昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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昭和36年度の日本経済

財政

当初予算の性格─国民所得倍増計画の初年度

 36年度予算編成当時の我が国経済は、輸出の増勢に鈍化の兆しがみられたものの、アメリカ経済の早期回復が見込まれており、また、外貨準備にも余裕があり、極めて順調な成長の途中にあった。予算の性格を決める前提となる36年度経済の政府見通しも、アメリカのドル防衛問題を中心とする国際経済動向に注目しながら、国内の需要動向については個人消費支出は引き続き堅調の反面、民間設備投資はほぼ10%程度増の水準に、また、在庫投資はやや低い水準に、それぞれ安定的に推移することを期待し、財政は、公共事業、減税、社会保障等の拡充を図り、経済の拡大に見合った増加を示すものと考えて、これらの結果経済全体としては、9.8%の安定した高度生長を続けるものと予想したのであった。そしてこのような経済情勢の見方が背景となり、国民所得倍増の構想を土台として、当初予算の基本的性格が決められたのであった。

 このため、36年度予算は、通貨価値の安定と国際収支の均衡を確保し、経済の適正な成長に資することをめどとすると共に、財政の健全性を保ちながら所得倍増達成のため緊要な施策─減税、社会保障、公共投資など─の推進を図ることを基本方針として編成されたのであった。

財政の規模─高度成長に見合った増加

 36年度一般会計予算の規模は、総額1兆9,527億円、前年度当初予算よりも3,831億円、24.4%の増加となり、また補正後予算額に比べると1,876億円、10.6%の増加であった。

 財政投融資計画の規模は、7,292億円で、35年度の当初計画より、1,351億円、22.7%の増加であり、改訂計画額に比べると、990億円、15.7%の増加となった。

 地方財政計画は、総額1兆9,126億円、前年度計画に比し、3,745億円、24.3%の増加である。

 いずれも従来に例をみない大幅な増加であるが、それはその基盤をなす国民経済の高率な成長にほぼ見合ったものであって、その増加の程度から一見考えられるような刺戟的なものではなかった。すなわち、36年度の国民総支出の当初見込み額は、35年度予算編成当時の35年度国民総支出見込み額に比べれば、22.5%、35年度の実績見込み額に比べれば、9.8%の大きな増加が見込まれていた。例えば国民総支出当初見込み額と一般会計当初予算の比率をみると、36年度は12.5%であって、これは中立予算といわれる35年度の12.3%よりはわずか図り大きいが、やや積極的とみられた34年度の13.2%よりは小さくなっているのである。この点は財政投融資計画についても同様であり、政府の財貨サービスの購入額についてみても、その構成比は19.3%と34年度、35年度の当初見込みの際の構成比20.1%及び19.7%を下回っている。

 次に資金的な面から36年度予算をみると、当初予算から算定される財政資金の対民間収支は、年度間約1,600億円の支払い超過になるものと見込まれた。このうち外為会計は国際収支の総合収支尻が2億ドルの黒字になる予想のもとに720億円の支払い超過が見込まれていた。一方、36年度中の現金通貨(日銀券及び補助貨幣)の増加額は約1,600億円と、財政資金払い超額と同額が見込まれており、日銀対民間信用は年度間を通じて増減かないことになっていた。

投入歳出予算の内容─減税、社会保障、公共事業

歳入─国税初年度621億円の純減税

 36年度は、前2年の好況の余恵を受けて財源はかなり豊かであった。その点、前年度剰余金や経済基盤強化資金などの過去の蓄積財源の減少のうえに、伊勢湾台風災害の復旧や無拠出国民年金制度の平年度化などの歳出面の事情が加わって減税を見送らざるをえなかった35年度の場合に比べて、かなり恵まれていたといえる。

 一般会計では、租税及び印紙収入の前年度当初予算比増収額が、3,931億円の多額を見込まれた結果、648億円(増収額の16.5%)の減税後もなお、3,288億円を歳出に充当することができた。 第7-1表 は歳入予算の推移をみたものだが、租税及び印紙収入の構成比は、戦後最高を記録した35年度をわずかではあるが超えている。

第7-1表 一般会計歳入予算の推移

 35年度は減税を行わず、前年度剰余金受け入れか少額であった等のため構成比を高めたのであったが、36年度は、減税も行い、前年度剰余金受け入れも35年度比344億円増であるにもかかわらず、租税及び印紙収入の構成比を高めているのである。

 なお、36年度には、 第7-2表 にみられるように、初年度国税で621億円の純減税が行われた。中小所得者の負担軽減、企業基盤の強化、企業格差の是正などのため、所得税、法人税を中心に925億円の減税が行われる一万、租税特別措置の整理合理化、新道路整備計画の財源に充てるための揮発油税の増徴など、304億円の増収があったからである。特に、企業基盤の強化については、企業の資本充実に資するため、配当に対する法人税率の軽減等一連の措置をとると共に、機械設備等の耐用年数についても、平均20%程度の短縮を行った。この結果、租税負担率20.7%になるものと見込まれた。これは35年度実績の21.5%よりは低いが、当初見込みの20.5%よりは高くたっている。

第7-2表 税制改正による増減(△)収額調

 財政投融資の原資も、国民年金で新たに300億円の原資が見込まれるほか、厚生年金、簡保資金でも順調な伸びが期待され、産投会計の資金もあって、比較的順調な原資計画が組まれている。なお、公募債、借入金については、民間金融の情勢を勘案の上約1割程度の増加が図られている。

 地方財政については、前年度に引き続き、地方税及び地方交付税等の大幅な増加が見込まれるため、ここ数年来の国及び地方を通じる財政健全化の努力の成果とあいまって、著しい好転が見込まれた。

歳出─公共事業、社会保障など

 増加した財源はどのような施策に向けられているであろうか。

 第7-3表 は、一般会計重要経費別予算の推移をみたものである。前年度当初予算との比較でみると、総増加額3,831億円から雑件及び地方交付税交付金等の増加を除いた2,639億円の26、2%、691億円は公共事業関係費に、24.0%、633億円は社会保障関係費に、18.2%480億円は文教及び科学技術振興費に向けられ、この3者で増加額の7割弱を占めている。この他に、国債費、防衛関係費、食管会計繰り入れなどの増加額が大きく、また中小企業対策費、貿易振興及び経済協力費、住宅及び環境衛生対策費は増加率が大きい。経済成長の物的基礎としての社会資本充実に加え、産業構造の高度化、技術革新の大勢に即応して人的能力の向上を図り、階層間の格差縮小を対象とする社会保障を拡大し、さらに農業及び中小企業の近代化、後進地域の開発をも取り入れて広く産業間、地域間企業規模間格差の縮小に努めているのである。

第7-3表 一般会計重要経費別予算の推移

 財政投融資は、近年、一般産業部門に対する資金の補充から、次第に民間部門の手の及ばない住宅、道路建設などへの資金の供給に重点を移行しているが、36年度においてもこの傾向は続いている。すなわち、輸出振興を図るための投融資は、前年度当初計画比210億円、58.3%の増加となっているが、一般産業部門に対しては、市中調達が可能な限り、できるだけその所要資金を社債その他民間金融によって賄う方針から基礎産業への投融資が、51億円、6%の減少となっている。

 この他国鉄向けは増加したが電々向けが減少した等のため、運輸通信全体では94億円、10.8%の増加に留まり、国土保全、災害復旧向けは、34、35年度の大幅増加の影響により、54億円15.5%減少している。そのため、住宅、生活環境整備厚生福祉施設、文教施設、中小企業農林漁業などはいずれも大きな増加となっており、全体で925億円、33.5%の増で構成比も35年度の46.1%から、50.5%へと大幅に増えている。道路、地域開発向けも同様であって、両者で227億円、29.9%の増加となり、構成比も、12.8%から13.5%へと上昇している。

 地方財政計画についても、同じく産業の発展及び国民生活の向上に対応して産業関連施設、文教施設、環境衛生施設などの整備拡充が図られ、投資的経費は31.9%増と全体の伸び24.3%を大きく上回り、構成比も前年度の30.8%から32.7%へと高まっている。

 以上の結果、政府の財貨サービスの購入額は、35年度実績見込みより、11.9%増と見込まれたが増加額の54%余は資本的支出の増加であり、その構成比は49.5%から50%へと高まる見通しであった。


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