昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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昭和36年度の日本経済

労働

景気調整実施後の雇用の鈍化

 年度前半には好調な増加傾向を維持した雇用も、景気調整が実施された下期になると、次第に製造業についてはその影響が現れ、増勢は著しく鈍化し年度末になると若干の減少が現れている。

 「毎月勤労統計」の常用雇用指数を季節修正してみると、産業総数では変化は軽微であるが、製造業、鉱業では影響が比較的強く現れている。製造業では36年中は四半期別の対前期増加率が2%を維持して好調であったが、37年1~3月になると0.8%に鈍化した。製造業内部では繊維で顕著に減少傾向が現れている。この繊維の雇用減少が減耗補充の停止など企業の雇用調整策の影響であることは、「景気調整下の労働実態調査」でも認められるところである。

第10-5表 産業別雇用対前期増減比

第10-6表 雇用調整対策実施状況

 今回の製造業雇用の微減(季節修正による)は「景気調整下の労働実態調査」によっても明らなように主として企業の雇用。調整策の実施の結果であって、補充採用の削減による自然減耗の促進、臨時工の契約更新の停止による減少が中心となってもたらされたものである。

 従来、我が国の企業の景気後退期における雇用調整は臨時工と入職抑制に主として依存するものであったが、今回は前回と比べても入職抑制に重点が移ってきている。同調査によれは、臨時工の契約更新停止は前回よりもむしろ減少して実施率は前回の30%から今回は16%となっているのに対し、補充停止など採用削減は、12%から24%へと高まってきている。しかし、これは雇用が不安定性を高めていることではない。むしろ制度的には臨時工の契約更新も既得権視される傾向や、試用工的性格は強まってきていることも認められる。前回の景気調整期に比べれば労働需給関係の変化を反映して最近の労働力の移動率はかなり高いので企業が、現在の雇用に積極的に手をつけなくても、入職抑制などの先行的調整策で、よく調整の効果をあげうるようになってきているためと考えるべきであろう。

 企業の長期的態度はともかくとしても現実問題としては、企業の新規投資計画に見合う増員計画の実施が新規投資の削減、繰り延べで~部に過剰状態をもたらしていることも認められる。

 このような情勢も反映して、年度後半には企業整備や離職者数も若干の増加をみせている。失業保険による離職票受付件数は季節修正してみると、37年1~3月には36年7~9月の約16%増となっている。

 なお、雇用増勢の鈍化にみられる基調の変化は、労働需給面についても現れている。景気調整策の効果が浸透するにつれて、年度末ごろになると、さすがに一般の求人は伸び悩みの状態を示し、需給改善も頭打ちとなった。学卒や季節労働者を除く常用求人は36年10~12月559千人に対し、37年1~3月は561千人と伸びなやみ、一方求職者はむしろ若干増加しているので求人求職バランスは10月以降やや悪化の状態である。

 企業の求人意欲も控え目とはいえ新規学卒者及び技能労働者に対しては、いぜん強い。37年4月末現在で求人率は中学で2.9倍、高校で2.8倍、また、技能労働者の不足数は同年2月で125万6千人、不足率は20.5%とむしろ、36年を上回っている。景気先行きを見越しての求人取消しも、散見される程度で問題はない。大企業の需要減、中小企業の従来の未充足求人の推積の関係で就職分野が多少、中小規模に偏ったとしても、学卒労働力に関する限りはいぜん売り手市場の状態は続き、就職率もほぼ100%は見込まれよう。


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