昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

中小企業

依然深刻な労働力不足

 中小企業の労働力不足は、37年度においても依然深刻であった。37年11月現在で当庁が実施した「中小企業経営動向調査」(対象企業数1,277社)によっても当面の経営上の最大の問題として、金融難、受注減、採算悪化よりも労働力の不足が最も多く挙げられていたが、中小企業にとっては若年労働者と熟練工の確保が初年度の調整過程において大きな問題であった。これが前回の景気後退過程と比べた場合1つの特色でもあった。

 中小企業の労働事情悪化の様相を新規学卒者の充足率、初任給の引き上げ率などによってみると 第3-7表-1 に示すように、中卒、高卒の充足率は規模が小さいほど低位である。37年3月において29人以下の企業では中卒18%、高卒25%と極めて低い状態を示している。また初任給は平均で男子、女子とも前年に引き続いて37年は20%をこえる引き上げが行われたが、規模別にみると規模の小さいほど高い引き上げが行われた。例えば15~99人規模では37年の初任給は中卒男子24%、中卒女子28%とかつてない上昇率を示した。この結果、初任給の規模別格差はかなり縮小している。

第3-7表-1 新規学卒者の規模別充足率

第3-7表-2 最近の規模別初任給と上昇率(男子)

 このような労働市場の変化を背景とする賃金引き上げは初任給ばかりでなく、中小企業の従業員全体の賃金引き上げにまで及んでいる。このため「 労働市場の構造変化とその影響 」にみるように、規模間賃金格差はかなり縮小している。

 いま、このような賃金の上昇と売上高の関係をみるため「法人企業統計季報」(大蔵省調べ)により200~1,000万円の中小企業(製造業)の経営指標をみると、37年の従業員1人あたりの賃金上昇率は前年より13%の上昇を示し、また役員給与、福利費を含めた人件費の対前年増加率は8%増と、売上高増加率の5%増、売上原価増加率の6%増を上回っている。この結果86年から37年にかけて売上高中の人件費比率は13.0%から13.5%へ、また売上高原価中の人件費比率は16.6%から17.1%へと高まった。更に37年々間を通じた賃金上昇率、売上高人件費比率、売上高売上原価比率などをみると 第3-6図 に示すような推移をたどった。賃金上昇率(対前年同期比)は景気調整の影響を受けて37年に入って低下傾向を示し始めたものの、売上高人件費比率及び売上原価人件費比率が、37年7~9月以降上昇し始めたことが注目される。

第3-6図 中小企業の賃金上昇と人件費率の推移


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