昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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昭和36年度の日本経済

農林水産業

林業

木材価格の動向

 木材価格は35年9月以降高騰を続け、12月には前年同期に比べて約15%上回ったが、36年に入ってもさらにその気配を強め、4月には日限卸売物価指数において197.4(昭和27年基準)と1月よりも8%上昇した。その後、梅雨期を控えて季節的に出荷が増大する5月より6月の不需要期にかけて騰勢が一服し、小康状態を保ったが、梅雨明けと共に価格は再び高騰の気配をみせ、9月には216.7(1月の182.2に対し18.9%上昇)とピークを示した。しかしこれを境に、10月からは急落に転じ、37年1月以降3月まで横ばい状態を続けた。

 すなわち、36年当初以降の価格の動きは1~4月期の急騰期(3ヶ月間に日銀指数で8.3%上昇)4~6月期の横ばい期、6~9月期の再急騰期(3ヶ月間に10.2%上昇)10月~37年1月期の急落期(3ヶ月間に5.5%低下)及び1~3月期の横ばい期に分けられる。

 今回の値下がりの特徴の1つは、金融引き締めによる影響を大きく受けたことで、従来の例に比べて下り方の早いことが注目される。過去の例をみても、29年2月及び32年5月の金融引き締めの場合は、いずれも2ヶ月目より価格は下落としはじめ、それぞれ12ヶ月目及び15ヶ月目に底値となり、その価格は引き締め時価格の81.1%及び94.2%となっている。このように木材価格は金融引き締めの影響を迅速に示すものであるが、今回は引き締めの翌10月から下落としはじめ、6ヶ月をへた37年3月時の価格は既に引き締め直前価格の94.3%である。もう1つの特徴は、29年及び32年の際は地方の値下がりは大都市よりかなり遅れて表れてきたのに対し、今回は既に値下がりが全国的に波及していることである。

木材需給の状況

 近年の木材需給状況は 第6-9表 の通りである。ここ数年来国内消費の伸びが供給(特に国内生産)の伸びを上回っているが、35年度には国内生産の対前年度伸び率が34年度のそれよりも減ったこともあり、35年度末には需要量に対する在荷量の割合が、例年は17~18%であるのにこれを大きく下回って13.8%という昭和10年以来の最低となり、木材需給ひっぱくの感を深めた。

第6-9表 木材需給の状況

 これを受けて36年度の木材の需給関係は前半においては、前年に引き続く設備投資の増大等に伴う需要の伸長に対し供給がともなわず供給不足の状態を続けたが、後半には金融引綿措置等に伴う仮需要の減退、外材の集中入荷ならびに木材価格安定緊急対策による増伐措置の決定(36年8月)もあって需給関係は緩和した。

木材の需要構造

 近年の用途別国内用材消費量をみると 第6-10表 の通りであって、建築用材とパルプ用材で全消費量の過半数を占め、36年度は62%となっている。この両者とも戦後ほぼ増加の一途をたどってきたが、特にパルプ用材の近年の伸び率には著しいものがある。

第6-10表 用途別国内用材消費量

建築用材

 36年の建築着工面積は7,687万㎡で、その伸び率は空前といわれた35年の伸び率を上回る25%強を示した。この原因として個人所得の増大、政府支出の増加及び盛んな設備投資があげられる。従って、建築用材の需要の伸びも著しくて、36年度は緊急対策策定当時の見込み2,182万立方メートルを上回る2,226万立方メートルとなり、その伸び率は35年度の伸び率13.9%をさらに上回る14.2%と見込まれる。用材の国内消費量に占める建築用材の比率は、25年度の56%から28年度以降は36%に低下したが、建築消費原単位の切り下げもほぼ限度に達したのと、建築着工面積の増加のために、その後再び増加して36年度には38%弱となった。

パルプ用材

 近年のパルプ生産において注目されるのは、パルプの種類により著しい消長がみられことである。これは製法技術の進歩と紙需要構造の変化もあるが、針葉樹価格の高騰と集荷難のためにその原材料に広葉樹の採用を余儀なくされた結果である。36年のパルブ原材料消費量は14,149千立方メートルで前年比15%増であるが、材種別内わけをみれば針葉樹素材は5,494千立方メートル(39%)、広葉樹素材4,571千立方メートル(32%)、購入チップ及び屑材4,084千立方メートル(29%)で、35年の構成比46%、30年及び24%と比較して、素材に対しチップ及び屑材の増加、また針葉樹材に対し広葉樹材の大幅な進出がみられる。上記のような原料転換を契機とするパルプ企業の生産設備の増改設があったほか、化繊の斜陽化に伴うパルプ会社の製紙部門への進出、シェア確保等が重なって、パルプ業界における生産設備は大幅に増大したことは、当面の貿易自由化対策としては、積極的な意義を持つものではあるが、その反面、原木買あさりによる原木高と供給過剰による製品安という窮状をもたらしたことは否定できない。

木材の供給構造

 35年度末在荷量の減少を正常な在荷量にまで補うための需要増を加えた36年度の総需要増は905万立方メートルで、これに対し供給量の増加は国内生産349万立方メートル、輸入359万立方メートル、廃材チップ239万立方メートルであり、輸入材の寄与率が特に大きかったことが知られる。

国産材

 36年度の木材供給量は、年度当初においては、35年度実績に対し、輸入材の増加、廃材利用の拡大を見込んでも、16%増に留まると予想されたが、木材価格安定緊急対策の結果、35年度実績にくらべて905万立方メートル(対前年度伸び率14.9%)の増加となり、需要の増加731万立方メートル(対前年度伸び率13.7%)をしのぎ年間総量では、35年度に比べても、かなり緩和されている。

 これに対し、国内生産の実績は緊急対策策定当時の見通しをほぼ達成しており、外材輸入と廃材チップが共に増加している。

輸入材

 近年の木材供給において注目をあびるのは外材の輸入である。輸入材は27年度までは年間100万立方メートルにも達せず28年度に一躍163万立方メートル弱となり、逐年増加の傾向にある。36年度の実績は緊急対策策定時の見込みを147万立方メートル上回って997万立方メートルに達せんとし、対前年度伸び率は56%を示している。その結果、35年度までは木材総供給量の10%以下に過ぎなかったが、36年度には約15%となっている。

 この急激な外材輸入の増加は、輸送受け入れ体制に混乱を惹起し、また各地に滞貨を生じて問題を起こしたが、その反面、全国的に外材に対する認識を深め新しい需要層をつくる端緒をえたことともなった。従来は外材の大部分は国産材で代替できない特殊用途材で、国産材との競合もほとんどなかったが、35年秋以降の価格高騰により、国産材と競合する一般材が輸入され、かつその樹材種も極めて多岐にわたり国産材価格の動向に大きな影響を与えている。

 ラワン材はその製品の輸出需要に重点があって、一般材市況に対し独自の動きを示すものである。それと異なり、米材は国内の市況に左右されることが大きく、36年には前年に比べて量、質共に大きな変化を示した。一方、北洋材(ソ連材)は年間契約によってその年間の輸入価格と輸入量が固定され、国内の市況に対して全く非弾力的である。

 外材は35年以降の価格急騰の最大原因である小径材、低質材の不足を緩和し、木材需給の緩和に大きな役割を果たしたことは否めないが、反面、契約と入荷の調整を欠いたため問題を生じた点は、今後外材依存度は高まるものと予想される析柄、反省を要する点であろう。

当面の課題

 木材価格は前述のように沈静化したとはいえ、本来の値上がり要因である需給の不均衡が完全に解消されたとはいえない状態にあり、価格の安定をどのような方策で図るかについては、なお問題が残されている。

長期需給見通しの必要性

 林木は育成期間が長くかつ供給弾力性に乏しいという特徴を持っている。

 これに対し、木材の需要面においては、需要構造の大きな変動と近年の需要量の激増を見逃すことができない。すなわち、木材の建築、パルプ、坑木、薪炭等の用途別の需要には、大な変化があり、またそれに応じて、原材料たる樹材種の需要動向にも変化のあとが著しい。一方、木材の代替材の進出もあるが、近年の我が国の急激な経済拡大は、木材の需要量の激増をもたらしている。従って、このような需要構造の変化と経済の実勢に即応した木材需給の見通しを的確かに把握することが要請されるのである。

流通機構の整備強化

 周知のように、木材生産は立木から素材、さらに製材製品として出荷されるまでの生産期間が長く、かつ生産が小規模に分散していることと、また輸入材にあっては契約から輸入荷揚げまでの期間が長いことのために、価格変動に敏感な供給体制が整っていない。従って、需要急増期には時差利益が生じ、場合によっては、ここに木材価格の思惑性、投機性を生ずる危険性が常に包蔵されている。

 このような木材生産、供給の非弾力性に対しては、需給調整と価格安定上特に市場の在庫機能の強化が要請される。

 この意味において、市場取引機構等流通組織の‐あり方を検討すべきであるが、当面、国有林においては景気動向の見通しのうえに立った備蓄機能の整備等、需給調整措置を検討する必要がある。

第6-11表 国有林民有林別用材(素材)生産量

生産性向上のための施策の確立

 近年、急増する木材需要に対応して、林種転換による拡大造林と、林道開設による奥地未利用林の開発が強力に進められると共に、これらを基軸として木材の需要構造の変化に対応する密植造林、林地肥培や育種を骨子とする短期育成林分の養成など、土地生産力の増強が図られてきている。‐林業生産力の増大を図り、このような新しい林業生産の方式を推進するためには、当然のことながら、林業の企業的経営への方向を一段と強めていく必要があろう。すなわち、生産規模の拡大と機械化による労働生産性の向上等経営基盤の確立の方向を指向する一貫した施策の確立が必要とされる。


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