昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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新しい環境下の経済発展

開放体系移行への問題点

資本仮引の自由化と外資問題

為替自由化の進展と資本移動の活発化

 1958年末の西欧諸国の通貨一斉交換性回復をきっかけとして、以後国際間の貿易・為替の自由化は急速な進展をみた。既にそれより早く長期資本の移動はアメリカの対西欧直接投資を中心に次第に増加をみていたが、西欧諸国の経済的地位の強化とそのドル蓄積の高まりと共に、交換性回復以後短期資金の国際移動も極めて活発となってきている。

 国連の報告書によれば、1955~60年間のアメリカ、イギリス及び大陸西ヨーロッパの主要工業国からの民間長期資本の流出総額は少なくとも270億ドルをこえ、最近では年間50~60億ドルに達するという( 第I-2-1表 )。戦前最も資本移動の盛んであった1924~28年の5年間の流出合計額が約50億ドルであったことを考えれば、ドル価値の低下を考慮してもいかにこれが巨額なものであるかかうかかえる。一方、国際短資市場の指標と目されるユーロ・ドル・マーケットも目覚ましい発展を遂げつつある。IMFのアルトマンの調査によれば、ロンドン、パリ、チューリッヒの各市場を中心にその規模は約30~35億ドルにのぼり、共産圏やアメリカ自身を含む25~30ヶ国の銀行がこれを受け入れて、ドルのまま、あるいは国内通貨にコンバートして貿易及び国内金融に運用しているという。

第I-2-1表 戦後民間長期資本の移動(当該国からの流出)

 第I-2-2表 にみるように我が国の為替の自由化も近年著しい進展をみつつあるが、それと共に長短外資の流入が累増し国内経済もこれによってかなりの影響を受けるに至っている。今後、IMF8条国移行、OECD加盟などによって開放体制化が強まるとすれば、ますますこの傾向は深まると思われる。以下、こうした新たな局面を迎えた外資流入に伴う問題点を長短両外資のそれぞれについて検討しよう。

第I-2-2表 わが国における為替自由化の推移

短期外資の流入と国内金融

短資流入の状況と国内金融への影響度合い

 一般に我が国で短期外資といわれているものには、 ① 外国通貨による本邦外国為替銀行(以下為銀と略す)の海外店舗預金(ユーロ・ドル前金はこの典型)、 ② 非情住者自由円預金、 ③ 外銀からの無担保借り入れ(いわゆるクリーン・ローン)、 ④ 輸入ユーザンス借り入れ(外銀ユーザンス分)などがある。

 これらの短期外資の受け払い状況をそのまま示すものではないが、参考として為替統計における短期資本取引の収支尻をみると、 第I-2-3表 の通りである。

第I-2-3表 短期資本取引収支

 これによれば、35、36両年度において短期資本取引は9億ドルの黒字(日銀1の特別借款を除く)となっている。このように大幅な黒字となったのは、35年度においては非居住者自由円勘定の創設、輸入ユーザンスの適用品目の拡大や適用期間の延長、為銀の無担保借り入れの限度件の撤廃等の自由化措置が相次いで採られたことなどから、これらの形態による短資の流入が大幅に増加したためであり、36年度においては輸入の急増により輸入ユーザンスが大幅に増加したためである。

 こうした短期外資の流入は上述のように国際収支に大きな影響を与えるが、同時に国内金融もこれによって直接、間接強い影響をこうむる。最も、その影響の度合いについては、具体的にどれだけ岡内金融を緩和させたか一概に計数を持って示し難いが、輸入ユーザンス等はもしこうした外銀からの信用供与がなかったならば外為会計から同郷の外貨を買い入れなければならなかったと仮定し、また自由円預金等についても、もし仮にこうした外資の流入がなかったならばそれだけ国内金融はひっ迫したはずであると考えて、35年度以降の為替統計上の短期資本取引の黒字額に見合うだけを財政資金対比間収支の実績から除いてみると、 第I-2-1図 の通りである。これによると短資が最も流入した35~36年度上期中にはこの間の短期資本取引の黒字額に相当する約3,000億円の現金需給の緩和があったという仮説も成り立ち得よう。

第I-2-1図 短資流入と現金需給バランスの推移(季節調整済)

 この時期の大幅な短資流入が金融の乳き締まりを遅らせる結果を生んだことは否定できない。

金融調整上の問題点

 短期外資の流入はそれが安定的なものである限り、国際収支に大きなプラスをもたらし、また貿易金融を円滑にする効果を持つ。しかし、反面短期外資には浮動的な性格を持つものがあることも否定できず、その急激な流出入は国際収支を不安定にするのみならず、国内金融にも好ましくない影響を及ぼし、ひいては金融政策の所期の目的遂行を困難におとしめる危険さえ持つ。為替の自由化と共に、今後ますます金融、為替市場の国際的結びつきが進むとすれば、こうした短資の流出入に伴う国内金融への衝撃をできるだけ小さくするための配慮が必要であろう。

国内金利の割高是正

 まず、以上にみてきたような近年の大幅な短資の流入とその円転換の増大は、我が国金利の国際的刊信jにその基本的原因を見いだせよう。本邦為銀のユーロ・ダラー取り入れ金利は最近かなりの低下をみたが、なお諸外国に比べ若干割高と思われる。しかし、それでも国内のコール・レートに比べればまだ相当低く、また金融市場の需給がいわば恒常的にひっ迫気味な我が国では市中銀行は自行の資金繰り窮迫を緩和するために進んでこれを取り入れてきたのである。後に述べる我が国の為替市場の底が浅いといら問題も、業はこのようにコール・レートが割高なため、流入した外貨を為銀段階で買い持ちする余裕がなかった点にも原因を持つといえる。この意味でもコール・レートの割高是正、金融市場の需給の緩和は重要な課題といえよう。

為替市場の底の浅さ

 こうした原因に加えて、我が国の場合、市場の規模が小さく、従来為替の変動幅が比較的狭い範囲に固定され(上下0.5%、合計1%)、為替平衡操作も行われていなかったということが更に一層為替市場の底を浅いものにさせていた。こうした状態では為替市場の出合いはわずかな需給のアンバランスから売り、また買いの一方に偏りやすく、相場はたえず上限、下限に乱高下する傾向にあった。( 第I-2-2図 )。

第I-2-2図 最近の米ドル相場の推移(インターバンク市場)

 一般に国際短資の移動は二国間の金利差が直物机物と先物相場の為替差損(いわゆるカバー・コスト)を上回る限り継続される。そして、資金流入圏の直物為替の需要が増大し(我が国の場合なら直物円高)、逆に先物の供給が増加する(先物円安)ことによって、直先の開きは拡大し、金利差=為替差損の時点で資金移動は停止する。しかるに、弾力性の欠われた為替市場においては間際収支のわずかな変動でも市場の出合いを困難とし、直ちにMOFへの売買となって国内金融に直接的な影響をもたらすのはいうまでもない。こうしたところでは直先の開きによる為替差損が資金の移動を均衡化するという機能ほぼとんど失われているといっても過言ではない。

 最も、こうした欠陥を是正するためにこれまでもいくつかの措置が実施されてきた。第1は、37年の6月に本邦為銀に対して外貨準備預金制度が実施され、また38年1月にはその準備率の引き上げが行われたこと、第2には、38年4月に為替変動幅が基準相場の上下0.75%に拡大され、あわせて為替平衡操作が実施されるに至ったことである。前者は本邦為銀のユーロ・ドル、自由円預金などの特定の外貨債務に対してその一定率(20%、38年I月以降は37年12月の外貨債務平残を超える金額については35%)を最低準備金として現金、預け金、一流外国政府証券などの流動性のある外貨資産の形で保有することを義務づけるものであり、準備率の操作によって、短資の流出入を調節し国内金融への影響の度合いをこれによって幾分でも緩和しようというものである。また後者は先物為替市場の育成、相場の変動に伴う国際収支の自動的な調節力を強めることなどを狙いとしたものである。

 しかし、既に指摘したごとく究極の原因は国内金利の割高にある。今後は金融の正常化と共に短期金利の割高是正に努めると同時に、外貨準備預金制度、更には為替平衡操作の弾力的運用などによって、相場の安定と市場の拡大に一段と努力が傾注されねばならない。

長期外資導入の現状と新しい局面の展開

 短期外資の流入が為替の自由化と共に比較的最近に始まったのに対して、長期外資の導入は既に早くから行われていた。昭和25年度の外資法の成立と共に長期安定的な資金の導入が叫ばれ、この間多額の導入をみた。しかし、近年の資本取引自由化の進展は導入外資の性格にもかなりの変化をもたらそうとしており、また今後は単なる「外資の導入」から「外資の流入」の働きが活発になると考えられる。

資金調達としての外資導入

 従来我が国の外資導入は著しく外貨ローンに偏っているという特徴を持っていた。25~37年度の13年間の外資導入総額は約23億ドルにのぼるが、そのうち貸付金債権(外貨ローン)は16億ドルとその約7割を占める( 第I-2-4表 )まず、この外貨ローンが我が国の資本蓄積にどの程度の役割を果たしてきたかを検討しておこう。

第I-2-4表 外資導入状況

 我が国の企業の資金調連中に占める外資の比重は34~37年度で設備資金調達額(外部資金)の3~4%であった。この比重は外資導入の始まった26年以降それほど大きな変化をしていない。むろん、この数宇自体決して少ない額とはいえないが、表面的にみる限り外資はそれほど大きな役割を演じてこなかったと思われる。しかし、この点を巨大企業や特定の業種についてみるとかなり様相は異なってくる。

 第I-2-5表 は資本金101億円以上(37年度上期現在)の巨大企業51社について長期借入金の内訳の推移をみたものである。37年度上脚の長期借入金残高は1兆6,612億円、うち外資は2,049億円でその12.3%を占める。更に33年度上期から37年度上期中の長期借入金の増加額に占める外資の寄与率は16.6%に達し、信託銀行、政府金融機関、長期信用銀行に次いで高い比率を占めている。しかもこの51社中実際に外資を借りているものは23社に及ぶが、それらは鉄鋼6社、電力6社、自動車3社、電機、造船、石油化学各2社など極めて重化学工業に集中されている。試みに、これらの業種の設備資金調達に占める外資の比重をみると、電力で最高が30年度の14%、鉄鋼で33年度の24%、運輸では36年度の11%等となり、最近2~3年では36年度に電力がマイナスに落ち込んだのを除けばほぼ10%前後の比重を占めている。こうしてみると全体としてはそれほどでもないと思われた外資が実際にはかなり大きな役割を減じてきたことが浮かび上がっている。

第I-2-5表 巨大企業の長期化借入金残高の内訳

 事実、 第I-2-3図 Aをみると、これらの日大企業中過去数年間の設備投資の大きかった企業ほど概してより多く外資に依存している結果がみられる。これはいうまでもなくこれらの成長企業が過去の設備役竹の強成長の過程で、長期安定的な、しかも大口の資金を強く需要していたからに他ならない。 第I-2-3図 Bにみるように外資の1件当たりの幅百瀬及びその金利は、国内資金に比べ比較にならぬほど大きくかつ低利であった。外資が我が国経済成長の中松部において資本蓄積に大きく寄与したことはもはや疑い得ない事実といえよう。

第I-2-3図 巨大企業における外貨借入金の地位

 しかしながら、こうした反面、従来の外貨ローンが企業間競争をかきたてたと同時に、安易な外資依存ムードを一部にもたらしたことも否めない。石油産業におけるひもつき原油の問題、また近年の鉄鋼における世銀借款に伴う問題などはこうした事実の現れといえよう。

新しい局面の展開

資本市場の国際的拡大

 このような事態の出現と共に最近外資の導入の性格にもようやく新しい変化がうかがわれるにいたっている。前掲 第I-2-4表 の外資導入状況からも分かる通り、近年株式取得や外貨発行がかなり増加している。とりわけ最近ではADR発行、転換社債、更には市場経由の株式取得の増加が目立つ。例えば、市場経由の株式取得は35年度2,196万ドル、36年度5,585万ドル、37年度9,185万ドルと急増し、最近3年間に発行された民間外債は8銘柄、8,873万ドル(うち転換社債3銘柄、5,650万ドル)、政保債を含めれば16銘柄2億6,723万ドルに達し、同じくADR発行は8銘柄6,253万ドルにのぼる。

 戦前においても我が国は多額の外資導入を行ったが、その大半(約8割前後)は国債、地方債、社債等の外債であった。事実、外貨ローンに比べて、外債ははるかに大口の、かつその使途を制約されない資金を調達できる。最も手数料その他の発行経費はかなり国内の場合に比べて高く、またその発行条件も現在のところ諸外国に比べてどちらかといえば不利であるが、これらを加味した発行者実質利回りは国内債(例えば超一流債で年率8.17%)よりもなお0.5~1%がた低い。更に、ADR発行、市場経由の株式投資の増大が我が国の資本市場の拡大に与える効果はかなり大きいものがあるといえよう。

 従来外資導入の主役を演じてきた世銀借款、ワシントン輸銀借り入れにはあまり多くを期待できず、またアメリカ市中銀行融資にも対日クレジットラインの限界があることを考えれば、今後はますますこうした外資導入の多様化と導入先市場の開拓が図られねばならない。

外資の進出

 一方、こうした中で、最近子会社、合弁会社の設立等の外資の直接投資も漸増する気運にある。 第I-2-6表 は資本金100万円以上の主要な合弁会社(ただし経営参加に基づく外資の株式取得のある企業)の設立状況をみたものであるが、34~5年度を境にかなり目立って増加している。

第I-2-6表 主要な合弁会社の設立状況

 既に冒頭でアメリカの海外投資を中心に民間長期資本の国際移動が活発となりつつあることを指摘したが、こうした最近の現地企業との合弁形式の海外投資の増加は実は我が国だけにみられる特徴ではない。 第I-2-7表 に示すごとく、アメリカ企業の対西欧直接投資は1957年以前はその約75%がほとんど全株所有の子会社形式であり、合弁会社は残りの25%に過ぎなかった。しかるにチェースマンハッタン銀行の調査によれば、1958~61年のアメリカ企業の西欧進出は約1,300社に達するが、そのうち40%が現地側との合弁、17%がライセンス契約(ローヤリティをとって自社製品の販売権を与える)をとっており、全株所有は43%に過ぎない。このような形式の外資並出の増加は、全額出資の場合に起こりがちな摩擦をさけ、提携先の販売機構の利用、更には現地の情報などの把握において優れた利点があることに理由を持つことはいうまでもない。前掲 第I-2-6表 にみるように、外資法の認可をえていないいわゆる円ベースの合弁会社が近年増加をみていることも、こうした事業を背景に持つものといえる。最も現状では、これらは1社当たりの資本金が平均130百万円というように比較的小規模なものであり、その業種も食品、化粧品等の一部の化学、精密機械、商社等の軽工業に多くまたその性格も市場調査、試験販売、PR等を兼ねたいわば試験的な段階に留まるものが多い。38年7月1日以後の円ベースの投資は外資法または外為管理法の審査を受けることになったが、今後我が国の資本取引の自由化が進めば、当然こうした合弁会社の設立を含めた外資の直接投資は更に増加するものと思われる。

第I-2-7表 アメリカ海外企業のヨーロッパ進出

 もともと外資の直接扱資は国内経済に不当な混乱を起こすものではない限り、それをあえて阻止する理由はない。既に西欧諸国では外資の直接投資の自由化が間接投資よりもむしろ進んでいるのは周知のことである。とりわけ、我が国のごとく今後一層産業構造を近代化し、後進的分野を改善する必要のあるところではむしろそれは好ましい結果を生むといえよう。たしかに外資の直接並川は言論産業に大きな影響を与えることは否定できない。従ってそのための慎重な配慮が必要であるが、同時にそのことによって、企業の自己責任原則の確立とその体質改善への刺激が与えられるとすれば、その効果も高く評価されねばなるまい。

資本仮引の自由化と円の立場

 以上、長短外資の流入状況とそれに伴う国内経済への影響と概観したが、むろんこの問題はこれにつきるものではない。長短外資の流入に伴うメリットは、それが安定的なものである限り、国際収支面にプラスとして働き、ややもすると従来低月になりがちな我が国の国際収支の天井を押し上げる効果を持つと共に、また、ひっ迫しがちな国内金融の需給を緩和させる方向に寄与するものといえよう。とりわけ、今後ともわが同が高い成長を持続するためにも、こうした長期安定的な資金の導入は強く望まれる。更に、長期外資とされている市場経由の証券投資にもかなりホット・マネー的性格を持つものがないともいえない。また外国企業の町接地出もそれが弱小産業に集中されるとすれば当該しかし、反面短期外資のなかにはホット・マネ‐的なものもあり、これは国内金融に好ましからぬ影響をもたらし、また、外貨準備を不安定なものにすることも否めない。産業へ極めて大きな打撃を与えることも無視できない。

 ひるがえって、我が国の置かれた国際的立場をみると、今後IMF8条国移行、OECD加地をひかえ、先進国諸国への仲間入りはいよいよ現実の問題となりつつある。我が国が名実共に自由世界の「対等な仲間」(イコール・パートナー)となるためには資本取引自由化の課題に真剣に取り組むことが必要であろう。のみならず、今後はいまより一層低開発国援助の責任をわかち、また各種の国際機国への加入を通じて国際的な協調に参加しなければならないであろう。こうした課題にたちむかうためには、資本交流の活発化に伴う国内経済の不当な混乱を防ぐ一方、長短金利のアンバランスと国際的割高是正などの金融正常化を推進し、円の安定と円為替の育成を図り、その対外価値を強めると同時に、我が国企業も国際的な愛覚とその競争力を一段と高め、今後に予想される資本交流の活発化に備えることが急務であろう。


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