昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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景気循環の特質と変ぼう

景気循環態形の変化

景気循環と建設活動

建設活動の地位

 昭和36年度の建設工事費は、第2部「建設」の項でみたように3兆1,600億円に達したが、これは同年度の国民総生産及び民間設備投資に対して、それぞれ18%、及び78%にあたり、建設活動が経済全体に占める地位の大きいことがわかる。しかも、経済における建設活動の比重は、 第I-6-1表 にみるように年々上昇しており、これを反映して産業別国民所得の伸び率の36年と26年の比較でみても、国民所得純額の3.1倍、製造業の3.7倍に対して建設業は5.7倍とずはぬけて大きくなっている。この他、建設活動の経済に占める地位の大きさを示す2、3の指標をあげれは、36年度の鋼材供給量1,825万トン中建設関係需要は建築487万トン、土木396万トンで両者合計して全体の49%に達しており、セメント出荷量では2,425万トン中、建築部門向け(生コンクリート製造用をふくむ。)は1,063万トン、土木部門向け760方トンでそれぞれ43.9%、81.3%にあたっている。また製材生産量2,817万立方メートルの75.3%に相当する2,120万立方メートルが建設部門の需要量となっている(いずれも建設省調べによる)。

第I-6-1表 建設工事費の比重

 投資の経済効果には、生産力効果と需要効果の二重の効果があるが、建設活動も投資の一種である以上、当然この2つの効果を持つ。ただ建設活動の場合、その生産力効果は、工場機械設備などのように直接生産能力を増大させるものではなく、経済成長の条件整備という意味で外部経済の利益を創出することにより、間接的に経済の生産性を高めるというものである。その上、建設投資はその性質上規模が巨大であり、完成までの懐妊期間の長いものが多いため、比較的短期の景気変動との関係をみる場合にはむしろ需要効果としての側面の方が重要である。昭和31年以降の設備投資の強成長の結果である生産能力の巨大な発展は、膨大な有効需要の支えを必要としたのであって、建設活動が有効需要の側面から、成長を支えた力は大きいといわなければならいが、また一面では、景気過熱の一因をなしたことも否定できない。次にこの点を検討するため、建設活動が有効需要として他産業の生産を誘発する効果がどの程度の大きさになるかを概観することとしよう。

建設活動の生産誘発効果

 通産省作成の「昭和30年逆行列表(内生21部門表)」によって、産業部門別に最終需要1単位が誘発する生産額を、誘発率の高い順に建設活動の順位をみれは、建築は鉄鋼、輸送用機器に次いで3位、土木はさらに繊維に次いで5位といずれも上位に位置している。前節でみたように、建設活動はそれ自体として経済に占める地位が大きく、最終需要として巨大であるばかりでなく、産業間の連関効果を通じて中間需要として他也部門の生産を誘発する割合も大きいことか知られるわけである。しかも、重要なことは建設活動の需要効果、すなわち生産誘発効果が、以前よりも上昇したとみられることであり、その結果、建設活動の景気変動に対する影響力が強まったものとみられることである。

 通産省作成の30年及び35年度行列表(同じく内生21部門表)によって、建設投資1,000億円(30年価格表示)か誘発する他産業部門の産出額を建築、土木(ただし、建設補修、機械修理をふくむ)についてそれそれ比較すれば、 第I-6-2表 の通りで両部門とも12%、14%の増加を示している。しかも繊維、化学、金属工業、機械等基幹産業部門に対する生産誘発効果の高くなっていることは注目すべき事実であろう。

第I-6-2表 建設工事1,000億円が誘発する他産業部門の生産額

 このような生産誘発率の上昇がみられるのは、おおむねつきのような理由による。

 第1に、一般的背景として経済の産業連関構造が高度化したことである。31年以降の技術革新投資、重化学工業化によって生産の迂回化が進み、技術的に産業構造が高度化しており。最終需要単位当たりの生産誘発率が上昇していることが、これである。

 第2に、建設活動の投入構造が高度化していることである。建設活動の投入構造は、経常投入と資本投入の両面において高度化している。

 まず経常収入の高度化についてみれは、第1に 第I-6-3表 にみるように建設活動を種類別にみて投入構造の高度な、従って生産誘発率の高い支出項目の比重が増大したことである。すなわち建築部門では、木造の比重が30年の74.4%から35年52.6%に下がり、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋造などの比重が25.6%から47.4%に増えている。土木部門では、道路、電信電話、その他建設等比較的連関効果の大きい支出項目の比重が増え、河川、農業土木等連関効果の低い支出のウェイトが減っている。これらの結果、建設部門では農林水産業、鉱業からの投入が減少し、鉄鋼、非鉄金属、窯業土石部門からの投入が増加しており、土木部門でも農林水産業、鉱業、繊維産業などからの投入が減少して化学、鉄鋼、輸送用機械、窯業土石などからの投入が増えている。第2に、同種の建設活動においても、建設機械化が進み、その結果、労務費率が減じて資材費の割合が増えていること、設計がデラックス化し工事の質が高くなっていること、及び最近では、プラスチック・タイル。アルミ・サッシュ、軽量鉄骨、各種パネル製品等新建材が増えているが、これらはいずれも工業製品であって木材などの天然材料に比べて連関効果の大い資材であることなどの理由で、投入構造が高度化していることなどである。(もっとも、上記の35年逆行列表は、基礎的なアクティビティーについて30年の技術的な投入構造を不変として作成されており、この2番目の要因─これは基礎的なアクティビティーの技術係数が変化していることを意味する─を考慮していないため、生産誘発率の上昇は実体より低目にあらわされているとみられる。)

第I-6-3表 建設部門産業連関比率および工事費構成比

 次に資本投入の高度化についてみれは、従来労働集約的産業の見本のようにいわれた建設業も最近では建設の機械化が進み、 第I-6-1図 にみるように設備投資が急増して、限界資本係数が上昇している。この限界資本係数の上昇を通じて建設活動の需要効果が一層高まっているわけである。

第I-6-1図 建設業設備投資と建設工事費の推移

 以上のように、建設活動の需要効果は、最近高まっているとみられるが、このことが逐年増大する事業費の動きと相まって有効需要の面から高度成長を支え景気の後退を緩和する働きを持ったが、一面では景気過熱の一因をなしたものとみられる。

建設活動と景気循環

 次に、戦後の我が国の建設活動を、景気循環との関連において概観しよう。

 建設活動と一ロにいっても、建築と土木、公共建設と民間建設とでは、それそれ循環の原因、パターン、効果等がいちちるしく多様である。しかし概括的には、建築、及び民間建設において循環が比較的明らかであるのに対し、土木及び公共建設においてははっきりした循環がみられないといえる。

建築活動における循環変動

 建築活動には過去何回かのブームがあり、ブームのあとには、後退がみられたので、かなり鮮やかな循環が検出できる。建築投資の循環は、 第I-6-2図 にみるように国民総生産の循環と極めてよく一致した動きを示しているのが特徴である。

第I-6-2図 全建築物着工床面積の推移

 戦後の建築活動は、全国66都市を焼き尽くした戦災に対する復興活動として、住宅建築に始まった。敗戦の混乱と異常な資材不足のため応急的なバラック建築であったとはいえ、23年度までに、200万戸の住宅が建設され、戦後の第1回目の建築ブームとなったが、24年度に入ってドッジ・ラインによるデフレのため急速な後退を示した。しかし、経済の自律的な循環変動としての景気循環は、26年以降に始まったのであるから、この建築活動における第1回目の循環は景気循環とは無関係な動きであったわけである。景気変動と建築活動における循環があい伴って検出されるようになるのは、26年に朝鮮動乱ブームにより蓄積された資本かオフィス建築に集中的に投下され、戦後2回目の建築ブームが形成されるようになってからのことである。第2回目の建築ブームが動乱ブームの終息と26年11月の建築抑制措置により後退した後も、学校(私学)建築や百貨店建築などにより建築活動はそれほど大幅な減退をみせなかったが、28年10月の金融引き締めとそれに引き続く、29、30両年度の緊縮財政の影響で、経済が下降局面をむかえると共に建築活動はかなりの収縮を示した。後にみるように居住用建築は、戦後の異常な住宅不足の圧力によって循環的な動きがほとんどみられないことが特徴であるが、しかし、29─30年の後退期には住宅金融公庫の融資額が緊縮財政の余波を受けて圧縮されたため軽度の落ち込みがみられたことが注目されよう。31年度に入って神武景気のもとで設備投資が急激するに至り、建築活動も投資景気の一環として工場建築を中心に上昇局面に入り第3回目のブームをむかえた。後にみるように建築活動における構造変化を反映して全建築に占める産業用建築ないいま鉱工業用建築の比重が高まるようになった結果、建築循環が一層はっきりと現れるようになったと共に、その変動幅が大きくなり32年5月の金融引き締めに際しては、急速な後退を示し、明らかなサイクルを形成した。しかし、個人所得が景気変動に非感応的であることや、それに基づいて不況期にもかかわらず個人消費が堅調であったことのため、この後退局面においては居住用建築や商業サービス業建築が高い水準を維持したことか注目される。建築活動は、その後33年4─6月期を底に景気回復と共に、反転して再び上昇を示すに至ったが、34~36年度における設備投資の強成長を反映してその上昇テンポは極めて著しい。第4回目の建築ブームの主役は前回と同様工場建築であるが、今回の景気調整の特徴である引締効果の浸透が遅れるということが建築活動においてもみられ、28年及び32年の後退期においては、引締政策の実施後直ちに減退を示した建築着工額も今回は第2部でみたように37年第1・四半期に入ってようやく微減し始めることとなった。

 建築活動は、以上にみたように全体としてみる場合、一般の景気の動きとよく一致した動きを示しているのである。建築活動の主体別及び用途別にみる場合には、循環のパターンは、必ずしも同1つではなく、景気変動を敏感に反映して、いわば循環促進的に作用している法人建築ないしは産業用建築( 第I-6-3図 の(1))と景気変動に非感応的でありかつすう勢的な動きの強い個人建築ないし居住用建築( 第I-6-3図 の(2))と、景気変動に対しては同様に非感応的な場合が多いが、すう勢的な動きが乏しく全体的には不規則的な動きが強い政府建築( 第I-6-3図 (3))とがある。

第I-6-3図 建築物着工床面積の推移

 この場合重要なこととして、景気変動に非感応的な個人建築ないし居住用建築の全建築物に対する構成比が 第I-6-4表 にみるように床面積で50%前後の水準にあって、全体の半ばを占め、大きく景気の循環変動を緩和する役割を果たしたことに十分注目しなけれはならない。

第I-6-4表 建築物用途別、主体別着工床面積

 しかし反面において最近の顕著な傾向として、景気変動に対して循環促進的な法人建築及び産業用建築、中でも鉱工業用建築の伸びが著しく、その結果、景気変動との関係が一層密接になっているとみられる。これらの建築が循環を強めるような動きを示すのは、これらが設備投資の一部ではありながら、設備投資の全体よりも変動幅が大きいからである。これは従来の我が国設備投資の循環が設備能力が過剰になり、企業の設備投資意欲が減退したことからひき起こされたというよりも、金融引き締めで無理やり引き下げられたものであり、景気後退期といえども企業の設備能力拡充の意欲はいぜんとして強い。そこで限られた資金を能力拡充という観点から、できるだけ効率的に使用しようということで能力増強に直結する機械設備等に重点的に向けられ、生産過程に対して間接費的な性質の強い建築投資は削減されることになる( 第I-6-5表 )。このため建築活動の循環は、設備投資の循環より変動幅が大きくなるからであろう。

第I-6-5表 設備投資の設備項目別構成比の推移

土木建設活動の変動と景気循環

 土木建設活動(建築を除く土木を主とする建設活動)は、建設事業の主体が国・地方公共団体であるか私企業であるかによって、公共土木建設活動と民間土木建設活動に、また公共土木建設活動は、その建設投資が国・地方公共団体の固有の役割を果たすためのものか企業的色彩のものかによって、公共事業と公益事業の公共土木建設活動とに分類することができる。

 建設省推計による土木建設工事費によって上木建設活動の推移をみれば 第I-6-4図 の通りである。28年度以降についてみる限り、緊縮財政による公共土木建設活動の低滞の影響を受けて、28~31年度に頭打ちがみられるほかは、順調な拡大すう勢を示しており、明りょうな循環はみられない。しかし公共土木建設活動と民間土木建設活動に分けてみるならば、統計資料の制約から明りょうではないが、景気循環に対して前者はその関連が不明確であるに対し、後者はその関連がより密接であり、しかも両者のこの傾向は最近にいたってますますはっきりしつつあると考えられる。

第I-6-4図 土木建設工事費の推移

民間土木建設活動と景気循環

サイクルの推定

 民間土木建設活動についての統計調査が不備であるため、各年の施工高自体すら推計が困難であるのが現状である。従って、例えば四半期ことの施工高、または着工高等からその動向を景気循環との関連で詳細に分析することはてきない。,先に掲げた土木建設工事費の推移図をみても不明確である。しかし民間土木建設活動の内容は民間企業による構築物築造や土地改良工事であり、企業の設備投資の一部となるものであるから、設備投資と同様の動きを示すのではないかと考えられる。例えば、 第I-6-5表 によれは投資項目中の土地改良と構築物への投資額合計の動きは、設備投資総額に対して、12.5~14.0%を占め変動のはけしい設備投資全体と同様の動きを示している。しかも次項でみるように、製造業の設備投資の一部としてなされる産業関連施設投資の民間土木建設における比重が大きくなりつつあるからこの傾向は次第に顕著となろう。

 設備投資の一部としての民間土木建設投資は同じく設備投資の一部としての産業用建築投資と比べて、どのような特徴を示すであろうか。,先に産業用建築がその間接投資的性質のため、機械及び装置で代表される直接生産力を持つ設備投資の動きより振幅の大きいことをみたが、このことは民間土木建設についてもいえるであろう。しかしこの場合民間土木建設工事が近時の産業関連施設の大規模化、工期の長期化の傾向から産業用建築工事と異なる動きへの要因をもちつつあるとも考えられ、そのサイクルを特徴づけることは、統計の不整備とあいまって困難である。

民間土木建設活動の比重の増大と内容の変化

 建設省推計によれは、民間土木建設工事費は、昭和31年度以降、建設工事費総額に対して、13.4~16.3%、土木建設工事費総額に対して、33.1~38.3%を占めている。しかも36年度は31年度に対して2.8倍と、土木建設工事費総額の2.7倍。

 公共土木建設工事費の2.6倍を上回っている。最近の工場立地動向からみても、土地造成道路港湾、用排水施設など基礎的な産業関連施設向けの投資が増大しており、民間土木の建設活動に占める地位は上昇していると推察される。

 また民間土木建設活動の内容についても変化がみられる。昭和25、26年ごろから電源開発が国の施策として強力に推し進められたから、当時は電源開発工事の比重が高かったが、31年度以降は製造業の産業関連施設工事の増大がみられ、一方電源開発工事は、水力資源の枯渇、開発地点の漸減傾向、火力発電技術の著しい進歩などによって、従来の水主火従から火主水従へと次第に火力へ重点を移行する事態を迎え、土木建設活動に占める比重は減ずるに至った。すなわち、電源開発工事費の建設工事費総額に占める割合は、昭和28年度の9.8%(32年度経済白書による)から昭和36年度には5.3%と低下したが、これと対照的に建設省推計にいう「その他民間土木」項目の昭和36年度工事費(主として製造業による民間土木工事をいう)は昭和31年度の3.0倍の規模となり、建設工事費総額に占める割合も7.6%と電源開発工事費を上回るにいたっている。

公共土木建設活動と景気循環

一貫した拡大すう勢

 公共土木建設工事費の推移を建設省の推計によってみると、前掲 第I-6-4図 に示される通りである。昭和29~31年度の緊縮財政による停滞を除いては拡大傾向にあり、景気循環との関連は不明確である。

 一般に、好況期は財政収入も加速的に増加し、国は積極的な財政需要に応ずる傾向がある。ところが、不況期には経常的支出は容易に削減しえないし、振り替え的支出は事柄の性質上増加する。このような経費の増加要因に対し財政収入は停滞するから財源の一部は需要の衰えた投資的支出の節減で賄われる傾向がある。昭和30年以前についてはこれが顕現化する傾向にあったのに対し、昭和30年以降は一方で産業基盤充実の要請が強まり、後述するように、公共事業費支出項目中の産業基盤向け投資が急増したこと、経済規模の拡大から国の財政力も格段に強まったこと及び道路、治水、港湾の各事業にみられるように財政の裏付けのある長期計画が策定され確実に実施されていることによって、この傾向はみられなくなり、結果的に景気循環に対してその─下方硬直性をますます強めつつあるといえる。

 公共土木建設活動の多くがいわゆる社会資本の形成を目的としているところから、もともと短期の景気循環に応じた動きよりは、長期の経済成長との関連においてライフサイクル的な動きがより顕著となる傾向も存しよう。たとえは江見・ロソフスキー両氏による我が国政府資本形成の長期的推計結果をみても、投資規模の大きい鉄道投資と災害復旧費を含む河川投資の変動を主要因とする10~15年1周期のサイクルをみることができる。戦後については次項で触れるように、食糧増産、災害復旧、治山・治水、交通・通信施設と、いわばブームの高まりが若干のずれを持って合成され、主役の交代を通じて息の長い上昇の途にあるといえよう。

投資重点の移動─活動主役の交代

 戦後の公共投資は食糧増産、災害復旧といった国民生活における緊急の課題を解決することにはじまり、今日では道路、港湾、工業用水などの産業基盤の強化、いわば国民経済の成長の課題を解決する途上にある。従って公共土木建設活動の主役も、以上の投資重点の変化につれて交代を示している。

 第I-6-5図 は戦後の公共事業関係費(予算ベース)の事業別構成比の推移を図示したものである。同図で昭和23~29年度と昭和32~36年度の両期を比べてみると、国土保全的投資と産業基盤的投資とは6:4の比率を逆転している。しかも国土保全的投資の中では応急的な災害復旧から、恒久的な治山治水対策にウェイトが移行しており、臨海産業地帯の災害防除を目的とした海岸、高潮対策両事業の比率も増大している。一方、産業基盤的投資は昭和29年度以前においては食糧増産対策的色彩を弱めながらも農林水産業用施設投資の比重が大きかったのに対し、昭和30年度以降は道路を筆頭に、港湾、空港、工業用水等の産業基盤への投資の比重が急増している。また建設省推計によって昭和36年度工事費の昭和31年度工事費に対する倍率をみても、建設工事費総額で2.7倍に対し、倍率の大きいものから道路5.0倍、港湾4.8倍、災害復旧3.8倍、鉄道3.5倍(私鉄を含む)、電話3.1倍となり、その年の気象条件に左右されて増減する災害復旧をのそげば、産業基盤投資は圧倒的な増大ぶりを示し、反対に公共事業では河川・砂防、農業基盤等、公益関連事業では電力、水道、農林の各事業への投資は2倍前後の拡大に止まっている。

第I-6-5図 公共事業関係予算の事業別構成

景気の動向と産業基盤整備投資

 先にみたように公共土木建設活動は景気変動から一応独立した動きを示していると考えてよいが、一方で景気の各局面に対応し、政府の経済政策、財政政策の一環として、律せられる一面もある。昭和29年、32年及び36年における景気過熱の局面で調整策の一環としてとられた財政投融資の削減、公共事業費・官庁営繕費の繰り延べ措置、あるいは昭和29年度から31年度に至る超均衡予算の中での公共事業費の頭打ちが好例である。

 このような景気循環に対応して経済政策または財政政策的見地からでてくる景気過熱局面での投資規模縮小の要請と、産業基盤の充実、あい路化回避のための投資規模拡大の要請との間をどのように調整するかが、今後の公共投資特に産業基盤投資をめぐる問題の中でも重要なものの1つであろう。

 昭和31年に始まる民間設備投資の強成長をてことした経済規模の拡大は、交通・通信施設などいわゆる産業基盤とのバランスを失わせることとなり、これら産業基盤が経済成長のあい路となりつつあることが明らかとなった。所得倍増計画が社会資本の充実を計画の中心的課題の第1としてとりあげ、「国民経済の均衡ある発展の見地からみた最大限の規模として、社会資本充実のための行政投資(民間企業投資及び政府の企業的投資以外の、いわば政府固有の役割を果たすための投資である。公共土木建設活動のうち公共事業として計上した建設工事費はこれに含まれる。)の企業設備投資(政府企業の設備投資を含む。)に対する比率を、現在(基準年次昭和31~33年度)の1:3より、目標年次(昭和45年度)には1:2程度に拡大し」経済の高度成長を円滑ならしめようとしているのもこのことを示している。しかるに35、36年度にみられた盛んな設備投資意欲は、所得倍増計画がみこんだバランスを逸脱して民間設備投資が独走し、行政投資の企業設備投資に対する比率を1:4にまで開く結果となり、アンバランスはかえってひどくなっている。この場合フローである単年度の投資の比率だけからバランスを云々することに、危険性なしとしないことはいうまでもないが、所得倍増計画は当然ストックとしてのバランスを考慮したものであり、ストックとしての社会資本の遅れをフローとしての財政が埋める努力の目やすとして以上の比率を掲げたのであるから、上証のような比率で示される結果からはアンバランスが拡大傾向にあったとみるほかはないであろう。

 産業基盤のあい路化といっても、景気上昇局面と景気下降局面とで、それは異なった様相を示す一面を持っていると考えられる。例えば鉄道、港湾の取り扱い貨物量の伸び率をみても、国民総生産の増加率の変化を拡大した形でゆれ動く傾向が認められ、景気過熱局面でのあい路化緊迫にかかわらず、景気沈滞局面ではあい路化緩和が認められる。さらに景気過熱局面での産業基盤のあい路化は、上に述べたような公共施設のいわば需要に対する容量の不足に加えて、工期の長いこと、工事完成と使用との間のタイムラグのある場合のあること、長期事業計画自体が景気変動ことに景気の過熱面での需要を予測してたてられたものでないこと、長期事業計画自体は投資効率に考慮を払って策定されたとしても、計画実施の過程、たとえは着工順序等で、効率化・重点化の配慮の薄くなりがちなこと等が要因となって激化する傾向があると考えられる。以上のような景気の動向と公共投資の関連からは、景気調整期及び沈滞期こそ我が国経済の持つ民間部門と公共施設部門特に産業基盤のアンバランスを是正するひとつの機会であるとみることも考えられる。産業基盤をはじめとして生活環境施設、国土保全施設等社会資本の立ち遅れは未だ長期にわたる投資努力を必要としており、我が国のこのような段階では、公共投資に短期的な景気変動を補整する効果を期待するよりは、長期的な経済成長に対応して聡路化回避を緊要な課題とする外部経済の整備いわば産出効果を期待しなければならないからである。しかし景気調整期において公共投資規模を過度に拡大することは、物価及び国際収支へのはねかえり、必要な資金の調達方法等に重大な問題を生ぜしめることも考えなくてはならない。従って、一面において経済安定のために十分配慮すると共に、他の一面において社会資本充実を図るために慎重な総合的検討が必要となろう。

むすび

 以上にみたように、建設活動は、それ自身経済に占める地位が大きく、かつ年々その比重を高めてきている図りでなく、産業構造や投入構造の高度化によって、他の産業部門に対する波及効果が増大し、景気変動に対するその役割が強化されている。次に建設活動を建築と土木とに分けてみた場合には、建築活動においては循環変動の大きい産業用建築、中でも鉱工業用建築の伸びが設備投資の強成長を反映して特に著しくまた土木活動においても、特に34年度以降民間土木の水準が飛躍的に高まって、豪気循環を促進する傾向が強まっている。一方公共土木活動は経済成長の基礎条件である社会資本充実の要請にこたえるため長期的な視野のもとに事業の積極的な推進が図られているが、民間投資が急増しているので社会資本の立ち遅れはかえってひどくなっている。このため、現在の我が国では公共投資をその需要効果に着目して景気調整のための補整的財政政策の用具であると考えるよりも、むしろ外部経済の利益創出による生産力効果の方を重視して事業を進めているのである。しかし、最近では、これまでの膨大な設備投資の結果累積されてきた設備能力は、一部で設備過剰の分野を現出させており、今後鈍化傾向を予想される設備投資にかわるべき有効需要の源泉として公共投資が将来の経済成長と景気循環に対して果たすべき役割は一層大きくなるものと期待される。


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