昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

中小企業

比較的軽微な景気調整の影響

高水準を続けた生産活動

 37年度の中小企業動向の特色は、生産が比較的高水準を維持した結果、不況の影響が前回の景気調整過程に比べて、かなり軽微であったということである。引き締め強化1年後の製造業の生産は、前回では32年5月から33年5月にかけて9.5%の低下をみせたのに対して、今回は36年9月から、37年9月にかけて逆に4.5%増加している。いま、中小企業の多いいくつかの製品をえらび、同期間における前回と今回の場合の生産増減率をみると、 第3-4表 に示すように、不調の金属、機械では工作機械を除くと、銑鉄鋳物、鍛工品などでも生産低下率は前回の場合よりかなり小幅であった。同様に繊維でも絹、人絹織物を除いて生産低下率は小さく、また雑貨などでは今回の場合は景気調整下において逆に生産増加を示しているものが多い。このように総じて中小企業関連製品の生産は、前回に比べて生産低下率は、はるかに小幅であったが、これは1つには底堅い国内の消費需要と輸出の増加があったことと、2つには設備投資が沈滞化したとはいえ前回に比べて企業は受注残をかかえ、その消化により急速な生産低下をある程度くいとめることができたためであった。

第3-4表 主な中小企業関連製品の引締強化1年後の生産増加率

資金繰り難の軽減

 金融引き締めに伴い、金融機関の中小企業向け貸し出しの削減、選別の強化は前回の景気調整下と同様にみられたが、今回と前回との引き締め後の中小企業向け貸し出しの推移を比較してみると、その度合いはかなり軽微であった。前回の場合、中小企業向け貸し出しは32年1~3月から既に抑制が行われ、それまで全金融機関の貸し出し(増減額)のうち約50%を占めていた中小企業向けは、いっきょに20%台に落ち込み、更に引き締め強化後の33年1~3月には3%台にまで低下している。これに対して今回の場合は、37年1~3月においてもその割合は24%台に低下したに過ぎなかった。また中小企業向け貸し出しの対前年同期増加率も前回の場合、最悪期(33年1~3月)には実に90%減にまで低下したが、今回の場合は37年1~3月においても44%の減少に留まった。このように中小企業向け貸し出しが前回ほど悪化を示さなかった要因としては、相互銀行、信用金庫、信用組合などの中小金融機関の資力が充実し、これら金融機関の貸し出し増加が中小企業金融をかなり緩和するうえで役立ったことと、36年9月末から37年1月末にかけて3次にわたって政府の中小企業金融対策が実施されたことが挙げられる。前回の32年には政府は追加財政投融資220億円、市中保有債の買い入れ197億円、合計417億円の措置をとったが、今回は36年10月から37年2月にかけてその2倍以上の1,060億円(財政投融資追加560億円、市中保有債買い入れ500億円)の措置を実施し、更に37年度には6~9月、10~12月、38年2月に合計1,300億円(財政投融資追加900億円、市中保有債買い入れ400億円)の中小企業金融対策を行った。

 このように金融面からの資金圧迫の軽減の他に挙げられるのは、特に下請け中小企業に対する親企業からの決済面でのしわ寄せが前回に比べてやや軽減されていることである。前回と今回の場合を前記「中小下請け工場調査」によって決済及び販売条件を比較してみると、下請け代金支払い遅延度は前回の最高1.22(月)に対して今回も36年9月には1.35(月)に高まったものの37年度間を通じて0.97ないし1、17に留まり、また、遅延度2(月)以上という工場数割合も前回の最高39%に対して今回は36%(37年9月)に留まっている。更に受注単価に対する利益状況も前回は「コストわれ」という割合が8%に達したが今回は3%(37年10~12月)に留まり、また製品の不当値引き、不当受領拒否なども前回に比べてかなり減少している。

 最も反面では手形入金率は前回の引き締め強化後の42%に対して今回は48%(37年6月)と高まり、「全額現金」という工場数割合も前回の35%に対して24%(37年3月)と低下し、また「90日以内もの」の手形の割合も前回の70%に対して33%(37年4~6月)と低下を示すなど、決済条件の悪化がみられる。しかしながら親企業と下請け中小企業の販売条件を前回と今回を比較してみると総じてしわ寄せは軽減されているようである。

第3-4図 中小企業向け貸出(増減)の推移

第3-5図 中小企業の金融機関からの借入の難易と資金ぐり推移

 このことは「下請け代金支払い遅延等防止法」の改正強化によるところが大きいが、反面では系列化の進展により親企業と下請け企業との結合関係が強まり、親企業も下請け対策上、かつてのような極端なしわ寄せを行い難くなったことを示している。

不況抵抗力の増大

 前々回、前回に比べると、中小企業に及ぼした景気調整の影響は次第に軽微になっているが、同時に中小企業の経営も長い好況期間で資本の蓄積が進み、不況の抵抗力がはるかに増加している。景気調整前の31年度と36年度の中小企業の生産性及び機械装備率などを比較すると、 第3-5表 にみるように、製造業の1人あたり付加価値労働生産性はその間に76%増加し、資本集約度、機械装備率もそれぞれ43%と48%に増加し、また付加価値率は16%から23%へと向上を示している。代表的な業種である機械、繊維の中小企業をみても、同様に両業種とも労働生産性、資本集約度、機械装備率はそれぞれ著しく増大している。

第3-5表 中小企業の生産性および労働装備率の向上

 他方、引き締め強化時と景気調整1年後の経営指標の変化を前回と今回の場合についてみると、 第3-6表 に示すように売上高営業利益率、自己資本純利益率などの収益指標は、今回も前回と同様に引き締め後いずれも低下を示しているが、低下後の収益率は依然としてかなり高い水準を維持している。また棚卸資産回転率、当座比率、売上高に対する現金・預金比率、借入金に対する現金・預金比率なども上昇を示すなど、企業の流動性は高まっている。もちろん、今回の調整過程でも前回と同じように借入金の増大に伴う固定比率の上昇、総資本回転率の低下や、前回とは逆に負債比率が上昇するなど経営の弾力性をそこなう面も働きだしている。また今回の景気調整の影響が中小企業にとって比較的軽微であったことなどを無視することはできないが、これらの経営諸指標はこれまでの資本蓄積や近代化、合理化投資の効果が景気調整期において発揮され、それだけ中小企業の不況抵抗力が高まったことを示しているといえよう。

第3-6表 景気調整下の中小企業経営指標の変化


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