昭和37年

年次経済報告

景気循環の変ぼう

経済企画庁


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総説

日本経済の基調変化

景気回復への課題─現状と見通し

 次に、37年度の日本経済を見通すに当たって、世界経済の動向をみておこう。

世界経済の現状と見通し

 36年はじめから回復に転じたアメリカの景気は、なお上昇過程にある。しかし、民間設備投資は期待されたほどの盛り上がりをみせていない。それは、4月はじめにケネディ大統領が鉄鋼価格引き上げに介入したことから一部企業が利潤の先行きに不安を感じはじめたことや、株価の暴落が企業の投資決意にマイナス作用をおよほす懸念もあるからである。一方、国際収支もなかなか好転をみせていない。これらの事情から、個人消費の好調や政府支出の増加あるいは減税措置による投資の促進策など相まって下期の景気はなお好況をつづけるものと予想されるもののアメリカ政府が当初予想した62年の5,700億ドルの国民総生産の達成は困難になっているとみられる。

 一方西欧経済の場合は、36年央から景気の頭打ちが続いてきたが、最近再び緩慢ながら上昇に転じたとみられる。イタリア、フランスの経済が引き続き拡大テンポを続けているうえ、イギリス経済も国際収支改善対策の奏功から年初より漸次上向きに転じはじめたからである。西ドイツについても、投資の先行きには問題があるが、昨年末のデフレ要因となっていた在庫調整も終わりに近づき、消費なども好調であるので、下期の好転が期待される。これら諸国はいずれも豊富な外貨準備を抱えているだけに、政府の機敏な景気対策の実施が可能であり、従って景気悪化への抵抗力か強まっている点も、見逃すことができない。

 これら欧米諸国にくらべ、東南アジアなど後進諸国の景気情勢は、依然低迷を続けている。西欧景気が停滞したうえに、原料商品市況が停滞を続けてきたからである。

 このようにみてくると、我が国の輸出環境には、西欧は好況を続けるにしても後進国やアメリカの景気の先行きなどからみてなお問題が残っているといえよう。

37年度の見通しと問題点

 このような世界情勢に対して、日本経済はようやく引き締め政策が浸透してきたことからみて、今後しばらくは景気調整が続くものとみなければならない。すでに生産調整が各産業でみられるようになってきたが、生産調整がある程度進むと滞貨もはけていき、在庫調整が一巡したあとには企業の金づまりも自然にゆるんでくる。生産調整に成功すると、日本経済は再び在庫投資の回復から生産上昇の契機をつかむことになろう。ここしばらく消費や輸出はなお堅調を続けるものとみられるので、今回の場合も景気回復が一応在庫回復(インベントリー・リカバリー)の形をとることも予想されるところである。

 しかし、その場合にも景気調整をおくらせた諸要因が今後の回復過程に問題を残していることも見逃しえない。

 第1は、これまで企業の強気が景気調整を延ばしてきたことから、製品在庫が著しい増大を示し、生産調整の問題を今後に繰りこさせている面の多いことである。現在の総在庫投資のなかで、企業の意図的な原材料在庫投資の割合が少なく、意図せざる形での製品在庫投資の比重が著しく増大していることは、先行き産業活動内部の自律的浮揚力が弱く、製品在庫の取り崩しが終わらない限り、生産は大幅な回復に転ずることが難しいことを示している。

 第2には、金融引き締めに対して企業が設備投資の削減、繰りのべを遅らせてきたことの反動が懸念される点である。36年度投資額のうち37年度の支払い分に繰りこされた額も多いので、それだけ37年度の企業の資金計画を苦しいものとしている。後向きの資金需要が強ければ強いほど、回復に転じたさいの前進への踏み出しが遅れざるを得ない。現在の機械受注動向からみて37年度下期の設備投資はかなり大幅に減少するとみなければならない。そのうえ、資金繰りひっ迫のみならず資金企業採算の悪化から、景気調整後の設備投資が従来のような急速な回復力を持ちうるかには問題が残っている。その点については特に第3章において分析したい。

 第3は国際収支の問題である。最近の輸出の好転から経常収支は漸次均衡への道を歩んでいるが、赤字期間が長く相当多額であったため、外国からの特別の借金も大きくなっている。今後は経常収支の黒字によって借金を返すことも考えておかねばならない。単に下期均衡が達成された場合でも、国際収支の黒字幅が狭い限りは、即座に引き締めの基調を崩すわけには行かない。

 このように考えてくると、回復の契機を幼年中につかむにしても、当面の回復テンポには問題の残るところである。回復力を高めるためには有効需要の補給も考えられるが、それも国際収支改善の程度に関連する。回復力を高めるためには、結局輸出振興による輸出の持続的な伸長に期待するところが大きいといえよう。


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