昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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昭和36年度の日本経済

建設

昭和36年度の建設活動

 36年度の建設工事費は、総額3兆1,600億円に達し、対前年度比33%という空前の伸びを記録した。最近の建設活動は、経済の高い成長に伴って逐年拡大を続けつつあるが、 第4-1表 にみるように、特に34年度以降拡大のテンポが一段と速くなり、建設ブームの状態を現出してきた。この年度以降特に拡大のテンポが速くなったのは、景気の上昇局面に入って民間設備投資が上昇するようになったこと及び33年度から一斉に始まった道路、港湾、電信電話、治山治水、下水道等の新しい整備計画が本格的に推進されるようになり公共土木建設が新しい段階をむかえるに至ったことによるものである。

第4-1表 建設工事額の推計

 36年度は、設備投資の行きすぎによる国際収支の赤字を抑制するため金融引き締め政策がとられたが、景気調整の影響が建設活動にようやくおよぶようになったのは年度の終わり近くになったからであり、年度全体としては、前年度に引き続き活況の状態にあったものとみられる。

 では、 第4-1表 によってその動きの特徴を要約することにしよう。第1に、前年度同様建築の伸びが土木の伸びを上回り、特に民間非住宅の増加が大幅であったことである。第3部「景気循環と建設活動」の項でみるように、建築活動は土木活動と比べて景気変動の影響を受けることが強く、好況時では建築の伸びが、土木の伸びを上回り、景気後退期には、反対に土木の方が増加率が高くなる傾向がみられるが、36年度の建築活動は、年度後半における金融引き締めの下にもかかわらず、民間設備投資の大きな伸びを反映して大幅な増加を示した。

 第2に、公共工事と民間工事を比較すれば、公共工事が35年度の9,100億円から、1兆1,780億円に29%あまり増えたのに対し、民間工事は1兆4,680億円が1兆9,820億円へ35%の増大となっている。公共工事のうちで増加の著しいのは、鉄道、港湾、道路など経済の予想以上の成長によってあい路化の著しい産業基盤整備関係の投資である。民間工事では、民間土木(民間工事総額から建築の民間工事額を差し引いたもの)が4,380億円と高い水準を維持し、34年度以降引き続き大幅な伸びを示しているが、これは設備投資の大型化、長期化化対応して土地造成、用水、埋め立て工事等への支出が増大していることを物語るものであろう。

 第3に、住宅建設も依然として伸びている。しかし、大都市特に東京都の人口増大は、36年度においても特に著しく、住宅不足の解消はなかなか思い通りには進んでいない。宅地の取得は、ますます困難になっている上、36年度においては、セメント、骨材などが値上がりし、労務者不足が深刻化したため、公営住宅、公団住宅では請負の入札が不調になる例も一部にみられたが、しかし、このことも全体として住宅建設活動の伸びを抑えるまでには至っていない。

 以上のように、年間を通じてみると着実な規模の拡大を遂げた36年度の建設活動も、引き締め政策による設備投資の削減、公共事業費716億円の繰り延べ(9月閣議決定)、不急ビル建築の抑制(10月閣議決定、建築投資調整協議会の設置)の措置がとられ、37年に入って次第に調整の効果が浸透しはじめており、31年度以降長年にわたってブームを謳歌した建設活動も、37年度においては新たな動きをみせるものと思われる。

 主要46社の建設工事受注状況を建設省調べによってみると、 第4-1図 の通りである。毎期着実な伸びをみせてきた工事受注高及び未消化工事残高も、第3四半期で鈍化、第4四半期に減少をみせ、平均月間施工高に対する期末未消化工事高の比率(期末未消化工事高/月平均期間施工高)も36年度第1四半期を頂点として次第に下降している。このような変化は、同図からも明らかのように、民間発注工事(主として建築工事)の激減によってもたらされたものである。

第4-1図 主要46社の建設工事受注状況

 次に『公共工事着工統計』及び『建築動態統計』によって、公共工事と建築工事の着工状況を四半期別にみよう。土木建設活動の大宗をなす公共工事は、 第4-2表 に示されるように、産業関連施設工事、生活環境施設工事等を中心に、対前年度同期比率は毎期高い水準を維持し続けたのに対し、民間工事が大部分を占める建築活動については転換がみられる。すなわち全建築物着工床面積の対前年度同期比率の推移を35、36の両年度について比較すると、 第4-2図 の通りで第4四半期の伸びの鈍化が著しい。しかもこの伸びの低落は、産業用建築の急激な動きによってもたらされたものである。

第4-2表 公共工事着工状況

第4-2図 建築物着工床面積の推移

 このように、景気調整の浸透は民間設備投資の動きを反映して、公共工事より民間工事、土木より建築、住宅建築より産業用建築にとその度合いが深いとみることができる。従って第3部の「景気変動と建設活動」においてみるような景気の下降局面での建設活動の典型的な変化が、現れはじめているといえる。


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