昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

金融

金融政策の展開と金融正常化

金融政策の展開

 36年9月の引き締め以来、金融引締政策の効果はようやく経済各部門に浸透し、国際収支の均衡回復、投資意欲の沈静化等、景気調整が所期の目的を達したので、10月、11月の2回にわたる公定歩合の引き下げをもって、これまでの引締政策は解除された。以後、金融正常化の推進が中心の課題となったのである。

第8-5表 引締め緩和過程の推移

 引き締め解除当時、既に現金需給は好転していたとはいえ、市中銀行の資金繰りは後始末的な資金需要に追われて繁忙をつづけ、企業金融は依然ひっ迫を脱していなかった。従って、ここにおいて金融引締政策を解除したことは、金融市場の緩和を更に促進し、企業の金繰り難をゆるめる上で大きな役割を果たすことになったのである。

 同時にこのように落ち着いてきた経済情勢を背景にオーバーローンをこれ以上激化させないため新金融調節方式が導入され、さらには金利体系の不均衡是正等をねらいとする公定歩合の再引き下げなど、金融正常化を推進する措置が相次いでとられた。

 新金融調節方式により行われた買いオペレーションは当面の金融を緩和させる方向に働いた。しかし金融正常化政策の本来志向するところは、本格的自由化を控えて、金融調節機能を強化するための金融態勢を整備することにある。新金融調節方式の導入など今回の正常化措置の意義もこの観点から評価されなければならない。

新金融調節方式の課題

 新金融調節方式はこれまでの日銀貸し出し一本の通貨供給に対する反省から生まれた。今次景気調整下、日銀貸し出しは日銀券の発行高をも超える巨額に達し、都市銀行はその貸し出しの2割近くを日銀借り入れでまかなう状態となった。このような巨額な日銀貸し出しに、強い回収圧力をかければ金融市場は大窮迫を告げようし、回収圧力をかけぬこととすれば、金融の自動調節機能はまひしよう。かかるジレンマを脱するために、新金融調節方式が導入され、債券売買の積極化により金融調節手段の多様化を図ると共に、市中銀行の日銀借り入れには一定の限度額を設け、それ以上の借り入れは禁止的な取り扱いを受けることになった。

 戦後の日本経済は、復興期以来一貫して強い需要超過傾向を続けてきたので、金融はもっぱらブレーキの役割を果たせば足りたともいえよう。従って成長に必要な通貨を、回収圧力のかかる日銀貸し出しで供給するのも一法であったかもしれない。しかしこれまでのような激しい需要超過の傾向が改まってくれば、このような通貨供給の方式にも再検討の機会が与えられることとなる。

 新金融調節方式では、成長に必要な通貨は、オペレーションの買い入れ超過で供給される結果となるから、成長通貨の供給はより円滑となろうし、更にはこの面から累積された金融のゆがみが漸次是正されることによって、金利低下や資本市場の育成の素地がつもかわれていくものと思われる。

 新金融調節方式が適切に運用されるならば、成長に必要な通貨供給や財政の季節的波動がオペレーションによって対処されるので、市中銀行の日銀借り入れはその貸し出しが行き過ぎた結果としてのみ生ずることになろう。従来の日銀貸し出し一本の通貨供給ではこの点があいまいとならざるを得ず、日銀貸し出しが増大しても銀行の融資活動が自主的に抑制されるとは限らなかった。金融の景気調整機能が必ずしも予防的に働き得なかった理由はここにあった。

 更に、この新金融調節方式が充分なる機能を発揮し、金融正常化の雌迫力─となるためには、金融環境全体の整備が急がれねはならない。

 例えば日銀貸し出し残高がなおぼう大でコール・レートの割高が是正されていない現状では、債券流通市場が発達しない。現在の新金融調節方式によるオペを将来機動的なオープン・マーケットオペレーションにまで発達させるためにはこの点の解決が必要であろう。また市中銀行の側でも自行の資金ポジションの改善に努める等、自己責任原則に基づいた経営態度が採られなければ、新金融調節方式は充分なる効果をおさめ得ないのはいうまでもない。

 自由化によって、直接規制が廃された後の国際収支の均衡を図る等、金融政策に課せられた課題を充分来たすためには、新金融調節方式の適切な連用を図ることはもちろん、金融正常化を一層促進する必要がある。


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