昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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昭和37年度の日本経済

鉱工業生産・企業

昭和37年度の生産活動

概況

 昭和37年度の生産活動は、過去の上昇の惰性を示しながらも軽微な調整の後次第に緩やかな回復へ向かった。36年9月の引き締め後も、生産は根強い増勢を続けたが、37年に入ると弱含み横ばいに移り、後半は底入れから回復へと転じ、年度平均の鉱工業生産指数は、前年度比4.4%の増加を示した。四半期ごとの推移でみると、 第2-1図 のように、第1四半期をピークとして生産は減少に転じ、第3四半期を底として以後上昇に向かっている。一方、37年度の1生産者出荷指数は、前年度に比べ6.4%増を示した。期別にみると生産より1期早く底入れを終わり、第3四半期から上昇に転じている。これに対し、生産者製品在庫は、期を追って累増を続けたが、月別にみると、出荷、生産より遅れて38年1月をピークにようやく下降傾向にかわり、在庫率も同じく1月をピークとして初めて減少傾向に向かった。しかし、37年度末の生産者製品在庫指数は、169.0で、前年度末を9.9%上回り、製品在庫の水準はまだ高いといえよう。

第2-1図 鉱工業生産・出荷・製品在庫指数の推移 35年=100

 上期調整、下期底入れから回復の足どりを示した37年度の鉱工業生産には、次のような特徴がみられた。

 第1は、次項で述べるように財別の動きがまちまちであり、調整ならびに回復の主役が期ごとに異なったことである。

 第2は、鉱工業総合の調整期における生産の落ち込みが小幅に終わったことである。今回の生産水準は37年10~12月側の底でも、引き締め時に比べて4%高かったのに対し、前回は引き締めと同時に生産が低下し始め、7.8%減産して底入れしているのと対照的である。特に財別にみると、景気調整でまず影響をこうむるはずの生産財が総合ではほぼ横ばいに推移し、資本財も極めて軽微な落ち込みに留まったことが鉱工業総合の生産調整を緩やかなものとし、前回と著しく異なる動きをもたらすことになったといえよう。

波状調整の推移

 37年度の鉱工業総合の生産は、緩やかな調整から緩慢な回復へと推移したようにみえるが、個々の業種をみると、生産の変動は激しく、業種間の調整の波及は著しく異なっており、そこには次のような特徴が指摘される。

 第1は、景気調整の影響を受けながらも、高い成長性を示している業種があることで、合成繊維、石油化学、石油、乗用車などの技術革新業種と、根強い消費需要の拡大に支えられている耐久消費財などがこれである。

 第2は、在庫調整の影響が極めて明りょうに現れたグループで、流通在庫の圧縮から最も早く調整に見舞われた繊維一次製品などの消費関連生産財と、設備投資の根強い余勢に支えられながらも、37年度に入ると本格的な在庫調整を受けるようになった鉄鋼などの投資関連生産財がその典型である。

 第3は、資本財業種で、引き締め以後もなおしばらくは生産が増加したが、手持ち受注残高の食いつぶしから上昇の惰性は次第に弱まり、37年度央には若干の減少を示した。しかし総じて高水準のうちに推移し、鉱工業生産総合の下降を支える役割を果たしたといえる。

 以上の明暗2機の働きを期別にみると波状調整の形をとっている。この関係を引き締め時点を基準とした各業種の生産指数でみると、 第2-2図 のようになる。例えば、生産財では、繊維一次製品や鉄鋼の落ち込みを石油製品や石油化学が支え、全体としての動きを緩やかなものとした。同様なことは、最終需要財グループについてもいえる。またこれらの業種別の働きを時期別の推移でみると、引き締め直後の生産の下降を下支えしたのは、根強い設備投資に支えられた鉄鋼、機械等の投資関連業種で、この間に消費関連業種では早期調整を終えている。そして設備投資の沈滞があらわになるごろには、かわって消費財と石油製品、石油化学、乗用車など技術革新業種の堅調が生産の下降を阻止する要因となり、その間に生産財、続いて投資財の在庫調整が進み、37年度末にはこれら投資関連業種の生産も上昇傾向を示し、ここに初めて鉱工業生産全体の動きも回復へ向かうこととなったのである。

第2-2図 引締め時点を基準とする業種別生産推移

生産を支えた需要要因

 37年度の鉱工業生産は、既に述べたように前年度比4.4%の増加であったが、産業連関表(通産省調、35年暫定表)から最終需要の変化が生産に与えた影響を試算すると、 第2-1表 の通りで、需要要因別には次のような特徴がうかがわれる。

第2-1表 37年度最終需要増減の生産への影響

 第1に、景気調整の影響は主として在庫投資の減少と民間設備投資の微減で9.0%の生産減となって現れたが、一方では輸出5.4%、家計消費4.2%、政府消費0.6%、政府投資3.2%の増加があって、両者が相殺し合い、鉱工業総合ではなお4.4%の増加となり、引き締め後の生産調整を極めて緩やかなものとした。

 第2に、過去の投資強成長の余勢が続いて民間設備投資がおち難かったため、民間設備投資の全体に及ぼす影響もかなり小幅にとどめ得たことである。ちなみに最終需要全体で誘発した総生産額に対し、民間設備投資の誘発した生産額が占める比率をみると、33年度の24.8%から、36年度には32.7%へ高まり、生産に及ぼす影響は大きくなっていたが、37年度も31.5%とあまり減らなかったのである。

 第3に、引き締めと共に在庫調整は進んだが、他方輸出環境の好転に加え供給圧力の増大から輸出が著しい増え方をしたことである。たとえは最終需要の変化が業種別の生産に及ぼした影響を前掲 第2-1表 にみると、繊維は在庫投資で8.5%へって輸出で7.7%増え、鉄鋼も在庫投資で14.7%減少した反面輸出では4.7%増加し、在庫調整の影響を輸出の増加で相殺しようとする傾向がみられたことである。

 第4に、政府投資が民間設備投資の減少をうめ合わせる形で増加し、在庫投資と並んで生産誘発効果の大きい民間設備投資の減少の投資財業種に及ぼす影響を軽微にとどめる役割を果たしたことである。例えば前掲 第2-1表 でみると、一般機械3.8%の上昇のうち1.7%、電気機械6.6%のうち2.0%、窯業7.8%のうち6.3%は政府投資によって誘発されたものであった。

 第5に、景気調整による需要減は概して以上述べた理由で吸収されたものの業種別には鉄鋼、非鉄など特定の業種で著しい需要減退がみられたことである。一般に在庫投資需要の生産誘発効果は特にこれら業種に大きいが、更に後出「在庫投資」の項でみるように、資本財業種が景気調整過程で原材料と仕掛け品の在庫削減を図りながら生産を維持したことから、在庫投資削減の影響は資本財業種に現れず、もっぱら鉄鋼、非鉄にしわ寄せする結果となったのである。

 以上のように、今回の生産調整を需要要因からみると、最終需要が引き締め後も根強い動きをみせたこと、また、在庫調整に伴う需要減を相殺するように輸出や政府投資などの需要要因が時宜にかなった貢献をしたことが、調整の進行を波状的と同時に極めて緩やかなものにしたといえる。


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