昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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新しい環境下の経済発展

開放体系移行への問題点

貿易構造の先進国化

日本経済の先進国化と低開発国貿易の再評価

世界経済の現段階と低開発国貿易の重要性

 戦後における世界貿易の拡大は、先進工業国相互間貿易の急速な伸長によるところが大きく、その結果、世界貿易に占める先進国と低開発国との貿易額の比率は低下傾向をたどっている。しかしながら、先進工業国にとって、低開発同市場の重要性が低下していると考えるのは誤りである。

 たとえば西欧諸国(OECD加盟国)についてみると、輸出総額のうち低開発国向けの占める割合は、昭和28年の30%から36年の23%へと著しい低下傾向をたどっている。しかし、低開発圏向け輸出額の国民総生産に対する比率をみると、28年から35年まで、4%強の水準を維持している。つまり、西欧の域内貿易が急速に増加したため、輸出総額に比べると低開発国市場の比重は低下したが、低開発国への輸出も西欧の総生産とほぼ等しいテンポで増加したため、生産物のうち、低開発国向け輸出の占める重要性は特に変化しなかったということになる。機械産業の場合にはこの傾向は更に顕著で、西欧諸国の機械生産額のうち、12%強が低開発国市場に依存しており、この比率も28年から35年までほとんど変わっていない。

 先進国の経済、特に西欧経済は、30年ごろから、貿易自由化と経済統合の進展に伴う域内貿易や工業国間貿易の拡大を通じて、順調な成長を続けてきたのであるが、経済統合の投資促進効果が一服したことなどの結果、最近では経済成長率にも鈍化傾向が現れている。このような事情を考えると、先進国経済に対する低開発国市場の重要性を再認識する必要がある。例えば、西欧諸国の低開発国向け輸出は35年以後伸び悩み、37年には7%の減少をみたが、最近における西欧経済の拡大鈍化にも、このような低開発国向け輸出の不振が無視し得ない影響を与えている。

 32年ごろから既に国内投資の停滞に悩まされているアメリカはもとより、近年では西欧大陸諸国や日本でも、供給力が需要に追い付き、資本財を中心に供給力過剰の兆候が現れ、その結果、経済成長率の低下が問題祝される情勢にある。一方、低開発国の多くは、膨大な潜在需要をかかえながら、外貨資金の不足から、経済開発に緊要な資本財輸入さえ抑制せざるを得ない状態にある。

 先進工業国間の貿易自由化が一応の進展をみた今日、世界の関心は関税一括引き下げを中心とする世界貿易の拡大策に集中されているが、このような先進国と低開発国における資本財需給状態を考慮すると、先進国と低開発国との貿易拡大にも一層の努力を払う必要があると思われる。この場合、先進国による援助活動の増大が望ましいことはいうまでもないが、それよりも、貿易自由化や関税引き下げを低開発国産品にも適用し、市場を開放して、低開発国の輸出促進の途を開くことが先決問題であろう。こうしてこそ、世界経済の均衡ある発展が可能になると考えられる。

 ひるがえって我が国経済の実情をみると、経済構造の高度化に伴って、重機械の輸出力が著しく強化された反面、労働需給のひっ迫、賃金格差の縮小と共に、労働集約商品の国際競争力は次第に減殺される方向を示している。戦後における我が国輸出の急速な増大は、労働集約商品の対米輸出の激増によるところが少なくなかった。しかし労働需給の変化や新興工業国との競合激化につれて、単純な労働集約品の輸出は近年著しく鈍化しており、今後は更に高度の技術を要する耐久消費財や機械類の市場を開拓する必要がある。また、低開発国の重機械輸入需要が大きく、我が国重機械産業の競争力が強化されたことを考えると、いまや、低開発国への重機械輸出が、日本の輸出伸長に大きな役割を果たすべき段階に到達したと判断される。

 以下、日本経済の先進国化によって、我が国の輸出構造が重機械中心への転換を要求されている姿を明らかにし、次いで、重機被の重要市場である低開発国向け輸出の実体を分析し、その拡大の方策を検討することにしよう。

日本経済の先進国化と輸出構造の転換

労働集約商品輸出の鈍化

 戦後における我が国輸出の急速な伸長は、先進国向け、特に対米輸出の激増によるところが大きい。28年から37年までの9年間についてみると、先進国への輸出(アメリカ、カナダ、西ヨーロッパ、大洋州と、リベリア、パナマ向け船舶)が年平均21%の増加を示したのに対して、低開発国向けの増加は年平均12%に留まっている。このように先進国への輸出が急増したのは、 ① 欧米諸国で、耐久消費財と繊維・雑貨などの労働集約商品の輸入需要が急テンポの増加を続けたこと、また、 ② 労働力の豊富な日本経済が、この種商品に関して国際競争上有利な立場にあったことによる。この結果我が国の先進国向け輸出の大部分は労働集約商品で占められ、36年の対米輸出10.5億ドルのうち、70%が繊維製品、金属製品、雑貨類と、ラジオ、カメラなどの軽機械であった。

 しかし、最近の情勢をみると、日本の経済高度化の進展、海外における低開発国の工業化の進ちょくにつれて、労働集約商品を中心とする輸出の急速な伸長は次第に困難の度を加えている。

 すなわち、日本経済の高度成長か続いたため、労働力の需給はひっ迫化の傾向を示し、これに伴って賃金の上昇テンポが速まると同時に、賃金格差が縮小し始めている。この結果、32~33年どろまで輸出増加の中心となっていた繊維や合板、がん具、雑貨など、労働集約産業の賃金上昇率は、全産業のそれを大幅に上回っており、輸出競争力にも悪影響を与え初めている。

賃金水準別輸出の動き

 いま、我が国の輸出商品のうち、33年の輸出額が5億円を超えた116品目について、33年の賃金水準を基準にして6つのグループに分け、それぞれの賃金階級に属する産業の輸出額の推移をみると、 第I-1-1図 の通りである。この図からも町らかなように、比較的賃金の低いグループ(第I、第II階層)の輸出額は29~33年には61%増加したのに対して、33~37年の伸びは37%へと著しく低下しており、特に35年以降は7%しか増えていない。このグループは主として繊維、衣類、缶詰、雑貨類で占められるが、中でも賃金が低く、加工々程も単純な綿織物、スフ織物、陶磁器、がん具、装身具などの輸出は35年以来ほとんど横ばいであり、造花のごときは34年をピークに漸減傾向さえ示している。この結果、輸出増加に対する両グループの寄与率も、29~33年の39%から、35~37年ではわずか13%に低下している。

第I-1-1図 賃金水準別輸出額の推移

賃金格差の縮小

 このように、労働集約商品の輸出が扱わなくなった最大の原因は、労働需給のひっ迫に伴って賃金上昇のテンポが速まったうえ、賃金格差が33年ごろから縮小に向かい、特に労働集約的産業の賃金が大幅に上昇したことにあると考えられる。たとえば、33年から35年までについてみると、全製造工業の平均賃金は16%上昇したのに対して、前記第I、第IIグループに属する産業の賃金上昇はいずれも23%にのぼった。この結果、賃金コストに関する比較嬢位性が縮小したものと思われる。そのご35年から37年までの動きを毎月勤労統計でみても、製造業の賃金が23%上昇したのに対し、繊維産業では30%、衣服では39%、雑貨類を含む「その他工業」では34%に達している。従って、このような順向はますます強まっているものと思われる。

 なお、注目されるのは、おなじ賃金水準に属する産業の間でも、輸出に関係の深いものの方が、もっぱら国内市場を対象とする産業に比べて賃金上昇率がたかく、従って、賃金格差の縮小も、輸出産業の方が著しいことである。すなわち、33年の賃金水準が全製造業平均の80%に満たない産業のうち、身の回り品、水産缶詰、綿スフ織物、がん具など、輸出比率(出荷額に対する輸出額の割合)が30%をこえるもの24業種についてみると、その平均賃金は33年から35年までに24%上昇した。これに対して、清酒、たるおけ製造、パン菓子、めん類業など、輸出比率が6%以下の24業種では、賃金上昇率は17%に留まっている。これは、国内市場のみに依存する産業には、その製品の需要が停滞的なものが多く、雇用形態も封鎖性が強いためと思われる。この結果、賃金格差の縮小も、輸出産業の方が大幅である。前出の116業種のうち、輸出比率の高い58業種について業種別賃金の分布を標準偏差率でみると、33年の52%から35年の47%へと低下しているが、輸出比率の低い58産業でもよ、これが33年の32%に対して35年も31%で、格差はあまり縮小していないことを示している。

 このように、賃金格差が縮小し、特に輸出産業でその傾向が著しいことは、日本経済における労働集約的産業の比較優位性が次第に失われていることを示している。

欧米を上回る賃金上昇

 国際的にみても、繊維・雑貨などの諸工業の賃金水準は、製造業の平均を下回っている因が多いが、最近における我が国のこれら産業の賃金上昇率は、先進工業国を上回っている。 第I-1-1表 は、29~33年と、33年以降について、製造業の平均賃金上昇率と、軽工業部門の賃金上昇率を、欧米主要国と比較したものである。これでみると、29~33年の我が国製造業の平均賃金上昇率は年平均4%以下で西ドイツの半分にもみたず、アメリカより低く、特に軽工業部門の上昇率は著しく低かった。これに対して、33~35年についてみると、日本の平均賃金の伸びは年率7%でアメリカを上回り、ほぼ西ドイツと等しく、特に紡織、被服など輸出比率の高い部門の上昇率は、アメリカさもとより、西ドイツに比べても大幅に上回っている。その後37年までについてみても、日本の上昇率は年平均10%へと著しくたかまり、アメリカ、イギリス、イタリアを大きく上回り、ほぼ西ドイツ、フランスと等しい急速な上昇を続けている。

第I-1-1表 軽工業部門の賃金上昇

 もちろん、これらの諸産業においては、我が国の賃金コストは、欧米諸国に比べてなお大幅に下回っていると考えられるが、賃金の大幅な上昇に伴って競争力の強さは次第に失われつつあると思われる。

低開発国との競合激化

 労働集約商品中心の輸出増加が困難になってきた第二の原因は、新興工業国との競合が激しくなっていることである。低開発国の工業化が進むにつれて、単純な労働集約商品の輸出はかなりのテンポで増加しており、先進国市場では我が国をしのぐ進出を示している。

 第I-1-2表 は主要先進国13ヶ国について、代表的な労働集約商品の輸入額のうち、日本から輸入された割合と、低開発国からの割合を比較したものである。これによると、繊維、衣類、雑貨など、18品目(国際標準貿易分類による)の輸入額は、29~33年に49%、33~36年に50%と、急速な増加を続けている。これに対して、29年から33年にかけて、つまり賃金格差の拡大が続いた期間には、日本からの輸出は182%の激増をみせ、総輸入に占める日本滋品のシェアも29年の5.5%から33年の10.4%に倍増した。品目別にみても全商品でシェアがたかまっている。

第I-1-2表 先進国市場における低開発国との競合

 これに対して、33年から36年にかけては、日本からの輸出増加は43%に留まり、シェアは10.4%から9.8%へ、わずかながら低下した。一方、低開発国からの輸入は29~33年の57%増から、33~36年では74%へと増加テンポをはやめ、シェアも、33年の10.3%から、36年の11.9%へとかなりの上昇をみせた。

 日本間品のシェアーが停滞ないし減少し、新興国のそれが大幅に増加するという傾向は、合板、木製品、繊維、衣類、雑貨などにとく顕著である。また 第I-1-2表 の下欄にもみられるように、この傾向が、33年に既に日本のシェアが高くなっていたアメリカ市場に限られず、西欧大陸諸国にもみられることは法日に値する。

 これには、欧米諸国の輸入制限が、日本商品について特に厳しかったことにもよるが、基本的には、日本経済の高度化と低開発四の工業化に伴って、単純な労働集約商品については、日本の優位性が弱まったためとみるべきであろう。

重工業品輸出への構造転換

 このように、単純な労働集約商品の輸出伸長が次第に困難になっていることを考えると、今後我が国としては、先進国に対しては技術と労力を必要とする軽機械の輸出を一滴促進すると共に、後進国市場においては重工業品特に重機械の輸出の飛躍的拡大を図る必要がある。最近数年間の我が国輸出の推移をみても、このような方向への転換が徐々に進んでいる。

 第I-1-1図 によれば、賃金水準が全産業の平均をやや上回る第IVグループと、第Vグループの輸出は目覚ましい増加を続けている。約IVグループは主としてカメラ、ラジオ等の軽機械、精密機械で占められ、第Vグループは大半が産業用機械、自動車とプラスチックで占められる。特に第Vグループでは、賃金水準が相当高いにもかかわらず、生産性の向上、品質の改善が著しく、その国際競争力は急速に強化されたため、輸出額の増大は目覚ましい。この結果輸出の総増加額のうち、第Vグループの増加は、29~33年では5%に満たなかったものが、35~37年では16%に達している。

 34~36年の設備投資ブームの結果、産業機械、自動車など、重機械工業の生産力は質的にも量的にも飛躍的に向上しており、今後は相当の供給余力が生ずるものと考えられる。従って、重機被輸出の伸長は、我が国の輸出増加率を維持するために必要なばかりでなく、機械産業の操業度を維持し、更に輸出による市場拡大を通じて、機械産業の充実強化を図るためにも不可欠だといえよう。

低開発国の機械需要と日本の輸出

重機械市場としての低開発国

 このように、重機械輸出の伸長は将来の我が国の輸出拡大にとってますます重要性をたかめるものと思われるが、当面その主要な輸出市場は低開発国であると考えられ、低開発国との貿易の重要性は一増増大すると予想される。

 近い将来、我が国の重機械輸出で低開発国向けが中心になると考える理由は三つある。第一に、従来の重機減輸出は低開発国向けが圧倒的に大きいことである。36年の重機械(船舶を除く)の輸出額は539百万ドルであったが、その83%までが低開発国向けであった。第二に、我が国の重機械工業の競争力が強化されたのは事実であるが、未だ欧米主要工業国と肩を並べるところまでは達していない。従って、工業国間の重機械の相互貿易に、全面的に参加できるようになるには、なお若干の年月を要すると思われる。第三に、経済開発を目指す低開発国の重機械需要は膨大であり、我が国が低開発国からの輸入を増やしたり、援助、借款を供与するなど、低開発国の輸入能力をたかめることによって、日本からの輸出を拡大し得る機会に恵まれていることである。

 戦後、我が国の低開発図向け輸出の伸びは先進国へのそれを下回っているため、輸出総額に占める低開発国市場の割合は低下傾向をたどっている。しかし、37年においてもその比率は50%に近い。特に重化学品については、日本の総輸出に占める低開発国市場の割合は大きく、36年では前述の重機械(船舶を除く)の83%を始め、化学品の69%、鉄鋼の67%を占めている。

 これは、低開発国の輸入需要が、機械を始めとする資本財を中心に伸びているためである。 第I-1-2図 にも明らかなように、自給度の向上や輸入制限の結果、輸入需要の停滞している繊維では、我が国からの輸出も32年以降全く横ばい状態にある。これに対して経済開発の推進に必要な機械や化学品の輸入かなりのテンポで増加しており、我が国の鉄鋼化学品の輸出も32~36年に約6割増え、とく化機械の輸出は2.6倍に激増している。

第I-1-2図 低開発国の輸入と日本の後進国向け輸出の推移

急増する産業機械の輸入需要

 低開発国の輸入増加率は、先進国に比べて著しく鈍いが、機械、とくに産業用機械については両者の差はそれほど大きくない。30年から36年までに先進国の工業製品輸入は72%増加したが、低開発国のそれはその半分の38%に留まった。しかし、産業用機械(国際標準貿易分類711,715,716)の輸入は、先進国の132%増に対し、78%の増加を示し、かなり高くなっている。

 これは低開発国が、限られた外貨を極力開発用機械の購入に振り向けようと努力しているためと考えられ、支払い能力に余裕さえあれば、機械輸入はさらに大幅に増加する可能性があることを示している。こころみ化、30~36年の輸入総額増加のうち、どれだけが機械類(乗用車を除く)に向けられたかをみると、先進国では平均して26%であるのは対して、低開発国では42%化のぼり、中でも中南米では81%に達し、輸入増加のほとんど軍部が機械に振り向けられている。

 機械輸入の内容をみるため、主要低開発国37ヶ国について、機種別輸入額を、主翼工業国の輸出統計から推計すると、 第I-1-3表 の通りである。

第I-1-3表 低開発国の機械輸入と日本のシェアー

 低開発図の機被輸入にみられる第1の特徴は、産業用機械の割合が大きく、増加率も高いことである。原動力機(SITC711)、金属加工機械(715)、一般産業用機械(716)の三者を産業用機械とみなし、最近6年間化おけるその増加率をみると、先進国では機械全体の伸びを下回っているが、低開発国では、機械輸入が55%増加したのに対して、産業用機械はこれを上回る78%の増加を示している。特に注目されるのは、金属加工機械が2.5倍に激増し、先進国の増加率(51%)を大きく上回っていることである。

 第二に、地域別にみると、東南アジア、中南米の機械輸入が急、述に増加しているのに比べて、アフリカのそれが停滞しているのが目立つ。これは経済開発段階の差によると考えられるが、特に産業用機械では格差が著しい。経済開発が本格化しつつある東南アジアと中南米では、産業用機械の輸入増加テンポは、先進国に勝るとも劣らない。

日本の機械輸出

 これら37ヶ国に対する我が国の機械輸出額は、30年の125百万ドルから36年の513百万ドルへ、4.2倍に激増し、低開発国の輸入郷に占めるシェアも、3.2%から8.6%へたかまった。特に伸びが著しいのは、自動車の12倍を始め、電気機械、金属加工機械、船舶などであった。しかし36年のシェアをみると、10%をこえているのは、船舶、自転車、電気機械、鉄道車両の4者に限られ、産業用機械のシェアは、近年かなりたかまったものの、なお6%に留まっている。この種機械では我が国の競争力が未だ充分でないことを示すものといえよう。

 主要地域における日本のシェアを、欧米工業国と比較すると、 第I-1-3図 の通りで、我が国はいずれの地域でもシェアの拡大に成功している。これに対してアメリカのシェアは全地域で低下し、代わって西ドイツとイタリアの進出がみられる。ただイギリスが各地にわたってかなり高いシェアを確保しているのが注目されるが、これは原動機などで圧倒的優位を示しているうえ、植民地時代からの強固な地盤によるところが大きいとみられる。一方我が国の輸出は著しくアジアに偏しており、西ドイツやイタリアが、各市場に比較的均敷のとれた進出振りを示しているのと対照的である。

第I-1-3図 後進国の機械輸入に占める主要工業国のシェア

 中南米の機械市場が極めて大きいこと、中近東市場の成長率が高いこと、なども考慮すると、我が国としては、今後、産業用機械を中心に、アジアに限らず、中南米や中近東への進出に一層努力する必要があろう。

低開発国向け輸出と日本の輸入

 このように、我が国の低開発国向け輸出は重機械を中心にかなりのテンポで伸びているが、相手国によって、増加率には大きな開きがある。最近数年間についてみると、タイ、フィリピン、マラヤ、メキシコなどへの輸出が安定した増勢を維持しているのに比べ、インド、ビルマ、ブラジルなどではほとんど横ばい状態を続けている。もとより、各国への輸出は、その国の経済成長率、開発投資の規模、外貨事情、政治的、歴史的関係など、多くの複雑な要因で左右されるが、日本との貿易収支状態が大きな影響力を持っていることは注目される。

 概して、日本が大幅の入超を続けている国ほど、そして、日本の輸入増加率が高いほど、その国への輸出の伸びも大きいという傾向がみられる。例えば、30~31年平均と36~37年平均を比べると、日本が恒常的に輸出超過を示した12ヶ国への輸出額は66%(賠償分を除くと60%)増加したのに対して、恒常的入超国8ヶ国への輸出は178%の大幅な増加をみせた。また、タイとビルマは30年ごろには共に50百万ドル前後の重要な輸出市場であったが、最近ではタイへの輸出が150百万ドル達する一方、ビルマ向けは50百万ドル、賠償分を除くと30百万ドルに低下している。これも、ビルマからの輸入が、米の買い付け削減と共に30年の46百万ドルから、37年の16百万ドルに激減したこと、一方タイからの輸入は、米の減少分を、ゴム、トウモロコシなど新商品の増加で相殺し、最近では30年当時を2割方上回っている──という事情が大きく響いていると思われる。

 低開発国の多くが外貨の不足に悩まされている現状では、個々の国との間に貿易収支の均衡を図る傾向があり、その結果我が国との貿易収支が、日本からの輸出に大きな影響を与えるものとみられる。従って、低開発国への輸出拡大を図るには、輸入の増加ないし援助・借款の供与による購買力の賦与が必要である。

 このように日本と相手国との間に相互の貿易均衡を維持することが、特に後進国に対する輸出増加のためには強要であるが、一応二国間均衡の問題を離れてみても、日本が輸入を増やす場合は後進地域からの輸入を増やす方が、輸出の拡大のためには有利であると考えられる。

 貿易マトリックスを使って、日本の地域別輸入が直接間接に日本の輸出にどうはね返ってくるかを計算してみると 第I-1-4表 のようになる。例えば、日本がアメリカからの輸入を増やした場合、これによってアメリカの輸出と生産が増える結果、アメリカの輸入も増加することになり、その一部は日本の対米輸出の増加として現れる。更にその他の国、例えば東南アジアでも対米輸出が増加し、やがてその輸入も増え、その一部は日本から輸入される。 第I-1-4表 は、各地城の貿易収支状態が現状のまま維持され、また各地城の地域別輸入構成が変わらないという前提をも受け、我が国が各地城からの輸入を1単位増やした場合、このような波及効果によって、我が国の輸出がどれだけ増えるかを試算したものである。これでみると、後進地域特に東南アジアなどは、日本からの輸入比率が高く、しかも入超傾向が強いため、輸入増加額を上回る輸出増加が期待できる。これに対して逆の傾向を持つアメリカやEECから輸入を増やした場合は、その我が国の輸出へのはね返りはかなり小さい。従って国際的波及効果を考えた場合も、むしろ後進地域からの輸入を増やす方が輸出拡大には有利に作用すると思われる。

第I-1-4表 わが国の輸入増加がわが国自身の輸出に与える波及効果

低開発国貿易拡大の途

輸入能力強化の必要

 低開発国では産業用機械に対する潜在需要が大きく、現に乏しい外貨の大部分を割いて機械輸入を急速に増やしていることは既に述べた通りである。従って、低開発団への輸出を伸ばすためには、低開発国の購買力を強化する必要がある。しかも、低開発国には二国間の収支均衡を維持しようという傾向が強いことを考えると、日本の輸出を伸ばすためには、日本自身の手で、低開発国の外貨所得をたかめることが、最も効果的だと考えられる。

 一般に低開発国の外貨購買力の源泉としては、 ① 輸出所得、 ② 先進国からの民間資本と政府資金の流入、及び ③ 外貨準備の三つがある。 第I-1-5表 は30~31年から35~36年までの間に、この3種の資金源が、低開発国の輸入増加にどの程度貢献したかを推計したものである。これでみると、中近東以外の低開発国の輸入額は、この5年間に41億ドル増加したが、輸出増加で賄われたのはその46%に過ぎず、37%が資本流入や援助の増加に願っており、それでも足りない分は外貨準備の食いつぶしで切り抜けたことを示している。特に注目されるのは、輸出増加の3分の1が、工業製品で占められたことである。なお、石油産山国の多い中近東では、石油輸出が大幅に増えたため、輸入増加はすべて輸出の増加で賄っている。

第I-1-5表 低開発国輸入増加の資金源

 将来の働きはどうであろうか。まず、外貨準備は既に底をついているので、今後外貨の食いつぶしによる輸入増加は期待できないと思われる。資本流入や援助は今後も増加すると期待されるが、既に先進国の援助額は年90億ドルに達し先進国々民所得の1%に近づいており、従来最大の出資国であったアメリカが国際収支の赤字に悩まされていることからみて、飛躍的増加は困難であろう。また、投資・借款による援助には、元利金の支払いが大きな負担となりつつあること、援助資金のすべてが必ずしも有効に利用されていないといわれていることなど、問題な点も少なくない。たとえば、35年における低開発国の利子・利潤の純支払額は約30億ドルと推定され、新規援助額の3分の1にのぼっている。

 次に輸出増加の可能性であるが、石油は急テンポの増加を続けると思われるが、石油産出国は低開発国のどく一部に限られているので、低開発国全般にとっての利益は少ない。食飲料と原材料については、需要の所得弾力性が低いこと、代替商品の進出、先進国の国内農業保護政策などのため、過去10年来、その輸出額は停滞を続けている。価格安定策の充実、品質の向上などなお改善の余地があるとはいえ、今後この状態が著しく変化するとは考えられない。

 これに対して工業製品の輸出は、多くの障害を克服しながら、数年来顕著な伸びを示し、今後も大幅に増大する可能性を持っている。

低開発国の工業品輸出の拡大

 低開発国の工業製品輸出額は、30年から36年までに32%増加した。銅、亜鉛などの金属を除くと、伸びは更に大きく、45%にのぼり、同じ期間の先進国の増加率60%に比べてもあまり劣らない。中でも労働集約商品の先進国向け輸出は著しく、近年では日本の優位を脅かすものも現れていることは前述の通りである( 第I-1-2表 参照)。主要な商品は、繊維品、衣類、合板、雑貨などであるが、インド、香港などからはミシン、電池、扇風機など機械類の輸出もかなり増えている。

 ここで見落とせないのは、先進国の多くが、低開発向からの工業品輸入に制限を課しており、そのために低開発国製品の進出が抑えられていることである。 第I-1-4図 は若干の商品について、先進国市場における低開発国製品のシェアを示しているが、輸入制限の比較的少ないアメリカと、英連邦諸国との間に特恵制度を持っているイギリスでのシェアに比べて、ヨーロッパ大陸でのシェア‐は極端に低く、輸入制限や高関税の影響が明瞭に現れている。

第I-1-4図 低開発国の後進国からの軽工業品輸入(1)

 高度に発達した工業国では、この種の労働集約的産業の多くは既に衰退の過程に入っている。輸入制限の撤廃、関税の引き下げによって労働力のより豊富な国の製品を輸入し、資源配分の合理化を進める方が、経済全体としての能率をたかめ、生活水準をたかめることになる。更に、低開発国製品の輸入増大は、低開発国の輸入力を引き上げ、結局は工業国の機械輸出の増加をもたらすことも考えれば、これらの人為的貿易障壁はできるだけはやく撤廃すべきものであろう。

我が国の立場

 ひるがえって我が国の低開発国との貿易をみると、従来はもつほら工業製品を輸出し、原燃料を輸入すると。いうかたちをとってきたが、日本経済の成長率が高かったために、低開発国からの原燃料輸入も急テンポで伸び、低開発国の外貨獲得に貢献してきた。例えば、30年から36年にかけて、日本の低開発国からの原材料輸入は3億ドル増加したが、これはこの期間における全後進国の原材料輸出増加の75%に相当する。

 しかし、将来においては、最近数年間ほどの高成長を続けるとは期待できない。従って、低開発国への輸出を拡大するためには、一次産品輸入を低開発国へ切り替えるための開発輸入を促進すると共に、資本力に応じて借款供与を積極化する必要があろう。

 我が国の場合、欧米工業国とは異なって、現在の段階では低開発国の軽工業品が大量に輸入されるとは考えられないが、経済構造の高度化、賃金格差の縮小につれて、単純な労働集約商品が次第に輸入されるようになるであろう。既に造花などごく一部の商品では輸出の減少、輸入の増大という現象が現れている。長期的にみれば今後、輸出に占める。単純な労働集約商品の割合はますます低下する一方、この種商品の輸入は漸次増加する傾向を示すものと考えられる。

輸入構造の先進国化

日本の輸入依存度の特徴

 西欧諸国における自由化率の推移と、機械、消費財の輸入依存度の変化をみると、 第I-1-5図 の通りで、自由化が進むにつれて製品の輸入依存度も上昇していることが分かる。日本でも貿易の自由化によって、製品の輸入依存度が上昇することが予想される。

第I-1-5図 ヨーロッパ諸国の自由化と製品輸入依存度の上昇

 ところで、日本の輸入依存度を商品グループ別に分けてみると、他の国とは極めて異なった特徴を持っていることが分かる。 第I-1-6図 にみるように、国民総生産の輸入原材料に対する依存度、個人消費支出の輸入消費財に対する依存度、国内固定資本形成の輸入機械(乗用車を除く)に対する依存度を昭和36年についてみると、日本は国際的にみて、原材料の輸入依存度が非常に聞く、消費財、機械の輸入依存度は逆に極めて低い。また金属製品、化学製品など中間的生産物の輸入依存度も非情に低い。

第I-1-6図 商品グループ別輸入依存度の国際比較

 このような日本の輸入構造の特徴は、地理的条件や、その他日本の特殊条件によるところも大きいが、やはり一定の経済発願段階に対応したものであって、今後はより先進国的な形に変わっていくものと考えられる。以下それを、国際的比較を行いながら検討してみよう。

低開発国における輸入依存度とその変化の方向

 まず低開発諸国の輸入依存度をみると、 ① 機械の輸入依存度は非常に高い。多くの国では設備投資額の20~30%が輸入機械によって占められている、 ② 消費財の輸入依存度は工業開発の遅れている国でかなり補いが、工業化が進んだ国では低くなっている、 ③ 原材料、中間財の輸入依存度は非常に低い、ことに気が付く。更に、こうした低開発国の輸入構造が、工業化の進展と共にどう変わっていくかを示したのが 第I-1-7図 である。これは昭和27、28年から35、36年にかけて、商品グループ別の輸入依存度がどのように変化したかを、各国の工業化の程度と関連させてみたものである。これでみると、まず機械の輸入依存度は、工業化の各段階を通じていずれの国も非常に高く、一定の変化の方向を見いだすことはできない。これは工業化の進展と共に、ある程度機械の自給能力が増す反面、更に一層の工業化の推進のためには、高度の輸入機械を必要とするという逆の要因も作用するためであるう。中間財、原料の輸入依存度は低く、特に原料は同じ図に図示することができないほどであるが、いずれもほとんど例外なく、輸入依存度は上昇の方向を示している。また消費財は、工業開発の非常に遅れた国や、ある程度開発が進んで所得も上昇した国では多少なりとも依存度が上昇する可能性があるが、開発途上にある国ではこれまた例外なく輸入依存度は低下の方向を示している。

第I-1-7図 低開発国の工業化と輸入依存度

工業化過程における輸入依存度の変化

 これらの国が更に工業化を推進すると、輸入依存度はどのような変化を示すであろうか。戦後については適切な事例がないので、かなり条件は異なるが、戦前の日本及びドイツについて考えてみよう。

 第I-1-8図 は明治初期からの日本の輸入依存度の変化を示したものである。特に古い時期については統計の不備もあり、厳密な断定はできないが、およそ次のような結論を下すことができる。原料の輸入依存度は工業化の段階から重化学工業化の初期の段階までを通じて上昇を続ける。中間財の輸入依存度は最初はむしろ原料以上に急速に上昇するが、重化学工業の興隆と共に低下に転じる。消費財は最初輸入依存度が上昇するが、軽工業の一応の発達と共に上昇はとまり、その後は低下する。最後に機械は、日本でも一時はかなり輸入依存度が高かったが、機械工業の発達がみられるようになると、輸入依存度は徐々に低下する。

第I-1-8図 日本における商品グループ別輸入依存度の推移

 更に戦前のドイツについてみると( 第I-1-9図 )、重化学工業化が一層進めば、最初は原料の依存度がなお上昇を続けるが、一定時期からは逆に低下に転じること、製品、半製品(原料及び食料以外のもの)の輸入依存度は低下を続けること、が分かる。

第I-1-9図 ドイツにおける商品グループ別輸入依存度の推移

 戦前の日本やドイツについては、戦争、恐慌、経済ブロック化などの影響が大きく、また産業構造や技術の内容も今日とは異なるので単純な結論は下せないが、低開発国が工業化を進め、更に重化学工業化へ接近するにつれて、ほぼこれに似た輸入構造の変化を示すであろうことは推測してもよい。先に指摘した戦後の低開発国の輸入構造変化の方向は、この工業化過程の初期における特徴を示したものと考えることができるのである。

 重化学工業化が緒について一定の段階に途すると、原料の輸入依存度は従来の上昇から一転して低下に転じることは、1913年(大正2年)前後のドイツについてみることができるが、同様な現象は1910年(明治43年)前後のイギリスについても指摘される。日本についてこのような変化がいつ起こったかは、戦時経済中なのではっきり示すことができないが、さきの 第I-1-8図 にもみる通り、戦争中にその転換点があったことは確かである。またこのような重化学工業化の初期の段階では、ドイツや日本など後発資本主義国としては、産業保護の意味からも、消費財や資本財の輸入は抑制される可能性がある。従って、経済ブロック化→戦争という特殊条件を除いてみても、なおこの時期に日本やドイツの製品輸入依存度が低かったのにはそれなりの必然性があったと考えられるのである。

 ところで第2次大戦後、西ドイツは、 第I-1-9図 にみるように、このような原料輸入依存度は高く、製品の輸入依存度は低いという段階から急速にぬけ出していった。このような輸入構造の変化は後にみるように、フランス、イギリス、イタリアなどでも非通している。ところが、日本はまだこのような原料輸入依存度高─製品輸入依存度低という段階から充分脱し切っていない。最初日本の輸入依存度を国際的に比較した 第I-1-6図 において、日本の輸入構造が極めて特異な形を示したのは、このような経済の発展段階によるところが大きいものと考えられる。

日本輸入構造の先進国化

 では今後、更に産業構造の近代化が進む中で、日本の輸入機造ほどのような変化を示すであろうか。アメリカは最も進んだ資本主義国であるが、輸入依存度は極めて低い。しかしこれは国内生産があまりに膨大なので、輸入額は非常に大きいのに貿易依存度が小さく見えるためである。またスイス、スウェーデン、オランダといった国は輸入依存度が非常に高いが、これは所得水準が高い上、産業構造が偏っているためである。従って、産業様地が広く分化し、しかも貿易への依存度が今後もかなり高いであろうと考えられる日本としては、アメリカのような型、あるいはスイス、スウェーデンのような型よりは、むしろ条件の似通った、西ドイツ、フランス、イタリアなどの型に接近するものと推測されるのである。

 そこで、これらの国の戦後の輸入構造の変化を検討し、日本がどの程度これらの国に接近する可能性があるかを考えてみよう。 第I-1-6表 は昭和27、28年から35、36年にかけて西ドイツ、フランス、イギリス、イタリア及び日本の輸入依存度の変化を商品グループ別にみたものである。

第I-1-6表 先進工業諸国における商品グループ別輸入依存度の方向

第I-1-10図 先進工業国における消費財輸入依存度と一人当りの所得の関係

 まずヨーロッパの4ヶ国についてみると、国によって多少の相違はあるが、次のような一般的傾向を指摘することができる。 ① 原料の輸入依存度は一貫して低下傾向にある。 ② 輸入エネルギーへの依存度は安定的である。 ③ 機械の輸入依存度は顕著に上昇しており、中間財についてもかなり上昇傾向が認められる。 ④ 消費財の輸入依存度も上昇傾向にある。

 これらの結果、上昇要因と低下要因とが相殺されて各国の輸入依存度は割合安定しているのであるが、西ドイツ、イタリアではやや上昇傾向を、イギリスでは低下傾向を示している。食料については、国内農業生産や保護政策との関連もあり複雑なので、ここでは触れないが、総じてヨーロッパの先進工業因は、既に原料輸入依存高─製品輸入依存度低という段階を抜け出して、原料輸入依存度の低下、製品輸入依存度の上昇という一段と高い発展段階に移行しつつあるようにみえる。

 日本についての変化をこれらの国と比較してみると、傾向としては似通ったところも多いが、大きな相違点として、原材料の輸入依存度の低下があまり顕著でないこと、エネルギーの依存度が他の諸国と違ってかなり上昇していること、機械や消費財また中間材の依存度は上昇してはいるが、その水準は他の国に比べて非常に低いことを指摘することができる。

 原材料の輸入依存度の低下があまり顕著でないことは、イタリアも同様であるが、これは日本、イタリアがまだ原材料依存度を顕著に低下させうるだけの段階に達していなかったことを示している。一般に原料依存度の低下が生じるのは、1つには第三次産業の相対的比重が増大するため、また1つには製造業の中でも繊維工業や金属工業など原料多消費産業から機械や化学工業など原料消費の少ない産業に重点が移行するためであり、更に合理化による原料消費の低下や、原料転換による効果などを考えることができるが、先にみたように、重化学工業化の一定の段階で原料輸入依存度が上昇から下降に転じるのは、特にこの第二の理由によるところが大きいと考えられる。

 各国の機械、化学、金属一次、繊維各工業の製造工業全体に対する相対的な伸び率を昭和28年以降についてみると、 第I-1-11図 の通りで、西ドイツに典型的にみられるように、機械、化学工業の相対的比重の増大、繊維の比重の低下、金属工業の横ばいという現象が大体各国とも共通である。ところがイタリアでは化学工業の伸びは大きいが、機械工業の伸びは鈍く、逆に金属工業の比重増大がなお続いている。このためにイタリアの原材料依存度の低下は他の諸国ほど顕著でなかったのであり、イタリアはそれだけ発展上の課題を残しているものといえよう。また日本は製造工業内部の構成は先進国と同様な発展を示しているようにみえる。ところが、他の国は国民所得中に占める製造工業の比率が、この期間を通じて、西ドイツ38→39%、イギリス35→37%、フランス38→37%、イタリア31→32%と安定しているのに、日本だけは28年の24%から、35年の30%にかなりの上昇をみせている。日本の原料輸入依存度の低下が顕著でなかったのは、こうした工業化推進の課題を併せ持っていたことによるものであろう。しかしそれだけに、今後製造工業を含む第二次産業の比重が安定すれば、原料の輸入依存度を現在よりもかなり低下させうる可能性も存在するのである。

第I-1-11図 先進工業諸国における各種製造業の相対的伸び率

 逆に輸入制限が撤廃され、所得も上昇するなかで、機械や消費財の輸入依存度は上昇するであろう。そして日本の輸入構造も、これまでの原料依存度高─製品依存度低の段階から、原料依存度低下─製品依存度上昇というヨーロッパの先進工業諸国に近い形に変わっていくものと思われる。


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