英仏両国は共同で37年秋に、次いで米国は単独で38年にそれぞれ建造計画を発表するや、日本航空(株)を含む世界主要航空会社は相争って発注を行い、45年に予定されるSST時代の開幕に備えた。

 ICAO加盟国の定期航空会社の営業収支状況は、36年(90カ国)425億円の欠損から、37年(98カ国)は359億円の黒字に改善したが(主要21社については 第6-4図 参照)、38年はさらに業績が好転し、多くの会社が収益をあげたようである。これについては、輸送量の好調な伸びにもかかわらず各社において人員整理等の経費節減の努力がなされたことと、ジェット機の普及が一巡したため新機材購入関係の負担が峠を越したことを見逃すことができない。

第6-4図 世界主要航空会社収益状況の推移

日本の国際航空

 日本の国際航空は、昭和29年2月戦後再び世界の国際航空に参加してから、今年は10周年を迎えたが、今や先進諸国に肩をならべて、激烈な国際競争場裡において着々その地歩を固めつつある。

 38年度における我が国の国際定期航空輸送量は170百万トンキロ(前年度比31%増)に達したが、その内訳は旅客26万人(同32%増)、1,316百万人キロ(同36%増)、貨物34百万トンキロ(同21%増)、郵便物13百万トンキロ(同25%増)である。一方輸送力は275百万トンキロ(同19%増)であって、利用率は62%(前年度56%)と、ようやく下げどまりとなった( 第6-5図 )。

第6-5図 日本の国際航空輸送量の推移

 38年は日本航空の全路線がジェット化されたが、路線の増加はなかった。37年有償トンキロ実績による国際航空運送協会ランキングによれば、日本航空は93社中13位に躍進したが、その実績は1位の会社の1/8にすぎず、また路線網をみれば最長路線網を有する会社のl/6に留まっている。現在、世界一周路線完成のため、ニューヨーク以遠乗り入れについてねばり強い交渉が行われている。国際収支改善の面からも、サービス・エアリアの拡充が特に必要である。

 38年度の日本航空の国際線収支は、収入251億円、支出252億円で、差し引き赤字は前年度の赤字28億円より大幅に改善して、1億円を下回った・日本航空は自己資本比率が低く(38年22%)、借入金の金利が外国航空会社より高いことによって、営業利益率は必ずしも悪くはないが純利益率が悪化する点に問題がある。

 38年度の航空関係の国際収支(IMF方式)は、受取56百万ドル、支払い98百万ドル、差し引き42百万ドルの赤字と推定され、前年度31百万ドルの赤字より悪化した。これについては、38年東京国際空港出入国旅客69万人の中、日本航空積み取り率が全旅客の24%、うち邦人の42%、外人の18%に過ぎないことに注意する必要がある。政府は、自国人積み取り率の向上を図るため、38年その職員の渡航における自国機利用の方針を再確認したが、民間でもフライ・ジャパニーズ(自国機利用)の一層の徹底が、海外旅行の自由化を契機として特に望まれるところである。また、日本の航空会社には運航乗務員として多数の外人が雇用されており、このため多額の外貨を費やしているので、乗務員養成の強化を図る必要がある。

国際観光

世界観光の現状

 官設観光機関国際同盟等の資料によれば、世界各国の外国旅行支出総計は37年は75億ドル(前年比7%増)であったが、38年は同程度の伸びで80億ドルと推定される。

 世界の主要観光客送り出し市場である欧米をみると、アメリカ人のカナダ及びメキシコを除く海外への旅行は、37年は176万7千人(同12%増)、その消費額は24億7千万ドル(外国輸送機関への支払い5億6千万ドルを含む)(同9%増)に達した。38年の総数は末集計であるが、発給・更新旅券数でみると前年比16%増であり、活況を呈したと思われる。来訪外客中アメリカ人が半数を占める我が国にとって、アメリカ人の動向は特に注意する必要がある。訪日外客のうち2割弱を送るヨーロッパについては、OECD加盟ヨーロッパ16カ国の37年の観光支出総計は31億6千万ドル(同18%増)であった。ヨーロッパ地域内を除く海外での消費はこの中の一部ではあるが、相当の額に達したと思われる( 第6-6図 )。

第6-6図 欧米の観光客送り出し市場としての推移

 最近の傾向として、欧米主要諸国において外国旅行消費の伸びが可処分所得のそれを上回って伸びており、各国とも国民所得は順調に増えているので、これら諸国は観光客送り出し市場として更にその拡大が期待される。世界各国の活発な観光宣伝等はおおむねこれらの主要市場に集中している。しかし、その最大の市場であるアメリカにとっては、外国旅行の増加が国際収支の赤字の3分の1を占める旅行収支の赤字を招来しており、38年7月ケネディ特別教書はこの点に全国民の注意を喚起こした。アメリカ政府が現在とっている旅行収支改善策は、免税品持帰り制限並びに”TwoWay Traffic”(アメリカ人の外国旅行に対応して、外国人の来訪の促進-海外宣伝事務所を世界各地に設け、観光宣伝を行っている)及び“SeeAmerica Now”(米国人の国内旅行の奨励)運動であるが、このようなアメリカの巻きかえし策が世界における観光客誘致競争をますます激しくしている。

日本の国際観光

 38年の来訪外客数は30万5千人に達したが、伸び率は10%増と、37年(前年比12%増)に引き続いて逓減した。38年の入国外客の推定消費額は1億9千万ドルに達し、その前年比20%増は、1人当たり消費額の大幅の増加を反映して、37年の15%増を上回った( 第6-7図 )。この推定消費額は38年国際収支の経常収支における収入の3%に当たる。しかし日本の観光収入は欧米諸国に比べてまだまだ少なく( 第6-8図 )、また39年4月の観光渡航自由化により海外旅行支出の増大が予想されるので、来訪客数の増加はもとより、滞在日数の伸長等による1人当たり消費額の増加を図るため努力する必要がある。

第6-7図 来訪外客数及び外客消費額の推移

第6-8図 欧米主要観光国及び日本の観光収支

 来るべき東京オリンピックは我が国々際観光の振興のため、またとない好機である。開催時の来訪観光客は最高1日3万人と見込まれ、この受け入れ体制として宿泊・交通施設の整備等が着々進行中である。オリンピック時における我が国々際観光の真価の発揚とこれに続く切れ目ない外客誘致策により、今後の飛躍的な発展が期待されるのであるが、一方国際観光市場においては競争の激化に伴い各国政府の施策も一段と強化されてきているので、我が国としてももとより楽観は許されない。39年4月特殊法人国際観光振興会の設立はこれに対する我が国の身構えを示すもの1つであり、今後とも長期にわたって海外観光宣伝事務所の拡充等による強力な誘致活動を行うことが課題とされるのである。また内にあっては出入国手続の簡易化、外客接遇機関網の整備等を行うと共に、他方、狭い範囲に片寄り単調化しつつある外客の旅行コースを多様化し、その旅行を効率化することが必要であり、このためには国際観光地及び国際観光ルートの総合的形成に必要な施策が適切に講ぜられなければならない。


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