昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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昭和36年度の日本経済

労働

労働力需給の引き締まりと問題点

労働力需給の引き締まり

 前年度から続いてきた労働需給の引き締まり傾向は、36年度に入ると)そう強められた。

 職業安定機関を通してみた36年度の労働需給バランスは、学卒求人の増加に大きく依存するとはいえ、有効求人が、月平均1,205千人と有効求職者数の1,152千人をわずかながら上回って労働需給がほぼ均衡するに至った。労働需給の改善は34年度以降の傾向であるが、需給の変化の状況を示す新規求人と新規求職のバランスの改善は35年度から特に著しくなり、36年に入ると、求人が求職を上回るようになったのである。

 なお、 第10-3表 にみるように求職者に対する就職者の比率である就職率の向上、反面での求人数に対する就職数の比率である充足率の低下は、33年以降一貫して続いたが、36年度には就職率も2割に接近する一方、充足率は、逆に2割を割るに至った。

第10-3表 労働需給状況の推移

 ところで、新規学卒者の労働需給は、35年度においても、既に著しいひっ迫を示したが、その結果として、36年3月卒業者については中学卒の場合全産業で充足率が31.1%にすぎず、14人以下の小零細企業については2割を下回るという求人難を呈した。また、35年2月に不足数81万1千人、不足率14.7%を示した技能労働者の不足は、36年に入っても引き続き、同年2月には不足数116万3千人、不足率20.1%達した。このような未充足求人の推積の上で、なお、求人は経済規模の拡大を見込んで前年より20%も増加したため、上期中は売手市場の状態が続いたのである。

 他方、供給側の条件としては生産年齢人口の増加数が、少なく、また好況の持続により不完全就業者層の減少も著しい。「労働力調査」によれは、転職、追加就業、就業希望者で求職中のものは35年の大幅減に続いて36年にも、約30万人の減少となっている。このような需給両側面の事情から労働市場はひっ迫度を進めたのである。

労働力需給アンバランスの側面

第10-5図 年令別求職率と就職率

 労働需要が新規学卒者や若年層に著しく集中する傾向は、技術革新によって促進され、当初中高年齢層に益するところは少なかったが、学卒者の求人難からさらに一般の求人難に波及するに及んで、中高年齢者の需給バランスも次第に改善されるに至った。

 労働省の「年齢別求職求人就職状況調査」によれは、求人に対する求職の倍率は35年には40~49歳で3.5倍、50歳以上では18.7倍と著しく高かったが、36年にはそれぞれ、2.5倍、8.9倍とかなり改善されてきている。しかしながら就職率に関する限りみるべきほどの進展かない。これは労働需給が、労働力の質的側面でいぜんとしてアンバランスをもっていることを示しているものである。

 35年来の傾向として労働需給の引き締まりが労働力の流動性を高め、従来の我が国の労働市場の特殊性とされた封鎖性を打破して、中小零細企業から上位規模企業への移動を促進していることは事実であるが、このことは裏を返せば、中小企業の雇用の不安定性を意味するものであった。しかし、この現実は中小企業経営者の深刻な問題となり、初任給の大幅引き上げやこれに伴う賃金調整、労働条件改善のための週休制、労働時間の短縮、さらには福利施設の充実などをもたらした。

第10-6図 全産業規模別入職率・離職率の推移

 このような雇用安定策に加え、年度後半の景気調整の影響もあって、この両三年大中企業への上向移動を反映して高まり続けてきた離職率にも若干鈍化の様相がみられている。「毎月勤労統計」による離職率は35年度には30~99人で、2.9%、5~29人2.6%でであったものが、36年度にはそれそれ3.1%、2.7%と伸びがほとんど止まってきている。

 一方、零細企業では中小企業への移動もあって流動性はかなり高い。総理府統計局の「労働力調査特別調査」によれば、非農林業の個人業主の場合、雇入れたものは36年においては月間平均36万人であって、これを37年3月末現在の求人数に比べると2割にも充たないが、その一方、やめるものが26万人となっていて定着率が著しく低いことを示している。臨時雇いは別としても常雇いでも流動性はかなり高い。

第10-4表 非農林業個人業主の雇用状態


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