昭和39年

年次経済報告

開放体制下の日本経済

経済企画庁


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昭和38年度の日本経済

中小企業

好況感なき景気回復

利益率の低下

 38年度の中小企業の生産活動は37年度に比べてかなり活発な動きを示したが、33~34年の金融緩和後と37~38年の緩和後の売り上げの上昇を比較すると、今回の場合36~37年の景気後退が比較的軽微におわり、高水準からの景気回復であったため中小企業の売り上げの上昇は前回に比べて低かった。前回と今回の引き締め緩和後の中小企業(全産業)の売り上げ上昇率を「法人企業統計季報」によって比較すると、 第4-6図 に示すように緩和1年後の売り上げ上昇率は前回の40%増に対して今回は34%の増加に留まっている。比較的軽微であった37年の景気後退とその後の売上高の上昇が低位であったことが38年の景気回復期の好況感をかなり減殺させたことはいなめなかった。

第4-6図 中小企業の売上動向(全産業)

 しかしながらむしろより基本的には売上高の上昇にもかかわらず、純利益は漸次低下傾向を示しはじめていることである。最近3ヶ年間の経営指標を上期(1~6月)下期(7~12月)にわけて大企業と比較すると 第4-4表 に示すように中小企業の前年同期に対する売上高の伸びは37年においては大企業を下回ったが、景気回復後の伸びは逆に大企業を上回っている。これに対して純利益は37年上期、下期共に前年同期を下回り、景気回復期の38年上期、下期には大企業に比べてその上昇率ははるかに低いことが目立っている。収益指標でみると、38年下期は売り上げの増加によって総資本回転率は回復を示しているが、売上高純利益率は人件費及び金融費用の増加などによって低下し景気調整下の37年下期の2.2%より低い1.9%を示すにいたっている。また総資本純利益率はこのような純利益の伸びの低さと、他方における資本の固定化などによって、売上高純利益率と同様に38年下期はこれまでにない低下を示した。

第4-4表 最近の中小企業の経営指標推移(全産業)

人件費、諸経費の上昇

 37年の景気調整下においても深刻であった中小企業の労働力不足は38年の回復過程でより一層深刻化の様相を示した。なかには綿スフ織物、自動車部品のように労働力不足が生産を進めるうえで大きな障害となったものも少なくなく、人手不足は資金及び設備などよりも中小企業の経営上最も大きな問題となっている。前述の日銀調査による「中小企業の業況予測」によれば、中小企業の経営上のあい路は、景気調整下の37年においては当然のことながら資金不足と売り上げ不振を挙げるものが多かったが、景気が回復段階に入るに従って、それらの比重は次第に下り、逆に人手不足を訴えるものが多くなり、この傾向は今回の金融引き締め以後も続いている。38年の中小企業は労働力不足対策のための賃金の引き上げ、福利厚生施設の充実、さらには新規労働力の確保におわれたことが1つの特色であった。

第4-5表 中小企業経営上のあい路

 いま、前回の引き締め強化期(36年7~9月)とその1年後(37年7~9月、緩和1期前)さらには回復期である38年7~9月の3期をとって売上高に占める人件費の割合、売上高原価に対する人件費比率などを大企業と比較してみると 第4-6表 に示すように、大企業では製造業、卸小売業ともほとんど変化を示していない。これに対して中小企業では製造業はもとより、販売価格の引き上げ著しい小売業でもかなり上昇を示している。製造業を例にとって36年から38年にかけての2ヶ年間の売上高と人件費の関係をみると、大企業では35.7%の売り上げ増加に対して人件費は43.9%の増加を示したが、中小企業では15.4%の売り上げ増加に対して人件費は37.2%増とはるかに高い上昇を示し、それだけ中小企業にとって人件費の上昇は大企業よりもコスト圧迫要因として働いている。

第4-6表 人件費比率と売上高構成比率の変化

 この間の損益分岐点(固定費/1─変動費/売上高)及び損益分岐点比率(損益分岐点/売上高)を試算してみると、損益分岐点の上昇は大企業の42%増に対して中小企業では21%の増加に留まっているものの分岐点上昇のうち約半分は人件費の上昇によるものであった。

 一方、分岐点比率は大企業では分岐点そのものの大幅な上昇によって79%から82%へと変化したが、中小企業ではむしろ固定費の増加に比べて売上高の相対的伸びの低さによって82%から86%へと上昇を示している。

 このような人件費比率の上昇のほか中小企業の純利益の低下をまねいているのは、借入金の増加に伴う金融費用の増加と、その他営業外費用の増加などがあげられる。38年の景気回復過程で中小製造業では営業利益率では上昇を示したものの、純利益率が逆に低下を示したのは、これら諸経費の増嵩があったためである。


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