昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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昭和36年度の日本経済

中小企業

前回の金融引き締めとの比較

軽微な中小企業への影響

 金融引き締めによって、中小企業の生産、受注面にも減退傾向が現れ、資金繰りが悪化していることはこれまでみたとうりである。

 金融引き締め以降たしかに企業倒産は増加している。東京商工興信所調べでみると、倒産件数は10月以降(負債総額では8月以降)、前年同月を上回り、急速に増大している。不渡り手形の対交換高比率も企業整備件数も増加してはいる。しかし、32年当時と比較すると部分的には相当な打撃を受けてはいるものの、全体としては、 第3-12表 に示したように、中小企業への影響は、相対的にかなり軽微に留まっている。このような差異は、次に挙げる諸要因に基づくものである。

第3-12表 不況指標比較

差異をもたらした諸要因

 第1にあげられるのは、金融機関による貸し出し圧縮の度合いが前回よりも弱いということである。 第3-13表 に示したように、前回の場合は全国銀行による大幅な圧縮を主因に、中小企業向け資金供給は全体として大きく削減されているのに対して、今回の場合にはまだ前年水準を上回る資金供給がなされている。もっとも、今回の場合にも全国銀行では明らかに中小企業向け貸し出しを削減しているが、その度合いも前回ほどではなく、この削減も民間と政府の中小金融によってカバーされている。

第3-13表 中小企業に対する金融引締めの比較

 特に政府金融機関の果たした役割は大きい。ちなみに政府の中小金融対策を比較してみると、32年当時には、財政投融資の追加220億円、中小企業向け特別買オペレーション197億円、合計417億円の措置がとられた。これに対して今回は、9月、11月、37年1月の三次にわたっての財政投融資追加560億円、三次にわたる中小企業向け員オペレーション500億円、合計1,060億円の措置がとられている。

 第2の要因は、中小企業自体の抵抗力の強化である。

 ひき続いた好況過程で資本蓄積が進んだことは、前述の設備投資の急増からも容易に察しられるところである。もちろん、設備投資によって資本が固定化し、不況に対する企業の弾力性を損ねている面もあるが、 第3-14表 にみるように、企業の金融力は、35年度には、31年度当時よりもかなり高まっているし、現金、預金の借入金に対する比率も大幅に向上している。このように、いわば流動的な蓄積を好況過程で培ってきたことが、1つの支えになっているとみなければならない。

第3-14表 中小企業の抵抗力比較

 第3として、金融引き締めの影響が、企業基盤の弱い小零細企業よりも、中規模企業に強く現れたことをあげよう。当庁が実施したアンケート調査(36年10月現在)によると、200~299人規模が総じて最も引き締めの影響を強く受けている。たとえば、経営上の問題点としての「借人難」は他の規模が10%程度であるのに、この規模は13%と多かったし、今後の見通しにも悲観的空気が最も強く現れていた。これは好況過程におけるこの規模の発展が急速であったことから資金需要の規模が増大し、それだけ金融機関依存度が高まっているためである。既に散見される企業の整理、倒産に比較的中規模企業が多いのはこれを示すものといえよう。

 第4に、輸出が下半期以降伸び悩みを示した32年度とは異なり、36年秋以降上昇傾向に転じたという面もみおとせないであろう。

 第5の要因として、機械工業の生産が停滞傾向をみせはじめているものの、まだかなり高水準にあるということを忘れてはならない。32年当時は、中小機械工業の生産は5、6月ごろから早くも低下し、受注減少も大幅であった。今回の場合は、先にみたように、伸び率鈍化や受注減の傾向は漸次浸透しつつあるものの、工作機械にみるように、生産水準としてはまだ本格的な下降過程には入っていない。織物の生産は既に減少傾向を示してはいるが、中小企業の多い機械関連部門の動向がまだ比較的堅調であるということが、中小企業への影響を軽微にとどめる上で大きな役割を果たしている。

 従って、中小企業への影響いかんは、今後景気後退がどの程度の強さで進行し、それが中小企業の生産や売上高をどこまで低下させるかというそのことにかかっている。

 中小企業の経営基盤が好況過程で強化されたことは事実であるが、中小企業の設備投資に生産能力拡充投資が多く、それが高い外部資金依存(36年度約6割)によって行われていることを考えると、生産水準の低下が与える影響は決して小さくはないと思われる。既にみたように中小企業の利益率は低下しはじめているので、今後の動向には、充分注目していく必要があろう。


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