昭和38年

年次経済報告

先進国への道

経済企画庁


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総説─先進国への道─

景気調整から回復へ─昭和37年度の日本経済─

今後の見通し

世界景気の現状と見通し

 そこで次に日本の輸出動向に大きい影響を与える世界の景気の動きをみよう。

 1962年の夏までは、アメリカの景気上昇と、EECの好況が続いたために、世界景気は活況を呈していた。しかし、その後アメリカ経済が高原横ばい状態となって活気を失い、西欧でも投資ブームが一段落したため、世界の生産や貿易は年末から1963年の初めにかけて停滞した。

 さいわい春になると、アメリカの景気が乗用車販売の好調や在庫投資の復活で上昇に向かい、今後も設備投資や財政支出を中心に拡大を続けると考えられる。しかし、消費者信用が激増していることからみて、個人消費の今後の伸びには制約があろうし、国際収支の赤字も大幅なので緩やかな成長テンポを示すものとみられる。西欧では、イギリスの生産は上昇に向かったが、西欧大陸諸国は、輸出や設備投資の鈍化が予想される。コストインフレを抑える必要から景気刺激策にも限度があるので、経済成長率は62年よりやや低下するものとみられている。後進国は一次産品の価格が上昇して輸出の手取りが増えており、援助の増加と相まって、輸入を増やす余裕が生じてくると考えられる。

 従って、世界貿易は全体としては拡大が予想されるが、その伸びは比較的緩慢とみてよいであろう。

38年度経済の見通しと問題点

 国内景気は、引き締め解除後の初期の回復テンポはかなり速かったが、それは金詰まりで圧縮されていた原材料在庫や仕掛け品在庫の回復のための需要が増加したためで、在庫の充足が進むにつれて需要の増勢は緩やかになることが予想される。設備投資も、金詰まりのため中止されていた工事の再開などで水準は一時より高まっているが、いまのところ投資意欲のもえ上がりが全般的に広がるとはみられず、設備投資の増加が在庫投資の増大をよび起こし、累積的な需要の急増が始まる可能性は少ないといえよう。38年度の日本経済は、消費や財政支出の増加につれて緩やかに拡大することになると思われる。

 このように国内の需要要因からみても経済の急速な伸びは考えられないが、そればかりでなく、国際収支面の制約からもおだやかな上昇が望まれる。1月以後、経常収支の赤字が続き、特に貿易収支までが赤字の月が多くなっている点には十分注意が必要である。さいわい、アメリカの景気に好転の兆しがあり、輸出の増加が予想されること、最近の輸入増加には、原材料在庫回復のためのものが含まれており、その部分は在庫の充足と共におさまること、長期資本の流入によって経常収支の赤字をある程度カバーすることなどがあるので、当面国際収支に危険はないが、急速な経済の拡大を許すほどの余裕はない。輸出の増大につとめ、輸出増加に見合った着実な景気の回復が望まれるのである。

 従って、内外両面から経済拡大テンポが緩やかであることが期待されるのであるが、このような時期にこそ、今まで日本経済の仕残ししてきた課題に取りくまなければならない。日本経済は過去の高成長によって先進国へ近づき、世界経済との関係も一層密接になるなど、新しい環境におかれている。この環境の下で着実な発展を続けることができるよういまの時期において地固めを図っていくことが必要なのである。


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