昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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新しい環境下の経済発展

社会資本の新しい展開

社会資本の立ち遅れと公共投資の新しい展開

 道路、港湾等の輸送力施設や治山治水等の国上保全施設、更には住宅、環境衛生施設等の生活環境施設など産業活動や国民生活の基盤をなしている諸施設は一括して社会資本と呼ばれるが、そのうち住宅等国民生活の基盤をなしている分野についてはあとの章で詳しく取り扱っているので、ここでは産業基盤を形成するいわば生産的社会資本を中心にみて行くことにしよう。

公共投資の目覚ましい進展

 戦後の復興過程をほぼ完了したとみられる30年ごろ以降も、我が国経済は民間設備投資の強成長に支えられて飛躍的発展を遂げてきた。この間、政府部門においても経済の成長に合わせ、更には将来の国力発展の基礎を充実するため年々公共投資の大幅な拡大を図り、国づくり政策を積極的に推進してきた。はじめに、ここ数年の公共投資の目覚ましい進展振りを概略みておこう。

政府部門における公共投資の比重

 第IV-1-1表 は、政府部門に占める公共投資の地位の推移を要約したものである。

第IV-1-1表 公共投資の推移

 まず、30年度から38年度に至る8年間に国の一般会計予算規模は2.8倍の増大をみたが、そのなかの公共虫業費はこれを大きく上回る3.6倍の伸びを示している。また、・公共事業費から災害復旧費等を除き、更に公共投資の重要な内容をなす住宅・環境衛生対策費を含めたものでみると、一般会計に占めるその構成割合は30年度の10%から38年度には17%へとかなり増大しており、その年平均増加師は一般会計総増加額の2割金を占めている。

 政府の公共投資活動のうち、道路、港湾、治山治水等企業採算制によらない政府固有の投資活動を行政投資としては握しているが、この行政投資も中央、地方を合わせて38年度には30年度の4.1倍の1兆7,361億円が実行される見込みである。

 公共投資のこの拡大傾向を反映して、政府の財貨サービス購入中に占める資本形成の構成比は、30年度の45%からほぼ一貫して上昇線をたどり、36年度には初めて50%ラインを越え、38年度には54%近くに達するものと見込まれている。また、 第IV-1-1図 は各国の国民総支出に占める政府固定資本形成の比重を比較したものだが、これも我が国公共投資の耐水準を示している。

第IV-1-1図 政府国定資本形成国際比較

急テンポな社会資本ストックの蓄積

 目覚ましい公共投資の成果は具体的には 第IV-1-2表 に掲げる公共施設の整備状況でもうかがえる。

第IV-1-2表 公共施設の整備状況

 すなわち、30~36年度の6年間に、国都道府県道路では改良済みが3割あまり、舗装済みが約2倍に増加し、5大港湾では30~35年度の間に水深9メートル以上の公共バース及び上屋・倉庫面積が2割以上増えている。国鉄関係施設でも30~36年度の6年間に電化区間が5割以上延長された他、電車、気動車等の新鋭車両の増強も急速に進んでいる。

 一方、 第IV-1-2図 は道路、港湾、鉄道の三つの交通資産の38年度末見込みストックのうち30~32年度、33~35年度、36~38年度の各3年間の投資額がいくらの割合を占めるかをみたものである。

第IV-1-2図 投資と資本ストック

 交通資産全体ではわずか9年間に現有ストックの半分近くを投資しているわけで、道路に至っては5割を上回っており、36~38年度の3年間だけでも約3割を投下することになる。これらの資産は過去50年間の投資の蓄積であるから、このような事業は30年度以降がいかに画期的公共投資の拡充期であったかを物語っている。

 第IV-1-2図 の右欄は、戦前9~11年度の平均投資額を基準として等比伸びで38年度末の現有ストックに達すべきものと想定した場合の状況をみたものである。例えば36~38年度の3年間では実際の投資額は、いずれもこの想定投資額の2倍を上回っており、このことは戦時中から戦後にかけての長い間の公共投資の空白を近年いかに急速に回復してきているかを示しているわけでもある。

社会資本の立ち遅れ

 以上みたように公共投資は目覚ましい進展を遂げてきたが、それでも我が国の社会資本の実質的水準は先進諸国に比べてなおかなり低く、それのみならず、30年ごろ以降の民間設備投資の強成長の前には社会資本の不足がむしろ経済成長のあい路となる可能性をはらむに至っている。

社会資本の国際比較

 第IV-1-3表 は社会資本のうち道路と鉄道の2つの資産の水準について簡単な国際比較を試みたものである。

第IV-1-3表 社会資本の国際比較

 道路についての各国統計基準は必ずしも同じでないからい違いにはいえないが、おおよその傾向は察知できる。 第IV-1-3表 によると我が国が保有する道路総延長は比較的豊富で、人口1人当たりではアメリカ、カナダなど広大な国土があって人口密度の小さい国には到底及ばないが、そのような条件の少ないイギリス、西ドイツ等よりはかなり多い。自動車l台当たりの延長は先進諸国を著しく上回っているが、これは我が国の自動車普及程度がまだ低いことの影響が大きい。しかし我が国の舗装率は問題にならず、舗装道路だけでは人口1人当たり延長もまた自動車1台当たり延長も極めて少ない。

 次に鉄道の状況をみると、我が国は単位面積当たりの営業キロ延長でかなりの水準に達しているものの、複線化率では大きく劣っている。最も複線化率の低さは鉄道網が山村へき地に至るまで全国的に普及していることの反映でもあり、更に今日世界的傾向として鉄道の陸上輸送に占める地位の低下がみられることや1つの海岸線に沿って主要な産業立地をえている我が国では内航海運の比重が高いことを考えると即断できないが、我が国の複線化の程度は余りに低く、ごく一部の幹線に限られているから、これも社会資本水準の質的低さの一断面といえよう。

あい路化した社会資本の不足

 経済の高成長は社会資本に対する需要の急速な増大を伴ってきたが、30年ごろ以降は多くの分野で社会資本の現有能力は限界に近づき、その不足が顕在化してきた。

 工場の用地用水の欠乏、大都市及びその周辺で顕著にみられる道路交通の渋滞、滞船滞貨の増大、都市交通難の激化─特にラッシュ時の混雑一等はいずれもその代表的事例である。

 好況期であった31年及び36年にとりわけこのような事態が大きく露呈して経済成長を阻むあい路として大きい波紋を投じたことは32年度及び37年度の本年次報告が詳しく述べた通りである。

 このような事態に対処して社会資本の整備拡充、なかんずく輸送力部門の拡充には努力が傾注されたが、当庁調査同試算によると道路、港湾、鉄道(国鉄のみ)の三つの交通資産合計の民間設備資本に対する割合は25年度の5割から、32年度には4割、37年度には3割2分と低下してきた。

社会資本立ち遅れの背景

 30年代に入ってからは公共投資の空前の拡充が図られながら逆に社会資本の立ち遅れが顕在化してきたのはなぜだろうか。要約すると次の2点を指摘できる。

 第1には戦時、戦後にかけて長い空白期間があり、社会資本の過去の蓄積があまりに乏しかったことである。

 第2には、30年ごろ以降の民間設備投資の行き過ぎた強成長による著しい経済の拡大が年々社会資本に対する需要の予想以上の急膨張を招いてきたことである。

 そこで以下にこれらに焦点を向けて公共投資と社会資本ストックの推移を簡単に振りかえってみよう。

戦時中、戦後にかけての資本蓄積の不足

 第IV-1-4表 は交通資産と民間設備資本のストックの伸び率推移を1表にまとめたものである。

第IV-1-4表 投資と資本ストックの推移

 戦前11年度ごろまでは2つの資本ストックはほぼ均衡して年率4~5%の伸びをみせていたが、以後終戦までの戦時経済体制下では直接軍需物資の生産を担当した民間設備の拡大に比べると輸送力部門への投資は立ち遅れ、両部門の資本ストックの年平均伸び率には8.4%の格差を生じた。

 戦後の復興期においては、1つにはまず何よりも壊滅にひんした生産設備の再建が急務であったこと、第2に政府公共事業の中でも戦災者の衣食の確保等戦災救済事業や教育、治安など最低限度の行政施設の整備に追われたこと、更に第3には治山治水施設の未整備なところへ20年代は台風の襲来が重なり、災害復旧や治山治水事業が優先したことなどのため、本格的公共施設の拡充には手が回りかねた。20年代10年間の交通資産の年平均伸び率は民間設備資本より3.1%の遅れをとっている。

80年ごろ以降─民間設備投資の行き過ぎ

 27年我が国が独立を回復したごろから政府施策の重点も基幹産業への政府資金の傾斜的投入や戦災復興といった戦後的色彩を漸次脱却し、道路、港湾の整備等本格的公業投資へ移行していった。

 しかし民間設備投資の行き過ぎた強成長は経済の著しい拡大をもたらし、社会資本に対する需要は年々予想を大きく上回る膨張を重ね、その増大のテンポはほぼ一貫して社会資本拡充のテンポを上回り続けてきたのである。もとより、政府部門においてもこの民間部門とのギャップの拡大を埋めるためにできるだけの努力が傾けられたが、経済の急激な拡大から国際収支の悪化をみた28、32、36年度には景気調整の一環として公共投資の一部繰り延べを余儀なくされたことや29~31年度の3年間は財政面からの景気刺激を避けるために公共投資の圧縮が行われたこともあり、更に積極的に民間部門に追随して一層公共投資の拡大を図ることには限度があったといえよう。

 30~36年度の間交通資産は平均年率4.3%の高い伸びを示したが、K間設備資本はより著しい成長を遂げ、両ストックの伸びには復興期を上回る3.6%の格差を生じている。

社会資本需給関係の推移

社会資本の資本係数的分析

 社会資本のうち、道路、港湾など産業基盤を形成する生産的社会資本は、自らに直接の生産力はなくても、生産設備資本と一体となって一因の生産力水池を決定している点では変わりはない。そこで生産的社会資本についても、生産設備資本ほど厳密な意味ではないが、やはり生産力的効果を示すものとして資本係数を考えることができよう。最も以下では産山商として単純に総生産(実質価格)をとったので、社会資本に対する需要が総生産にみあって増大する以上、この資本係数は社会資本の総体的需給関係を示してくれるものの、その場合社会資本の生産性の向上を一応無視しており、また社会資本の需給関係には大きい地域的不均衡が存在することもいっさい考慮していない点は注意しなければならない。

平均資本係数

 第IV-1-3図 は道路、港湾、鉄道の交通資産と民間設備資本について平均資本係数(資本ストック/総生産)の推移をみたものである。

第IV-1-3図 平均資本係数の推移

 これによると交通資産、民間設備資本とも資本係数はほぼ同様な傾向を示し、12~13年度ごろから急速に上昇し、終戦時なピークとして一路下降線をたどっている。戦時中の資本係数の急上昇は戦時体制下で原料、燃料、労働力の不足から生産が減退して設備の遊休化がみられたからに他ならない。しかしながら戦後の動きにはかなり明りょうな差異を指摘することができる。

 第1に、交通資産の方が、下降が急速であり、しかも36年度までほぼ一貫下げ続けているのに対して民間設備資本は下降が緩やかであり、また、31年度以降おおむね横ばいに転じている。

 第2に、戦前(9~11年度平均)と比較してみると、戦後の民間設備資本係数は戦前水準をかなり上回っているのに対して、交通資産の力は30年度ごろ以降戦前水準を下回るに至った。

 民間設備資本の資本係数が31年度ごろ下げ止まりとなったことは、経済が戦後の復興を完了し、民間設備資本がほぼ全面的な稼働を開始し始めたことに対応し、またそれが戦前水準をかなり上回っていることについては、いちがいに即断できないにしても産業の高度化、労働集約型からの資本集約型への漸次の移行など我が国の経済棚造の変化を物語っているとみられるのであるが、交通資産の場合、その資本係数の下降は輸送力部門における総体的な需給関係の推移を反映しているとみられるのであって、特に30年ごろ以降は戦前水準を下回るに至り、輸送力部門の需給のひっ迫がうかがわれるのである。

 各資本係数の近年の働きを戦前水準と比べると、民間設備資本はおおむね横ばいに転じた31年度で3~4割程度上回っているが、交通資産は全体では30年度ごろ戦前水準を割った後も一貫して低下して、36、37年度では約3割下回っている。また、その内訳をみても道路、港湾、鉄道とも30年度前後に相次いで戦前水準を下回るにいたり、37年度には同水準の鉄道55%、道路84%、港湾87%で、いずれもかなりの低下となっている。

限界資本係数

 交通資産について平均と限界の両資本係数の関係を図示したのが 第IV-1-4図 である。

第IV-1-4図 平均資本係数と限界資本係数

 これによると36年度までは限界係数は平均係数に対して終始低位横ばいで、平均係数の下降を招いていたことになる。もし輸送力に対する需要が総生産の伸びに見合って増大するならば、限界係数のこのような動きは結局その所要の年々の増大が輸送力部門における施設の拡充の純度を上回っていたことを示している。

 しかし近年輸送力部門を中心に、公共投資は大幅な拡大を遂げており、37年度には景気調整によって生産の伸びに鈍化がみられたこともあって、限界係数は飛躍的に上昇し、戦後初めて平均係数と交差し、それを引き上げるに至った。

 以上、総生産を産出高と想定した資本係数的な見方によって社会資本の需給関係の推移をたどってきたのであるが、ここで社会資本の中位ストック当たりの能力増大や社会資本需給関係の地域的不均衡を考慮していないことはともかくとしても、更に個々の社会資本に対する需要が必ずしも総生産と同一歩調で増大するとは限らないことば注目される。事実、ここ数年輸送力部門においてもかなりの構造変化がみられる。陸上輸送に占める道路の比重増大と鉄道の比重低下、鉄道輸送の高速化、大型専用船の登場、都市の過大化などはその例である。そこで次に個々の社会資本に対する需要の動きを一層具体的にとらえることによってその需給関係の推移をみることにしよう。

社会資本の原単位

 社会資本の具体的な機能は、例えば道路は車や人の通行を可能にすることであり、港湾は海上と陸上の間の貨物の移出入を可能にすることであり、鉄道は貨客を輸送することである。従って自動車が道路を走り、港湾で貨物の移出入が行われることは社会資本のいわば産出高に相当すると同時に、他方自動車や港湾の貨物取扱高は逆に社会資本を需要しているわけである。

 そこで、各社会資本に特有な産出高を選択し、その産出高単位当たりの資本量─いわゆる社会資本の原単位(これも一種の資本係数といえる。)─の推移をみることによって社会資本の需給関係を一層具体的に解明することができる。最も、この場合も社会資本単位ストック当たりの能力増大や社会資本補給の地域的不均衡を考慮していない点は前の資本係数的分析の場合と同様である。

 産出高としては、道路については自動車保有台数を、港湾については港湾貨物取扱高を、鉄道については、貨物、旅客の輸送距離世から算出した車両換算キロを採用した。

 さて、資本の原単位の推移は 第IV-1-5図 にみる通りである。

第IV-1-5図 交通資産原単位の推移

 ここ数年の公共投資の画期的拡充、従って各社会資本ストックの著増にもかかわらず、自動車保右台数等産出内の増大はこれを一層上回り、原単位は道路、港湾、鉄道のいずれも一貫して減少している。国民所得倍増計画では計画期間中のこれら輸送力部門に対する行政投資額算定の基礎をこの原単位方式に求め、おおむね30年度前後における原単位を基準として、その基準単位を維持することを一応の目安としているのであるが、予想を著しく上回る経済成長のテンポは各資本の産山市6の増加速度をも高め、原単位はその後も減少傾向をやめていない。36年度の実績によると30年度に対して道路、港湾は約4割の減、鉄道は約1割5分の減である(最も各交通資産についての当庁調査同の推計は倍増計画ベースとやや方法が異なる。詳細は当庁調査同経済月報6月号参照のこと。)。

 25~36年度の実績でみると、原単位の年平均低下率の最も高いのが道路で、次いで港湾、鉄道の順となり、平均資本係数の場合とは逆の順位となっている。これは、道路、港湾向け投資のウェイトも怖かったが、「道路、港湾の産出高である自動車保有台数や港湾貨物取り扱い幅」の増え力が「鉄道の産出高である貨客輸送量」の増え方より一層大きかったからに他ならない。

 25~36年度の12年間における総生産の伸びに対する各資本産出高の伸びの割合は、 第IV-1-5表 の通り道路が最も高く、鉄道の約3.6倍である。平均資本係数の推移をみたときは各社会資本に対する肝要が総生産とみあって増大するという前提をおいていたが、そのみあいの実際の程度は社仝資本の種類によってかなりの差があるわけである。

第IV-1-5表 交通資産産出高と総生産の関係

 次に、戦前水準と比較して資本の原単位はどうなっているだろうか。戦前水準として9~11年度(道路のみ10~12年度)の平均をとると、道路、鉄道は既に25年度町に戦前水郷を下回っており、その後も一貫して低下を続け、36年度には同水準に対して道路は約8割、鉄道は約5割の著しい減少となっている。港湾は戦時中かなり積極的に投資が行われたところから戦後も長らく戦前水準を上回る推移を続けていたが、36年度にはやはり同水準を下回るに至った。

社会資本需給関係の地域的不均衡

 これまでみてきた社会資本の原単位の推移は総体的に社会資本の需給関係が近年ひっ迫の度な加えてきていることな示しているとみられるが、この場合社会資本の高度化がその生産性を引き上げていることや地域的に社会資本の需給関係の強弱に大きい差があることは考慮されていない。

 そこで次に見方をかえて社会資本の需給関係が特にひっ迫しているいわゆる「あい路」部門を具体的に探ってみよう。

 道路の場合、33年度の交通情勢調査によると、道路の交通容量に対する交通量の割合が1.0以上の路線の延長は1.2級国道及び主要地方道の3.9%、0.75以上をとっても8.2%に過ぎず、「あい路」路線は大都市街路や主要工業地帯を結ぶ幹線に集中しており、37年度の同じ調査によると第2部でみたようにこれらの「あい路」路線の混雑はその後も一層激化している。また、港湾の「あい路」も過去の船混み状況からみて5火港湾を中心に若干のものに限られ、鉄道の場合も貨物輸送面での滞貨の発生は東海道、北陸等の特定主要聡線に集中しており、旅客輸送の「あい路」も大都市の通勤輸送及び一部幹線に限られている。つまり、現実の社会資本の「あい路」は地域的には大都市を中心とする既成の大工業地帯に集中しているとみられるのである。

 ところで一方、近年の公共投資の地域別町分状況をみたのが 第IV-1-6表 である。各部道府県から人口1人当たりの県内生産所得の順位によって上位、中位、下位の3種の地方町体を抽出すると、上位県がいわゆる大都市を含む既成大工業地帯に属し、社会資本の「あい路」化が顕著にみられる地域であるが、上位県における生産所得の年度間増加額に対する公共投資の割合は中・下位県の2分の1から3分の1程度の低さである。この割合はいわば社会資本の地域別限界資本係数に相当するとみられるのであるが、一面において大都市における近年の社会資本の不足を反映しているといえよう。

第IV-1-6表 公共投資の地域配分

 また、 第IV-1-6表 後段に掲げた公共投資の偏向係数は、地域別の構成比でみた生産所得に対する行政投資の割合であって、県内生産所得水準に対して公共投資の配分がどの程度均衡ないしは偏向しているかを示すとみられるが、上位県はやはり著しく低く、他の地域に比べてより増大する社会資本所要に対して相対的により小さい公共投資の配分しか受けていないことを示唆している。

 大都市や大工業地帯にみられるいわゆる密集の弊害の根幹をなすものは社会資本の不足であり、一方において密集地域への人口、産業の過度集中を防ぐために新しい開発地域に対する公共投資の先行投資的役割の重要性が強調されると共に、密集地域が持ついわゆる集積の利益は大きいのであるから、投資効率の観点からはこれら密集地域に対しても重点的に公共投資の配分を行う必要があるといえよう。

社会資本投資の需要効果

 前節でみた社会資本の需給関係はいわは社会資本の生産力効果の側面であるが、一方社会資本投資そのものはセメントや鉄鋼等の資材と建築機械や建物等の資産に対する直接的需要をうみ、さらにこれらの投資財等の製造部門の生産はそれぞれ他産業の生産に対する需要をうみだす。そこで社会資本投資のこのような需要誘発効果を検討してみよう。

社会資本投資の鉱工業生産誘発寄与率

 第IV-1-6図 は各年度別に政府投資、民間設備投資、在庫投資、輸出といった各最終需要が付加価他ベースでみた鉄工業生産に対してどのような地位を占めているかをみたものである。

第IV-1-6図 各最終需要の鉱工業生産(付加価値)対する波及効果

 以前は家計消費が圧倒的に補い比重を占めていたが、34年度ごろからは民間設備投資の強成長を反映して民間投資のシェアが大きくなっている。これに対して政府支出のうち資本的支出の鉱工業生産誘発寄与率は26年度に6.4%であったのが、年々その比重を増し、37年度には11.2%まで増大した。

 この原因としては、政府投資の最終需要総額に占める割合がこの間6.0%から9.6%へ増大したことと、最終需要全体の鉱工業生産誘発係数も53%高まったが政府投資の誘発係数は投資内容の高度化、土木建設工法の機械化、近代化などによってこれを上回る57%の上昇をみていることを指摘できる。

産業別生産の社会資本投資依存度

 社会百本投百が産業別に生産をいくら誘発しているかをみることによって各産業の社会資本投資への依存度を知ることができる。

 各産業の生産額に占める政府投資からの需要の比率でみると、37年度では、土木(56%)、窯業(31%)、非鉄(24%)、鉄鋼(20%)、建築(17%)、機械(10~11%)が大きい。

 一方、 第IV-1-7表 にみる通り、これらの業種では政府投資の4三産誘発率も高いが、近年は特に機械、鉄鋼、電力で誘発率のかなりの上昇がみられ、30~37年度の間には2~3割程度増へしている。これは近年の土木述策上申が質量両面にわたって大型化をみせ、近代建築機械の導入も盛んなことによるものである。そのため、37年の土木建築業の有形固定資産は30年の4.8倍(製造業2.6倍)になり、また労働生産性も2.4倍(同1.4倍)となっている。

第IV-1-7表 社会資本投資の産業別誘発係数の推移

社会資本投資と鉱工業生産能力

 社会資本立ち遅れの背景は前にみたが、もし社会資本が民回数腕資本と均衡して増大した場合を想定するならば、そのための政府の追加投資が鉱工業生産にどの程度の圧力となったかを試算したのが 第IV-1-8表 である。

第IV-1-8表 社会資本が民間固定資産と均衡して成長した場合の影響

 ここでは輸送力部門のみを採り上げたが、30~36年度の間ではこの部門に対する政府投資額はおおむね実績の2倍を必要とし、鉱工業生産はこれだけの追加投資を賄うためには平均年率27%程度の増加を維持しなければならず、実績より8%前後増大したことになる。しかも、この試算では乗数効果による消費支出の増大や加速度効果的な誘発投資は考慮されていないのでこれらを含めると当時の「投資が投資を呼ぶメカニズム」は一層拡大した規模で民間投資熱に拍車をかけ、極度の景気過熱をもたらしたであろうことは十分推測されるのである。

 しかし反面これまでの盛んな民間設備投資の累積は我が国経済の生産能力を大幅に引き上げ、従来の需要圧力の強い過熱体質の経済基調にも漸次変化がみられるに至っている。

 第IV-1-7図 は民間設備資本とその生産能力及び労働生産性の関連の推移をみたものであるが、資本ストックの急増と能力資本係数の低下とにより生産能力が著しく増大していること、また労働生産性も技術革新と合理化投資によってかなり上昇していることが分かる。

第IV-1-7図 製造業における生産能力および労働生産性

 我が国経済のこの資本と労働の両面にわたる生産力の同上は、今後公共投資等財政固有の役割を従来にも増して有効に推進するべき素地を提供してくれるものと思われるのである。

むすび─公共投資の新しい展開

 30年以降民間設備投資が主導してきた補い経済成長は一面我が国を国際経済社会において先進国的地位にまで引き上げてきたものの、経済拡大のテンポがあまりに急速に過ぎたため、政府部門における目覚ましい公共投資活動にもかかわらず、社会資本の相対的立ち遅れを顕在化してきた。この民間部門と政府部門のギャップの拡大が健全な産業活動と国民生活にいくつかの支障を与えていることも否定できず、特に、輸送力部門では、地域により、社会資本の不足が経済成長を阻む「あい路」となる可能性をはらむに至っている。

 今後はこのような不均衡が是正されなければならない。そのためには、もとより政府部門における引き続く満水準の公共投資活動が期待されるわけであるが、その本国はむしろ民間と政府両部門の相対関係に属しており、将来長期にわたり調和のとれた高い経済成長を維持するためには、民間部門と政府部門の町の投資の配分に一層適正な配慮が加えられなければならない。

 次に、政府部門内での公共投資の地域別、施設種類別の配分についても一層重点的かつ効率的配慮が望まれる。社会資本の「あい路」部門は地域的には、大都市を中心とする既成大工業地帯に集中的にみられるが、「あい路」部門に対しては、公共投資の重点度をある程度高め、これらの地域が持ついわゆる「集積の利益」を着実に発揮させることが、投資効率上有効であろう。最も公共投資はその性格上快始期間が長いのみならず、そのストックとしての社会資本の耐用期間は長期にわたるわけであるから、全体としての公共投資の配分については、長期的観点も必要である。従って将来の産業構造や社会資本に対する需要内容の変化、産業立地の適切な配置とその有機的な構成等について的確なビジョンをふまえた公共投資の有効な長期計画が整備されなければならない。37年度に決定された全国総合開発計画はこの課題に沿って、人口、産業の密集地帯の再開発と産業立地の適切な分散をはかるための基本路線を設定したものであった。

 今後、政府部門においては、社会資本立ち遅れの回復をはかるために、公共投資の拡大について引き続き積極的努力を払い長期的に民間部門との調和を確保すると共に、公共投資配分の面では長期的かつ国民経済的立場をふまえて一層苗点的かつ効率的配慮を加えることが要請されていると考えられるのである。


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