昭和39年

年次経済報告

開放体制下の日本経済

経済企画庁


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総説

昭和38年度の日本経済

引き締め後の動向と今後の課題

 昭和38年(暦年)の経済を国民所得統計によって総括してみると、 第7表 の通りである。国民総生産は21兆5,771億円、国内総需要は21兆8,418億円で、差し引き2,647億円が輸入超過となった。前年に比べると、総生産の増加率は13.6%総需要の増加率は14.4%である。需要面では、在庫投資が大きく72.2%増で、次いで個人住宅投資34.4%増、政府の財貨サービス購入15.7%、個人消費15.4%、の順であった。設備投資は前半沈静していたので、年間の伸び率としては小さいが、後半から増加して景気支持要因となってきたことは前述の通りである。しかし、国内の投資需要や消費需要の拡大は、輸出の成長など外貨の獲得能力の増大とつり合ったものでない限り長続きすることはできない。38年度には輸出は、この国内景気の上昇を支えるのに十分なだけ伸びず、輸入は凶作等の影響もあって異常な増加を示した。そのため後半には、国内経済の拡大と国際収支とのつり合いがくずれてきた。経常収支の赤字は7~9月の月平均60百万ドルから10~12月には90百万ドルへ、また基礎的収支の赤字も、同じ時期に20百万ドルから60百万ドルへと拡大してきた。そこで、金融引き締めによって、内需拡大のテンポを抑制する必要が生まれ、38年12月には準備預金準備率の引き上げ、39年1月、日銀の市中貸し出し増加抑制措置の実施、3月、公定歩合の2厘引き上げが実施されるなど引き締めの体制が強められ、思惑輸入防止のために輸入担保率も引き上げられた。

第7表 総需要と総供給

第8表 昭和38年度の主要経済指標

 引き締め効果の浸透は大体順調である。銀行貸し出しの増加は鈍り、1~3月には日銀は貸し出し増を前年同期の増加額より1割減に規制したが、実際の貸し出しは大体その枠内におさまった。大企業の手元に余裕があったため、銀行貸し出しの抑制は、企業にとってそれほどきついものではなかったが、在庫投資の増勢はおさまり、生産上昇のテンポも幾分鈍ってきた。在庫投資の減少は、原料輸入額を減らす。また輸入価格の上昇や麦類などの不作のための食糧輸入の増大など一時的原因による増加もおさまり、輸入担保率の引き上げで思惑的輸入も防止されたので輸入は急速に減ってきた。38年10~12月には月平均約3億2千万ドル(季節修正値)であった輸入信用状開設額は、39年4~5月には2億6千万ドルにおちている。金融引き締めはまた輸出圧力を強める。世界貿易は幸いアメリカ、ヨーロッパとも順調な拡大の方向にある。アメリカでは3月から減税が実行にうつされて消費の増大が予想され、設備投資も強調の見通しである。ヨーロッパでも景気は上昇基調にあるので、輸出信用状接受額も、38年10~12月の月平均4億ドルが、39年4~5月は、4億5千万ドルに上昇している。信用状なしの貿易は毎月1億5千万~1億6千万ドルの赤字であるから、信用状収支の好転がそのまま為替収支に現れるわけではないが、貿易収支は、7~9月には黒字となる可能性が多い。もっとも貿易外収支の赤字は依然続くだろうし、また輸入原材料在庫が少ないので、在庫の食いつぶしによって輸入を減らすことは長く続かないから、目先貿易収支が黒字となったからといってそれで安心することはできない。国際収支の均衡を持続して幾多めには、輸出の成長を高め、また内需拡大のテンポを、日本の外貨獲得力に見合うようにコン1・ロールしていかなくてはならないが、政策の緩急をあやまらなければ、経済は、比較的短い間に調整期を乗り切ることができると考えられる。

 戦後の日本の景気循環は、在庫投資がまず回復し、次いで設備投資が増大して景気は上昇に向かうが、やがて輸入が増え国際収支の赤字という天井にぶつかつて反転するという型を繰り返してきた。昭和38年の景気変動もこれと型をことにするものではない。昭和36年の設備投資ブームは、秋の引き締めによっておさまったが、かわりに37年には、公共投資や消費が増大した。この転換によって、景気の落ち込みも軽くてすみ、また設備投資の強成長が生んだ需要と生産能力との不均衡も次第に是正されてきた。こういった状況が、38年の景気回復の素地をつくり出し、回復テンポをかなり速いものにした。ただ、経済は景気の循環を繰り返すようでも、その底では常に構造的な変化が進んでおり、それが循環の姿にも影響を与えないではおかない。日本経済は、労働力過剰経済から不足経済への転換期にある。それが底流になって、景気の変動にもいろいろ今までとは異なった現象が現れている。上昇期間が短く、好況感がわかないうちに調整期に入ったのは、偶然的な原因で輸入が増え、国際収支の不均衡が早く生じたということにもよるが、そればかりではなく、一面では労働力不足期への移行という経済の基本的な変化と関係がある。企業は労働力不足から機械化を高めていくことが必要となり、それが、意外に早く設備投資意欲を再燃させたり、労働分配率が上昇したことが、生産上昇にもかかわらず企業の利潤率があまり高まらないことの1つの原因となった。労働力不足が中小企業の経営の困難を増し、また、伝統的な労働集約商品の輸出の不振が、輸出の成長率を鈍らせる一因となった。こうして好況感はあまりないのに、設備投資は増加した。昭和36年のような投資が投資をよぶブームが来なくても景気のコントロールをおくらしていると、国際収支の均衡がやぶれるような条件があったのである。

 構造変化のため当然必要な投資は、それを抑えるばかりでは長期的にみた経済の発展を妨げることになるが、投資の成果が輸出の拡大となって現れず、国内需要を高める方向に働けば、国際収支の不均衡が激しくなるだろう。限界消費性向が上昇しているので、同じ投資でも、乗数効果によって国内の需要を拡大する力は大きく、また平均輸入性向が高くなっていくので、内需の拡大が輸入増大を導く作用は強まっていくだろう。また、公共投資や社会保障などの充実の必要も大きい。こうした需要圧力が、国際収支の均衡をやぶらないように注意し、国際収支の状態に応じて需要圧力を調節して、短期のバランスと長期の成長との調和を図っていくことが重要である。

 また国際収支の均衡を今後の経済の高成長と両立させていくためには、単に金融の引き締めによる目先の収支好転に満足するだけでなく、新しい条件にふさわしいように、経済構造の近代化を進め国際競争力を強化して輸出の安定的な拡大を積極的に進めていかなくてはならない。しかも、それを開放体制という新しい環境の中で行っていくことが、これからの日本経済の課題である。

第28図 四半期別国民総需要の推移(季節修正済年率)


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